• 更新日 : 2024年8月8日

減価償却資産における残存簿価1円について解説

減価償却資産(時間経過とともに価値が減少していく資産)は、税務上の取り扱いに合わせた償却処理によって、1円の残存簿価が残ることがあります。

この残存簿価1円は何を意味するのでしょうか。この記事では、減価償却において1円を残す意味と除却する場合の経理処理、除却できない場合について解説していきます。

減価償却資産の残存簿価1円を残す意味

残存簿価とは、法定耐用年数の経過後に残る固定資産の価値をいいます。そして残存簿価1円とは、減価償却終了後も事業の用に供している減価償却資産の存在を意味します。

税法において、2007年(平成19年)3月31日以前に取得した減価償却資産は残存簿価10%(※有形の減価償却資産の場合)を残す必要がありました。しかし税法改正により、2007年(平成19年)4月1日以降に取得した減価償却資産は一定率を残す必要がなく、有形の減価償却資産を残存簿価1円まで償却できるようになっています。

残存簿価1円を残した減価償却は税法上の取り決めに従った処理で、多くの会社では減価償却が終了している資産を残存簿価1円として残す会計処理を行なっています。

減価償却については以下の記事で詳しく説明していますので、こちらも参照ください。

減価償却の計算方法と期末残高

残存簿価が1円になるまでには、どのような計算が行われるのでしょうか。法定償却方法による計算を例に、減価償却の計算方法と期末残高の推移を、定額法と定率法に分けて説明します。

定額法の場合

【例】2012年(平成24年)4月1日以後取得の減価償却資産で、取得価額100万円、耐用年数5年(定額法の償却率0.200)の減価償却の推移(※期首に取得したものとする。)

減価償却費
(税法上の償却限度額)
減価償却累計額
期末残高
(残存簿価)
1年目
1,000,000円×0.200×12/12=200,000円
200,000円
800,000円
2年目
1,000,000円×0.200×12/12=200,000円
400,000円
600,000円
3年目
1,000,000円×0.200×12/12=200,000円
600,000円
400,000円
4年目
1,000,000円×0.200×12/12=200,000円
800,000円
200,000円
5年目
1,000,000円×0.200×12/12=200,000円
200,000円-1円=199,999円
999,999円
1円

定額法は、耐用年数に応じた定額法の償却率を用いて毎期一定額を減価償却する方法です。残存簿価が1円になるのは、耐用年数の最後の事業年度です。償却率によって算出された減価償却費から1円を差し引くことで、残存簿価を1円とします。

定率法の場合

【例】2012年(平成24年)4月1日以後取得の減価償却資産で、取得価額100万円、耐用年数5年(200%定率法の償却率0.400、改定償却率0.500、保証率0.10800)の減価償却の推移(※期首に取得したものとする。)

減価償却費
(税法上の償却限度額)
減価償却累計額
期末残高
(残存簿価)
1年目
1,000,000円×0.400=400,000円
1,000,000円×0.10800=108,000円
400,000円>108,000円 → 400,000円
400,000円
600,000円
2年目
600,000円×0.400=240,000円
1,000,000円×0.10800=108,000円
240,000円>108,000円 → 240,000円
640,000円
360,000円
3年目
360,000円×0.400=144,000円
1,000,000円×0.10800=108,000円
144,000円>108,000円 → 144,000円
784,000円
216,000円
4年目
216,000円×0.400=86,400円
1,000,000円×0.10800=108,000円
86,400円<108,000円
216,000×0.500=108,000円
892,000円
108,000円
5年目
216,000×0.500=108,000円
108,000円-1円=107,999円
999,999円
1円

定率法では、期末残高×定率法の償却率の額と、取得価額×保証率の額を比較し、保証率を下回らない場合は通常の償却率により減価償却費を求めます。減価償却が取得価額×保証率を下回った場合は、改訂償却率適用開始時の期末残高×改定償却率による償却が必要です。

残存簿価1円は、定額法と同じように、耐用年数の最後で発生します。通常の減価償却費から1円を差し引いた額を減価償却費とし、1円の簿価を残します。

残存簿価1円資産の除却処理と仕訳

残存簿価1円の減価償却資産は、除却することで帳簿上からなくすことができます。除却するタイミングは、事業の用に供しなくなったとき、つまり事業で使用しなくなって今後も使用の可能性がないときです。

残存簿価1円の減価償却資産を除却するときは次のような仕訳を行います。直接法と間接法それぞれの仕訳を見ていきましょう。

除却については、以下の記事で詳しく説明していますのでこちらを参照ください。

直接法の場合

直接法は、減価償却資産の帳簿価額から直接減価償却額を差し引く方法です。残存簿価1円の資産を除却する場合は、1円の残存簿価を消去するような仕訳が必要です。

【例】取得価額50万円、残存簿価1円の工具器具備品を除却した。なお、減価償却は直接法により行っている。

借方
貸方
固定資産除却損
1円
工具器具備品
1円

除却時には、借方に固定資産除却損などの費用、貸方に除却したい減価償却資産の勘定科目を置き仕訳を行います。直接法の仕訳は、残存簿価1円をそのまま消去するシンプルな形です。

間接法の場合

間接法は、資産科目から直接的に減価償却を行わずに、「減価償却累計額」の科目を利用して、間接的に減価償却を行う方法です。

間接法を適用している場合、資産科目には取得価額、減価償却累計額にはこれまでの減価償却費の累計(残存簿価1円の場合は取得価額-1円の残額)が計上されていることになります。

除却時には、資産科目に計上された取得価額と、その資産の減価償却累計額を同時に消去することになりますので、以下のような仕訳が必要です。

【例】取得価額50万円、残存簿価1円の工具器具備品を除却した。なお、減価償却は間接法により行なっている。

借方
貸方
固定資産除却損
1円
工具器具備品
500,000円
減価償却累計額
499,999円

残存簿価1円資産を除却してはいけない場合

減価償却が済んだ残存簿価1円のものでも、事業で使用している減価償却資産は除却ができません。

残存簿価1円は備忘価額であり、まだ事業で使用している事実を証明する意味があるためです。

そのため、減価償却終了後も事業で使用している資産は除却をせず、残存簿価1円として帳簿上に残しておく必要があります。

残存簿価1円のものは適切なタイミングで除却を

残存簿価1円の減価償却資産は、減価償却が終了した資産のうち、事業で使用しているものを表します。備忘価額の意味があることから、事業で使用しているうちは除却ができません。残存簿価1円の減価償却資産を除却するのは、事業で使用しなくなったタイミングです。税法に連動した処理なので、適切なタイミングで除却するようにしましょう。

よくある質問

残存簿価とは?

帳簿上に残る資産の価値を表します。詳しくはこちらをご覧ください。

残存簿価1円資産の除却処理は?

残存簿価の1円を固定資産除却損などの費用として処理し、資産計上されている額(間接法の場合は加えて減価償却累計額)を消去する仕訳を行います。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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