• 更新日 : 2025年2月4日

不良債権とは?回収方法や会計処理の手順を解説

一般的に「不良債権」とは、銀行などの金融機関が行った融資について、経営悪化などを理由に回収できなくなった、あるいは回収の可能性が困難になったものを表します。しかし、回収しなければならない債権をもつのは金融機関だけに限りません。金融機関以外の一般企業においても不良債権が発生することがあり、企業経営にとっては大きな問題です。この記事では、金融機関ではなく一般企業における不良債権を中心に、不良債権比率や回収方法、会計上の不良債権処理について解説します。

不良債権とは?なぜ問題なのか

不良債権とは、一般的には金融機関が回収困難に陥っている債権を表すものです。金融機関の不良債権には、破綻や遅延、貸出条件緩和債権などの銀行法に基づく「リスク管理債権」、破産更生債権や危険債権など金融再生法に基づく「金融再生法開示債権」があります。いずれも、元本や利息が予定どおり支払われなくなった債権、金融機関の場合は融資をいいます。

このような金融機関の不良債権に深くかかわってくるのが、企業の過剰債務です。過剰債務は企業の経営を圧迫することから、将来的に金融機関にとっては不良債権になる可能性があります。また、過剰債務を抱える企業が支払う義務を負っているのは、金融機関からの融資だけではないはずです。取引先に対しても、商品仕入れの対価など、何かしらの支払い義務を負っている可能性があります。

企業の債務は、取引先にとっては債権となり、過剰債務などで回収が困難になる場合は、取引先にとっては不良債権となるリスクがあります。企業の抱える不良債権は、金融機関のように銀行法や金融再生法が直接かかわってくるわけではありませんが、予定どおり回収が難しい点では同義です。企業においても、通常のように回収できなくなった、あるいは回収が困難と判断される債権を不良債権といいます。

不良債権の問題は、当初予定していた代金の回収が困難になることで、キャッシュフローが悪化する可能性のあること、さらには、回収が不能になり、収益が減少することです。

不良債権の代表的な例

未回収リスクのあるもののうち、不良債権になるのは、以下の勘定科目や取引に該当する場合です。

受取手形や売掛金などの売掛金債権

企業間の信用取引では、受取手形売掛金などの売掛金債権が発生するのが常です。商品やサービスの引き渡し後、代金を回収できなければ未回収リスクが高い不良債権として扱われます。期日を過ぎたのに支払いがなされない段階では、一概に不良債権とはいえず、滞留債権とみなす企業も存在します。

支払期限に遅れただけで今後の返済を見込めるものは滞留債権に、未回収の可能性が高くなったら不良債権に振り替えるのです。端的にいえば、両者の違いは回収の可能性があるかないかにあります。滞留債権は入金依頼の連絡や督促により支払われる場合もありますが、不良債権は倒産や債務者の消息不明のようなどうしても回収できない債権が主な対象です。

貸付金

取引先や関連会社に対する貸付金も、未回収リスクが高ければ不良債権と化すことがあります。貸付金は金融期間の融資にとどまらず、一般企業間のやり取りでも生じるものです。基本的には将来返済するという約束の元、取引先の資金繰りを助けるために貸し付ける金銭債権を表します。

会社単位だけなく、代表取締役や役員、従業員などに対して貸し付けるケースもあるようです。貸付金の会計処理では返済までの猶予期間に応じた区分が必要です。貸付から返済期限まで1年以内の貸付金は短期貸付金、1年を超えるものは長期貸付金として貸借対象表に記載します。

立替金

立替金は、従業員や取引先の債務を代わりに負担したときに使用する勘定科目です。不良債権になり得るのは取引先の債務を肩代わりした場合にとどまり、たとえば荷物の発送費が代表的です。

従業員の旅費交通費は経費に計上可能なため、企業が代わりに負担しても不良債権にはなりません。旅費等の支払いは前払いの性質を有し、あくまで便宜上立替金勘定で処理しているだけです。債務と費用は根本的に異なるもののため、立替金のすべてが不良債権になり得るとはいえません。

未収入金

売掛金は、営業活動を通して発生した未回収の代金で、未収入金は営業活動以外で発生した未回収金のことです。固定資産を売却して代金を受け取っていない場合、売掛金ではなく、未収入金に計上します。

未収請負金や未収加工料、未収地代家賃は回収できない可能性があれば、不良債権に該当します。なお未収入金は貸借対象表上「資産の部」に記載し、回収予定日が直近の決算日から1年以内の場合は「流動資産」、1年を超えるときは「固定資産」です。

その他

ほかにも、以下のような勘定科目と取引で未回収リスクがあると認められた場合は、不良債権に該当します。

  • 「雑収入」のうち支払いが確定した損害賠償金で未収のもの
  • ファイナンス・リース取引の「リース債権」で支払期限未到来のもの含め未回収リスクのあるもの
  • 手形と同じ扱いをする先日付小切手(決算日をまたぐ場合は「受取手形」として処理)のうち未回収リスクのあるもの
  • 建設業会計において未回収リスクのある「工事未収金」

※ファイナンス・リース取引とは、中途解約が不可あるいは解約によってリース料総額の90%以上を支払わなければならない、かつ実質的に資産を得たときと同じ効果があると認められるリース取引をいいます。

不良債権比率とは

一般企業における不良債権比率とは、債権のうち不良債権の占める割合のことで、以下の計算式で算出します。

不良債権の合計額 ÷ 売掛金など債権の合計額 × 100 = 不良債権比率(%)

例えば、不良債権の合計額が100万円、売掛金など債権の合計額が1億円の場合の計算は、以下のとおりです。

100万円÷1億円×100=1%(不良債権比率)

不良債権比率は、債権のうちどれだけ未回収リスクの高いものがあるか測る指標になりますので、企業のリスク管理、資金調達において重要なものとなるでしょう。

不良債権比率が低いに越したことはないといえますが、どのくらいの割合が健全といえるかは状況や業種により異なります。資金繰りが順調でない企業は、不良債権比率が低くても正常に回収できない可能性がある債権があること自体が痛手になるためです。そのため、どのくらいの比率が健全かは難しい部分があります。

何か目安にできるとすれば、一括評価金銭債権の貸倒引当金の法定繰入率などになるでしょう。一括評価金銭債権の貸倒引当金とは、経営破綻など特別なリスクのない債権について、将来の未回収リスクに備えて負債として計上するものです。税法上は、業種別に以下のように繰入限度額が定められています。

割賦販売小売業等1.3%
卸売り及び小売業、飲食店業1.0%
製造業、電気業等0.8%
金融及び保険業0.3%
そのほかの事業0.6%

出典:貸倒引当金の繰入限度額を計算する場合における法定繰入率の取扱い|国税庁

不良債権の回収方法・手順

未回収リスクのある不良債権のうち、回収が正常に行われていないものについては、以下のような方法や手順を踏んで回収を進めていきます。債権回収には時効があるので、早め早めに実行していきましょう。

当事者に連絡をとる

期限を越えて債権の回収ができていない、相手方から支払いが行われない場合、速やかに相手に連絡を取って支払いを実行するようお願いします。相手が支払えない事情がある場合は、電話や書面ではなく、直接話し合いの場を設けるのが良いでしょう。

支払う意思があってもすぐに全額を用意できないなどの事情があれば、一部だけでも支払ってもらう、分割で支払ってもらうなど、両者にとって可能な妥協案を探るのがベストです。支払いがほとんど難しい状況に陥っている場合は別として、この段階で譲歩できれば、今後の付き合いを継続することも可能です。

相手に支払いの意思があれば、再度債務不履行になってもほかの財産の現金化で回収できるようにするため、不動産や株式などの担保を提供してもらうのも方法としてあります。

督促状を送る

期限を過ぎた後に支払を依頼しても相手方がなかなか応じないときや、連絡がつかないときは督促状の送付を検討しましょう。督促状には債務が弁済されていない事実や新たな支払期日、対応しない場合は法的措置に移行する旨を記載します。

代金の支払いを強く求めるための文書に過ぎず、作成したからといって法的な拘束力はありません。電話やメールで期限までに返済がないときに、支払いを促す手段として用いられます。

内容証明郵便を送る

督促状を送っても支払いが実行されない場合は、法的手段の前段階として、内容証明郵便で催告書を送ります。内容証明郵便は、内容まで証明してくれる特殊な郵便で、不良債権の時効の中断にも役立ちます。弁護士を通して、内容証明郵便を送付することが多いです。

以上、支払期日到来後の連絡、督促状、内容証明郵便の時点で、相手の支払い意思が確認でき、話し合いがまとまれば、契約の内容に法的効力をもたせるため、債務弁済契約公正証書を作成します。公正証書は、約束が守られなかったとき、訴訟を経なくても強制執行が可能となる強い効力をもつものです。

民事調停を利用する

内容証明郵便を送付しても効果がないときや、相手が反応しない場合は法的手続きへの移行を検討するのが一つの方法です。いきなり裁判を起こすよりは、費用が少なめで円滑に話し合いがまとまりやすい、民事調停を検討することをおすすめします。

民事調停は調停員が同席のもと行われる当事者間の話し合いの場です。第三者が介入する分、話し合いがまとまりやすく、一件落着も期待できる方法です。双方の意見がまとまった後に作成する調書は裁判上の和解と同様の法的拘束力を有します。

支払督促をする

裁判になった場合、解決まで長期戦になることから、裁判所を通した支払督促をすることがあります。支払督促で必要なのは書類審査のみで、裁判よりもすぐに実行できるのがポイントです。相手が支払督促に対して異議を申し立てなければ、裁判の判決と同じ法的効力が生じます。

裁判を起こす

民事調停や支払督促などで解決しない場合は、裁判による解決があります。通常訴訟のほか、債権が60万円以下の場合は少額訴訟を選択することが可能です。裁判のメリットは、債権者の主張が正しいと裁判で認められた場合、裁判所が法的効力のある支払い命令を出すことで、債権回収が進むことです。一方、費用がかかる、裁判が長期になることがあるといったデメリットがあります。

強制執行を申し立てる

判決確定後など、なお債務履行がないときは、裁判所に強制執行の申し立てを行うことで、相手方の財産差し押さえが可能になります。銀行預金や売掛金、商品など、差し押さえられる財産はさまざまです。通常は裁判を含め、専門家である弁護士に依頼します。

不良債権の回収が見込めるケース

債権の種類や債権者の手続き次第では、不良債権の回収が見込める場合もゼロではありません。具体的なシチュエーションを紹介します。

比較的早い段階から回収手続きを始めている

取引先が債権の存在や支払期日を忘れていて支払いが滞っている場合、早い段階で対応を開始すれば、無事回収できる可能性があります。期日を過ぎたと分かった時点で連絡を取り、電話やメールで支払いを求めれば、相手に悪意がない限り入金がなされるでしょう。

スケジュールを把握して、期限の到来が近づいたらリマインドを送るのも効果的です。時効による消滅を考慮すると、督促や内容証明郵便の送付は極力早めに済ませたいところです。不良債権化する債権を増やさないためには、余裕をもったスケジュールで回収手続きを始める必要があります。

債権に連帯保証人や担保がついている

債権に連帯保証人や担保がついている場合、債務者に支払い余力がなくても保証人への請求や担保物のオークションによる弁済を受けられます。企業間取引では契約書に条項を追加することで、債権に連帯保証や担保の提供に関する特約を設定できます。

連帯保証人は主債務者と同じ義務を負うため、債務者(取引先)が弁済しない場合は即座に保証人へ支払いを求めることが可能です。企業間取引では取引先の代表取締役が連帯保証人となるのが一般的です。債権の貸し倒れリスクに備えるためにも、契約に連帯保証や担保の条項を入れられないか、取引先と相談してみると良いでしょう。

相手の経済能力を把握できている

取引開始からの期間が長く、関係がある程度親密な場合、相手の経済能力を把握できていて、不良債権を回収しやすいでしょう。キャッシュの正確な動きは貸借対照表損益計算書では読み取りにくく、常日頃のやり取りを通して、リアルタイムで資金繰りの情報を入手したほうが効果的です。

取引先が新規事業の準備を始めている状況では、設備投資やマーケティングへの費用で収支が悪化している場合も珍しくありません。一時的に資金繰りがピンチでも、新規事業が成功して売上がアップすれば、滞っていた債権の弁済に乗り出すかもしれません。

取引先に直近の情報を入手できれば、現時点では赤字でも近いうちには黒字が見込めるだろうというように中長期的な視点からの分析が可能です。

不良債権の回収が困難なケース

不良債権を回収できるのは、基本的に債務者に支払能力や支払意思がある場合のみです。状況によっては回収を諦め、貸し倒れを計上し、引当金から控除する会計処理が必要となります。不良債権の回収が困難になるさまざまな事情を紹介します。

債権の消滅時効を迎えている

債権には権利を行使できる期限(=時効)があり、消滅時効を迎えた以後は支払いの請求ができなくなります。成立後から時効までの期間は債権の種類ごとに異なるため、保有債権がいつまで有効なのか、把握が必要です。

売掛金や未収金の消滅時効は2年でしたが、2020年4月以降に発生した債権は5年に変更されました。時効の到来が近い不良債権は、期限が来る前に回収するか、内容証明郵便の送付や裁判の請求によって時効を中断させる必要があります。

倒産手続きなど相手が法律的手続きを行っている

債務者の事業継続が難しくなり、実際に倒産手続きを開始した場合も不良債権の回収ができなくなる一例です。経営破綻した場合のほか、強制執行や強制和議が入ったときも対象です。会社更生法の更生計画や民事再生法の再生計画の適用を受けると、未収の債権は切り捨てられてしまいます。

法律上の効果で債権が消滅してしまえば、以降の回収は認められません。ほかに法的手続きが原因で債権を失うケースには、会社法の特別清算の適用や合理的な基準による特定調停なども考えられます。

相手に支払能力がない

相手の資産状況や支払能力が不足して、不良債権を回収できなくなるケースもあります。代表的な状況は次のとおりです。

  • 債務超過の程度が著しく、弁済不能と判断できる場合
  • 天災や事故で財産を失い、支払能力がなくなった場合
  • 行方不明や死亡により、請求先の債務者が存在しなくなった場合

支払能力の有無は債務者個人だけでなく担保や保証人も含め、回収不可なのか総合的な判断が求められます。債務者の支払い余力が正確に分からなくても、取引停止以後1年以上を経過した未収債権は法律上、回収できないとみなされます。

不良債権の会計処理

不良債権は、他の債権とは別個の会計処理が必要です。また回収不能が確定した債権と、貸し倒れの可能性がある債権とでは適切な仕訳が異なります。不良債権の会計処理はどのタイミングで行い、具体的にどのような処理が必要なのか解説します。

回収不能な不良債権の場合の仕訳

経営破綻や時効による消滅をはじめ、回収不能なった不良債権の会計処理には勘定科目「貸倒損失」を使用します。

(例1)500万円の売掛金があるA社が経営破綻に陥り、売掛金全額について回収が不能であることが見込まれる。

借方
貸方
貸倒損失5,000,000売掛金5,000,000

(例2)500万円の売掛金があるA社が経営破綻に陥った。A社については300万円の保証を受け入れている。

借方

貸方

破産更生債権等5,000,000売掛金5,000,000
貸倒引当金繰入2,000,000貸倒引当金2,000,000

経営破綻に陥った段階では、その後の債務整理などでいくらか不良債権が回収できる可能性もあるので、保証でカバーされない200万円部分につき「貸倒損失」ではなく「貸倒引当金繰入」及び「貸倒引当金」勘定を用いて会計処理を行います。売掛金から破産更生債権等への振替は、売掛金のうち回収不能と思われる額を区別するためです。

貸倒の懸念がある不良債権の仕訳

不良債権までには至っていない貸倒懸念債権に対する貸倒引当金については、税務上、法定繰入率に相当する分までしか損金に算入できません。全額費用処理できないため、会計上費用に算入した額のうち、法定繰入率に相当する分までを損金に算入します。

(例)300万円の売掛金があるB社について、うち200万円が3カ月支払期限を過ぎている。よって、B社の売掛金のうち支払期限を超過しているものを貸倒懸念債権として計上することにした。B社からの保証の受け入れはなく、50%を貸倒れ処理する。

借方
貸方
貸倒引当金繰入1,000,000貸倒引当金1,000,000

不良債権ははやめに対応を

不良債権の増加は、キャッシュフローの悪化につながる可能性があります。さらに、会計上と税法上の貸倒れの範囲が異なるため、税法上いつまでも損金にできず課税額を調整できないデメリットも考えられます。

不良債権が増えることは、企業の経営にとって問題ですので、不良債権となった段階で話し合いをする、督促状を送る、法的措置を取るなどのはやめの対応を取ることが重要です。

また、不良債権になる以前の段階で、手を打っておくこともできます。取引先に業績不振など経営にかげりが見えはじめたら、一部だけでも回収できるよう担保を提供してもらう、ファクタリング(売掛金の売却)で早期回収をする、取引先に信用状況を確認するなど、貸倒を防げるような予防策を行っておきましょう。

参考:
第1節 増え続ける不良債権|内閣府
第2節 不良債権・過剰債務は日本経済の重し|内閣府
No.5500 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象となる金銭債権の範囲|国税庁


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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