• 更新日 : 2024年8月8日

予算管理とは?目的から手順・ポイントまで解説

予算管理の実施は、経営上の問題点の抽出や、経営の方向性ならびに業務改善の方向性を決めるためには非常に有効です。
しかし、適切な予算編成や業績の分析を行うには、予算管理の目的を理解し、正しいプロセスを踏んでいく必要があります。
今回は予算管理の概要や実施するメリット、予算管理の具体的なプロセス、成功させるために押さえるべきポイントを解説します。

予算管理とは

企業が行う予算管理とは、企業の売上目標や生産の効率化などを達成するためにさまざまなリソースの総括や調整を行う「経営管理」の一種です。
まず経営管理には、主に次のような手法が存在します。

  • 生産管理:生産工程や原料仕入れなど生産に関する管理や調整を行うこと
  • 財務管理:資金繰りや資金運用など財務に関する管理や調整を行うこと
  • 販売管理:商品の販売や営業活動など販売に関する管理や調整を行うこと
  • 人事労務管理:従業員の採用や育成、労働環境に関する管理や調整を行うこと

このようにさまざまな経営管理の手法が存在しますが、そのなかでも予算管理は企業予算に関する管理や調整の実施が目的になります。
まずは予算管理の概要や具体例、予算管理を行うメリットなどを見ていきましょう。

予算管理の概要や目的

予算管理の具体的な内容は次のとおりです。

  • 1年間の予算計画を立てて経営指標を作る(3月決算なら12月から作成を進める)
  • 一定期間ごとに予算計画の進捗チェックや問題点の分析を行う
  • 分析結果のフィードバックを現場に行い改善を実施する
  • 期末に予算計画と1年間の実績の比較と分析を行い来期の参考値とする(予実管理)

予算の編成から計画実行、1年間の分析と総括までの一連の流れが予算管理の範囲です。

「問題なく遂行できているのか」「数値目標は達成できたか」「1年間の結果を踏まえて来期はどうするのか」についての分析や把握を行う、モニタリング機能を担います。

企業の多くはビジョンや利益目標を達成するために、短期(1年以下)・中期(3~5年)・長期(5~10年)と3つの経営計画を立てます。
予算編成によって資金(カネ)や物資(モノ)・人員(ヒト)などの管理・配分計画を事前に定めておくことは、3つの経営計画を達成するためには欠かせません。

予算管理は、経営戦略上でも重要な業務といえます。

予算管理を行うメリット

予算管理を行うメリットには「目標の数値化による方向性の明確化」や「物資や費用の効率的な配分」「経営途中での問題点の抽出・解消」などを実行できる点が挙げられます。

予算管理を数値化し従業員に共有することで、部門ならびに個人ごとの達成すべき売上目標が明確になります。その売上目標に応じた業務計画や人員配置、個人のタスクなどを設定することが可能です。
もし計画の遅延や企業の損失が発生しても、すぐに問題改善や予算案修正に取り組めるため、経営の安定化にもつながります。

また予算管理によって費用や物資、人員などの適切な配分や運用ができます。限られた経営資源を必要な箇所に効率よく提供できれば、企業全体の生産性や対費用効果の向上が期待できるでしょう。

予算の種類

企業の予算とは、企業が達成したいビジョンや売上にもとづいて決定される数値目標です。売上目標や利益目標が当てはまります。
予算の種類は主に次の4つです。

  • 売上高予算
  • 原価予算
  • 経費予算
  • 利益予算

順番に見ていきましょう。

売上高予算

売上高予算とは、主に過去に上げた売上実績や将来的に達成したい経営目的をもとにして決められる数値目標のことです。多くの場合、例えば「前期の売上実績が1億円であれば当期の予算は1億2,000万円にする」といったように、過去の売上実績にプラスして数値が決定されます。

売上高予算の数値は予算編成時点での市場動向や為替相場にも左右されることから、事業年度途中で定期的に見直されることが一般的です。

原価予算

原価予算とは、製品を作るために必要な原材料や顧客へのサービス提供のために必要な商品の仕入れにかかる原価に関する数値目標のことです。利益予算や売上高予算に合わせて設定した、製品の生産量や仕入れ費用にもとづいて決定されます。

売上高予算と同じく、世の情勢に合わせて臨機応変な見直しが必要になる予算計画です。

経費予算

経費予算とは、企業の生産活動とは別にかかる「企業の継続のために必要な費用」である経費に関する数値目標のことです。販売費及び一般管理費が当てはまります。市場動向に左右される売上高予算や原価予算と違い、世の情勢の影響をあまり受けません。

経費予算に含まれる費用は、具体的には次のとおりです。

    • オフィスや販売店舗の家賃や光熱費
    • 販売経路の開拓や確保にかかる費用
    • 広告宣伝費
    • 人件費全般
    • マーケティング費用

など

経費予算を削減すれば、企業全体の支出減や利益増につながります。逆に増加させれば支出が増える代わりに、効果的なマーケティングや顧客への宣伝、新たな人材確保などを見据えた投資分の金額を盛り込むことが可能です。

企業の状況や目標も考慮しつつ、適正額を編成しましょう。

利益予算

利益予算とは、企業の大きな目標の1つである「どれくらいの利益を出したいのか」に関する数値目標です。売上-(原価+経費)で算出される最終的な儲け額の目標になります。

もし売上高予算が未達でも、原価や経費をうまく削減できれば最終的な利益目標は達成可能です。
つまり利益予算を達成するためには、売上高予算・原価予算・経費予算のすべてを適切に管理することが必要不可欠になります。

過去の売上実績や原価・経費の金額、将来的な事業展望などから総合的に判断し決定します。売上高予算や原価予算のもとになることから、最初の段階で決められる数値目標です。

予算管理のプロセス

予算管理のプロセスは、主にPDCAのサイクルに当てはめて進められます
PDCAサイクルとは、計画⇒実行⇒評価⇒改善のサイクルを繰り返し、継続的に企業の経営や業務改善に取り組む手法です。
予算管理のPDCAサイクルの大まかな流れを見ていきましょう。

  • 予算編成を行う(Plan)
  • 予算編成をもとに計画を実行する(Do)
  • 予算実績の分析を進める(Check)
  • 分析にもとづいて改善していく(Action)

1つずつ解説していきます。

予算編成を行う(Plan)

予算管理の最初のプロセスは、過去の業績や市場動向などを分析・参考にしながら、売上高予算や原価予算、経費予算、利益予算などの予算を編成(Plan)することです。
予算編成の流れの一例を見ていきましょう。

  1. 利益予算を設定する
  2. 人件費や固定費、そのほかの費用などを算出する
  3. 売上高予算や原価予算を設定する
  4. 販売費及び一般管理費を含めた経費予算を設定する
  5. 最終調整を行う

予算の決定方法として、主に以下の2パターンが挙げられます。

  • トップダウン型:経営陣の判断で各部門の予算を設定する方法。意思決定が早く経営実態に沿った編成が可能だが、現場の人員状況や業務内容の実態が反映されにくいという欠点がある。
  • ボトムアップ型:各部門の現場が決定した予算を集計し設定する。現場の意見が反映される代わりに、企業の利益目標とは異なる数値になるという欠点がある。

日本ではトップダウン型とボトムアップ型の2つの予算を出し、双方を擦り合わせて調整する方法が取られることが多いです。

予算編成をもとに計画を実行する(Do)

予算編成(Plan)で設定した各予算額をもとに、実際に予算管理を反映した経営を実行(Do)します。
ポイントは都度進捗を確認しながら進めることです。月ごとや四半期ごとに決算を行うといったように、予算計画との差異がないかを確認するタイミングを設けながら進めます。

予算実績の分析を進める(Check)

計画の実行(Do)の途中の数値について、定期的に分析(Check)し改善を進めます。
分析の結果、期首の予定より遅れたり欠損があったりなどが見つかれば、対策案の作成を行います。

予算管理で用いられる手法は予算差異分析です。予算差異分析とは、予算と実績値の差額(予算差異)を算出して期間中の変化を洗い出したのち、ここまでの成果に関する課題を見つけることです。
予算差異分析には、以下3つの方法が存在します。

  • 単純比較:実績値と予算を単純に比較する方法
  • 経営適応アプローチ:実測値と予算の利益差異を収益差異と原価差異に分解し、さらに市場数量差異や製品配合差異などに細かく分解して分析する方法
  • 戦略的フレームワーク:自社のオリジナルフレームワークを作成し分析を行う方法

分析にもとづいて改善していく(Action)

分析(Check)によって判明した問題点や導かれた改善案を現場にフィードバックし、実際に改善を進めていきます(Action)。具体例は次のとおりです。

    • 売上高予算の上方修正を行う
    • 資金調達の準備を行う
    • 広告宣伝費による支出を抑えるように指示する
    • 結果が芳しくない部門の人員や予算を調整する
    • 新規事業のさらなる継続か撤退かを判断する

など

予算管理を1年実行した後は、これまで定期的に分析した結果をまとめ、1年間の実績とします。その実績と期首に立てた予算計画との差異についても分析を行うことで、今期全体の課題抽出や来期以降の改善案の立案が可能です。

予算管理のポイント

予算管理をうまく進めるには、予算の編成や計画の実行、実績や進捗に関する分析を行うタイミングで重要なポイントを押さえておくことです。適切な計画や従業員の意識向上、効果的なフィードバックなどを実施できれば、経営状態の改善にもつながるはずです。

予算管理のポイントについて、「予算編成」「計画実行」「分析・フィードバック」にそれぞれ論点を絞って解説します。

予算編成(Plan)のポイント

予算編成(Plan)における重要なポイントは次のとおりです。

  • 予算編成のルールや仕組みを明確にしておくこと
  • 途中変更を見越した数値目標としてあらかじめ編成すること
  • 簡単に達成できる予算にはしないこと
  • 達成が不可能な予算にはしないこと
  • 現場にも予算額や予算設定の目的を共有すること

計画設定の基準や情報は明確にしつつ、改善や変更などの軌道修正に関しては臨機応変な対応ができる編成を目指します
また、企業が潜在的に持つ問題点や改善点の抽出も目的であることから、簡単すぎたり難しすぎたりなどの意味がない予算額にするのも避けるべきです。

計画実行(Do)のポイント

計画実行(Do)における重要なポイントは次のとおりです。

  • 定期的な進捗管理(フォーキャスト機能)を見越した実行を心がけること
  • 計画に基づいた業務遂行を従業員1人ひとりに意識させること
  • のちの分析がやりやすいように実績の集計体制は整えておくこと
  • 従業員のモチベーション管理も気をつけること

実際に計画を実行するのは現場の従業員です。従業員が予算計画を進めやすい環境を作ることも、予算管理のポイントの1つといえるでしょう。

分析・フィードバック(Check・Action)のポイント

分析(Check)とフィードバック(Action)における重要なポイントは次のとおりです。

  • 「予算管理のための予算管理」にならないこと(予算達成にこだわりすぎないこと)
  • 細かい数値に囚われすぎて全体の利益や現場の意見をないがしろにしないこと
  • 現場へのフィードバックを適切に行える連絡体制を整えておくこと
  • フィードバックを実行するために必要な情報や現場から求められた情報は開示すること
  • エクセルや会計ソフト、そのほかのツールを利用するなどで進捗や実績を管理すること

「企業は生き物」とも評されるように、日々変化する状況の中で予算目標を達成するには、常に改善への意識と柔軟な姿勢を持つことが大切です。

予算達成に囚われて重要な商談を逃したり、事業撤退のタイミングを逸したりなどはあってはなりません。まず経営目標や従業員の働きがいを優先した運営を前提に、予算管理を進めていきましょう。

予算管理のテンプレート – 無料でダウンロード

事業を成功に導くには、適切な予算管理が不可欠です。この単年度事業予算のテンプレートは、売上高、売上総利益営業利益経常利益当期純利益などの重要な財務指標を一目で把握できるように設計されています。

このテンプレートを活用することで、事業の収益性を詳細に分析し、収入と支出のバランスを取りながら、効果的な経営判断を下すことができます。また、予算と実績の差異を定期的にモニタリングすることで、事業の強みと弱みを特定し、適切な改善策を講じることが可能です。

予算管理を意識した正しい事業運営を!

予算管理は「予算編成に沿った業務が行われているか」「進捗に問題ないか」などを分析し、都度改善を行う経営管理の一種です。
適切に運営することで、企業の利益向上や業務の効率化、従業員の生産性アップにつながります。そのためには正しいプロセスを知り、フェーズごとの重要となるポイントを押さえることが大切になります。
今後の経営をより好転させるためにも、予算管理を意識した事業運営を一度進めてみてください。

よくある質問

予算管理とは何ですか?

企業が行う予算管理とは、企業の売上目標や生産の効率化などを達成するためにさまざまなリソースの総括や調整を行う「経営管理」の一種です。詳しくはこちらをご覧ください。

予算管理を行うメリットはありますか?

予算管理を行うことによって「目標の数値化による方向性の明確化」や「物資や費用の効率的な配分」「経営途中での問題点の抽出・解消」などの利点が生まれます。詳しくはこちらをご覧ください。

予算管理はどのようなプロセスで行われますか?

予算管理のプロセスは、主にPDCAのサイクルに沿って進められます。PDCAサイクルとは、計画⇒実行⇒評価⇒改善のサイクルを繰り返すことで継続的に企業の経営や業務改善に取り組む手法です。詳しくはこちらをご覧ください。


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