- 更新日 : 2024年9月6日
売掛金の消滅時効は何年?中断・更新措置や時効成立を阻止する方法も解説
売掛金の債権には消滅時効があり、新民法のもとでは5年で消滅します(旧民法で売掛金の消滅は2年)。時効の完成を阻止するためには、時効の更新や完成猶予のための措置が必要です。内容証明郵便で催告書を送る方法でも、時効の完成を猶予できます。
本記事では、売掛金の消滅時効を阻止する方法について、詳しく解説します。
目次
新民法で売掛金の消滅時効が統一
売掛金は、ある事実状態が一定の期間継続した場合、時効により権利が消滅することが民法で規定されています。
民法は2020年(令和2年)に改正され、これまで職業別に異なっていた債権の時効期間が5年に統一されました。そのため、2020年4月以降に発生した売掛金は5年で消滅します。
ここでは、売掛金の消滅時効について、発生時期ごとにみていきましょう。
権利を行使することができるときから10年
民法上、債権は権利を行使することができるときから10年間行使しないと消滅します。10年の起算点となるのは、債権者が権利を行使できることを知っているかどうかにかかわらず、法律上の障害なく権利行使することが可能となった時点です。これを客観的起算点と呼びます。
たとえば、代金の支払期限を2024年10月31日とした契約を締結する場合、債権者は支払期日になるまで売掛金の回収はできません。そのため、この場合の客観的起算点は、支払期限の2024年10月31日です。
一方、個人間の貸し借りなど支払期限を定めていない場合、いつでも権利の行使ができるため、契約日(お金を貸した日)が時効の起算点になります。
旧民法では、債権の消滅時効の期間は原則として10年とされ、例外として職業別に短い期間の消滅時効が規定されていました。
改正民法では、この「権利を行使することができる時から10年」という点は維持されています。
権利を行使することができることを知ったときから5年
改正民法では、客観的起算点のほかに、権利を行使できることを知ったときから5年という主観的起算点を規定しています。
たとえば、売買の契約書には支払期日が明記されているため、売主は代金を相手方に請求できるようになる日を認識していると考えられます。そのため、支払期日を定めた売掛金の消滅時効は実質的に5年です。
改正前の民法では、10年間の消滅時効に加え、商行為によって生じた債権の消滅時効は5年間とし、これとは別に職業によって消滅時効期間が異なる短期消滅時効制度を定めていました。たとえば、飲食店の代金債権は1年、小売業・卸売業の代金債権は2年といった時効期間が個別に定められていました。
改正後の民法では、これら職業別の短期消滅時効制度が廃止されました。その上で、権利を行使することができるときから10年という客観的起算点はそのままに、債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年で時効が消滅するという規定に統一されました。
そのため、2020年4月以降に発生した売掛金の時効は5年で消滅し、2020年3月以前に発生した製造業・小売業などの売掛金は2年で消滅します。
売掛金の消滅時効を中断(更新)する方法
売掛金は5年で時効消滅するため、債権者はそれまでに時効中断の措置をとらなければなりません。
時効は「中断」もしくは「停止」により消滅を阻止できますが、改正によりそれぞれ「更新」と「完成猶予」という言葉に変更されています。
更新とは、時効進行中に一定の事由によって時効期間がリセットされ、再び時効期間がゼロからスタートすることです。完成猶予は、時効完成の直前に、一定の事由によって時効の進行が一時的にストップされ、その間は時効が完成されないことを指します。
売掛金の消滅時効を中断(更新)するためには、次に紹介するいずれかの方法を行うことが必要です。
裁判上の請求
裁判上の請求とは、時効の利益を得る者に対し、時効の中断(更新)を主張する者が行う訴えの提起のことです。裁判上の請求をすると、裁判手続きが終了するまでの間、時効の完成が猶予されます。
その後、確定判決により権利が確定すると時効期間が中断(更新)され、時効が再スタートするという流れです。訴えの却下や取下げにより確定判決による権利の確定がなかった場合、時効は中断しませんが、却下や取下げのときから6ヶ月間は時効の完成が猶予されます。
強制執行等
強制執行や担保権の実行などの申立てがあると、時効の完成が猶予されます。手続きが終了したときに時効が中断(更新)され、新たに時効がスタートします。
たとえば、強制執行の結果、債務者に財産がなかったという理由で執行の成果がなかった場合でも、手続きは終了しており、時効は中断(更新)します。
申立てを取り下げると時効中断の効力は生じないため、相手方に財産がないことを予測できる場合でも、取り下げずに執行を続けることが必要です。
債務者の承認
債務者の承認とは、債務者が債権者に対して債務の存在を認めることです。
債務の承認になるのは、次のようなケースです。
- 債務の一部を弁済する
- 債務残高確認書など債務を認める文書への記名・捺印をする
- 債務の返済猶予を求める言動をする
時効期間満了前にこれら債務の承認があったときは、その時点から時効期間がリセットされ、時効期間が新たに進行します。
売掛金の消滅時効を停止(完成猶予)する方法
売掛金の消滅時効を停止(完成猶予)するためには、次のような措置が必要です。
仮差押えまたは仮処分
強制執行等の裁判の判決が出るまでの間、債務者が財産を処分できないようにするために行う手続きのことです。
仮差押えや仮処分が行われた場合、その事由が終了した日から6ヶ月間は時効が猶予されます。
仮差押えや仮処分は、あくまで暫定的な処置です。権利の存在に確証が得られたとは評価できないため、更新事由にはあたりません。仮差押えにより時効期間を猶予した上で、訴訟を提起して時効を更新する流れです。
履行の催告
催告とは、裁判以外の方法で相手方に債務の支払いを求めることです。催告は、口頭やメールなどでもできますが、郵送の記録が残る内容証明郵便で催告書を送付する方法が一般的です。催告により、売掛金の時効が6ヶ月猶予されます。
催告をするだけでは時効は中断(更新)されません。裁判上の請求など、中断の効果が生じる行為が必要です。
協議を行う旨の書面による合意
「協議を行う旨の合意」は、改正によって新たに追加された完成猶予の方法です。支払いについて債権者と債務者が話し合っている間に時効期間が経過しそうな場合、両者が「今後も話し合って協議を続ける」という趣旨の合意を書面で行えば、時効が猶予されます。
猶予される期間は基本的には1年で、当事者の合意により短くすることもできます。
この規定により、時効の完成を阻止するために訴訟提起など法的措置を行う必要がなくなり、当事者は話し合いを継続できるようになりました。
売掛金の消滅時効成立を阻止するためのポイント
売掛金の消滅時効成立を阻止するためには、法で定められた中断(更新)措置を行う必要があります。
しかし、企業では数多くの取引を行い、債権は日々発生し続けています。支払いの遅れている売掛金の回収を放置していると、消滅時効を阻止する対応をしないままに時効消滅してしまうことにもなりかねません。
そのような事態を防ぐためには、顧客や取引ごとの債権管理が重要です。債権管理を行う方法としては、エクセルなどの計算ソフトを利用するか、債権管理システムを導入することが考えられます。
支払いが遅れている売掛金に対してどのような対応をしていくかは、マニュアル化しておくとよいでしょう。速やかに回収を図り、時効消滅することのないよう体制を整えてください。
売掛金を消滅時効させない方法を確認しておこう
2020年に民法が改正され、2020年4月1日以降に発生した売掛金の消滅時効は10年と5年に統一されました。支払期限の定めがある売掛金の消滅時効は、期限に定めた日の翌日から進行します。
消滅時効の完成を阻止するためには、裁判上の請求や強制執行などの方法によらなければなりません。消滅時効の時期が迫って慌てることのないよう、債権管理をしっかり行って売掛金を速やかに回収するようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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