- 更新日 : 2024年10月4日
未収金(未収入金)とは?仕訳・勘定科目や決算処理、相殺の方法などを解説
未収金(未収入金)とは、商品やサービスの提供は完了しているものの、代金の支払いを受けていない債権のことです。
企業の経理担当者にとって、未収金の適切な管理は重要な業務です。本記事では、未収金の定義や仕訳・勘定科目、決算処理のポイント、買掛金との相殺の条件について詳しく解説します。未収金の管理は、企業の資金繰りに直結する重要な課題ですので、ぜひ最後までお読みください。
目次
未収金(未収入金)とは
未収金(未収入金)とは、企業が商品やサービスを提供したにもかかわらず、まだ代金を受け取っていない場合に使用する勘定科目です。会計上の売上は計上されていても、現金の回収はされていない状態となっています。
未収金が発生する具体的な例としては、商品やサービスの支払いが翌月になる場合や、継続的なサービス提供において後払い制を採用している場合などが挙げられます。
一般的に、未収金は短期的な債権として扱われ、貸借対照表の流動資産に計上されます。企業の資金繰りや財務状況を把握する上で重要な指標となるため、適切な管理が必要です。
未収金と未収入金、どちらが正しい?
未収金と未収入金は、同じ意味を持つ用語です。しかし、会計や経理の専門用語としては「未収金」がより一般的に使用されています。
ただし、企業によっては「未収入金」を使用している場合もあります。特に、非営業収益に関連する未収分を「未収入金」と呼び、通常の営業活動による未収分と区別することがあります。
未収金・売掛金・未収益金の違い
企業の財務管理において、未収金、売掛金、未収収益は重要な債権項目です。これらは似た性質を持ちますが、発生する取引の種類や会計上の取り扱いに違いがあります。
以下では、これら3つの債権の主な違いについて、計上対象となる取引と貸借対照表上の分類の観点から詳しく説明します。
計上対象となる取引の違い
未収金、売掛金、未収収益はそれぞれ計上対象となる取引が異なり、以下のような違いがあります。
- 売掛金:商品販売やサービス提供などに営業活動で発生した債権
- 未収金:上記以外の収益に対する債権(不動産賃貸料や貸付金の利息など)
- 未収収益:決算日までに収益は発生しているが入金は翌期になるもの
会計処理も異なり、未収金と売掛金は取引時に計上しますが、未収収益は決算時に発生主義で計上します。これらの違いを理解することで、適切な会計処理が可能となります。
貸借対照表上の違い
未収金、売掛金、未収収益は、いずれも貸借対照表上で資産として計上されますが、その分類には違いがあります。
未収金と売掛金は、通常1年以内に現金化される見込みがあるため、流動資産として計上されます。未収収益も通常は流動資産に分類され、「その他の流動資産」などに含めて表示されることが一般的です。 このような適切な分類が企業の財務状況を正確に反映させます。
未収金の仕訳(借方・貸方)や勘定科目
未収金の仕訳は、取引の性質によって異なります。ここでは、一般的な未収金の仕訳例や固定資産の譲渡などの仕訳例と注意点を説明します。
未収入金が発生した場合の一般的な仕訳
本業ではないサービスを提供し、100,000円の未収金が発生した場合の仕訳は、以下の通りです。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
未収金 | 100,000円 | 雑収入 | 100,000円 | 本業外サービス提供による 未収金 |
未収入金が入金された場合の一般的な仕訳
上記の未収金100,000円が現金で入金された場合の仕訳は、以下の通りです。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
現金 | 100,000円 | 未収金 | 100,000円 | 本業外サービス未収金の 現金回収 |
固定資産譲渡時の未収金の仕訳
固定資産譲渡時の未収金の仕訳は、資産の帳簿価額と譲渡価額の差額に注意が必要です。
帳簿価額800,000円の固定資産を1,000,000円で譲渡し、譲渡益が発生する場合の仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
未収金 | 1,000,000円 | 固定資産 | 800,000円 | 固定資産譲渡 譲渡益発生 |
固定資産売却益 | 200,000円 |
帳簿価額1,200,000円の固定資産を1,000,000円で譲渡し、譲渡損が発生する場合の仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
未収金 | 1,000,000円 | 固定資産 | 1,200,000円 | 固定資産譲渡 譲渡損発生 |
固定資産売却損 | 200,000円 |
税務上は、譲渡益に対する法人税や消費税の処理が必要です。また、譲渡損は原則として損金算入できますが、グループ法人間取引など一部例外があるため注意が必要です。
賃貸料に関する未収金の仕訳
物件を貸し付けており、月額賃貸料300,000円が発生した場合の仕訳は、以下の通りです。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
未収金 | 300,000円 | 賃貸料収入 | 300,000円 | 賃貸料収入 〇月分 |
上記の賃貸料300,000円を現金で回収した場合の仕訳は、以下の通りです。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
現金 | 300,000円 | 未収金 | 300,000円 | 賃貸料入金 〇月分 |
消費税の取り扱いに注意が必要で、課税事業者の場合は消費税込みの金額で仕訳します。
賃貸料300,000円(税込330,000円)の場合は、以下の通りです。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
未収金 | 330,000円 | 賃貸料収入 | 300,000円 | 賃貸料未収計上 〇月分(税込) |
仮受消費税 | 30,000円 |
また、賃貸期間が決算期をまたぐ場合は、期間按分して計上する必要があります。
例えば、12月1日から翌年1月31日までの2か月分の賃貸料600,000円を12月に受け取った場合は以下のとおりです。
<12月分の仕訳>
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
現金 | 600,000円 | 賃貸料収入 | 300,000円 | 賃貸料受取 12月・1月分 (1月分は前受) |
前受金 | 300,000円 |
<翌年1月1日の仕訳>
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
前受金 | 300,000円 | 賃貸料収入 | 300,000円 | 前受賃貸料 振替 1月分 |
仕訳時の注意点は、以下のとおりです。
- 消費税の取り扱い:課税取引の場合、消費税も考慮に入れる
- 期間按分:賃貸料が複数月分の場合、適切に期間按分して計上する
- 貸倒引当金:回収可能性に疑義がある場合、貸倒引当金の設定を検討する
間違いやすいポイントは、以下のとおりです。
- 売掛金との混同:主要事業外の取引を売掛金として計上してしまう
- 計上時期の誤り:発生主義に基づかず、現金主義で計上してしまう
- 相手勘定の誤り:未収金の性質に応じた適切な勘定科目を選択しない
特殊なケースでの仕訳は慎重に行い、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。
未収金の決算処理のポイント
未収金の決算処理には、正確な財務報告のために押さえるべき重要なポイントがあります。ここでは、未収金処理の根幹となる「発生主義での処理」、リスク管理に欠かせない「回収可能性の評価」、そして適切な期間損益計算を行うための「経過勘定の処理」について詳しく解説します。
発生主義で処理する
発生主義会計とは、現金の受け取りや支払いのタイミングにかかわらず、取引が発生した時点で収益や費用を認識する会計原則です。未収金の場合、商品・サービスの提供時点で計上します。
例えば、3月にサービスを提供し、4月に代金を受け取る予定の場合、3月末の決算時に未収金として計上します。決算時には、期末までに発生したすべての未収金を漏れなく計上することが重要です。また、翌期の取引を誤って当期に計上しないよう注意が必要です。
相手の信用状態や回収予定残高を確認する
未収金の管理において、取引先の信用状態や回収予定残高の確認は非常に重要です。定期的に取引先の財務状況や支払い履歴を調査し、リスクを評価します。回収予定日を明確にし、滞留債権を早期に発見することで、適切な対応が可能になります。
また、回収可能性に疑義がある場合は、貸倒引当金の設定を検討します。このようなリスク管理を適切に行うことで、未収金の健全性を保ち、企業の資金繰りを改善することが可能です。
経過勘定の処理(未収収益として未収金を管理している場合)
経過勘定処理は、収益と費用を適切な会計期間に割り当てるために行います。未収収益は、サービスの提供や時間の経過によって発生した収益のうち、まだ対価を受け取っていないものを指します。
未収金との主な違いは、未収収益が決算時に計上される点です。例えば、3月分の家賃収入100,000円を4月10日に現金で受け取る場合、以下の仕訳を行います。
未収収益の計上(決算時の仕訳):
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
未収収益 | 100,000円 | 家賃収入 | 100,000円 | 3月分家賃収入 未収計上 |
4月10日に入金:
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
現金 | 100,000円 | 未収収益 | 100,000円 | 3月分家賃入金 |
この処理によって、収益は発生主義に基づいて適切な会計期間に計上され、かつ現金の動きも正確に記録されます。
未収金と買掛金を相殺できる条件
未収金と買掛金の相殺は、企業の債権債務管理において重要な手法です。適切に行うことで、資金効率の向上や決済リスクの軽減が期待できます。ここでは、相殺を行うための条件、具体的な手続き、そして注意すべき点について詳しく説明します。これらを正しく理解し実践することで、効果的な債権債務管理が可能です。
相殺の条件
相殺を行うためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
これらについて、法的根拠として、民法第505条に相殺の規定があります。また、会計上はすべて総額で表示することを原則とする(企業会計原則 貸借対照表原則 総額主義の原則)が、以下のすべての要件を満たす場合には相殺して表示できるものとされています。(金融商品会計に関する実務指針第140項)
- 同一の相手先に対する金銭債権と金銭債務であること
- 相殺が法的に有効で、企業が相殺する能力を有すること
- 企業が相殺して決済する意思を有すること
参考:民法 e-Gov 法令検索(相殺の要件等)民法第505条
相殺の手続きと注意点
相殺を行う際は、以下の流れで行います。
- 相殺の意思表示:書面で相手方に通知します
- 効力の発生:意思表示が相手方に到達した時点で相殺の効力が生じます
- 会計処理:相殺額を両勘定から減額します
注意点としては、次のようなことが挙げられます。
- 相殺禁止の特約がある場合は相殺できません
- 時効期間の異なる債権を相殺する場合、注意が必要です
- 第三者の権利を害する相殺は無効となる可能性があります
不適切な相殺は法的リスクを伴う可能性があるため、専門家に相談しながら慎重に進めることをおすすめします。
未収金の回収を急ぐべき理由
未収金の適切な決算処理は、企業の財務状況を正確に反映するために不可欠です。主要なポイントとして、発生主義での処理、回収可能性の評価、経過勘定の処理があります。これらの処理方法を理解し、適切に実行することで、より信頼性の高い財務諸表の作成が可能です。
黒字倒産の可能性がある
黒字倒産とは、会計上は利益が出ているにもかかわらず、実際の現金不足により事業継続が困難になる状態を指します。
未収金の滞留は、売上計上と現金流入のタイミングのズレを生み、資金繰りを悪化させる主因です。この結果、仕入れや人件費の支払いが滞り、事業継続の危機に陥る可能性があります。未収金管理の徹底、回収サイクルの短縮、与信管理の強化など、総合的な取り組みが黒字倒産防止には不可欠です。
時効を迎えるリスクがある
未収金の時効期間は、一般債権で5年、商取引債権で2年です。権利を行使できる時から進行し、期間経過後に債務者が時効を援用すると債権が消滅します。時効の効果は絶対的で、一度成立すると債権回収が不可能です。時効を中断するには、裁判上の請求や支払督促、差押え、仮差押え、債務の承認などの方法があります。これらを適切に活用し、時効による損失を防ぐことが重要です。
未収金の管理の重要性と適切な対応策
未収金の適切な管理は、企業の健全な財務状態を維持するために不可欠です。適切な管理は資金繰りの改善、黒字倒産リスクの低減、取引先との良好な関係維持につながります。
効果的な未収金管理には、以下の方法が重要です。
- 正確な債権記録と定期的なモニタリング
- 与信管理の強化と支払条件の最適化
- 早期回収努力と効果的な督促プロセスの確立
- 電子請求システムの導入による業務効率化
- 必要に応じた法的手段の適切な活用
今後は、デジタル技術の進展に伴う新たな決済手段の登場や、経済環境の変化に応じた柔軟な債権管理がさらに重要になります。また、AIやビッグデータを活用した未収金リスクの予測と早期対応も、さらに精度を増していくでしょう。
未収金管理は単なる債権回収ではなく、企業の成長戦略に直結する重要な経営課題です。適切な管理は財務健全性を高め、長期的な企業価値の向上と安定した事業運営を実現します。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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