- 作成日 : 2024年11月5日
相殺精算とは?メリットや請求書の書き方、仕訳方法をわかりやすく解説
相殺精算とは、取引先に対する債権と債務を帳消しにしてしまうことです。債権債務を相殺する取引のため、現金の出入りはありません。ただし、相殺精算は条件がそろっていないとできません。今回は、相殺精算の条件やメリット、具体的なやり方や仕訳方法などを解説します。
目次
相殺精算とは?
相殺精算とは、取引先との債権債務を相殺して精算することです。
相殺精算の意味
相殺精算の「相殺」とは双方の債権を帳消しにすることで、「精算」とは計算したり処理したりすることをいいます。会計上は、取引先に対する債権と債務について、同額を帳消しにして処理することです。
相殺処理との違い
相殺処理とは、取引先に対する債権と債務を帳消しにする処理のことです。基本的に、相殺精算と同じ意味で使われます。
相殺取引との違い
相殺取引とは、取引先との間にある債権と債務を互いに取り消す取引のことです。債権債務を帳消しにする取引のため、現金の動きはありません。相殺取引も、相殺精算と同じような意味で使われます。
相殺精算が成立する条件は?
相殺精算をするには、以下に取り上げる4つの条件を満たさなければなりません。
- 相殺の意思表示がある
- 同種の債権が対立している
- 弁済期が到来した債権である
- 禁止の特約などを締結していない
具体的な内容を解説します。
相殺の意思表示がある
民法第506条において、当事者のうち一方が相手方に意思表示をすることで相殺をすると定めています。つまり、意思表示がない状態では、法的に相殺精算の効力は生じないということです。なお、相殺については意思表示が必要ではあるものの、同意(相手が相殺をしない旨の意思表示をしている場合を除く)は求められていません。
同種の債権が対立している
民法第505条の相殺の要件等では、互いに同種の目的を有する債務があることが要件のひとつとして記載されています。同種の目的とは、発生原因が同じであるなど種類が同じ債務のことです。
商取引において代表的なのが、売掛金と買掛金です。買掛金は、自社の立場では取引先に対する債務になります。一方、自社にとっての売掛金は、取引先からすると買掛金であって、自社に対する債務です。つまり、商取引で生じた買掛金と売掛金は同種の目的を有する債権債務であって、相殺できる債権債務に該当することになります。
ただし、互いに有している必要があるため、自社にだけ買掛金がある、あるいは自社にだけ売掛金があるような場合は、相殺精算はできません。
弁済期が到来した債権である
民法第505条の相殺の要件等では、双方の債務が弁済期にあるとき、という条件が定められています。互いに支払時期が到来している債務でないと相殺できないという意味です。
しかし、実際は、弁済期の到来していないものについても相殺精算できます。相殺されようとする債権(受働債権)の債務者は、期限の利益を放棄できることが、同じく民法で定められているためです。例えば、自社が取引先A社に対する買掛金の支払いを早めることで、取引先A社の弁済期が到来している売掛金と相殺することができます。
禁止の特約などを締結していない
契約時に禁止の特約を締結していないことも重要です。差し押さえを禁止されている債権や相殺禁止の旨が契約時に示されている場合は、相殺精算の対象にできません。また、取引相手が相殺しない旨の意思表示をしていないことも重要です。相殺は、現実的には当事者間の合意に基づき行うことが一般的であるため、一方が相殺しないことを明らかにしている場合は、相殺精算はできません。
したがって、禁止の特約の締結や法律上の拘束がないことと、相手の相殺をしない旨の意思表示がないことが相殺精算のための条件になります。
相殺精算のメリットは?
相殺精算には、主に以下のメリットがあります。
- キャッシュフローを改善できる
- 支払処理を効率化できる
- 振込手数料などのコストを削減できる
キャッシュフローを改善できる
相殺精算は、原則として弁済期間が到来している必要があるものの、一定の場合には弁済期間が到来していない債務の相殺もできると説明しました。例えば、取引先が弁済期間の到来していない債権との相殺を申し出た場合、自社の債権の回収スピードが速まるため、一時的にキャッシュフローを改善できる可能性があります。
支払処理を効率化できる
相殺精算をすることで、売掛金などの債権を回収する手間や買掛金などの債務を履行する手間が省けます。相殺精算では現金のやり取りが発生しないためです。そのため、支払処理や回収の確認などの手間が削減でき、事務処理を効率化できるメリットがあります。
振込手数料などのコストを削減できる
相殺精算には、コストを削減できるメリットがあります。現金のやり取りが発生しないことから、銀行振込にかかる振込手数料を負担せずに済むためです。相殺精算では金銭のやり取りが生じないため、紙で領収書を発行している場合は収入印紙を貼り付ける必要がなく、収入印紙分のコストも削減できます。
相殺精算の具体的なやり方は?
相殺精算は、以下の手順で行います。
- 相殺契約書を発行する
- 相殺請求書を発行する
- 相殺領収書を発行する
- 相殺精算の仕訳を行う
それぞれの手続きについて解説します。
相殺契約書を発行する
相殺契約書は、当事者双方の合意のための書類です。相殺契約書では、条件や期限などを自由に決めることができます。相殺精算後に生じる可能性がある、トラブル防止にも役立つでしょう。相殺契約書で一般的に記載される事項を漏れなく記載するには、相殺契約書のテンプレートが便利です。
相殺請求書を発行する
相殺精算をする場合は、相殺請求書を発行します。相殺請求書は、相殺の金額の詳細がわかる書類です。一般的に、以下の項目を記載して作成します。
- 相殺前の金額
- 相殺された金額
- 相殺後の金額
相殺領収書を発行する
相殺精算の証拠として、相殺領収書を発行します。相殺により取引が行われた証拠を当事者双方で残すため、双方で作成して交換します。相殺領収書の発行は必須ではないものの、二重請求や二重支払いを防止するのに有効です。
相殺精算の仕訳を行う
相殺精算に連動して、債権と債務のいずれも減少させる会計処理を行います。相殺精算の仕訳については後述します。
相殺精算に必要な書類の書き方は?
相殺精算に関わる書類として、相殺契約書、相殺請求書、相殺領収書の書き方のポイントを紹介します。
相殺契約書の書き方
相殺契約書はトラブル防止に役立つ書類です。例えば、以下の事項を記載して相殺契約書を作成します。
- 相殺する債権の事項(金額、債権の種類、支払期日など)
- 相殺する債務の事項(金額、債務の種類、支払期日など)
- 相殺の合意(相殺に双方が合意した期日など)
- 残債務(残債務の額など)
- 契約解除(相殺精算の契約を解除できる要件など)
- 管轄合意(紛争になった際の管轄の裁判所と裁判で解決する旨の合意)
- 協議(相殺契約書に定めのない部分に関して協議により解決する旨の記載)
相殺契約書の内容は自由に決定できます。トラブルを回避することを念頭に、できるだけ明確に、また詳細に記載するよう心がけましょう。
相殺請求書の書き方
請求書の発行については、基本的には通常の請求書の作成方法と同じです。適格請求書発行事業者であれば、適格請求書(インボイス)の要件に従い、登録番号や適用税率などの必要事項を記載して作成します。
相殺請求書の場合、通常の請求書に加えて記載が必要なのは、「相殺した金額」と「相殺後の請求額」です。いずれの金額も、請求書を見てすぐにわかるように記載しましょう。相殺精算により相殺後の請求額がゼロになる場合は、「お振込は必要ありません」などの記載があると親切でしょう。
相殺領収書の書き方
相殺領収書には、通常の領収書と同様に以下の項目を記載します。
- 領収書の発行年月日
- 宛名
- 金額
- 但し書き
- 発行者名
相殺領収書の作成で注意したいのは、金額と但し書きです。
相殺精算した場合は、金額の欄に相殺した金額を記載し、但し書きに「上記の金額を相殺しました」のように、相殺したことがわかる記載をします。
請求金額の一部を相殺した場合で、請求額と相殺した金額をまとめて1枚の領収書に発行するときは、金額に相殺後の金額を記載し、但し書きには「○○円相殺しました」のように、相殺した金額と相殺した旨を記載します。
相殺精算の仕訳方法は?
相殺精算の会計処理は、相殺した額の債権を減少させ、さらに相殺した額の債務を減少させる仕訳を行います。代表的な売掛金と買掛金の相殺精算の事例を見ていきましょう。
(例)当社はA社に対し買掛金20万円と売掛金50万円がある。A社との合意のもと双方の債権債務20万円を相殺することにした。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
買掛金 | 200,000円 | 売掛金 | 200,000円 |
上記の例だと、相殺後の残額として売掛金の額30万円が未回収の額として残ることになります。
相殺精算をするには条件の確認が必要
当事者双方の債権債務を相殺する手続きを相殺精算といいます。相殺については民法に規定があるため、条件に合致する債権債務でないと相殺精算ができません。相殺精算をしたい場合は、まず条件に該当するか確認しましょう。そのうえで、取引先との相殺契約の締結など手続きを進めていきます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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