- 作成日 : 2024年11月19日
電子記録債権とファクタリングの違いは?どちらを選ぶかわかりやすく解説
電子記録債権とファクタリングは、ともに売掛債権を利用した資金調達の手段です。しかし、貸し倒れのリスクや管理・契約締結の手間などが異なります。それぞれ向いている会社は異なるため、メリット・デメリットをよく把握しておくとよいでしょう。
本記事では、電子記録債権とファクタリングの違いや特徴、おすすめの企業について解説します。
目次
電子記録債権とファクタリングの違いは?
電子記録債権とは、電子データで記録した金銭債権です。手形や指名債権に代わる新しい金融手段として注目されています。
ファクタリングとは、会社が保有する売掛金を売却し、現金化するサービスのことです。
電子記録債権とファクタリングはどちらも売掛債権を利用した資金調達の手段ですが、いくつかの点で異なります。
ここでは、電子記録債権とファクタリングの違いについてみていきましょう。
貸し倒れのリスク
電子記録債権とファクタリングは、貸し倒れのリスクが異なります。電子記録債権では債務者が支払い不能となった場合、債権者が支払い義務を負わなければなりません。
一方、ファクタリングは売掛債権の売買契約であるため、契約後はファクタリング会社に権利が移行します。契約に償還請求権がなければ、貸し倒れが発生しても債権者に支払い義務はありません。未回収リスクなく、安全に売掛債権を現金化できます。
審査
電子記録債権では、利用登録をするために審査が行われます。審査基準は銀行の融資と同じくらい厳しく設定されており、自社の経営状態が悪化している場合は審査に通りにくいのが実情です。
一方のファクタリングは、利用者ではなく売掛先の信用力を重視します。自社の経営状態が悪い場合でも、売掛先の経営状態が良好であれば審査に通過しやすいでしょう。
手数料
電子記録債権もファクタリングも手数料がかかりますが、料率が異なります。電子記録債権の手数料は、1.5%〜5.5%です。
ファクタリングは契約形態によって相場が異なり、2者間は8%〜18%、3者間は2%〜9%が相場となっています。
3者間ファクタリングは、利用者ではなく売掛先から直接資金を回収する方法です。債権の存在を直接確認できるため、未回収リスクが下がり、手数料は低めに設定されています。
利用や管理・契約締結の手間
電子記録債権は利用の申し込みから金融機関との契約、支払いまで、オンライン上で処理できます。すべてパソコン上で完結することが可能であり、利用や管理に手間がかかりません。
一方、ファクタリングでは取引ごとに契約締結が必要であり、会社によって契約方法も異なるため、利用開始や取引の管理が煩雑になりやすい傾向にあります。
電子記録債権(でんさい)とは?
電子記録債権(でんさい)とは、手形や売掛債権等を電子化し、オンライン上で取引を行う金銭債権のことです。取引の安全性確保や企業の資金調達の円滑化を図ることを目的に、2008年12月1日施行の電子記録債権法により創設されました。
ここでは、電子記録債権の仕組みや利用方法などをみていきましょう。
電子記録債権(でんさい)の仕組み
電子記録債権は、手形・売掛債権等の問題点を克服した金銭債権です。電子債権記録機関(通称でんさいネット)の記録原簿に電子的な記録を行うことで、債権の権利内容が定められます。
支払企業が金融機関を通じてでんさいネットへ「発生記録請求」あるいは「譲渡記録請求」を行い、記録原簿に記録されることで債権が発生・譲渡するという仕組みです。
電子記録債権(でんさい)の利用方法
電子記録債権の利用には、以下の3つのパターンがあります。
- 商品やサービスの代金を支払う
- 他社から譲り受けた電子記録債権で支払う
- 所有している電子記録債権を分割して支払いにあてる
1の代金の支払いが基本的なパターンであり、流れは次のとおりです。
- 支払企業が取引銀行を通じて、でんさいネットに発生記録を登録する
- でんさいネットで発生記録が行われ、納入企業の取引銀行に発生記録が通知される
- 通知を受けた納入企業の取引銀行は納入企業に発生記録を通知する
- 期日に入金が行われる
支払企業は発生記録を登録するだけで、自動的に納入企業への入金が完了されます。
「他社から譲り受けた電子記録債権で支払う」のパターンは、譲渡された電子記録債権の全部または一部で他社の支払いをすることです。
利用の流れは、次のとおりです。
- 支払企業は取引銀行を通じて、譲渡記録をでんさいネットに登録する
- でんさいネットで譲渡記録が成立したら、納入企業の取引銀行に譲渡記録が通知される
- 通知を受けた納入企業の取引銀行は納入企業に譲渡記録を通知する
- 期日に入金が行われる
「所有している電子記録債権を分割して支払いにあてる」というパターンもあります。手続きは、次のとおりです。
- 支払企業は取引銀行を通じて、分割記録と譲渡記録をでんさいネットに登録するでんさいネットで分割記録と譲渡記録が成立したら、納入企業の取引銀行に譲渡記録が通知される
- 通知を受けた納入企業の取引銀行は納入企業に譲渡記録を通知する
- 期日に入金が行われる
手形取引ではできなかった方法であり、必要なだけ分割して譲渡できるため、柔軟な対応ができます。
電子記録債権(でんさい)の仕訳・勘定科目
電子記録債権の会計処理は、手形債権に準じて行われ、勘定科目は「電子記録債権」「電子記録債務」を使用します。
債権者・債務者それぞれの仕訳例を、次の事例でみてみましょう。
5万円の商品を電子記録債権で取引した場合
債権者の仕訳
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
売掛金 | 50,000円 | 売上 | 50,000円 | 商品Aを売上 |
電子記録債権 | 50,000円 | 売掛金 | 50,000円 | 電子記録債権を受領 |
現金 | 50,000円 | 電子記録債権 | 50,000円 | 電子記録債権の支払いを受けて振替 |
売買により「売掛金」を計上し、電子記録債権が発生したら、売掛金を「電子記録債権」に振り替えます。
債務者の金融機関から支払いが行われたら、電子記録債権を現金に振り替える仕訳をします。
債務者の仕訳
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
仕入 | 50,000円 | 買掛金 | 50,000円 | 商品Aを購入 |
買掛金 | 50,000円 | 電子記録債務 | 50,000円 | 電子記録債権の発生による振替 |
電子記録債務 | 50,000円 | 現金 | 50,000円 | 電子記録債権の支払い |
債務者側の仕訳も、債権者と同じ流れです。まず「仕入」を計上し、買掛金を電子記録債務に振り替え、送金等による支払いを済ませたら電子記録債務を借方に仕訳するという流れです。
電子記録債権(でんさい)のメリット
電子記録債権は、債権者にとって管理の手間やコストを軽減できることがメリットです。手形のようにモノを管理する必要がなく、データはでんさいネットの記録原簿で管理されるため、紛失や盗難のリスクも減らせます。債権の発生・譲渡は電子データを送受信するだけで、交付の手間やコストを軽減できるのも利点です。
債務者は手形の金額の記入・印紙貼付・押印などの事務負担が大幅に軽減されます。さらに、手形で支払いをする際にかかる印紙税や企業に発送する郵送料などのコストを削減できることもメリットです。
電子記録債権(でんさい)のデメリット
電子記録債権は、利用登録に審査が必要な点がデメリットです。利用者双方が登録しなければならないため、取引先が未登録の場合は、理解を得て登録してもらわなければなりません。
また、電子データの送受信等でシステムトラブルを起こすリスクもあります。電子記録債権の導入で会計処理が変わり、業務フローの見直しも必要です。
手形取引が少ない企業にとっては、導入のメリットは薄いといえるでしょう。
ファクタリングとは?
ファクタリングは、売掛債権を譲渡して資金化する資金調達方法のことです。
ここでは、ファクタリングの仕組みや利用方法などを解説します。
ファクタリングの仕組み
ファクタリングは、ファクタリング会社に売掛債権を譲渡して、その分の現金を受け取る仕組みです。
売掛債権の回収にかかるリスクが軽減されるため、確実に資金を入手する方法として活用されています。
ファクタリングは利用目的によって、主に買取型と保証型に分けられます。
買取型ファクタリングは、売掛金の早期資金化を目的とする取引です。利用者とファクタリング会社の2者間で契約する「2者間ファクタリング」と、取引先企業を加えた「3者間ファクタリング」があり、それぞれ契約方法や利用の流れが異なります。
保証型ファクタリングは、売掛債権が貸し倒れになるリスクを軽減する目的で利用される取引です。取引先が倒産するなどして売掛金が回収できなくなった場合に、その回収が保証されます。
ファクタリングの利用方法
2者間ファクタリングを例にすると、ファクタリングの利用方法は次のとおりです。
- ファクタリング会社に申し込む
- 必要書類提出や情報提供を行う
- 信用調査が実施される
- 審査を受けて必要な書類の準備をする
- 契約を結ぶ
- 契約後に買取額が振り込まれる
- 支払い期日までに売掛金を回収し、ファクタリング会社に振り込む
3者間ファクタリングの場合は、支払い期日に取引先が直接ファクタリング会社に売掛金を支払うという流れになります。
ファクタリングの仕訳・勘定科目
買取型で契約を締結したときは「未収入金」の勘定科目で仕訳します。
10万円の売掛金をファクタリングする際の仕訳をみてみましょう。
取引先に商品・サービスを販売して売掛金が発生した際は「売掛金」の勘定科目で仕訳します。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
売掛金 | 100,000円 | 売上 | 100,000円 | A商品を売上 |
ファクタリング契約を締結したときは、次のように仕訳します。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
未収入金 | 100,000円 | 売掛金 | 100,000円 | ファクタリング契約で売掛金を売却 |
ファクタリング会社からの入金があったとき、入金された金額を「普通預金」で仕訳し、手数料(1万円と設定)を「売上債権売却損」として仕訳します。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
普通預金 | 90,000円 | 未収入金 | 100,000円 | ファクタリング会社から入金 |
売上債権売却損 | 10,000円 | ファクタリングの手数料 |
ファクタリングのメリット
ファクタリングは、売掛債権があれば申し込みできる点がメリットです。資金調達まで時間がかからないため、すぐに資金が必要なときに役立ちます。
ファクタリングは「売掛先」の信用力が重視されるため、審査の難易度が低いこともメリットです。財務状況が悪いときでも利用でき、速やかに資金調達できます。
償還請求権が付いていない契約であれば、利用者が未回収のリスクを負わない点もメリットといえるでしょう。
ファクタリングのデメリット
ファクタリングは、手数料がかかる点がデメリットです。ファクタリング会社は売掛金の貸し倒れリスクを負うことから、料率は高めに設定されていることを把握しておきましょう。
3社間ファクタリングを利用する際は、取引先との関係に影響を与える可能性があることも注意しなければなりません。
また、ファクタリング会社には悪徳業者も存在するため、会社を選ぶときは十分な見極めが必要です。
電子記録債権とファクタリングはどちらを選ぶべき?
電子記録債権とファクタリングはどちらが優れているということはなく、会社の状況によりどちらが向いているかは異なります。
それぞれ、どのような会社におすすめかをみていきましょう。
電子記録債権(でんさい)がおすすめの場合
電子記録債権がおすすめなのは、次のような会社です。
- 手形や売掛債権の取引が多くコストや事務負担を削減したい
- 取引先で電子記録債権を利用している
- 手形の紛失や盗難などのリスクを軽減したい
- 会計処理の変更に対して柔軟に対応できる
手形や売掛債権の取引が多い会社は、紙の手形にかかる事務負担や印紙税・郵送料などのコストが多いため、電子記録債権を導入することで、それらの負担・コストを大幅に削減できます。
また、電子記録債権は取引先も利用登録が必要なため、大口の取引先で電子記録債権を利用していれば、導入のメリットがあるでしょう。
手形取引が多い会社は、電子記録債権に替えることで、手形の紛失や盗難などのリスクを軽減できます。
電子記録債権の導入後は会計処理が煩雑化し、慣れるまで時間がかかります。そのため、会計処理の変更に対して柔軟に対応できる会社にも向いているでしょう。
ファクタリングがおすすめの場合
ファクタリングがおすすめの会社は、次のとおりです。
- 貸し倒れリスクに備えたい
- 売掛先が電子記録債権を利用していない
- 手形や売掛債権が少なく、小規模の取引を行っている
貸し倒れのリスクがあると経営に支障が出る会社であれば、償還請求権のないファクタリングがおすすめです。リスクを抑え、迅速に資金を回収できます。
取引先が電子記録債権を利用していなければ自社も利用できないため、電子記録債権とファクタリングのどちらにするか迷っている場合は、まず取引先の状況を確認した方がよいでしょう。
手形や売掛債権が少なく、取引が小規模の会社は、電子記録債権を導入してもあまりメリットは感じられません。ただし、取引先が電子記録債権を利用しているのであれば、導入により事務負担やコストの軽減につながるため、導入を検討するのもよいでしょう。
自社に合うサービスを見極めよう
電子記録債権とファクタリングは、どちらも売掛債権を利用した資金調達の方法です。しかし、貸し倒れのリスクや審査などの点で異なり、それぞれメリット・デメリットがあります。
手形取引が多く、取引先の多くも利用登録している場合は、電子記録債権の導入に大きなメリットがあるでしょう。審査を受けず早急に売掛金を資金に変えたい場合は、ファクタリングがおすすめです。
違いを把握して、自社はどちらが向いているのかをよく見極めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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