- 更新日 : 2025年2月20日
収益認識基準の注記は何を記載する?項目ごとに記載例を紹介
収益認識基準の導入によって、対象となる企業は計算書内に新たに追加された注記の記載を求められるようになりました。その一方で、具体的にどういった内容を記載すればよいのか、そもそも記載の仕方がわからないという方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、収益認識基準の注記において何を記載すべきか、具体的な項目ごとの記載例を紹介しながら解説します。
目次
収益認識基準の注記は中小企業の計算書類にも記載が必要
日本では2021年より新しい会計基準として、新収益認識基準が導入されるようになりました。ただし、新収益認識基準は上場企業や大企業が主な対象だったため、2023年には中小企業向けの会計基準として「中小企業の会計に関する指針」の改正版が公表されています。
そもそも従来の日本では明確な会計基準が定められておらず、国内外の企業と公正な財務状況の比較を行うのが困難でした。そこで、今後のグローバル化に伴い、新しい会計基準として新収益認識基準や「中小企業の会計に関する指針」の改正版が導入されたのです。
一方で「中小企業の会計に関する指針」に関しては、すべての中小企業が対象となるわけではなく、中小会計指針を利用している会社が対象です。そのため、中小会計要領に従っている会社には関係ない点を留意しておきましょう。
これらの基準では、国際的な会計基準の内容を参考に収益の認識タイミングや計上方法などの会計基準を定めています。また、各計算書類の注記項目に「重要な会計方針の注記」や「収益認識に関する注記」「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」の記載が求められるようになりました。
計算書類とは
計算書類は、会社のお金の動きや財産の状況をまとめた報告書の総称です。主に貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表などが含まれます。
これらの書類は、企業の財政状態や経営活動の結果を数値で表し、企業の財務状況を参照、比較する上で重要な情報です。
また、計算書類では記載されている情報を補足するために「注記」の記載が必要です。新収益認識基準の導入によって、対象企業は注記にて3種類の追加項目の記載が求められています。
収益認識に関する会計基準にもとづく注記の記載事項
それでは注記に記載が求められる各項目について、具体的にどのような内容を記していけばよいのか確認していきましょう。
重要な会計方針の注記
重要な会計方針の注記では、企業が計算書類を作成する際に採用している主要な会計処理方法の記載が求められます。具体的には以下のような会計方針の記載が必要です。
そして、新収益認識会計基準が適用される会社では、顧客との契約から生じる収益に関する重要な会計方針として、以下の項目の記載が求められています。
- 企業の主要な事業における主な履行義務の内容
- 企業が履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)
- ①②以外に重要な会計方針に含まれると判断した内容
一方で、重要性の乏しいものについては、重要な会計方針の注記として記載する必要はなく、省略が認められています。
収益認識に関する注記
収益認識に関する注記では、企業が収益をどのような基準にもとづいて認識しているかを明確に説明します。新収益認識会計基準が適用される会社では、以下の3項目について注記が求められています。
- 収益の分解情報
- 収益を理解するための基礎となる情報
- 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報
これらに関する情報を記載することで、顧客との契約によって発生する収益やキャッシュフロー、金額などが、計算書類を読んだユーザーに伝わるようになります。また、収益認識に関する注記の記載項目についても、重要度の低い注記事項については省略することが認められています。
当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報
収益認識に関する注記の記載項目の一部として、当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報の記載も求められます。具体的に記載すべき項目として、以下の2点があげられます。
- 契約資産及び契約負債の残高等
- 残存履行義務に配分した取引価格
「契約資産及び契約負債の残高等」では、履行義務の充足とキャッシュフローの関係を注記します。一方、「残存履行義務に配分した取引価格」では、既存の契約から翌期以降に認識することが見込まれる収益の金額や時期について注記します。
計算書類の注記に記載する際には、上記2点のいずれにしても「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」であることを念頭に入れておきましょう。
重要な会計方針の注記
それでは、日本経済団体連合会が公表した「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」より、重要な会計方針の注記の記載例を紹介します。
収益及び費用の計上基準
商品又は製品の販売に係る収益は、主に卸売又は製造等による販売であり、顧客との販売契約に基づいて商品又は製品を引き渡す履行義務を負っております。当該履行義務は、商品又は製品を引き渡す一時点において、顧客が当該商品又は製品に対する支配を獲得して充足されると判断し、引渡時点で収益を認識しております。
保守サービスに係る収益は、主に商品又は製品の保守であり、顧客との保守契約に基づいて保守サービスを提供する履行義務を負っております。当該保守契約は、一定の期間にわたり履行義務を充足する取引であり、履行義務の充足の進捗度に応じて収益を認識しております。
当社が代理人として商品の販売に関与している場合には、純額で収益を認識しております。
同ひな形では、資産の評価基準及び評価方法や引当金の計上基準などについても記載例が記されているため、興味のある方は確認してみましょう。
収益認識に関する注記の記載例
続いて、同ひな形より収益認識に関する注記の記載例についても紹介します。
記載例:連結計算書類の作成義務のある会社で、当事業年度及び翌事業年度以降の収益の金額を理解するための情報の注記を要しないと合理的に判断される場合
(1)収益の分解
当社は、○○事業、○○事業及びその他の事業を営んでおり、各事業の主な財又はサービスの種類は、△商品、△製品及び△保守サービスであります。
また、各事業の売上高は、×××百万円、×××百万円及び×××百万円であります。
(2)収益を理解するための基礎となる情報
「重要な会計方針に係る事項に関する注記」の「収益及び費用の計上基準」に記載のとおりであります。
このように、収益の分解では、収益やキャッシュフローの性質、金額などの要因をもとに各事業を区分分けし、区分ごとの収益を含めて記載します。そして、収益を理解するための基礎となる情報では、顧客との契約が計算書類に記載されている項目や各種注記とどのように関係しているのかを記します。
当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報の記載例
最後に同ひな形より、当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報の記載例も見ていきましょう。
当事業年度及び翌事業年度以降の収益の金額を理解するための情報を記載する例
当事業年度末における残存履行義務に配分された取引価格の総額は、〇〇〇百万円であり、当社は、当該残存履行義務について、履行義務の充足につれて〇年から〇年の間で収益を認識することを見込んでいます。”
上記のように、契約資産及び契約負債の残高等や残存履行義務に配分した取引価格を記載していくことで、計算書類を見たユーザーは企業の将来的な収益の金額を理解できるようになるでしょう。
新収益認識基準の内容を把握し、正しい注記を記載しよう
新収益認識基準の導入により、企業は財務報告において厳密な会計基準に則った情報の提供が求められるようになりました。とくに、収益認識に関する注記は、企業の収益計上における方針やプロセスを明確にし、ステークホルダーが企業の財務情報を正確に理解するための重要な情報源となります。
企業にとっても、正確かつ適切な注記を作成することは、財務の透明性を高め、投資家や債権者との信頼関係を築くために欠かせません。収益認識基準や会計方針をしっかりと理解し、それを適切に注記に反映させることが、企業の成長や健全な経営を目指すうえで大切になるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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