• 更新日 : 2021年6月1日

前期損益修正益・前期損益修正損とは?仕訳から解説

前期損益修正益・前期損益修正損とは?仕訳から解説

法人の決算は文字通り「一年間の計算を決する手続き」であり、専門部署の方々が時間と労力をかけてじっくり精査するものです。それでもなお、処理の間違いが起こるケースがありますが、修正を要する場合に登場するのが「前期損益修正益」「前期損益修正損」です。
本記事では「前期損益修正益」「前期損益修正損」を、会計と税務それぞれから見た場合の取扱いについて解説していきます。

前期損益修正益とは

「前期損益修正益」はその名の通り、前期以前の決算期において発見された収益の間違いを、当期で修正した際に使用する勘定科目です。

通常は決算時に、税理士や経理責任者が全ての勘定科目の内容を精査した後に決算を確定させますので、間違いは起こり得ません。

しかし、決算確定後の税務調査や得意先との見解の相違が発覚する事や、決算終了までに確認することができなかった事象が後から発生する等により、修正を要する必要に迫られることがあります。

会計における前期損益修正益の考え方

会計においては「正しい期間損益の計算」を行うことが大前提ですので、過去の修正が発覚した時点で適切な修正をする必要があります。

しかし、既に確定して税務署に提出してしまった決算書を遡って直すことはできません
したがって、正しい数値に帳尻を合わせるためには、当期において修正処理をすることになります。その際使用するのが「前期損益修正益」という勘定科目です。

現在大企業では、平成23年4月1日以降に開始する事業年度から適用された「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」に従い、当期において「前期損益修正益」という勘定科目で過年度の修正益を計上することは認められていません

(大企業の場合、利益剰余金を増額し修正再表示する形で過年度の修正を行います)

「前期損益修正益」を使用して過年度の収益を修正処理できるのは、上記の会計基準に縛られていない中小企業者のみとなります。

「前期損益修正益」は、本来、当期に計上すべき収益ではありませんので、当期の期間損益計算とは明確に区分しなければなりません。したがって、決算書上表記する場所は特別損益の部「特別利益」に計上することになります。

税務における前期損益修正益の考え方

税法においては、前期の収益を修正するために確定申告書を提出した事業年度(当初申告)の修正をする「修正申告書」を、税務署に提出することになります。

具体的には、次に挙げるような事象が発生した場合に修正申告書を提出する必要があります。

  • 修正することで当初申告より法人税額が増加する場合
  • 修正することで繰越欠損金が減少する場合
  • 修正することで還付税額が減少する場合

修正申告により前期の収益と所得が増加しますので、増加した部分に対する法人税を追加で納税したり、繰越欠損金が減少したり、還付された法人税を返還する手続きをすることになります。

前期損益修正益の仕訳例

では「前期損益修正益」で処理しなければならない事例をいくつか例示してみましょう。

1.前期に計上した売上高が過少であったケース

前期に計上した売上高10,000円が実際には20,000円が適正な金額であった場合には、当期において売上高を10,000円追加計上しなければなりません。
【前期の仕訳処理】

借方貸方
売掛金10,000売上高10,000

【当期の仕訳処理】
借方貸方
売掛金    10,000    前期損益修正益10,000    

前章でも述べましたが、修正する収益は売上高ですが当期の売上高ではありませんので、
「前期損益修正益」として処理しなければなりません。

2.前期棚卸高の計上漏れ

「前期の決算で数えた商品の棚卸高50,000円を当期になってもう一度数え直してみたら実際には80,000円あった」といった場合です。当期の商品を適正な80,000円に修正しなければなりません。

【前期の仕訳処理】

借方貸方
商品     50,000    期末商品棚卸高50,000    

【当期の仕訳処理】
借方貸方
商品     30,000    前期損益修正益30,000    

棚卸高の修正も当期の期間損益計算に影響する項目ですので、差額については前期損益修正益として処理する必要があります。

3.前期に費用計上した地代家賃が前払費用だったケース

5年分の家賃1,000,000円を現金で前払いしていたにも関わらず全額を費用としていた場合です。将来の家賃部分である4年間の800,000円を修正しなければなりません。

【前期の仕訳処理】

借方貸方
家賃   1,000,000現金   1,000,000

【当期の仕訳処理】
借方貸方
前払家賃   800,000   前期損益修正益800,000   

前払家賃は、期間対応する部分を当期の費用として取り崩していきます。

前期損益修正損とは

前期以前の決算期において発見された経費や損失の間違いを当期で修正する場合には「前期損益修正損」という勘定科目を使用します。

「前期損益修正益」と同様に、仕入先との見解の相違や決算終了までに確認することができなかった事象が後から発生する等により、修正を要する場合に計上します。

会計における前期損益修正損の考え方

「正しい期間損益の計算」を行うにあたり、過去の費用の間違いについても当然修正をする必要があります。

しかし、既に確定し税務署に提出してしまった決算書を遡って直すことはできませんので、正しい数値に帳尻を合わせるためには当期において修正処理をすることになります。その際使用するのが「前期損益修正損」という勘定科目です。

前章で解説した「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」は「前期損益修正損」についても適用されますので、大企業においては「前期損益修正損」という勘定科目で過年度の修正損を計上することは認められていません

(大企業の場合、利益剰余金を減額し修正再表示する形で過年度の修正を行います)

「前期損益修正損」を使用して過年度の収益を修正処理できるのは、上記の会計基準に縛られていない中小企業者のみとなります。

「前期損益修正損」も当期に計上すべき費用ではありませんので、当期の期間損益計算とは明確に区分しなければなりません。

したがって、決算書上表記する場所は特別損益の部「特別損失」に計上することになります。

税務における前期損益修正損の考え方

税法においては、前期の費用や損失を修正するために確定申告書を提出した事業年度(当初申告)の修正をする「更正の請求」を税務署に対して行うことになります。

具体的には次に挙げるような事象が発生した場合に更正の請求を提出する必要があります。

  • 更正することで当初申告より法人税額が減少する場合
  • 更正することで繰越欠損金が増加する場合
  • 更正することで還付税額が増加する場合

税務調査により過年度の修正する「修正申告書」と異なり、「更正の請求」は税務署から指摘を受けることはなく納税者が自ら税務署に申し立て、手続きをしなければなりません。

仮に過年度の申告が間違っていたとしても、「更正の請求」は必ずしなければならない手続きではないという点が「前期損益修正益」と違うところです。

また、過去の費用や損失が間違えていたことが事実であっても、損金計上することが要件であるものを損金計上しなかった(貸倒引当金など)場合や、償却限度額がある費用(減価償却費など)を限度額まで償却しなかった場合には、「更正の請求」を行うことはできませんので注意が必要です。

前期損益修正損の仕訳例

では、「前期損益修正損」で処理しなければならない事例をいくつか例示してみましょう。

1.前期に計上した仕入高が過少であったケース

前期に計上した仕入高40,000円が仕入先のミスで実際には60,000円が適正な金額であった場合、当期において仕入高を20,000円追加計上しなければなりません。

【前期の仕訳処理】

借方貸方
仕入高40,000買掛金40,000

【当期の仕訳処理】
借方貸方
前期損益修正益20,000    買掛金    20,000    

修正する仕入高を当期の期間損益と明確に区分するために「前期損益修正損」として処理します。

2.前期棚卸高の過大計上

前期の決算で数えた商品の棚卸高500,000円が、棚卸表の記載ミスで実際には50,000円しかなかったといった場合です。当期の商品を適正な50,000円に修正しなければなりません。

【前期の仕訳処理】

借方貸方
商品     500,000   期末商品棚卸高500,000   

【当期の仕訳処理】
借方貸方
前期損益修正損450,000   商品     450,000   

棚卸高の修正も当期の期間損益計算に影響する項目ですので、差額については前期損益修正損として処理する必要があります。

3.前期に支払った旅費交通費の精算を失念していたしたケース

前期に従業員が立替払いしていた1年分の旅費交通費100,000円の精算を失念していた場合です。会社から現金を返金してもらうことになりますが、旅費交通費については前期の費用ですので前期損益修正損となります。

【前期の仕訳処理】

借方貸方
仕訳なし            

【当期の仕訳処理】
借方貸方
前期損益修正損100,000   現金     100,000   

現金を当期に払い出しすることは可能ですが、費用については前期分ですので前期損益修正損として処理します。

修正申告しないとどうなる?

中小企業者の方であれば「前期損益修正益」を使って当期に修正したのだから修正申告までする必要はないのでは?と考え、申告しない方もいるかもしれません。

しかし、本来計上すべきであった収益の計上時期と間違いが発覚して修正処理した時期までのタイムラグ、いわゆる「期ズレ」が起こっているのは事実です。

修正申告で法人税額が増加する場合、増加した法人税額は前期の法定期限までに納税を行っていませんので7.3%~14.6%の延滞税がかかります

さらに修正申告を行わず税務調査により指摘された場合には、延滞税の他に10%の過少申告加算税が課されますし、意図的に仮装隠蔽したと認定されると、35%の重加算税まで課される可能性があります。

自主的に修正申告をしていれば延滞税だけ払えば済む話が、手続きを怠ったことで加算税まで支払わなければならなくなる、といったリスクがあることを覚えておいてください。

過年度の修正を行う場合には細心の注意が必要

解説したとおり「前期損益修正益」「前期損益修正損」はいずれも所得の修正が起こります。
所得の修正を行う場合には、その後に税務調査を伴うことが一般的です。特に更正の請求を行う際には税務署に対して明確に理由を説明できるよう、根拠資料をしっかり揃えてから行うようにしましょう。

決算修正につきましてはこちらの記事もご覧ください。
>>決算修正(過年度修正)の方法と注意点 – 前年度修正損益は必ず申告

よくある質問

前期損益修正益とは何ですか?

前期損益修正益とは前期以前の決算期において発見された収益の間違いを、当期で修正した際に使用する勘定科目のことをいいます。詳しくはこちらをご覧ください。

既に確定して税務署に提出してしまった決算書を遡って直すことはできますか?

できません。その場合は正しい数値に帳尻を合わせるために、当期において修正処理をすることになります。詳しくはこちらをご覧ください。

修正申告しないとどうなりますか?

修正申告を行わず税務調査により指摘された場合には、延滞税の他に10%の過少申告加算税が課されます。また、意図的に仮装隠蔽したと認定されると、35%の重加算税まで課される可能性があります。詳しくはこちらをご覧ください。


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