• 作成日 : 2024年8月30日

中小企業の経理は大変?インボイスの影響や大企業との違い、やりがいを解説

中小企業基盤整備機構によると、日本の全企業において中小企業の占める割合は99.7%とのことです。日本の企業のほとんどは中小企業と言ってよいでしょう。また、日本の従業者の約7割は中小企業で働いている計算になるようです。この記事では、中小企業の経理に着目し、大変さややりがいなどを考えてみます。

参考:日本を支える中小企業|中小機構

経理の仕事とは?

ひと口に中小企業と言っても、規模や業種、業態などは多岐にわたります。経理のシステム化、デジタル化が進んでいる企業や、まだほとんどが手作業の企業などバラつきも多いのが現状でしょう。ここでは、中小企業の経理業務についての共通項を見ていきます。

日常の業務

  • 取引の確認と記帳

発生した取引について、証憑(根拠資料)に基づき帳簿に記入します。取引量にもよりますが、数日分をまとめて処理することもあります。

  • 現預金の管理

現金および預金口座の入出金を管理します。口座引き落しなどは予めわかっているので、残高確認を行います。入出金管理としては買掛金売掛金の消込処理や従業員立替金の精算等があります。

  • 会計関連のスケジュール確認

支払締日、税金納付日、給与支払日などのスケジュールを管理し、社内アナウンスなどもします。

月次・年末業務

月次決算を行う会社も多いため、月末・月初は日常業務と並行して行います。決算の精度により減価償却処理や製品・仕掛品計上(製造業)処理などを行い、月次報告を行います。企業によっては経理処理の一環として給与計算、源泉徴収なども行い、年末には「年末調整」も行います。

中間決算、決算の業務

中間期、決算期にはさらに決算の精度を上げるため、棚卸しや決算処理をします。法人税の中間決算を行う場合には本決算と同様の処理になることもあります。

財務報告・監査対応

本決算における報告は、比較表やその企業独自の評価表などを添えて経営陣に報告します。

会計監査は、年に数回行われますが、中小企業において法的に会計監査が必要なところはあまり多くないと言えます。

その他の業務

その企業の営業情報が集中する経理部においては、金融機関との折衝、株主総会対応、賞与・退職金計算、固定資産管理、税理士・会計士との連携など多くの業務が考えられます。

中小企業の経理で大変なことは?

中小企業の経理が「大変だ」と言われる理由について考えてみましょう。いくつか当てはまる点があるのではないでしょうか?

業務の範囲が広い

中小企業の経理では、給与計算、資金繰り決算書などと幅広い業務を担当することが多いです。例えば、月末に給与処理と請求書発行・支払処理を同時に行うこともあり、業務範囲の広さが大変さに直結しています。

専門の知識が求められる

会計基準や各種税法の知識に留まらず、その業界特有の会計処理も身につける必要があります。建設業や製造業などでは特殊な会計が必要な場合もあり、常に専門知識の更新が求められます。

最新の税法に対応する必要

ほぼ毎年変更される税法に対応しなければなりません。例えば、インボイス制度電子帳簿保存法について、その企業としての対応方法を考えなければなりません。

他部署との連携が大変

経理部では、他部門からの情報収集や部門間の調整が必要不可欠です。例えば、伝票の締切や従業員立替金の締め日をアナウンスしたり、部門の間に立って調整役として働いたりすることもあります。

ミスが許されない

決算処理や税務申告のミスは、企業全体の信用失墜につながる可能性もあります。決算報告書のミスを株主に指摘されたり、仕訳のミスにより修正申告を余儀なくされたり、会社全体や経理部への信頼を損なうこともあり得ます。

システム化・自動化が遅れている

中小企業では、予算の関係で最新の会計システムやクラウドサービスの導入が困難な場合があります。例えば、手作業での請求書発行の場合、入力ミスなどの人為ミスが発生しやすく、また残業時間を増やす結果となります。

人数が少ない

中小企業では経理部の要員が限られており、休暇の取得が困難となることがあります。経理担当者が1人だけの場合には、休暇をとっても復帰後に大量の処理が溜まることもあります。

インボイス制度で経理業務の負担が増加した

インボイス制度の導入にあたって、経理業務がより増えたことも中小企業の経理が大変な理由の一つです。以下、一覧表にまとめてみました。

【インボイス制度導入で負担が増加した主な業務】

具体例内容
請求書の変更従来の請求書をインボイスに変更
システム改修会計システム等をインボイス対応用に更新する必要あり
登録番号確認取引先の「登録番号」を確認する作業
仕入税額控除の確認仕入や経費に関してインボイス・非インボイスを確認

インボイスについては保管と管理が必要

経過措置への対応免税事業者からの仕入に対する経過措置の適用を判断
社内教育の実施他部署にインボイス制度への対応方法を説明

中小企業の経理の大変さは大企業と違う?

中小企業と大企業では経理における課題の性質が異なり、中小企業は人員と資金の制約による課題が多くなっています。ここではそれぞれの課題について考えてみましょう。

【中小企業】

中小企業の経理課題内容
人員不足担当者が少ないと長時間労働、人為ミス発生などの可能性が高まります。
資金繰り支払遅延などは企業の信頼性に影響するため、細やかな資金繰りによる資金調達が欠かせません。
広範囲にわたる業務少ない担当者で給与計算、税務申告、決算処理と広範囲にわたる業務を行う必要があります。
ITシステムの導入遅れ予算等の関係で経理DXが進まず、手作業が残されたままになることがあります。

【大企業】

大企業の経理課題内容
複雑な組織構造子会社や兄弟会社が多いと、連結決算の作業量が多くなります。
法規制の遵守半期報告、有価証券報告などの作成、内部統制報告書など中小企業にはない処理があります。
国際会計基準への対応グローバルな展開をする企業では、国際会計基準に対応した会計処理が必要となります。
大量のデータ大量のデータを正確に処理し、分析する必要があります。

中小企業の経理ならではのやりがいがある

経理担当者から見ると、中小企業における経理のよさも実感できます。中小企業の経理ならではの「やりがい」を挙げてみましょう。

経営に携わることができる

経理データの上流から下流までを追うことができるため、最終的に経営への影響が見えてきます。決算報告などで、ある数値の増減が最終的に企業の業績のどこに影響するかがある程度予測できるようになり、経営陣から意見を求められることもあります。

専門知識を身につけられる

税制改正や会計ルールといった専門知識のほか、新たな事業や取引を始めた場合、今まで経験したことのない知識を身につける機会が訪れます。これは会計、税法などのスキルを上げる大きなチャンスと言えます。

幅広いスキルを身につけられる

会計仕訳や決算処理だけでなく、給与計算や株主総会準備、労働保険の計算など幅広く業務をこなすなかで、さまざまなスキルを身につけることができます。

キャリアアップがしやすい

幅広いスキルを積むなかで、人望を集めることもあります。また、会計や税務の知識は他企業においても重宝がられます。経理部門におけるキャリアアップがしやすくなるでしょう。

大変な経理業務を楽にする解決策

中小企業の経理を少しでも楽にする方法はないでしょうか?目新しいことではなくても、別の視点で考えることにより発見があるかもしれません。

中小企業会計要領を導入する

中小企業の実態を考えて作成された会計ルールとして、「中小企業会計要領」が挙げられます。これは中小企業庁や企業会計委員会等による、中小企業の実態に即した会計指針です。経理要員が少なく、高度な会計処理に十分対応しきれない企業、会計情報の開示を求められる範囲が限定されている企業などを対象にまとめられています。

参考:中小会計要領について|中小企業庁

経理担当以外でもできることがないか検討する

経理要員だけでなく、他部門の人が協力可能な業務を見つけましょう。例えば、請求書発行は営業部で、固定資産の棚卸しは各保有部門で、購買は各部門担当者が発注する等々、経理部門の負荷を軽くする業務を一つでも多く増やすことです。

ITツールを導入する

新たなシステムに刷新するのは難しくとも、ITツールの導入によって作業時間が短縮されることはよくあります。あまり予算をかけられなくても、ツールの導入ならできる場合があります。社内にシステム部門があるなら、経理の課題について相談してみるのもよいでしょう。

アウトソーシングする

経理業務の一部分だけでもアウトソーシングすることで、日々の仕事量が激減することがあります。例えば、仕訳入力のみ、入金消込のみ、請求書発送のみなど、スポット的な利用ができる場合もあるため、検討してみてはいかがでしょうか?

企業事例:中小企業の経理のシステム化でどこまで楽になる?

ここでITツールにより中小企業の経理が改善できた事例を挙げておきます。

月次決算を4分の1まで短縮|株式会社FOR YOU

広告・芸能を手がける株式会社FOR YOU様は、表計算ソフトでの会計業務に限界を感じ、運用をシンプルにすることを目的としてマネーフォワード クラウドを導入しました。

結果として、内部統制が強化され、会計基準に準拠した会計業務が実現しただけでなく、

月次決算が4分の1まで短縮され、かつ、ミスの少ない正しい決算が可能になりました。

作業時間が約2分の1に削減|キャロウェイゴルフ株式会社

世界最大級のゴルフブランドであるトップゴルフ キャロウェイ ブランズ コーポレーションの日本法人キャロウェイゴルフ株式会社様は、経費精算のデジタル化で「業務効率化」と「ペーパーレス化」を推進し、電子帳簿保存法に対応したいと希望していました。

マネーフォワード クラウド経費の導入により、経費精算のデジタル化が叶い、ペーパーレス化が大きく前進し、電子帳簿保存法への対応も完了しました。

中小企業の経理が楽しくなる工夫を!

中小企業の経理について挙げていくと、大変な面ばかりが強調されるかもしれません。しかし、経理担当者は単に「数字」の管理者ではなく、「企業の心臓部」を担う重要な存在です。また、中小企業であるからこそ、経理担当の一つひとつの判断や作業が会社全体に直接的な影響を与えるパワーを持ちます。

経理業務の範囲が広いからこそ、会社を見渡せる広い視野を持つことが可能です。財務面だけでなく、経営戦略や業務改善にも積極的に関与できます。これほどやりがいのある立場はなかなかありません。ぜひ、日ごろの業務が楽しくなる工夫をしてみてください。


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