- 更新日 : 2025年2月4日
売掛金が未入金の場合の回収方法は?回収できない場合の法的措置も解説
未入金とは、買い手からまだ支払われていない売掛金のことです。未入金の回収方法として、取引先への連絡や買掛金との相殺などが挙げられます。
また、相手の対応次第で法的措置も検討しなければなりません。本記事では、未入金の概要や具体的な回収方法、法的措置を講じる場合のやり方などをわかりやすく解説します。
目次
そもそも未入金とは
まずは、未入金の概要や未収入金との違いについて解説します。
未入金とはまだ支払われていない売掛金のこと
未入金とは、商品売買やサービス提供などの取引をしたにもかかわらず、買い手から売り手にまだ支払われていない代金(売掛金)のことです。未入金が発生する主な理由として、以下の点が挙げられます。
- 買い手が支払いを失念している
- 資金繰りが悪化していて、買い手が代金を支払えない状況にある
- 買い手が踏み倒して手元資金の減少を防ぐことを目論み、あえて支払おうとしない
未入金が発生すると、自社の資金繰りに悪影響を及ぼします。なぜなら、本来手元にあるはずの現金を回収できていないためです。
未入金の状態が続いて自社の資金繰りが悪化すると、最悪のケースでは倒産に至る可能性もあります。そのため、未入金の状況にはくれぐれも注意しなければなりません。
未入金と未収入金の違い
未入金と未収入金の主な違いとして、「本業収入によるものか」という点が挙げられます。未入金は主に商品やサービスを販売した際の売掛債権が対象であるのに対し、未収入金は不動産売却や有価証券売却などによる債権を対象にしたものを指すことが一般的です。
なお未収入金は、営業活動以外の取引で発生した金額を計上するための勘定科目としても用いられます。
売掛金が未入金となる理由
しかし、なぜ取引先からの売掛金の入金が期日通りに行われないのでしょうか。売掛金が未入金となる理由について詳しく解説します。
取引先のミス
支払い処理による対応漏れや誤記入などのヒューマンエラーが生じている可能性があります。近年はツールの導入が進みつつあるとはいえ、会計や経理では、人間のPC操作や目視によるチェックも行われています。
担当者が支払処理を忘れたり、別日と間違えたりする単純なミスが起こるリスクはゼロではありません。請求書の紛失や取り違えなどもあるでしょう。人間が行う以上、会計処理に熟達した人材でもミスを起こす可能性はあります。
期日に入金されない理由が取引先の単純なミスであれば、メールや電話で確認し即座に対応してもらえるでしょう。このようなミスを起こさないために、ふだんからダブルチェックや企業内外の連携が大切です。
取引先の支払い能力が低下した
経営環境は常に変動するため、今まで安定して利益を確保してきた企業が、一転して経営危機に直面するケースもあります。資金繰りの悪化により支払いに回す資金が不足すれば、売掛金の弁済が予定通りに行われず、未回収リスクが高くなることもあるでしょう。
何度も支払いをお願いしているのに返答がない、または対応しない場合、生じた債務を負担できないほど危機的な経営状態に陥っているかもしれません。
そのまま放置すると債権の未回収リスクが高まり、自社の経営にも支障を来たす恐れがあります。取引先からの売掛金の入金を仕入債務や従業員の給料に充てている場合、直近の債務を予定通りに支払えない可能性が生じるためです。
意図的に支払われていない
ミスではなく支払能力にも問題がない場合、取引先が故意に支払に応じていない可能性があります。認識していながらあえて支払に応じていない場合は、連絡を入れても意味がなく厄介な状況です。
意図的な未払いを避けるためには、与信管理を徹底し、信用力に乏しい企業との取引には応じないことが第一です。取引を開始する前に、企業の基本情報や実績、企業規模などできるだけ多くの情報を入手しましょう。
提供する商品・サービスのユーザー評価や財務諸表をはじめ、定量・定性データの両方をバランス良く取得することが大切です。信用力が低い企業は意図的な売掛金支払の遅延以外にも、破産や倒産のリスクも伴うため要注意です。
売掛金の未入金による影響
入金を見込んでいた売掛金の支払いが遅れれば、自社の経営に多大な影響が生じます。たとえば資金繰りの悪化や利益の減少、金融機関からの評価の低下などです。それぞれ具体的にどのような影響が生じるか詳しく解説します。
資金繰りの悪化
売掛金が予定通りに入金されないと、資金繰りの悪化を招きます。資金繰りとは、端的にいえば企業に出入りするキャッシュの動きを表す言葉です。銀行の預金や株式などは資産には計上できても、即現金化が難しく、給料の支払いや他の取引先への債務の弁済などには使いにくいものです。
企業活動を円滑に進めるには十分なキャッシュが蓄積される必要があり、資金繰りが悪化すれば、危機的な経営状況に立たされる恐れもあります。売上や利益が出ているにもかかわらず、キャッシュが不足し直近の債務の弁済ができずに破産する、黒字倒産が代表例です。
掛け取引が中心の企業間取引では、売掛金がキャッシュの大半を占める企業も存在します。売掛金が予定通りに入金される前提で支払計画を組んでいる場合、貸し倒れが起こると計画が頓挫します。倒産のような事態とまでいかずとも、資金繰りの悪化によって取引先への支払が滞れば、信用が低下し会社の評判にキズがつくかもしれません。
利益の減少
掛け売りでは、製品やサービスを販売した時点ではなく、入金があった時点ではじめて利益が確定します。会計処理上、経営破綻または実質的な経営破綻などにより未回収リスクが高い売掛金は「売掛金」として勘定せず、「破産更生債権」勘定に分けて記帳する場合もあります。
売掛金を順調に回収できないと、督促や事務作業が発生します。本来であれば不要な人件費が伴う分、利益の水準が押し下げられるでしょう。売掛金回収のために本来取り組むべきコア業務の進捗に影響が出れば、企業全体での生産性低下まで引き起こしかねません。
企業が得た利益は次なる事業展開の資金にも活用でき、反対に利益が出なければ活動の幅が狭まるでしょう。銀行からの融資は利息が伴い、審査も厳しい傾向があるため、企業規模や実績しだいでは利用できない恐れもあります。売掛金の未回収リスクは利益に計上できない売上を増やし、回収に伴う業務の負担も増大させてしまいます。
金融機関からの評価の低下
売掛金の未回収リスクが高い企業は、金融機関からの評価が低下する傾向があります。銀行や信用金庫は融資を申し込んだ企業の審査を実施します。金融機関は貸付金の返済能力を見極めるため、企業の経営状態や財務状況をさまざまな視点でチェックするのです。
審査基準は銀行ごとに異なり、公開されてもいませんが、売掛金の回収状況が含まれる可能性は高いでしょう。売掛金の入金遅れや貸し倒れが頻発すると、金融機関から資金管理がルーズだと判断されてしまうかもしれません。
自社の債権は予定通りに弁済していても、取引先からの回収力が低いと、審査が不利になり働きかねません。売掛金が多いこと自体はむしろビジネスが順調な証です。しかし回収できない金額が多い、もしくは回収不能の割合が高いと金融機関に回収能力が疑われる場合もあります。
結果的に融資が認められたとしても、金利が高かったり上限額が低めに設定されたりと条件面で不利益を被りかねません。
売掛金が未入金の場合の回収方法
売掛金が未入金の場合にすべきことや具体的な回収方法は、主に以下のとおりです。
- 請求書の内容を確認する
- 未入金について取引先に連絡する
- 商品・サービスの提供を停止する
- 未入金と買掛金を相殺する
それぞれ解説します。
請求書の内容を確認する
売掛金が未入金であることに気づいたら、まず対象取引に関する請求書を確認しましょう。
自分や担当者の勘違いで、そもそもまだ支払期限が到来していない可能性があります。あわせて、請求書の送付漏れがないか、電子メールの送信履歴などを確認しておくことも大切です。
また、契約書に記載されている「期限の利益喪失条項」も確認しておきます。期限の利益喪失条項とは、契約書に記載されている事由が発生した場合に、債務者が「定められた期限までは債務を支払わなくてよい」という権利(期限の利益)を主張できなくなることです。
期限の利益喪失条項が設けられていれば、対象事由が発生した際に、支払いが遅れた売掛金以外の売掛金もあわせて支払うよう債務者に請求できます。
未入金について取引先に連絡する
具体的な行動や法的措置などをとる前に、未入金について電話やメールで取引先に連絡します。なぜなら、単に取引先が支払期限などを勘違いしたことで未入金になっている可能性があるためです。
なお、連絡する際に高圧的な態度で伝えると、未入金解消後の取引に支障をきたします。単に失念していたなど取引先に悪意がない場合や、トラブルでどうしても入金できなかった場合を想定し、連絡時は丁寧に伝えることを心がけましょう。
商品・サービスの提供を停止する
取引先に入金の意思がないことがはっきりとした場合は、未入金が発生している取引以外の取引に関する商品の発送やサービスの提供を停止します。未入金が発生している取引先と取引を続けていると、さらなる未入金が発生しかねません。
未入金の解消を促すためにも、取引先には商品の発送やサービスの提供を停止する理由をはっきりと伝えることが大切です。
未入金と買掛金を相殺する
未入金が発生している取引先に買掛金があれば、相殺を検討することも大切です。相殺とは、売掛金と買掛金を同額分減額させることを指します。
相殺するためには、原則として双方の合意が必要です。ただし、支払期日が到来しているなど、一定の要件を満たすことで一方的に相殺できる場合があります。
相手に相殺の意思表示を伝えるため、一方的に相殺するには内容証明郵便で相殺通知書を発送しなければなりません。相殺通知書に盛り込む内容は、対象の債権・債務や該当の金額、相殺することの意思表示などです。
内容証明郵便の概要については、後ほど詳しく解説します。
未入金を回収できない場合の法的措置
未入金を回収できない場合は、法的措置も検討しなければなりません。法的措置に関する行動として、主に以下が挙げられます。
- 催促状や督促状を送付する
- 内容証明郵便を送付する
- 公正証書を作成する
- 支払督促を行う
それぞれ確認していきましょう。
催促状や督促状を送付する
電話やメールで取引先に連絡しても反応がない場合は、催促状や督促状を送付しましょう。
催促状とは、支払いを促すために送る書面を指します。それに対して、督促状はより支払いを強く求める書面を指すことが一般的です。そのため、督促状には今後も支払いがない場合に、法的措置を講じる可能性があることを盛り込む場合もあります。
内容証明郵便を送付する
催促状や督促状を送付しても反応がない場合は、内容証明郵便で催告書を発送します。内容証明郵便とは、所定の料金を支払うことにより、「いつ」「どのような内容の文書を」「誰が」「誰に」差し出したかを証明できる郵便局のサービスです。
催告書を発送することにより、時効を延長できます。また、最終勧告である旨などを盛り込むため、深刻な状況であることを相手に伝えられるでしょう。
なお催促状や督促状の場合は、普通郵便で発送することが一般的です。
公正証書を作成する
連絡はとれても取引先がすぐに支払うことが困難な場合は、公正証書を作成することも検討しましょう。公正証書は公務員である公証人が作成する公文書のため、強力な証拠能力が認められます。
「今後も支払いに応じない場合は強制執行することを認める」という趣旨の文言を公正証書に入れておけば、裁判をせずに相手の財産の差し押さえが可能です。取引先は、差し押さえされないよう何とかして代金を払おうとするでしょう。
しかし、公正証書を作成するには、相手の合意が必要です。事態が深刻になって相手と連絡・交渉できなくなる前に、公正証書の作成を提案しましょう。
交渉時に保証人や担保の提供にも同意してもらえば、未入金のリスクをさらに軽減できます。
支払督促を行う
支払督促を検討することも、未入金を回収できない場合の法的措置として挙げられます。
支払督促とは、貸したお金を返してもらえない場合や、代金を支払ってもらえない場合などの状況にある申立人の申立てに基づき、簡易裁判所が債務者に金銭の支払いを命じる制度のことです。法的措置のため、命令を受けた取引先が急いで支払いに応じる可能性もあります。
支払督促には、申立書の提出などの手続きをしなければなりません。ただし、裁判所に出向く必要はなく、比較的短期間で手続きできます。
未入金が回収できないリスクを減らす方法
そもそも、未入金の回収不能リスクを軽減しておけば、法的措置なども検討せずに済みます。リスク軽減方法は、主に以下のとおりです。
- 売掛金を正しく管理する
- 取引先の与信管理を徹底する
それぞれ解説します。
資金繰り表を作成して売掛金を正しく管理する
資金繰り表とは、特定の項目ごと現金の入金・出金を記録し、キャッシュの出入りや過不足の状況を表した表のことです。
資金繰りでは現金の収支が重要です。手元のキャッシュが不足すれば、数字上は黒字なのに取引先への債務を支払う資金が足りなくなることも起こり得るでしょう。売掛金の入金日と買掛金の支払日が離れていると、資金繰りの悪化につながります。
キャッシュの流れが分かる資金繰り表を作成することで、いつまでに入金があれば支払いに支障を来たさないかを把握できます。売掛金や受取手形の期日は早いほうが好ましく、給与や仕入債務の弁済は遅いほうが会計上は有利です。
資金繰り表は全体的な収支以外にも、営業収益や財務収益に項目を細分化して運用するとより効果的です。うまく使えば売掛金の未回収リスクを考慮して、他の資金調達を考えるというように、計画的で賢い資金計画を立案できるでしょう。
取引先の与信管理を徹底する
取引先の与信管理を徹底することも、未入金の回収不能リスクを軽減する方法です。与信管理とは、取引先に関する情報収集や信用力の評価のように、回収リスクをできるだけ抑えることを目的とした活動を指します。
外部機関による調査結果や自社の分析に基づき、取引の是非や取引量を判断することにより、回収不能に陥りやすい事業者と取引するリスクを極力抑えられるでしょう。
支払期日を調整する
交渉の余地があるなら、支払期日を前倒しできないか取引先に掛け合うのもおすすめの方法です。
下請代金支払遅延等防止法では、製品やサービスの受領後60日以内に代金を支払うことが定められています。売掛金債権を有する企業にとって、締め日から支払日までは短いほうが資金繰りの観点では有利です。反対に支払期日までが長いと、仕入債務や給料の支払いなどに追われ、キャッシュフローが悪化する可能性があります。
会計処理の負担を考えれば、請求書の締め日や支払日は固定してまとめて処理するのが基本です。しかし、既存の取引先には現状維持で、はじめて取引する相手や取引開始から間もない企業には早期の期日を指定するという方法も検討できるでしょう。
請求金額が確定したらできるだけ早く通知する
請求金額が確定したら早急に請求書を送付し、取引先へ迅速に通知しましょう。実際の業務では相手方が納品物をチェックし、自社に請求金額を伝えるような運用体制を敷く場合もあるかもしれません。いずれにせよ、請求内容が決まったら、迅速に請求書を送付するのが大切です。
なぜなら、迅速な通知によって、入金対応の漏れや期日の勘違いなどのヒューマンエラーの防止につながるからです。反対に請求書の送付が遅れると、売上の管理が甘く信用できない会社だと思われるリスクが生じます。
金銭にかかわることは慎重に行いたいと考える経営者もいるかもしれませんが、仕事の成果に応じた報酬を受け取るのは立派な権利です。万一入金期日までに支払いが確認できないときも同様、判明した段階で早急に取引先へ連絡を入れましょう。
売掛保証を活用する
自社の施策だけでは未回収リスクを減らせるか不安だと感じるなら、売掛保証の活用がおすすめです。売掛保証は業績悪化や倒産などで対象の債権が貸し倒れになった状況に備えて保証会社が間に入り、契約で定めた金額を支払うものです。
売掛保証は利用者と保証会社間での契約となり、原則取引先(債務者)には通知されません。取引先に経営状態を疑われず、安全に貸し倒れリスクを低減できるのは売掛保証の利点です。ただし利用時には債務者や債権が審査に通る必要があります。また、保証会社に手数料を支払うことにも注意しましょう。
無事契約に至れば、予期せぬ倒産で売掛金が回収不能になっても、一定の金額を受け取れます。連鎖倒産のリスクも抑えられるため、審査によって確実に利用できる方法ではないながらも、利用価値はあるサービスだといえます。
ファクタリングを活用する
期日前に売掛債権を譲渡して、早期に現金を得られるファクタリングの利用も一つの方法です。利用の際はファクタリング会社に手数料を支払う必要がありますが、審査に通れば迅速にキャッシュを得られるスピード感が魅力です。
サービスによっては即日の資金調達も可能であるため、喫緊の資金需要で頭を抱えている企業におすすめです。取引先の倒産などで売掛金を回収できなくなっても、ファクタリング会社が入金を保証する安心のサービスです。
契約形態は大きく2者間ファクタリングと3者間ファクタリングに分かれ、後者は取引先(債務者)に債権譲渡の通知が行われます。取引先に自社の経営状態を疑われるリスクがある反面、2者間ファクタリングと比べて手数料が割安な場合があります。どちらも一長一短はあるため、自社が重視したい事柄を見極め、自社に合った契約形態を選択しましょう。
売掛金が未入金の場合は法的措置も検討しましょう
未入金とは、商品売買やサービス提供後、買い手から売り手に代金が支払われていない状態のことです。
支払期限が到来したにもかかわらず、売掛金が未入金の場合は、取引先へ連絡したり、商品・サービスの提供を停止したりするなどの方法があります。それでも、未入金の状態が解消されない場合は、法的措置も検討しましょう。
また、そもそも回収不能に陥ることがないように、与信管理を徹底するなどの心がけも必要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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