- 更新日 : 2025年2月20日
中小企業に大きな優遇!研究開発税制を活用して研究開発を促進せよ
「研究開発税制」という言葉を耳にしたことはありませんか?
これは、国が成長力と国際競争力を高めていくことを目的に、研究・開発にかかった費用を法人税から控除するという制度です。つまり、研究や開発に多くの投資をすればするほど税金がお得になるというわけです。
この機会にあらためて研究開発税制について理解しておきましょう。
研究開発税制の4つの分類
控除の対象となる研究開発税制は以下の4種類に分類されます。
それでは一つ一つ確認していきましょう。
(1)試験研究費の総額に係る税額控除制度
この制度は、試験研究費の総額のうち、一定の割合を法人税から控除してくれるというものになります。対象となるのは青色申告をしている法人で、確定申告の際に必要書類を添付することで申請ができます。
ここでいう試験研究費というのは、製品や技術の製造・改良・考案・発明のためにかかった費用のことで、原材料や人件費やその他経費がすべて含まれます。ただし、外部から資金の提供を受けている場合にはその金額は含まれません。また、人文・社会科学関係の研究は対象外となります。
気になる控除額ですが、これは「試験研究費の総額 × 控除率」によって求められます。控除率は試験研究費の増減割合に応じて下記の通りとなります。
(1)増減割合が5%超の場合
9%+(増減割合-5%)×0.3(14%が上限)
(2)増減割合が5%以下の場合
9%-(5%-増減割合)係る0.1(6%が下限)
(3)増減割合が△25%未満の場合
一律6%
なお、上限は法人税額の25%までとなっています。
具体的に以下の例をもとに計算してみましょう。
・比較試験研究費(過去3年平均)の額 …… 100万円
・法人税額 …… 120万円
上記をもとに計算すると、試験研究費割合が10%未満となるため、次のようになります。
(1)増減割合
(110万円-100万円)÷100万円=10%
(2)控除割合
9%+(10%-5%)×0.3=10.5%
(3)控除額
110万円×10.5%=115,500円
(4)控除限度額
120万円×25%=30万円
(5)税額控除額
(3)<(4) ∴(3)の115,500円
(2)特別試験研究に係る税額控除制度
この制度は基本制度である(1)の「試験研究費の総額に係る税額控除制度」と比べると、対象となる研究がより限定されており、そのかわり控除率も高くなっているという特徴があります。 特別試験研究に該当するのは、次のような研究です。
・国や大学の研究機関に委託して行う試験研究
・民間企業と一定の契約のもと共同で行う試験研究
・中小企業に一定の契約のもと委託して行う試験研究
・技術研究組合と一定の契約のもと共同で行う試験研究
また控除率は内容によって、30%、20%の2種類になり法人税の5%までが控除額の上限となります。こちらも具体的に、先ほどの例と条件を合わせて計算してみましょう。
・うち特別試験研究費(比較試験研究費(過去3年平均)の額) …… 100万円
・試験研究費割合 …… 8.62%
・法人税額 …… 120万円
この場合、
(1)特別試験研究費の税額控除額
控除限度額は法人税額の120万円の5%ですから6万円となります。
したがって特別試験研究費50万円のうち20万円(20万円×控除率30%=6万円)だけ特別試験研究費の税額控除の対象とします。
(2)試験研究費の総額に係る税額控除額
試験研究費の総額110万円から特別試験研究費の税額控除の対象とした20万円を控除した残額90万円が試験研究費の総額に係る税額控除の対象となります。控除割合は先程の例と同じ10.5%ですから、税額控除額は90万円×10.5%=94,500円となります。
以上から税額控除の合計額は、60,000円+94,500円=154,500円となります。
(3)中小企業技術基盤強化税制
Photo by U.S. Army RDECOM
この制度はその名のとおり、中小企業の試験研究費に対して適用される控除です。
ここでいう中小企業というのは、「資本金または出資金が1億円以下の法人」と「資本・出資をもたない法人のうち、常勤する従業員が1,000人以下の法人」と「従業員が1,000人以下の個人事業主」のことを指します。
対象となる研究は(1)「試験研究費の総額に係る税額控除制度」に準じますが、控除率は一律12~17%と高く設定されており、具体的には試験研究費の増加割合に応じて次のようになります。
(1)増減割合が5%超の場合
12%+(増加割合-5%)×0.3(17%が上限)
(2)増加割合が5%以下の場合
一律12%
なお、上限はやはり法人税額の25%までとなっています。
(4)高水準型の税額控除制度
試験研究費の額が平均売上高(当期及び過去3年の平均)の10%を超える場合に、次の金額を法人税から控除することができます。(上限は法人税額の10%)
(試験研究費の額-平均売上高×10%)×控除割合
控除割合=(試験研究費割合-10%)×0.2
具体例をもとに計算すると次のようになります。
・その年を含む過去4年の平均売上 …… 1,100万円
・試験研究費割合 …… 20%
・法人税額 …… 100万円
(1)控除割合
(20%-10%)×0.2 = 2%
(2)控除額
(220万円-1,100万円×10%)×2%=22,000円
(3)控除限度額
100万円×10%=10万円
(4)税額控除額
(2)<(3) ∴22,000円
まとめ
このように、研究開発税制は民間企業にとって大きな税制上の優遇措置となっています。
冒頭でも触れましたが、この制度の目的は、国の成長力と国際競争力を強化することにあります。この優遇税制を活用して、新しい研究や開発の促進に活用を検討してみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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