- 更新日 : 2024年9月27日
決算申告のみを税理士に依頼するメリットは?相場や依頼方法、注意点を解説
決算申告には専門知識が必要であり、税理士に依頼すべきか迷う方も多いのではないでしょうか。税理士への依頼は顧問契約と決算申告のみの2種類があり、決算申告だけの依頼であればコストを抑えられます。
本記事では、決算申告のみを税理士に依頼する場合のメリットや費用相場、顧問契約かスポット契約かの判断基準などを解説します。
目次
決算申告のみを税理士に依頼するケース
決算から税務申告までを行う決算業務は複雑で、手間と時間がかかります。専門知識がなければ、時間がかかるだけでなく、ミスをする可能性もあるでしょう。
そのため、専門家である税理士に依頼するケースが少なくありません。税理士に決算申告を依頼する場合、顧問契約と、決算申告のみの依頼をするスポット契約という2つのパターンがあります。
税理士に決算申告を行う2つのパターンと全て自分で行うパターンをまとめると、次のとおりです。
パターン | 特徴 |
---|---|
顧問契約 | 決算申告のほか、毎月の会計業務や経営相談、節税対策のアドバイスが受けられる |
決算申告のみ | コストを抑え、税理士と定期的なやり取りを行う必要もない |
全部自分で行う | 税理士に支払う費用を節約し、決算事務の知識も身につく |
決算申告のみを依頼するケースは、事業が小規模で売上が少なく、経理の知識を持つ人材がいることで決算までは自社で対応できる場合に向いています。
売上が少ない会社は顧問契約の費用が負担になることも多く、自社で日々の会計・経理業務に対応できるのであれば、決算申告のみ依頼すれば十分といえるでしょう。
すべて自社で行うパターンもありますが、決算に時間をとられることで本業に支障が出る可能性があります。そのため、決算申告のみ依頼することはメリットが高いと考えられます。
決算申告のみを税理士に依頼するメリット
決算申告のみを税理士に依頼することで、さまざまなメリットがあります。
詳しくみていきましょう。
顧問料を支払うよりも安く済む
決算申告のみを依頼することは、顧問契約を結ぶよりも安く済むことがメリットです。顧問契約は毎月の固定費がかかりますが、決算申告のみのスポット契約であれば、年に1回の料金で済みます。
スポット契約の決算申告は顧問契約で依頼するよりも割高になりますが、年間のトータルで比較すれば安く抑えられます。コストを抑えられるという点で、決算申告のみを依頼するのはメリットだといえるでしょう。
顧問契約と比べて税理士との連絡頻度が高くない
決算申告だけのスポット契約であれば、1年分の帳簿類を税理士に渡し、必要書類を作成してもらうだけです。顧問契約と比べると、定期的なやり取りを行いません。
事業規模が小さく、取引の少ない会社では、とくに税理士とやり取りが必要になる場面も少ないでしょう。連絡頻度が高くない点をメリットに感じるケースもあるでしょう。
ただし、決算申告のみを依頼する場合でも、不明点についてのやり取りが発生する可能性はあります。
自分で決算申告を行うよりも正確に決算申告ができる
決算申告には簿記や税務の知識が必要であり、税理士に依頼すれば正確に申告できることがメリットです。すべて自社で行う場合は時間がかかるだけでなく、不備があってやり直しになる可能性もあります。
法人税の申告期限は年度が終わってから2ヶ月以内に行わなければならず、他の業務を行いながら期間内に帳簿のチェックや書類の作成を行うのは大変です。
決算申告のみでも税理士に依頼すれば、迅速に正確な処理を実現できるでしょう。
決算申告書の信頼性が高まる
税理士が決算申告業務を代行した場合、申請書類の税理士欄に署名・押印が入ります。これは、税務の専門家である税理士が決算申告処理に携わったという証明であり、自社で作成するよりも決算申告書の信頼性が高まります。
ただし、税理士が決算申告を行っても、税務調査が入る可能性がなくなるわけではない点に注意してください。
時間を節約して本業に専念できる
決算申告の依頼は、時間の節約ができる点もメリットです。
決算申告を自分で行うには時間がかかり、本業に支障をきたすこともあるでしょう。とくに1年分の領収書を溜めていたり、税務申告を初めて行ったりする場合、簿記の知識なく自分で行うのは不可能に近いかもしれません。
税理士に依頼すれば、指示された必要資料をまとめて渡すだけで、決算申告を行えます。
節約できた時間を本業にあてられることがメリットといえるでしょう。
決算申告のみを税理士に依頼するデメリット
決算申告のみを税理士に依頼することには、デメリットもあります。
どのようなデメリットがあるのか、詳しく解説します。
顧問契約に比べると経営面や節税面でのアドバイスを受けづらい
決算申告のみの依頼では、節税のアドバイスを受けるのは難しいのがデメリットです。事業運営では、法人税のほかにも消費税や住民税などさまざまな税金を納めなければならず、節税対策を行うことで負担を抑えられるケースもあります。
顧問契約をして日ごろから税理士のアドバイスを受けていれば、効果的な節税ができるでしょう。
しかし、決算申告だけの依頼では、税理士は1年間の会計処理を十分に把握できず、詳細な事業状況も深く理解することは難しいでしょう。そのため、特別なアドバイスはできず、十分な節税対策はできないデメリットが考えられます。
税務調査まで対応してくれないケースがある
決算申告だけの依頼では通常、税務調査への対応は含まれません。税務調査は、提出された申告書が正しく作成されているかどうかを税務署が確認する調査です。税務調査によって申告内容に問題があると判断された場合、追徴課税が課せられる可能性があります。
税理士の立ち会いがあれば、調査前に準備ができ、当日もスムーズにやり取りできます。立ち合いがないことで、税務署からの指摘に対して十分な説明ができない可能性もある点がデメリットです。
税理士が事業者の取引を正確に把握できない場合もある
決算申告のみの依頼では、定期的なやり取りをしていないうえに時間的な余裕もなく、税理士は会社の取引を十分に把握できないというデメリットがあります。
そのため、お互いの認識の相違が生じ、正確な決算書が作成できない可能性があるでしょう。
とくに、会社独自の会計処理を行っている場合は、認識の齟齬が起こりやすくなります。正確な決算書が作成されなければ、税務調査での対応も難しくなるでしょう。
経営に関するアドバイスを受けられない
税理士の仕事には、会社の経営に関するアドバイスもあります。顧問契約を結んで定期的に税理士とコミュニケーションをとり、経営相談をすることで、経営上で有益なアドバイスを受けられます。
アドバイスを受けることで現状を把握し、迅速な経営判断が可能になります。資金繰りに困ったときは、融資に関するアドバイスを受けられるでしょう。
1年に1回の決算申告だけでは、このような経営に有益なアドバイスを受けられません。
決算申告のみを税理士に依頼する場合の相場
法人が決算申告を依頼する費用の相場は、15万〜25万円程度です。金額は、会社の規模や売上高、仕訳の数、従業員数などによっても異なります。
会社の規模や売上高が大きければそれだけ取引数が増えて仕訳の数も増え、申告内容も複雑になるため、料金も高くなります。
なお、個人事業主が確定申告を依頼する場合、費用相場は5万〜10万円程度です。
税理士と顧問契約を結んでいる場合でも、毎月の顧問料とは別に決算申告の料金が必要になるのが一般的です。この場合に決算申告を依頼する料金の相場は、月額顧問料の4〜6ヶ月とされています。
例えば、月額顧問料が2万円の場合、決算申告にかかる料金の相場は8万〜12万円が目安となります。
基本的に、決算申告のみを依頼する方が割高になると考えてよいでしょう。
税理士に決算申告のみを依頼するタイミングや手順は?
税理士に決算申告のみを依頼する場合、依頼するタイミングには注意が必要です。確定申告や決算申告の時期は繁忙期にあたるため、直前の依頼はできない可能性があります。
まず、12月〜翌年1月は企業の年末調整の業務があり、税理士にとって忙しい時期です。2月からは確定申告のシーズンになります。
そのため、望ましい依頼のタイミングは、6〜10月ごろといえるでしょう。
税理士を探す際は、選び方にも注意が必要です。自社の業界について知識があり、決算申告の経験が豊富など、いくつかのチェックポイントがあります。しっかり見極めるためにも、余裕のあるタイミングで探し始めるとよいでしょう。
顧問契約とスポット依頼のどちらを選ぶべき?
顧問契約とスポット契約はそれぞれメリット・デメリットがあるため、どちらがいいか迷うことがあるかもしれません。
判断する際は、次の2点を基準にするとよいでしょう。
- 個人事業主か法人か
- 年間の売上高がどれくらいか
個人事業主の場合は確定申告を依頼することになりますが、1人で運営しているなど事業の規模が小さければ、日々の会計業務はシンプルで、自分で行うことも可能です。そのため、申告業務だけを依頼する形でも問題はないでしょう。
一方、法人の場合、決算申告を行うためには専門知識が必要であり、取引金額が大きいことから節税対策も重要です。顧問契約を結ぶ方が得策といえるでしょう。
また、個人・法人に関わらず年間の売上高がどれくらいかでも判断は異なります。
年間売上が1,000万円以上の場合、翌々事業年度から消費税の納税義務が発生します(ただし、インボイス登録している場合は登録日から納税義務が生じます)。消費税の計算を自分で行うには手間がかかるため、顧問契約を結んで日々の会計業務も依頼した方が手間はありません。
個人事業主の場合は、法人への移行についてアドバイスを受けられる点もメリットです。
決算申告のみを税理士に依頼する際の注意点
決算申告のみを税理士に依頼する場合、決算前から申告時期までの3〜4ヶ月間、短期集中でやり取りを行います。
まず、税理士から過年度の申告書や決算書、会計データなどの必要書類を求められるため、速やかに揃えて提出しなければなりません。
1年間の書類は膨大になりますが、かき集めてそのまま渡すのではなく、整理して渡すことが大切です。
チェックしやすいようにカテゴリ別にまとめておけば、担当者の負担を減らし、より良い決算申告書の作成が期待できます。
また、短期間で決算申告書を作成するため、税理士からは頻繁に問い合わせを受ける可能性があります。少しでも有益な決算申告ができるよう、適切に対応していきましょう。
決算申告のみの依頼はメリットが多い
決算申告には専門知識が必要であり、手間や時間もかかります。顧問税理士をつけず、自社に対応できる人材がいない場合は、税理士への依頼がおすすめです。
決算申告のみを依頼することで、顧問契約を結ぶよりも費用をかけず、正確な決算申告がスピーディに完了できます。
一方で、「節税対策ができない」「経営のアドバイスをもらえない」などのデメリットもあることは認識が必要です。
自社の事業規模や売上高を踏まえ、顧問契約にするか決算申告のみを依頼するか検討するとよいでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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