- 更新日 : 2024年8月8日
仕入税額控除とは?意味やインボイス制度での変更点をわかりやすく解説
仕入税額控除は、課税事業者にとって納税額を大きく左右するポイントです。
計算方法を間違えるとキャッシュフローが悪化し、経営に支障をきたす場合もありますので注意が必要です。
本記事では、仕入税額控除とは何かをはじめ、仕入税額控除の対象となる項目や、その計算方法、インボイス制度で仕入税額控除がどう変わるかなどを解説します。
目次
消費税の仕入税額控除とは
消費税における「仕入税額控除」は、他の税で行われる“税額控除”とは性格が異なり、生産や流通の段階で支払いが行われるたびに発生する消費税の累積(二重課税)を解消するための制度です。
消費税を納付する際には、売上に係る消費税額から仕入れなどに係る消費税額(仕入税額)を控除して計算します。
消費税の仕入税額控除の仕組み
仕入税額控除の仕組みについて以下のケースで具体的に確認します。
ある商品が、Aという工場で原料から生産が行われ、Bという加工工場を経て、Cという販売店によって売られていた場合(A・B・Cは課税事業者とする)
Aから1,000円でBに売られ、Bからは1,200円でCに売られ、最終的には1,500円で消費者に販売していたとする。
なお消費税率は一律10%とし、軽減税率、Aで消費した原料費については考慮しない。
Aは1,000円でBに対して商品を販売するので、販売価格は1,100円となり、Bから100円の消費税を受け取ります。Aは受け取った100円の消費税を納付する義務があります。
Bは1,200円でCに対して商品を販売するので、販売価格は1,320円となり、Cから120円の消費税を受け取ります。Bはすでに100円の消費税をAに支払っているので、Bが納付しなければならない消費税は20円となります。
Cは1,500円で消費者に対して商品を販売するので、販売価格は1,650円となり、消費者から150円の消費税を受け取ります。Cはすでに120円の消費税を支払っているので、Cが納付しなければならない消費税は30円となります。
このように、最終的には消費者が支払うことになる150円の消費税をAが100円、Bが20円、Cが30円をそれぞれ負担することにより、仕入れに対して自社商品に対する付加価値に相当する消費税を納付する責務を負うというような仕組みになっているのです。
消費税の仕入税額控除の対象
消費税の納付税額は、売上に係る消費税額から仕入れなどに係る消費税額(仕入税額)を控除して計算するというのは先述したとおりです。
課税仕入れとは、事業のためにモノを購入したり、サービスの提供を受けたりすること(消費税の対象外や非課税のものは除く)です。課税仕入れの対象とならない取引は仕入税額控除ができません。仕入税額控除の対象となる取引理解しておく必要があります。
課税仕入の対象となる取引には以下のようなものがあります。
なお、事業者が行う労働やサービスの提供の対価(加工賃や人材派遣料など)には消費税が課税されるので、課税仕入れの対象となります。非課税となる取引や給与等の支払いは含まれません。
消費税の仕入税額控除の計算方法
仕入税額控除の計算方法は原則、課税期間中の課税売上高と課税期間中の課税売上割合によって異なります。
課税売上割合は、下記の計算式により求めます。
仮に、不動産販売業者が、
- 建物の売上高1,500万円(課税)
- 土地の売上高1,000万円(非課税)
を販売したとすると、課税売上割合は以下の式から求められます。
仕入税額控除の計算方法は、以下のように3通りに分かれます。
- 全額控除
- 個別対応方式
- 一括比例分配方式
<1> 課税期間中の課税売上高が5億円以下で、課税売上割合が95%以上の場合
課税期間中の課税売上に係る消費税額から、その課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額の「全額を控除」します。
課税仕入れに係る消費税を全額控除できるため、税額控除のなかで最も有効で計算が簡易に行えることが特徴です。
<2> 課税期間中の課税売上高が5億円を超えるか、または課税売上割合が95%未満の場合
課税売上に対応する部分のみを控除します。
個別対応方式と一括比例配分方式
上記<2>「 課税期間中の課税売上高が5億円を超える、または課税売上割合が95%未満の場合」の場合においては、「個別対応方式」と「一括比例分配方式」のうちどちらかを選択して計算を行うことになります。
個別対応方式
課税仕入れを3つに区分し、それぞれで仕入税額控除の金額を計算する方法です。
(1)課税売上にのみ対応する課税仕入れの消費税額
(2)非課税売上にのみ対応する課税仕入れの消費税額
(3)課税売上と非課税売上に共通して対応する課税仕入れの消費税額
計算を行う際には下記の計算式を用います。
3つの計算方式のなかで最も計算が複雑ですが、課税売上への貢献度が高い課税仕入ほど控除額も大きくなる仕組みなので、控除が多くなる傾向にあります。
一括比例配分方式
こちらは課税仕入れの内容にかかわらず、課税仕入の全額に課税売上割合を乗じて控除額を計算します。個別対応方式のように、3つに区分されていない場合はこちらを選択することになるでしょう。もし区分をしていた場合でも、個別対応方式と比較して有利なほうを選択できます。
計算式は以下のとおりです。
なお一括比例配分方式を選択した場合、少なくとも2年間は個別対応方式を選択できないので、注意が必要です。
簡易課税制度
消費税の納付税額はあらかじめ計算式が決められており、原則として様式に沿って計算を行う必要があります。
ですが課税期間の前々年(または前々事業年度)における課税売上高が5,000万円以下かつ、事前に簡易課税制度を用いることを税務署に届けている事業者は、実際の課税仕入などに係る消費税額を計算する必要のない「簡易課税制度」の適用を受けることができます。
この制度では、業種ごとに一定の割合のみなし仕入率を用い、仕入税額控除を計算します。
詳しくは国税庁による簡易課税制度の事業区分をご確認ください。
簡易課税制度については、以下の記事でも詳しく解説しています。
インボイス制度で仕入税額控除はどう変わるのか?
2023年10月1月より開始するインボイス制度では、以下の事項が記載された「適格請求書」または「適格簡易請求書」のみ、仕入税額控除を受けられるようになります(後述の経過措置があります)。
【適格請求書の記載事項】
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称及び登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きまたは税込み)及び適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
【適格簡易請求書の記載事項】
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称及び登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きまたは税込み)
- 税率ごとに区分した消費税額等または適用税率
※不特定多数に販売などを行う飲食店や小売店、タクシー業などは、適格請求書の代わりに適格簡易請求書を発行できます。
参考:インボイス制度に関するQ&A目次一覧|国税庁
消費税の仕入税額控除制度における 適格請求書等保存方式に関するQ&A(問25)
インボイス制度については、以下の記事でも詳しく解説しています。
インボイス制度導入における経過措置と特例など
適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れに関する経過措置
インボイス制度開始後の6年間は、適格請求書発行事業者以外の者(免税事業者)からの課税仕入れについて、仕入税額相当額の一定割合のみを消費税額とみなす経過措置が以下のとおり設けられます。
- 2023年10月1日~2026年9月30日:
免税事業者からの課税仕入れについて「80%」控除可能 - 2026年10月1日~2029年9月30日:
免税事業者からの課税仕入れについて「50%」控除可能
具体的には、以下の計算式で算出される金額が、仕入税額控除の適用を受ける課税仕入れに係る消費税額となります。
【2023年10月1日~2026年9月30日までのあいだに行われた課税仕入れ】
=仕入税額控除の適用を受ける課税仕入れに係る消費税額
【2026年10月1日~2029年9月30日までのあいだに行われた課税仕入れ】
=仕入税額控除の適用を受ける課税仕入れに係る消費税額
※軽減税率が適用される場合には(8/108)
以上の経過措置を受けるためには、免税事業者から受け取る請求書などに加え、経過措置を利用すること(80%控除・50%控除の特例を受ける仕入れなどである旨)を記載した帳簿を保存する必要があります。
少額特例
2022年12月の閣議決定で、以下の経過措置が追加で設けられました。
その経過措置とは、基準期間における課税売上高が1億円以下、または特定期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者が、2023年10月1日~2029年9月30日までのあいだに国内で行う課税仕入れについては、支払対価が1万円未満の場合は、インボイスの保存は不要で、必要事項を記載した帳簿のみの保存でよい、というものです。
2割特例
一定の要件を満たす免税事業者がインボイス発行事業者となり、消費税の課税事業者になった場合は、納税額を売上に係る消費税額の2割に軽減する特例も設けられました(2023年10月1日〜2026年9月30日までの各課税期間)。
帳簿保存のみで仕入税額控除が認められる取引
請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由がある場合、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。以下にいくつか例を示します。
- 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
- 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除きます。)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(1に該当するものを除きます。)
- 古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の購入
- 質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の取得
- 宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の購入
- 適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の購入
- 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等
- 適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限ります。)
- 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)
出典:国税庁
よくある質問
消費税の仕入税額控除とは?
消費税を納付する際に、課税期間中の課税売上に係る消費税額から、課税仕入れ等に係る消費税額(仕入税額)を控除することです。詳しくはこちらをご覧ください。
仕入税額控除の計算方法は?
課税期間中の課税売上高と課税期間中の課税売上割合によって異なります。詳しくはこちらをご覧ください。
簡易課税制度とは?
実際の課税仕入などに係る消費税額を計算する必要のない制度のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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