• 作成日 : 2025年1月23日

戦略分野国内生産促進税制とは?対象や適用要件についてわかりやすく解説

戦略分野国内生産促進税制とは、令和6年度税制改正大綱に盛り込まれた制度です。半導体などの戦略分野の国内投資を推進するため、生産・販売量に応じて減税されます。適用を受けるためには一定の要件があり、計画の認定と認定も必要です。

本記事では、戦略分野国内生産促進税制の概要や対象分野、適用条件などを解説します。

戦略分野国内生産促進税制とは

戦略分野国内生産促進税制とは、電気自動車や半導体など、日本にとって戦略投資が欠かせない分野のうち、特に生産段階でのコストが高い事業に対して新たな国内投資を引き出すため、税額控除を行う制度です。

GX、DX、経済安全保障という戦略分野にかかる特定の商品を生産・販売した場合、生産量に比例して法人税額が控除されます。

近年は米国におけるインフレ抑制法(IRA法)やCHIPS法、欧州におけるグリーンディール産業計画など、戦略分野における国内投資を推進する産業政策競争が活発化しています。

日本でも、経済成長を牽引する戦略分野において世界と競争できる投資促進策が求められ、戦略分野国内生産促進税制が令和6年度(2024年度)の税制改正で創設されたという経緯があります。

戦略分野国内生産促進税制の対象は?

戦略分野国内生産促進税制の対象となるのは、特に戦略的な長期投資が不可欠となる5つの分野です。

ここでは、税制の対象分野と、単位あたりの控除額を解説します。

対象分野

戦略分野国内生産促進税制の対象となるのは、電気自動車や半導体など、長期的な戦略投資が必要な次の5分野です。

  • 電気自動車等
  • グリーンスチール(鉄鋼)
  • グリーンケミカル(基礎化学品)
  • 持続可能な航空燃料(SAF)
  • 半導体(マイコン・アナログ)

電気自動車等で対象となるのは、電気自動車(EV)、軽自動車の電気自動車(軽EV)、燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)で、ハイブリッド自動車(HEV)は対象外です。二輪車および自動車に搭載する蓄電池の生産・販売も対象になりません。

グリーンスチールとは、製造時の二酸化炭素排出量を従来の鉄鋼より大幅に削減した鉄鋼材料です。2050年のカーボンニュートラルを達成するために鉄鋼業の脱炭素化が求められており、グリーンスチールの実用化が進められています。

グリーンケミカルは、植物や農産物、廃棄物などの再生可能資源を原料とする化学製品の総称です。石油依存からの脱却や地球温暖化対策など、環境問題への意識が高まるとともに注目を集めています。

持続可能な航空燃料(SAF)とは、廃食油や微細藻類、木くずなどを原料として製造されるジェット燃料です。従来の化石燃料(石油など)から作られるジェット燃料と比べ、二酸化炭素削減効果が期待されています。

半導体はすべてが対象になるわけではなく、対象となるのはマイコン半導体とパワー半導体を含むアナログ半導体で、先端ロジック半導体やメモリ半導体は対象外です。なお、半導体の初期投資が補助金の対象となっている場合は対象となりません。

対象物資と単位あたり控除額

税制の控除額は、産業競争力基盤強化商品の区分ごとに単位あたりの金額が定められています。対象となる法人は、計画認定日から10年間の各事業年度につき、生産・販売量に応じた税額控除を受けることが可能です。

対象物資ごとの控除額は、次のとおりです。

物資控除額
電気自動車等EV-FCV:40万円/台

軽EV-PHEV:20万円/台

グリーンスチール2万円/トン
グリーンケミカル5万円/トン
SAF(持続可能な航空燃料)30円/リットル
半導体(マイコン)28~45nm相当:1.6万円/枚

45~65nm相当:1.3万円/枚

65~90nm相当:1.1万円/枚

90nm以上:7,000円/枚

半導体(アナログ半導体)パワー半導体(Si):6,000円/枚

パワー半導体(SiC、GaN):2.9万円/枚

イメージセンサー:1.8万円/枚

その他のアナログ半導体:4,000円/枚

参考:経済産業省 戦略分野国内生産促進税制

戦略分野国内生産促進税制が適用される要件

戦略分野国内生産促進税制の対象になるのは、次の要件に該当する法人です。

  • 青色申告書を提出する法人
  • 産業競争力強化法の事業適応計画の認定を受けること
  • 産業競争力基盤強化商品生産用資産を取得し、国内にある事業の用に供すること

前提として、青色申告書を提出する法人であることが必要です。

さらに、産業競争力強化法の改正を前提にして、改正法の施行の日から2027年3月31日までの間に事業適応計画の認定を受ける必要があります。

​​事業適応計画とは、事業再構築やデジタルトランスフォーメーション、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みにチャレンジする企業に対して、必要な支援を行う取り組みです。

事業適応計画に記載された、産業競争力基盤強化商品を生産するための設備の新設または増設に関する機械などを取得し、国内にある事業の用に供した場合に対象になるとされています。

戦略分野国内生産促進税制による減税はいつから?

戦略分野国内生産促進税制の適用で減税を受けられるのは、産業競争力強化法の改正により規定される「事業適応計画」の認定日以後、10年以内の日を含む各事業年度です。

開始日はあくまで認定日であり、生産用資産の取得や事業に使用した日ではないため注意してください。

戦略分野国内生産促進税制を適用するためには、2027年3月31日までに事業適応計画の認定を受ける必要があります。

事業適応計画の認定を受けた日と生産開始の日の間にはタイムラグが生じると考えられますが、最大10年間の適用期間の開始日は事業適応計画の認定を受けた日です。認定日から生産開始の日までの期間が長いと、それだけ税額控除の期間が短くなります。

対象期間をできるだけ長くするためには、認定のタイミングが生産開始の直前となることが望ましく、認定に要する期間を考慮して計画の準備を進めるとよいでしょう。

税額控除の上限は、各事業年度において、デジタルトランスフォーメーション投資促進税制による控除税額およびカーボンニュートラルに向けた投資促進税制による控除税額との合計で、当期の法人税額の40%(半導体は20%)です。上限を超えた控除額は4年間(半導体生産用資産は3年間)の繰越しができます。

戦略分野国内生産促進税制の税額控除が適用されないケース

戦略分野国内生産促進税制は、次の3つの要件すべてに該当した場合、当該年度では税額控除を適用されないことになります。つまり、以下の3つの要件のいずれかに該当しなければ税額控除を適用できます。ただし、すべてに該当する場合でも、繰越控除は可能です。

  • 所得金額が対前年度比で減少(当期が設立事業年度、合併等事業年度のいずれにも該当しない場合)
  • 継続雇用者給与等支給総額が対前年度増加率1%未満
  • 国内設備投資額が当期の減価償却費の4割以下

税額控除が適用されない要件について、詳しくみていきましょう。

所得金額が対前年度比で減少(当期が設立事業年度、合併等事業年度のいずれにも該当しない場合)

当期が設立事業年度及び合併等事業年度のいずれにも該当しない場合で、所得金額が前期の所得金額よりも減少する場合が対象です。増加している場合は要件にあたらず、税額控除を受けることができます。

継続雇用者給与等支給総額が対前年度増加率1%未満

継続雇用者給与等支給額とは、継続雇用者に対して支給する給与等の支給額のことです。

前事業年度の給与等の支給額と比較して、当事業年度が増加率1%未満の場合は要件に該当します。

国内設備投資額が当期の減価償却費の4割以下

国内設備投資額とは、法人がその事業年度において取得した国内資産で、その事業年度終了の日において保有するものの取得価額の合計額です。

当期の償却費とは、法人が保有する減価償却資産につき、その事業年度において損金計上した金額の合計額です。

国内設備投資額が当期の減価償却費の4割以下にあたる場合は、要件に該当します。

戦略分野国内生産促進税制の注意点

税制の控除額は、段階的に引き下げられる点に注意が必要です。

控除額は8年目以降、段階的に引き下げられる

控除額は、競争力強化が見込まれる後半年度において、段階的に引き下げられる予定です。具体的には、産業競争力基盤強化商品生産用資産を事業の用に供した日以後、7年を経過する日の翌日から引き下げられます。引き下げ後の控除額は、次のとおりです。

  • 8年目:75%
  • 9年目:50%
  • 10年目:25%

10年間、同じ割合で減税になるわけではないため、注意してください。

戦略分野国内生産促進税制は戦略分野の国内投資を促進する制度

戦略分野国内生産促進税制は、戦略的な長期投資が必要な戦略分野の集中的な国内投資を促すための制度です。企業が優遇措置を受けるためには、要件に該当するとともに、事業適応計画を策定して認定を受ける必要があります。

税額控除は、認定を受けてから10年間という長きにわたって受けられます。最大限の控除を受けるためには、認定を受けるタイミングも考えて申請するとよいでしょう。


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