- 更新日 : 2024年8月8日
小規模事業者は改正電子帳簿保存法にどう対応すればいい?
1998年の創設から何度も改正が重ねられてきた電子帳簿保存法の現状はどうなっているのでしょうか?この記事では、2023年度改正における電子帳簿保存法対応のため、小規模事業者にはどのような取り組みが必要なのかを中心に解説します。また、その際の注意点などについても解説していきます。
なお、この記事における「小規模事業者」とは特段、何かの定義に基づくものではなく、個人事業主や従業員が数名程度の中小企業などを指します。
目次
電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類の電子保存を認める法律です。制度上の区分には、一般的には電子的に作成した帳簿類を保存する「電子帳簿等保存」、紙で受領した書類などを保存する「スキャナ保存」、電子的に授受したデータを保存する「電子取引」の3つがあります。
従前の改正において、電子帳簿保存法では以下のような改正が行われました。
- 税務署長の事前承認制度の廃止
- 電子帳簿等保存の要件緩和
- スキャナ保存の要件緩和
- 電子取引の電子保存の義務化(※2023年12月31日までの宥恕措置)
要件の緩和などにより、より多くの事業者が帳簿書類の電子化に対応しやすくなっています。
電子帳簿保存法の概要と2023年の改正点については、こちらの記事もご覧ください。
電子帳簿保存法は小規模事業者も対応すべき?
電子帳簿保存法は、電子帳簿等保存、スキャナ保存、電子取引と大きく3区分に分けて考えます。電子帳簿等保存とスキャナ保存は任意で選択できるため、電子保存するか、紙を印刷するかは事業主や会社の判断に委ねられます。
一方、電子メールで受け取った請求書や電子データで受け取った領収書など、電子取引に該当する書類は、事業者の規模に関わらずその電子データでの保存が求められます。
電子取引について、2024年1月からは電子データでの保存が義務化されるものの、いくつかの要件緩和措置があります。
なお、こちらも詳細は後述しますが、2期前の売上が5,000万円以下の小規模事業者は、電子取引の電子保存の要件が通常より緩和されています。
電子帳簿保存法で小規模事業者が注意すべきポイントは?
個人事業主など小規模事業者が電子帳簿保存法を適用して電子保存する場合、どのような点に気をつければよいか、電子帳簿等保存、スキャナ保存、電子取引の3区分に分けて説明します。
電子帳簿等保存のポイント
電子帳簿等による保存は、これまで一律に保存の要件が付されていましたが、電子帳簿等保存は優良な電子帳簿と優良な電子帳簿以外に区分されることになりました。
優良な電子帳簿は過少申告加算税の軽減措置を受けられるメリットがありますが、これまでの電子帳簿等保存と同様に検索要件を満たした保存を行わなければなりません。検索要件には、取引年月日、金額、取引先の検索ができることなどが定められています。
優良な電子帳簿への対応が難しい小規模事業者が帳簿類を電子化したいときは、優良な電子帳簿以外の要件を満たした保存を検討しましょう。優良な電子帳簿以外の保存であれば、以下の要件を満たすことで、電子帳簿保存法の要件に沿った電子帳簿等保存ができます。
【電子帳簿等保存の優良な電子帳簿以外に該当する帳簿書類の要件(概要)】
- システム概要書などシステム関係書類等の備え付けがあること
- 保存場所にパソコンやプログラム、プリンターなどの備え付けがあり、すぐに出力できる状態にあること(事務処理手順の据え置き、検索機能の搭載 など)
- 税務職員の質問検査権に対し、「ダウンロードの求め」に対応できること(一部検索要件を満たしていれば不要)
参考:電子帳簿保存法一問一答(Q&A)~令和4年1月1日以後に保存等を開始する方~|国税庁、電子帳簿保存法一問一答(電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係)問7、問9参照
仕訳帳や総勘定元帳など、帳簿の作成は会計ソフトで行う事業者も増えました。帳簿書類の電子帳簿等保存を行う場合は、電子帳簿等保存の要件に対応している会計ソフトを利用するのが便利です。
スキャナ保存のポイント
スキャナ保存は、取引先から受領した紙の書類、自身が作成して発行した書類の控えの電子保存を認めるものです。
自身が作成して発行した書類のうち、最初から一貫して電子データで作成したものは先に紹介した電子帳簿等保存の対象になります。スキャナ保存の対象になるのは、紙で作成した書類などです。
スキャナ保存は、重要書類(契約書や請求書など)と一般書類(見積書や注文書など)に区分され、それぞれ要件が異なります。資金やものの流れに直結することから、特に重要書類については厳しい要件が設けられています。
具体的な要件には、入力期間の制限、一定水準以上の解像度による保存、タイムスタンプの付与、検索機能の確保などが該当します。
特に注意したいのが入力期間の制限とタイムスタンプの付与です。原則的に、書類を受領又は発行したら、最大2か月とおおむね7営業日の間に記載事項の入力とタイムスタンプの付与を行わなくてはなりません。
スキャナ保存の対象になる書類の電子化は必須ではありません。そのため、要件を満たしたうえでスキャナ保存を行うよう業務フローに組み込んでも問題なさそうか、タイムスタンプ機能などスキャナ保存に対応したシステムの導入を進めてもよいか、十分に導入を検討するとよいでしょう。
なお、帳簿書類の電子化は一部のみに限定することも認められています。スキャナ保存を実行する際には、一度に全ての帳簿書類を電子化するのではなく、まずは一部の書類から段階的に電子化を進めたほうが負担も大きくならず現実的です。
なお、2023年度の改正によりスキャナ保存の要件が緩和され、スキャナで読み取った際の帳簿との関連性についても緩和されています。下記をご参照ください。
参考:パンフレット(過去の主な改正を含む)|国税庁、電子帳簿保存法の内容が改正されました(スキャナ保存の項目参照)
電子取引のポイント
電子帳簿保存法の電子取引は、電子メールなどインターネット上で電子的に授受した契約書や請求書などの取引情報を指します。
電子取引に該当する国税関係書類は、原則的に以下の要件を満たして電子保存しなければなりません。
真実性の確保のための要件
- タイムスタンプが付された後の電子データを授受する
- タイムスタンプがないものを受領した場合には速やかにタイムスタンプを付す
- データの訂正削除の記録が残るシステム又はデータの訂正削除ができないシステムを利用して保存する(又は訂正削除に関する事務処理規定の備え付け)
可視性確保のための要件
- 保存されたデータを検索できるようにする
- パソコン、ディスプレイ、プリンターなどの備え付け
- システムの概要を記載したマニュアル等の備え付け
- 検索機能の確保
検索機能などの詳細については、下記を参照ください。
参考:電子帳簿保存法一問一答(Q&A)~令和4年1月1日以後に保存等を開始する方~|国税庁、電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係)(問41参照)
2023年12月31日までは電子取引データのプリントアウト運用も特例的に認められていましたが、2024年1月からは電子取引については必ず電子データ保存が必須となります。
しかしながら、電子取引においてこれら真実性確保や可視性確保のための要件を満たすことが難しい小規模事業者もいることから、2023年度改正においては次の猶予措置(適用期限なし)が整備されました。
次の2つの要件の両方を満たしている場合、タイムスタンプや検索機能の要件は不要となり、電子取引データを単に保存しておくだけでよいことになります。
- 真実性確保及び可視性確保の要件に沿って電子取引データを保存できないことについて、税務署長が相当の理由があると認める場合
- 税務調査等において、職員などからの電子データのダウンロードの求めに応じることができる場合
参考:パンフレット(過去の主な改正を含む)|国税庁、電子帳簿保存法の内容が改正されました
検索機能の確保は、電子取引保存に対応した専用システムの導入、索引簿の作成、規則的なファイル名の設定などの工夫で対応できますので検討してみましょう。なお、2期前の売上が5,000万円以下の事業者については、税務調査時に税務職員のダウンロードの求めに応じることができれば、検索機能の確保を行わなくても電子帳簿保存法に沿った電子取引データの電子保存が認められます。
参考:パンフレット(過去の主な改正を含む)|国税庁、電子帳簿保存法の内容が改正されました
電子帳簿保存法の対象書類は?
電子帳簿保存法の対象になるのは、国税関係帳簿書類です。国税関係帳簿書類には以下のような書類があり、作成方法や受領方法などによって、電子帳簿等保存、スキャン保存、電子取引の保存に区分されます。
【国税関係帳簿】スキャン保存以外で保存する
- 総勘定元帳
- 仕訳帳
- 売上帳・仕入帳
- 固定資産台帳 など
【国税関係書類:決算関係書類】スキャン保存以外で保存する
【国税関係書類:取引関係書類】取引先発行分と自己発行分の控えがある
(取引先発行分及び自己発行が紙の場合のみスキャン保存が可能となる)
- 契約書
- 注文書
- 請求書
- 領収書 など
上記のように、帳簿そのものや、帳簿の作成にあたり、取引の証拠となる書類が国税関係帳簿書類に該当します。
参考:電子帳簿保存法一問一答(Q&A)~令和4年1月1日以後に保存等を開始する方~|国税庁、電子帳簿保存法一問一答(電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係)問1参照
電子帳簿保存法で困ったら誰に相談すればいい?
国税局や各税務署では、「要件適合性に関する事前相談窓口」が設けられています。この相談窓口は、自社開発や受託開発のシステムに関して要件適合の相談を受け付けています。電子保存に対応するためのシステム開発や外部業者への開発依頼の疑問は、こちらの窓口に相談するとよいでしょう。
また、国税全般については、国税局電話相談センターや税務署でも質問や相談を受け付けています。ただし、あくまで全体的な制度に関する質疑応答が対応範囲であるため、個別の相談には具体的な回答をもらえないおそれがあります。固有の問題に対応してもらいたいときは、電子帳簿保存法に対応している税理士や公認会計士などに相談するのがよいでしょう。
電子化のために具体的にシステムの導入を検討している場合は、システムを提供しているベンダーなどに相談する方法もあります。
参考:要件適合性に関する事前相談窓口|国税庁、JIIMA認証情報リスト|国税庁、国税に関するご相談について|国税庁
小規模事業者でも電子帳簿保存法への対応について考えるべき
電子帳簿保存法の改正により、電子取引によりやり取りをしたデータは電子保存が義務化されました。電子取引の電子保存については、2024年1月1以降はどの事業者も対応しなければなりません。
電子取引データの電子保存の対象は組織の規模を問わないため、当初は単に電子データ保存をして、税務署に「相当の理由がある」と認めてもらうという道もあります。
将来を見越して、電子データ保存についてよく考えておきましょう。
よくある質問
小規模事業者は電子帳簿保存法の対応が必要?
電子帳簿保存法の3区分のうち、電子帳簿等保存とスキャナ保存は電子保存するかどうか事業者が決められます。電子取引は2024年1月からは電子保存が義務化され小規模事業者でも最低限、電子データ保存は対応していく必要があります。 詳しくはこちらをご覧ください。
電子帳簿保存法は誰に相談すればいい?
公的な窓口として自社開発システムなどを対象にした「要件適合性に関する事前相談窓口」が設けられているほか、電子帳簿保存法に対応している税理士や公認会計士などへの相談が考えられます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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