- 更新日 : 2024年8月8日
投資有価証券とは?保有目的で仕訳が変わるのか
一般的に「投資有価証券(とうしゆうかしょうけん)」とは、社債や国債、株式などの金融商品のうち、長期間にわたって保有されるものを指します。さまざまな種類の投資有価証券がありますが、「保有目的」によって会計上は「有価証券」か「投資有価証券」に区別され、起こすべき仕訳も変わってきます。
ここでは、有価証券の保有目的にはどういった種類があるのか、投資有価証券の仕訳の起こし方という点について説示していきます。
投資有価証券とは
銀行や証券会社が取り扱う国債や社債、投資信託等を購入する際に、取得した権利を証する書類として財産価値を持つ証券が発行されます。
現在は株券を不発行としている企業もあり、手元に証券がないケースもありますが、証券の有無にかかわらず購入者が権利を有することに変わりはありません。
これら証券のことを会計上「有価証券」と呼び、貸借対照表(B/S)に計上されます。
法人個人を問わず「有価証券」は誰でも取得することができますが、取得する目的は様々です。
売買で利益を得るために取得・保有する投機目的や、過半数の株式を取得し他社の支配権を確保する会社支配目的、利息や配当金を継続して受け取るための満期保有目的などが挙げられます。
「有価証券」を貸借対照表に表記する際のルールとして、平成11年に企業会計基準委員会が示した「企業会計基準第10号 金融商品会計基準」があります。そのなかで、「有価証券」は保有目的や保有期間に応じて、さらに「有価証券」と「投資有価証券」に分けて表示することが求められています。
次章では、社債や国債、株式といった「有価証券」を、保有目的や保有期間に応じて区分するルールについて解説していきます。
有価証券の保有目的の種類
有価証券は大きく、下記の4つに大別されます。
貸借対照表で「有価証券」と「投資有価証券」を区分するポイントは、当該有価証券の保有期間にあります。
売買目的有価証券以外の3つは、主として1年を超え保有する資産ですから「投資有価証券」として会計処理します。反対に、満期保有目的債券でも満期日が1年以内に到来するものは「有価証券」と類別します。
目的別有価証券 | 類別内容 | 勘定科目 |
---|---|---|
売買目的有価証券 | 売買を企図している債権 | 有価証券 |
満期保有目的債券 | ・満期日の到来が1年を超過する | 投資有価証券 |
・満期日が1年以内に到来する | 有価証券 | |
子会社株式・関連会社株式 | 子会社や関連会社の所有を目的とした債権 | 投資有価証券 |
その他有価証券 | その他有価証券 | 投資有価証券 |
満期保有目的債券だけが、満期日の到来が1年以内か1年を超過するかによって、「投資有価証券」と「有価証券」に区別されていることがわかります。
同じ満期保有目的債券であったとしても、「投資有価証券」は1年以内に満期日が到来する有価証券と比べて長期保有することが目的であるため、短期保有の有価証券とは起こすべき仕訳が異なってきます。
今回は「満期保有目的債券」に類別されている投資有価証券の仕訳の起こし方を解説していきます。
投資有価証券(満期保有目的債券/1年を超える保有)|仕訳の起こし方
満期保有目的債券に分類されている投資有価証券は、購入した投資有価証券を売却せずに1年を超えて満期日まで保有することを目的としています。
したがって、仕訳処理としては以下の3段階で処理することになります。
(2)利払日に利息を受け取る
(3)満期日に償還する
満期保有目的債券は取得価額により資産計上するのが原則であり、決算日に時価で評価替えすることはありません。
ただし、以下のいずれにも該当する場合は償却原価法により評価した金額で資産計上しなければなりません。
- 満期保有目的債券を額面とは異なる価額で取得した
- 額面の価額と取得した価額の差異が金利調整差額という性質を持つ
上記2つの要件に該当した場合は(4)償却原価法により評価替えをする、という仕訳が加わります。
以下のケースを例に解説してみましょう。
・社債の利払日は9月末日と3月末日の年2回
・社債の取得日は6月6日
・年利率は1.46%
・償還期間2年
・購入した会社の事業年度終了日は3月末日
まず(1)の「投資有価証券を購入する」という仕訳を起こしていきます。
投資有価証券という資産が増分するため、「投資有価証券」を借方に配します。今回は100千円分の社債を額面100円あたり98円で取得し、普通預金から証券会社の指定する口座へ振り込んだため、
投資有価証券 | 98,000円 | 普通預金 | 98,000円 |
という仕訳になります。
さらに購入時には「端数利息」を代金と合わせて支払います。
社債の利息については一般的に日割計算を行わず、計算期間の利息が一括で支払われます。上記の例であれば「4/1から9/30までの6ヶ月間」の利息が9/30に支払われるわけです。
しかし、これだと「4月1日から6月6日までの保有していない期間」の利息まで受け取ることになってしまいます。
そこで、購入前の期間である「4月1日から6月6日までの67日間」の「端数利息」を前もって購入時に返金する処理を行います。
端数利息:100千円×1.46%×67日/365日=268円
先ほどの仕訳と合わせると、
端数利息:100千円×1.46%×67日/365日=268円
先ほどの仕訳と合わせると、
投資有価証券 | 98,000円 | 普通預金 | 98,268円 |
有価証券利息 | 268円 |
となり、これが購入日である6月6日に起こす仕訳となります。
次に(2)利払日に利息を受け取る仕訳を見ていきましょう。
1回目の利払日(9月30日)に受け取ることのできる利息は、
100千円×1.46%×半年分=730円
となり、現金で受け取ったため、
現金 | 730円 | 有価証券利息 | 730円 |
という仕訳を起こします。
2回目の利払日(3月31日)に起こす仕訳は、1回目の利払日と同じ仕訳を起こします。
現金 | 730円 | 有価証券利息 | 730円 |
さらに(4)償却原価法による評価替えをするか検討する必要があります。
設例の場合、額面金額より低い金額で取得していますので(割引発行)、取得原価法により評価替えを行わなければなりません。
償却原価法には以下の2つの適用があります。
- 「利息法」(原則法)…利払日時点で償却原価法を適用する。
- 「定額法」(簡便法)…決算日時点で償却原価法を適用する。
今回は簡便法である「定額法」で投資有価証券の評価を行ないます。
満期保有の社債100千円分を額面100円あたり98円(98千円)で取得したため、2千円という差額が発生しています。
発生した差額を満期までの金利調整額として投資有価証券を評価するため月割按分します。
2千円×10か月(初年度保有期間)/24か月(償還期間)=833円
を加算額とします。
投資有価証券 | 833円 | 有価証券利息 | 833円 |
3回目の利払日(翌年の9月30日)に起こす仕訳は、以下になります。
現金 | 730円 | 有価証券利息 | 730円 |
4日目の利払日(翌年3月31日)は決算日と満期日も同日であるため、
- 利息を受け取る仕訳
- 投資有価証券を評価する仕訳
- 満額償還する仕訳
の3つを起こします。
利息を受け取る仕訳は1回目から3回目同様に、
現金 | 730円 | 有価証券利息 | 730円 |
となります。
投資有価証券の評価額は、以下の通りです。
2千円×12か月(2年目保有期間)/24か月(償還期間)=1千円
投資有価証券 | 1,000円 | 有価証券利息 | 1,000円 |
最後に満期償還の仕訳を起こします。
現在までに評価されている社債は、
98千円+833円+1千円=99,833円
であるため、額面価額(100千円)と一致させる仕訳を起こします。
投資有価証券 | 167円 | 有価証券利息 | 167円 |
そして現金で償還金額の受領を完了したため、下記の仕訳を起こします。
現金 | 1,000,000円 | 投資有価証券 | 1,000,000円 |
額面価額と取得価額に差額がある場合は要注意
投資有価証券に関する一連の流れを、仕訳に起こしてみました。
社債などの投資有価証券を額面金額よりも低い金額で取得し金利調整額であると認識される場合においては、決算日に償却原価法によって評価替えを行なう仕訳を起こす点で注意するようにしましょう。
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よくある質問
「投資有価証券」とは?
長期保有することを目的とし、1年を超えて保有する有価証券のことです。 詳しくはこちらをご覧ください。
「投資有価証券」の評価方法は?
額面金額=取得価額であれば取得価額で、額面金額≠取得価額であれば償却原価法で評価します。詳しくはこちらをご覧ください。
「償却原価法」の種類は?
利払日時点で適用する「利息法」と決算日時点で適用する「定額法」があります。こちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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