• 更新日 : 2021年9月6日

現金主義と発生主義の違いを理解しよう

企業の基本的な会計ルールである企業会計原則には、「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない」と示されており、大原則として適正な期間損益計算が求められます。そのために理解しておきたいのが、発生主義現金主義の違いです。

発生主義とは?

企業会計原則では、収益と費用は発生した期間に計上することが要請されています。ただし、収益については、未実現のものは計上してはならないとされるため、費用については発生主義、収益については実現主義による会計処理を指示しています。

発生主義とは、損益計算の中心となるルールです。取引発生時点で収益や費用を認識するため、金銭のやり取りの有無に関係なく計上できます。

たとえば、減価償却とは、固定資産の取得価額を毎年規則的に費用に計上する会計処理のことです。固定資産の使用によって生じる価値の減少を、費用の発生ととらえて費用を認識するため、そして、損益計算期間の売上と対応させるために費用に計上します。これは、発生主義の考え方によるものです。

しかし、収益について発生主義を適用すると、企業会計原則である「収益については、未実現のものは計上してはならない」というルールに沿わないことがあります。

そこで、費用収益対応の原則により、期間利益の算出については期間収益と期間費用の対応関係が成立するようにしています。これが実現主義です。

実現主義では、当期の発生費用を当期の収益に対応する部分と翌期の収益に対応する部分とに区分して期間利益を求めています。

それにより、売上が確定した時点で、収益が計上されます。このように、売上は実現主義、費用はその売上に対応する発生主義により計上されます。それが、企業会計原則の求める期間損益計算となるわけです。

現金主義とは?

現金主義とは、現金の受け取りや支払いがなされた時点で、会計処理をするルールです。現金主義のメリットとしては、取引の管理に対する手間が少なく、不正をしづらい点などが挙げられます。

ただ、現金主義は現金が動いた時点での認識基準となるため、将来の費用の支払いや過去の収益の入金を現金主義で記録すると、企業会計原則で示される期間損益計算が成り立たなくなる恐れがあります。

たとえば、前払で商品を仕入れた場合や、逆に未払のまま商品を入手した場合は、現金主義だと商品を買った日とお金を払った日がずれてしまいます。その結果、正しい損益計算書ができなくなる場合があります。

また、商品を「掛け(支払前に商品を渡す)」で売った場合、商品を売った日と支払いを受けた日が違ってしまいます。

つまり、同じ日に発生したはずの収益と費用の間にタイムラグが生じてしまい、適正な期間損益計算ができなくなる可能性が高くなります。

所得税の確定申告においては、従来は青色申告のみ発生主義による複式簿記にて記帳された帳簿を作成することとされていました。

しかし、2014年の改正により白色申告においても発生主義による帳簿の提出が求められるようになりました。したがって、確定申告における会計ルールは現金主義ではなく、発生主義で処理することとなります。

発生主義と現金主義が活きる会計とは?

ここまでは、発生主義と現金主義の両者の違いや概要について重点的に説明してきました。それをふまえた上で、今度は実際に伝票を起票してみましょう。その上で、発生主義と現金主義がどのような形で活かされているかを見ていきます。

<起票例1>

借方
貸方
〇〇費用
10,000円
現金
10,000円

こちらは費用を発生主義によって計上していますが、現金で支払っています。したがって、この取引は発生主義にもとづく起票でありながら、現金主義にもとづく起票であるとも言えます。

もし、上の「〇〇費用」が翌期に計上すべき費用であれば、決算時に発生主義にもとづく次の仕訳を行い、翌期の費用として計上する必要があります。

<起票例2>

借方
貸方
前払費用
10,000円
〇〇費用
10,000円

このように、適正な期間損益計算を行うためには発生主義にもとづく起票が必要となりますが、実際の取引では現金主義での計上も行われています。つまり、実際には発生主義によって費用が認識されていると同時に、現金主義としても認識されている取引もあるということです。 

そのような理由から、損益の計算では発生主義と現金主義の両方についてよく理解しておく必要があります。

貸借対照表でも発生主義による財政状況の把握を

損益計算の基本は発生主義ですが、現金主義の立場で取引を捉えることも不可欠ですし、収益は実現主義で捉えることが原則となっています。
 
なかでも、現金主義は発生主義と密接な関係にあるので、その特徴や発生主義との違いについてよく認識しておく必要があります。

なお、現在、現金主義だけで起票することが認められているのは、所得税の計算において、「青色申告」「小規模事業者」「事前届出」の3要件がそろっている場合のみです。それに該当しない場合は原則発生主義会計となります。

発生主義による取引の仕訳は、損益計算書にも貸借対照表にも現れてきます。今後は、損益計算のみならず、貸借対照表に現れた「財産の状況」について分析することをおすすめします。

よくある質問

発生主義とは?

損益計算の中心となるルールです。取引発生時点で収益や費用を認識するため、金銭のやり取りの有無に関係なく計上できます。詳しくはこちらをご覧ください。

なぜ、損益の計算では発生主義と現金主義の両方についてよく理解しておく必要がある?

適正な期間損益計算を行うためには発生主義にもとづく起票が必要となりますが、実際の取引では現金主義での計上も行われており、実際には発生主義によって費用が認識されていると同時に、現金主義としても認識されている取引もあるからです。詳しくはこちらをご覧ください。


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