- 更新日 : 2024年8月8日
長期前払費用とは?仕訳例や勘定科目、前払費用との違いまで解説!
長期前払費用とは、前払費用のうち一定のものです。
この記事では、勘定科目として長期前払費用と仕訳するのはどのような場合なのか、繰延資産とはどのように違いがあるのか等、保険料などの例を挙げて解説します。
その際、消費税が発生する場合の計算方法についてもあわせて解説します。
目次
長期前払費用とは?どんな勘定科目?
企業会計原則によると、前払費用については次のとおり解説されています。
「前払費用は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価をいう。したがって、このような役務に対する対価は、時間の経過とともに次期以降の費用となるものであるから、これを当期の損益計算から除去するとともに貸借対照表の資産の部に計上しなければならない。」(企業会計原則注解 注5)
つまり、前払費用とは費用という名前が入っているものの、貸借対照表の資産の部の計上され、翌期以降に費用となるものです。
この前払費用のうち、1年を超えている部分が「長期前払費用」として、貸借対照表に資産計上されるのです。
例えば、3月決算の会社で、8月に3年分の保険料計36,000円(1か月1,000円)を前払いしたとします。
当期の決算において、保険料となるのは全体のうち(8月から3月までの)8か月分のみです。
したがって、損益計算書に表示される保険料は、36,000円×8/36=8,000円となります。
残りの28か月分(青い点線部分)は、保険料の前払い分となります。
この28か月分が、まだ保険サービスが提供されていないのに支払った部分となるので、貸借対照表の資産の部に前払費用として計上されます。
前払費用として計上される際に、前払いしている期間が1年を超えていますので、1年を超えた部分(この場合16か月)については、前払費用ではなく「長期前払費用」として資産計上されます。
したがって、前払費用として計上される金額は、36,000円×12/36=12,000円となり、残額16,000円が長期前払費用として計上されます。
当期の決算書を見ると、次のようになっています。
このように決算時には期中に支払った36,000円は3分割されて、損益計算書と貸借対照表に表示される結果となります。
会社によっては、前払費用の長短を明確に区別するため、前払費用を「短期前払費用」としているところもあります。
消費税の区分は?
上の例は保険料なので消費税の関係しない勘定科目でしたが、消費税のある場合はどうでしょうか?
消費税の課税仕入れの時期は、原則としてサービスの提供があった時期となります。
したがって、前払費用や長期前払費用を仕訳する場合には、消費税の区分は「対象外」としておきます。
次の仕訳のように翌期になって、サービスが提供される時に消費税を認識します。
【翌期の振替仕訳】
××費 | xxxx | 前払費用 | xxxx |
仮払消費税 | xxx |
長期前払費用と前払費用の違いは?
上の図で見てきたように前払費用のうち、決算日から1年を超えているものが長期前払費用となります。
長期前払費用は、貸借対照表上の表示箇所が「投資その他の資産」に分類されます。
投資その他の資産とは、固定資産ですが、有形固定資産や無形固定資産に入らないものです。
前払費用のうち、1年を超えるものについて分けている理由は「ワンイヤールール(1年基準)」によるものです。
流動資産か固定資産かを決めるひとつの会計上のルールがワン・イヤー・ルール(1年基準)です。
ワンイヤールールとは、回収又は返済の期限が決算日後、1年以内に到来するものは流動項目とし、1年を超えて到来する場合には固定項目とする会計上の基準です。
したがって、資産だけでなく負債についてもワンイヤールールにしたがって表示します。
前払費用についての詳細は、次の記事をご参照ください。
長期前払費用と繰延資産の違いは?
貸借対照表には、「繰延資産」という項目があります。
長期前払費用と似た使い方をする勘定科目であるため、注意が必要です。
繰延資産とは、すでに発生・支払が完了している支出のうち、年度をまたいで費用化が認められる資産です。
長期前払費用との違いは、繰延資産には換金性がないことです。
繰延資産には、会計上の繰延資産、税務上の繰延資産などがあり、会計上の繰延資産は次の5つに限定されています。
【繰延資産の例】
会計上の繰延資産 | 税務上の繰延資産の例 |
---|---|
※20万円未満は即時費用可能 |
長期前払費用として支払った部分のサービスが、提供者の都合で提供できなくなった場合には、原則的には払い戻し、つまり、換金ができます。
繰延資産と長期前払費用の使い分けについての詳細は、次の記事をご参照ください。
長期前払費用の仕訳例・計算方法
長期前払費用について、計算例、仕訳例を見ていきましょう。
会社によって振替時期が「決算時」か「都度」かなど、いろいろなケースがあると思います。
ここでは2とおりの仕訳をご紹介します。
例は、冒頭に挙げた「3月決算の会社で、8月に3年分の保険料計36,000円(一1か月1,000円)を前払い」とします。
決算時に振替えをするケース
【仕訳】
(1)支払時 | 保険料 | 36,000 | 現預金 | 36,000 |
(2)決算時 | 前払費用 | 12,000 | 保険料 | 28,000 |
長期前払費用 | 16,000 |
前払いの場合には割引等があり、このように割り切れないケースもありますが、その際は当期の費用に数円分多くして調整するとよいでしょう。
支払時に振替えをするケース
【仕訳】
(1)支払時 | 保険料 | 8,000 | 現預金 | 36,000 |
前払費用 | 12,000 | |||
長期前払費用 | 16,000 |
支払時に一気に最終形まで計算するケースです。
この場合は、上のような費用配分がどのようになるか図を描いて計算するのが確実です。
保険料 36,000 × 8/36 = 8,000
前払費用 36,000 × 12/36 = 12,000
長期前払費用 36,000 × 16/36 = 16,000
長期前払費用について理解できましたか?
長期前払費用については、ワンイヤールールに基づき正しい振替えができれば難しくありません。
ただし、会計処理には継続性が求められますので、振替方法については統一しておきましょう。
振替えをする案件が多い場合、前払いが5年を超えるような長期の場合などには、一覧表を作成するなどして、振替えの漏れがないかを確認しましょう。
よくある質問
長期前払費用とはなんですか?
前払費用のうち、1年を超えている部分を「長期前払費用」といいます。貸借対照表に資産として計上されるものです。詳しくはこちらをご覧ください。
ワンイヤールールとはなんですか?
回収又は返済の期限が決算日後、1年以内に到来するものは流動項目とし、1年を超えて到来する場合には固定項目とする会計上の基準です。詳しくはこちらをご覧ください。
繰延資産とはなんですか?
すでに発生、支払が完了している支出のうち、年度をまたいで費用化が認められる資産です。 繰延資産には、会計上の繰延資産と税務上の繰延資産とがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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