• 更新日 : 2021年7月15日

繰延税金負債とは?税効果会計での仕訳例とともに解説

繰延税金負債とは?税効果会計での仕訳例とともに解説

繰延税金負債は、税効果会計を適用している場合に使用する勘定科目で、会計上の損益と税務上の所得の差を調整するためのものです。財務諸表では、貸借対照表の負債の部に表示されます。

繰延税金負債は税効果会計で使用

会計上の利益と税金計算上の所得の差を調整する会計処理を税効果会計といいます。繰延税金負債は税効果会計で使用する勘定科目です。

税効果会計は会計上の利益と税金計算上の所得の差を調整

法人は日々の取引内容を会計帳簿に記録し、収益から費用を差し引いて利益を求めます。算式で表わすと次のようになります。

会計上の利益 = 収益 - 費用

法人税は法人の利益に対して課税されるものですが、法人税を計算する上での利益は会計上の利益とは必ずしも一致しません。

会計上の利益が企業の経営成績を表すことを目的にしている一方、税金計算上の利益は税の負担能力に応じた公平な課税を目的にしているという違いがあるためです。

税金計算上の利益は「所得」と呼ばれ、会計上の利益とは区別されます。同様に、収益は「益金」、費用は「損金」と呼ばれ、会計上の収益や費用とは区別されます。

税金計算上の所得の計算過程を算式で表わすと次のようになります。

税金計算上の所得 = 益金 - 損金

会計上の利益と税金計算上の所得の差が大きくなっていることを受けて、これらの差を調整するために税効果会計が導入されました。

税効果会計で使用する勘定科目

会計上の利益と税金計算上の所得の差の調整には、次の勘定科目を使用します。

損益:法人税等調整額
資産:繰延税金資産、長期繰延税金資産
負債:繰延税金負債、長期繰延税金負債

一般的に税効果会計で調整する会計上の利益と税金計算上の所得の差は、時間の経過によって差額が解消します。決算日から差額が解消するまでに1年を超える場合は、「長期繰延税金資産」や「長期繰延税金負債」勘定で計上します。

中小企業は原則として任意適用

税効果会計は、上場企業や会社法上の大会社などでは適用することが強制されます。中小企業では適用は任意ですが、大企業の子会社になっている場合などは強制適用となります。

一般に中小企業では、会計上の利益と税金計算上の所得の差はあまり生じません。会計上の利益を税金計算上の所得に合わせるようにしていることが多いからです。

したがって、会計上の利益と税金計算上の所得の間に大きな差がない場合には、税効果会計を適用する必要性は少ないと考えてよいでしょう。

一方、会計上の利益と税金計算上の所得の間に大きな差がある場合には、税効果会計の適用を検討する必要があります。

例えば、次のような場合です。

不良債権の処理を有税で行った場合。
賞与引当金などで繰入限度超過額がある場合。
減価償却費の限度超過額がある場合。
棚卸資産評価損および有価証券評価損の自己否認額がある場合。

繰延税金負債を計上するケースは限定的

税効果会計で「繰延税金資産」を計上するケースは数多くありますが、「繰延税金負債」を計上するケースは限られています。

繰延税金負債を計上するのは、会計上の利益を税金計算上の益金に合わせる場合です。利益を益金に調整することは実務ではあまり多くなく、固定資産の圧縮記帳の圧縮積立金や、持ち合い株式等の評価益などに限られます。

ここでは、持ち合い株式の評価益の仕訳例を示して説明します。

持ち合い株式の評価益の仕訳例

企業が保有している有価証券のうち、売却予定がなく市場価格による評価が可能であるものは、決算日に時価評価することが義務付けられています。

このとき、評価の差額を損益として計上せず、「その他有価証券評価差額金」として資本に計上する点と、評価の差額に対する法人税等にあたる部分に税効果会計を適用する点が特徴です。

【仕訳例】
A社は持ち合い株式として上場株式であるB社の株式を保有している。A社はB社の株式を売却する予定はない。取得価額は1,000であったが、当期の決算期末の時価による評価額は1,300であった。法人税等の実効税率は30%で計算する。

借方
貸方
投資有価証券
300
その他有価証券評価差額金
210
繰延税金負債
90

時価評価によって価値が上がった300について上記の仕訳で計上します。評価額のうち法人税等にあたる部分を「繰延税金負債」として計上し、残った部分を「その他有価証券評価差額金」として計上します。

上記の仕訳は、翌期の期首に逆仕訳で振り戻し、投資有価証券の価額を取得時の1,000に戻します。

借方
貸方
その他有価証券評価差額金
210
投資有価証券
300
繰延税金負債
90

まとめ

税効果会計は、会計上の利益と税金計算上の所得の差を調整するために取り入れられた考え方です。中小企業では適用は強制されていませんが、大企業の子会社などになっている場合は適用が強制されます。

この記事で取り上げた「繰延税金負債」は、固定資産の圧縮記帳の圧縮積立金や、持ち合い株式等の評価益が発生した場合など、実務で計上するケースは限られています。

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よくある質問

税効果会計とは?

会計上の利益と税金計算上の所得の差を調整する会計処理のことです。詳しくはこちらをご覧ください。

税金計算上の所得の算式は?

「税金計算上の所得 = 益金 - 損金」です。詳しくはこちらをご覧ください。

繰延税金負債を計上する場合とは?

会計上の利益を税金計算上の益金に合わせる場合です、利益を益金に調整することは実務ではあまり多くなく、固定資産の圧縮記帳の圧縮積立金や、持ち合い株式等の評価益などに限られます。詳しくはこちらをご覧ください。


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