- 作成日 : 2024年10月17日
赤字決算のメリット・デメリットは?赤字の種類や対応策を解説
赤字決算とは、一会計期間において収益が費用を下回り損失が出た状態のことです。損失が発生した状態は、事業継続においてさまざまなデメリットが存在します。
一方、赤字決算は税金計算において有利になるメリットを受けられるのも事実です。
本記事を読めば、赤字決算のメリット・デメリットについて正しい知識を身に付けられるでしょう。
目次
赤字決算とは
法人における赤字決算とは、一会計期間において収益が費用を下回り、利益がマイナスとなる(=赤字)決算を指します。一方、個人事業主における赤字決算とは、暦年(1月1日から12月末日まで)における収入金額から必要経費を差し引いた結果、マイナスとなる状態のことです。
法人、個人事業主にかかわらず、赤字決算になったとしてもすぐ倒産に直結するわけではありません。しかし、赤字決算が連続する場合には、経営上何らかの問題を抱えているおそれがあり、倒産リスクが高まっていく点に注意が必要です。
債務超過、資金ショートとの違い
赤字決算に関連する概念として「債務超過」や「資金ショート」というワードがあります。以下にそれぞれの違いを説明していきましょう。
債務超過
債務超過とは、貸借対照表上において負債が総資産を上回っている状況を指します。すなわち、純資産がマイナスの状態です。赤字決算が続くと、その企業はいずれ債務超過に陥るリスクが高まります。
債務超過は、現金や商品、固定資産などすべての自社資産を現金化しても、負債を返済する能力がない状態を意味します。
資金ショート
資金ショートとは、事業の運転資金が枯渇して事業支出が支払不能となる状態を指します。たとえ赤字決算であってもキャッシュ・フローに問題がなく、会社の運転資金が十分に確保できていれば、倒産に至ることはありません。
一方、黒字決算であっても資金繰りが厳しくなり取引先への支払い能力が失われれば、倒産リスクが一気に高まります。
赤字の種類
赤字決算における「赤字」には、さまざまな種類が存在します。以下に具体例をあげて解説していきましょう。
<発生時期の違いによる分類>
- 創業赤字
- 恒常赤字
- 臨時的な赤字
売上総利益の赤字
売上総利益とは、損益計算書の「総売上高」から「売上原価」を差し引いた結果です。
売上総利益が赤字の場合、事業そのものの儲けが出ていないことを意味します。企業の存続に疑念を抱かせる状態であるため、抜本的な見直しが必要となるでしょう。
営業利益の赤字(=営業損失)
営業利益(営業損失)とは、損益計算書の売上総利益から「販売費及び一般管理費」を差し引いた結果です。
営業利益は本業の稼ぎを意味するため、円滑な事業運営を実現しながら利益を圧迫しないようなコスト管理も重要なポイントです。
経常利益の赤字(=経常損失)
経常利益(経常損失)とは、損益計算書の営業利益(営業損失)に「営業外損益」を加味した結果です。
営業外損益とは、一時的でなく経常的に本業の儲け以外に獲得した利益から同じく本業の儲け以外にかかった費用を差し引いた結果のことです。
当期純利益の赤字(=当期純損失)
当期純利益(当期純損失)は、一会計期間における企業全体の業績の最終成果を表します。損益計算書の経常利益(経常損失)に「特別損益」と「法人税等」を加味した結果です。
特別損益とは、本業に関連しない臨時的・突発的に発生した利益や損失を指します。
創業赤字
創業赤字とは、会社の新規設立時に生じる赤字を指します。創業時には、オフィスの契約費用や工事代、PC購入、什器備品購入など、事業を開始するために不可欠なコストが一時期に集中するのが一般的です。加えて、会社設立当初はまだ事業規模が小さく収益獲得もままならないため、創業期には赤字決算になりがちです。
キャッシュ・フローが健全であれば創業赤字はそれほど大きな問題にはならないことが一般的といえるでしょう。
恒常赤字
恒常赤字とは、黒字転換できずに長期間に渡り赤字を垂れ流す状態を指します。恒常赤字に陥る要因はさまざまですが、収益獲得に問題を抱えるケースが多いといえるでしょう。
具体的には以下のような事例があげられます。
- 営業やマーケティング等、社内リソースの脆弱性
- 低品質な製品・サービス
- コモディティ化による激しい競争環境
- 外部環境の変化による市場縮小
恒常赤字は放っておくと倒産リスクが極めて高まるため、注意が必要です。後述するような対策を講じて早期に赤字脱却を目指しましょう。
臨時的な赤字
アクシデントによる一過性の損失が原因となる赤字は、臨時的な赤字に分類されます。企業経営には予期せぬトラブルがつきものです。具体例をあげると、火災や天災といった特殊事情、売上債権の貸し倒れ、固定資産売却に係る損失、トラブルに起因する訴訟費用などが挙げられます。
突発的に多額の支出が発生した場合、企業のキャッシュ・フローに大きな痛手となるため資金計画の見直しが必要です。
赤字決算のメリット
赤字決算が続くと倒産リスクが高まるため、できる限り早期に黒字転換を図ることが重要といえます。一方、法人や個人事業主にとって、赤字決算はデメリットばかりでなくメリットが存在するのも事実です。
本章では、法人と個人事業主それぞれにおける赤字決算のメリットを解説していきます。
法人の場合
法人の場合、赤字決算には主に3つのメリットが存在します。
- 法人税の軽減
- 赤字の繰り越し
- 還付金の受け取り
以下で詳細を見ていきましょう。
法人税の軽減
法人において一会計期間の損益が赤字決算であった場合、その期の法人税は払う必要がありません。なぜなら、原則として法人税は課税所得(利益)に対して課税されるもので、赤字決算の場合は課税所得がゼロとなるためです。
<法人税の計算式>
ただし、軽減されるのは法人税および所得に連動する地方税のみであり、赤字決算であったとしても「消費税」や「法人住民税均等割」は納税が必要な点に注意しましょう。
赤字の繰り越し
法人が赤字決算の場合、当該会計期間の損失を将来の会計年度にわたって繰り越して、利益から控除できる制度があります。これを「繰越欠損金控除」といいます。
具体的には、当期の赤字決算で生じた損失額(=欠損金)を、翌期以降に生じた課税所得(利益)と相殺することで法人税が軽減される仕組みです。欠損金は翌期以降から最長10年間にわたり、税金計算上の損金として課税所得から差し引けます。
この制度の利用条件を満たすためには、欠損金が生じた事業年度時点で青色申告法人として確定申告を提出、かつそれ以降の各事業年度において連続して確定申告(白色申告も可)を行う必要があります。
<繰越欠損金の控除可能額>
資本金が1億円未満の中小法人 (資本金5億円以上の法人の100%子会社を除く) | 資本金が1億円を超える法人 |
---|---|
全額 | 課税所得額の50%が上限 |
還付金の受け取り
当期が赤字決算の場合、前期が黒字であれば、前期に納付した法人税の還付を受けられる制度があります。これを「欠損金の繰戻し還付」といいます。この制度は、当期の赤字額と前期の黒字額を通算することで、前期分の法人税が軽減される仕組みです。
ただし、繰戻し還付は前期に納付済みの法人税のみが対象となり、それ以前に納付済みの法人税は対象外となります。適用される法人は、資本金1億円以下の青色申告法人(資本金5億円以上の法人の100%子会社を除く)です。
他方、当期が赤字決算の場合、予定納税済みの法人税の還付も受けられます。企業が予定納税により法人税を前払いしている場合、通期で赤字決算となれば法人税の過払いが発生します。この過払金は還付金として取り戻せるため、キャッシュ・フローにプラスの影響を与えることが可能です。
個人事業主の場合
個人事業主の場合、1月から12月までの1年間の収支が黒字であれば、課税所得に対して所得税の納付が必要です。一方、赤字決算の個人事業主は、課税所得がゼロとなり所得税の納付は不要、かつ確定申告の義務もありません。
ところが、赤字決算であっても確定申告を行えば以下のようなメリットを受けられる点は見逃せないポイントです。
損失の繰り越し
当期に赤字決算の個人事業主が他の所得と損益通算しても赤字となる場合、損失の繰り越しが可能です。損失の繰り越しは赤字決算の翌年以降、最長3年間に渡り黒字との相殺が認められています。
注意が必要なのは、青色申告かつ確定申告を行っている個人事業主のみ損失の繰り越しが可能となる点です。白色申告では損失の繰り越しは認められません。
所得税の還付
個人事業主が当期に赤字決算となった場合、前年の黒字額と当年の赤字額を相殺して前年に納付した所得税の還付を請求できます。これを損失の繰り戻し請求と呼びます。
損失の繰り戻し請求が可能なのは、前年からの青色申告が条件となり白色申告は不可となります。
赤字決算のデメリット
上述したような税金計算におけるメリットがある一方、赤字決算は事業継続において大きなリスクです。安易な考えでわざと赤字決算を狙うことは危険であることを理解する必要があります。
ここからは、赤字決算の具体的なデメリットを詳しく見ていきましょう。
金融機関による債務者区分のダウン
赤字決算になると金融機関が判定する債務者区分がダウンし、融資を受ける際に悪影響を及ぼすリスクがあります。債務者区分とは、金融機関が債務者の財務状況等を鑑みて返済能力を判定した信用格付けのことで、以下のように区分されます。
<債権者区分>
- 正常先
- 要注意先
- 破綻懸念先
- 実質破綻先及び破綻先
赤字決算が連続する企業は、上記のうち「要注意先」以降に指定されるおそれがあります。特に注意が必要なのは、前述した「恒常的な赤字」のケースです。一方、「創業赤字」や「臨時的な赤字」であれば信用格付けに影響を与えないケースもあります。
既存の融資先からの信用低下
すでに融資を受けている場合、赤字決算が連続することは企業継続の前提に疑念を与えることにつながります。信用力が低下すれば、金利や担保設定等の借入条件が悪化したり、当初の借入期間が短縮されて早期返済を求められたりするリスクが高まります。
債務超過や倒産リスク
赤字決算が続くと事業運営に必要な運転資金が枯渇し、ゆくゆくは債務超過に陥ることが懸念されます。追加融資を受けようにも、金融機関は貸し倒れリスクを避けるために債務超過企業への融資を断る可能性が高くなるでしょう。
結果として、資金調達が困難になり倒産リスクが一気に高まります。
資金調達時に経営者保証が外せない
特に中小企業が金融機関から融資を受ける場合、「経営者保証」と呼ばれる経営者自身が会社の連帯保証人となる慣例があります。万が一、融資を受けた企業が経営破綻した場合、連帯保証人である経営者個人が債務の返済を求められます。
赤字決算の場合、財務状態の悪化により返済能力が低い会社とみなされるため、経営者保証を外せず、経営者個人が大きなリスクを抱えた状態が続いてしまうでしょう。
従業員のモチベーションダウン
赤字決算が続けば、会社の倒産リスクに不安を覚える従業員も出ることでしょう。雇用の継続に対する疑念や給与減少の懸念を抱けば、従業員のモチベーションが低下し事業運営に支障をきたすおそれもあります。
赤字続きの対応策
赤字決算が続くことは事業の継続性に疑念を与えることにつながり、経営にとって明らかにマイナスです。
赤字経営から脱却し黒字への転換を目指すためには、以下のような対応策が必要となるでしょう。
キャッシュ・フローの見直し
キャッシュ・フローは、事業における収入や支出といった「現金」の流れを表す概念です。
資金ショートを回避するためには、売上債権の回収や取引先に対する債務支払いサイクルを見直して、運転資金に余裕をもたせる必要があります。資金繰り表もしくはキャッシュ・フロー計算書を作成して、資金ショートにならないように常に目を光らせましょう。
商品やサービスの単価向上
赤字決算からの脱却には売上を増加させることが一番の方法です。しかし、売上が振るわないからこそ赤字決算に陥っているケースは多いことでしょう。
そこで、自社の提供する商品やサービスの価値を向上させることはもちろんですが、アップセルやクロスセルといった顧客単価を向上させる手立てを検討しましょう。新規顧客向けの料金単価の見直しや既存顧客向けに追加サービスの提案など、顧客単価を上げる取り組みは収益に大きなインパクトを与えます。
不採算部門の切り離し
多角的な経営を行っている企業であれば、不採算部門の撤退や事業譲渡も財務状況の改善に役立つでしょう。事業の選択と集中により、黒字事業にリソースを集中するといったことも可能です。
仕入れ代金やコストの削減
赤字脱却のためのコストコントロールは非常に重要です。できる限り支出を抑えて利益を確保する習慣を組織に浸透させましょう。
例えば、仕入れの際には複数の取引先に相見積もりを依頼し、できる限り原価を下げる工夫が必要です。加えて、広告宣伝費や業務委託費、オフィス賃借料といった外部支出費用の削減、人件費の最適化などあらゆるコストを徹底的に見直しましょう。
赤字決算のデメリットを正しく理解して健全な経営を目指そう
赤字決算には損失の繰り越しによる将来の法人税の負担軽減など、税金計算上のメリットがあるのは事実です。
一方、累積赤字が増えるとキャッシュ・フローが悪化し、債務超過や資金ショートのリスクが高まります。いざ資金調達が必要となった場合に、金融機関からの融資を受けづらくなる等の致命的なデメリットが存在するため、赤字決算が企業経営に悪影響を与えるのは間違いありません。
ここまで見てきたように、税務面のメリットを重視するあまり、安易に赤字決算へ誘導するのはリスクが大きいといえます。赤字決算に陥ったならば、事業の立て直しを検討して早期に黒字への転換を目指すべきです。
最後に、赤字決算の税務上のメリットを活用する際には、税理士等の専門家に相談しながら手続きを進めることをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
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