• 更新日 : 2024年10月25日

粉飾決算とはなぜ起こる?手法と見抜き方、罰則を解説

テレビや新聞で「粉飾決算」という言葉を見たことはないでしょうか。粉飾決算とは「赤字決算を不正な会計処理で黒字決算に見せかけること」を指します。黒字決算を赤字決算に見せかける「逆粉飾決算」と併せて、いずれの場合も厳しい罰則があります。今回は「粉飾決算」の手法と見抜き方について解説していきます。

粉飾決算とは何か

粉飾決算とは「赤字決算を黒字決算であるかのよう見せかけること」です。

一般的に会社が利益を出した場合、黒字決算であれば計上した利益に対して税金を納めなければなりません。
赤字決算であれば納めなくて済む税金をわざわざ粉飾し黒字決算に作り変えてまで納税するので、ともすると悪い行為には感じないかもしれません。

しかし、それは間違いです。
なぜなら会社には銀行や株主、取引先など、事業に協力してくれる「利害関係者」というものが必ず存在するからです。
特に上場している大企業クラスになれば、年間取引量も増えるため利害関係者も膨大になります。

運転資金は銀行からの融資や不特定多数の出資者に株式を購入してもらうことで調達します。掛代金は仕入先から取引代金の支払猶予を受けているようなものです。
このような「利害関係者」の協力なしでは会社は成り立ちません。

「利害関係者」が会社に対して資金提供したり支払猶予をしたりしてくれるのは「信用」があるからです。
毎期経常的に黒字決算であることを報告してくれるからこそ、利害関係者は安心して信用のもと取引を継続してもらえます。

「粉飾決算」はこの信用を裏切る行為であり、利害関係者に間違った情報を提供することになります。

結果として融資や出資など、利害関係者の判断を誤らせます。

粉飾決算で倒産した場合、銀行は融資が回収不能となり、株主は出資金が戻ってこなくなる可能性もあるでしょう。取引先も掛代金が回収不能となるためダメージを受けます。
つまり、資金的な実害を与える結果となります。

粉飾決算の手法・手口

「粉飾決算」「逆粉飾決算」の具体的な手法・手口について、いくつか例示を挙げてみましょう。

粉飾決算

■架空在庫の計上

簿記会計のルールでは在庫の増加は「利益を増やす」結果となります。
このルールを悪用し、本来ないはずの在庫を意図的に増加させて利益を増やすやり方です。

■子会社に対する架空売上の計上

売上は得意先からの受注があって初めて計上できるものです。
しかしグループ企業である子会社であれば「受注があったもの」として粉飾は容易にできます。
子会社にとって必要のない取引をあえて受注することで親会社の売上を計上し、利益を増やすやり方です。

■循環取引

グループ企業ならではの粉飾手法です。
上記「架空売上」をさらに広げ、親会社 → 子会社1 → 子会社2 → 子会社3 → 親会社… というように売上を循環させます。
これによりグループ企業各社の売上が増加し、利益を水増しすることができます。

逆粉飾決算

■在庫隠し

簿記会計のルールでは在庫の減少は「利益を減らす」結果となります。
ルールを悪用し、手元にある在庫を意図的に隠し、利益を減らすやり方です。

■子会社からの架空仕入の計上

粉飾決算とは逆に、子会社から架空の仕入を計上する方法です。
上記の在庫隠しとの合わせ技で費用を水増しし、利益を減らすやり方です。

■売上の翌期計上(期ズレ)

当期に計上すべき売上を意図的に翌期以降に計上(期ズレ)する方法です。
在庫調整をしなかった場合、翌期に送った売上と同額の利益が減ることとなります。

なぜ粉飾決算は行われるのか

「粉飾決算」「逆粉飾決算」いずれのケースも、不正経理により決算を歪める行為であることには変わりませんが、その目的はそれぞれ異なります。

粉飾決算の場合

粉飾決算を行う理由で最も多いのは「利害関係者」からの信用を繋ぎ止めるためでしょう。

先にも述べたとおり、会社経営は利害関係者の協力があって成り立ちますが、もし赤字決算を出してしまえば利害関係者が手を引く可能性があります。

すると経営が立ち行かなくなりますので、やむなく粉飾に手を出すというパターンです。

逆粉飾決算の場合

逆粉飾決算を行う一番の理由はシンプルで「税金を納めたくない」ということです。

税目によって異なりますが法人の場合、利益に対して支払う税金は約30~40%です。
せっかく手に入れた現金を税金で30%以上持っていかれるのは面白くない、という経営者が逆粉飾に手を染める…というパターンです。

粉飾決算の見抜き方

このようにさまざまな方法で利益を増減させる粉飾ですが、うまく隠したつもりでも簿記会計の原則を使えば簡単に見抜くことができます。

例えば前述の「在庫」「売上」「仕入」について見抜く方法です。

簿記会計のルールにより「在庫」「売上」「仕入」は完全に紐づけされています。

仕入 → 在庫 → 売上

例えば在庫を水増しした場合には仕入に矛盾が生じ、在庫を外せば仕入・売上いずれかにズレが発生します。

また、手法として例示しませんでしたが、経費の水増し計上も簿記会計で現金預金の動きを明らかにしてしまえば必ず矛盾が生じますので、簡単に粉飾が発覚することになります。

粉飾決算の罰則

法律では「利害関係者保護」の観点から赤字決算を意図的に仮装隠匿した場合、「刑事罰」「行政罰」「民事責任」など厳しい罰則規定を設けています。

例えば上場企業で粉飾決算が発覚した場合、「有価証券報告書」の虚偽記載にあたるため、次のような罰則が科されます。

刑事罰」として

「重要な事項につき虚偽の記載のあるもの」を提出した者に対し「十年以下の懲役若しく は千万円以下の罰金」に処され、懲役と罰金の両方を併科されることもある(金融商品取 引法197条1項)。また法人の代表者、代理人、使用人、その他従業者が有価証券虚偽記載をした場合は、その行為者を罰するとともに法人に対しても7億円以下の罰金刑が科される(同法207条1項)。

行政罰」として

発行者が、「重要な事項につき虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項の記載が欠けている」有価証券報告書等を提出した場合、
1. 600万円
2. 発行する株券等の市場価額の総額×10万分の6
のうち大きい金額の課徴金を国庫に納付しなくてはならない(金融商品取引法 172 条の4)。

民事責任」として

有価証券報告書等に虚偽記載が行われた場合、発行会社は、虚偽記載のある有価証券報告書等が公衆縦覧されている間に、発行有価証券を募集・売出しによらずに取得した者に対して損害賠償責任を負うものと定められている(金融商品取引法 21 条の2)。

そのほかにも

などに抵触するため、同じく「行政罰」「民事責任」を問われることになります。

また、中小企業であっても

  • 粉飾決算による詐欺罪(刑法の第246条)
  • 不正経理により利害関係者に損害を与えたことによる損害賠償請求

などを適用される可能性が充分考えられます。

粉飾決算関連の倒産件数

東京商工リサーチの調査によると、2023年度(令和5年度)の粉飾決算による関連倒産の件数は、11件にのぼることがわかりました。3年連続で同程度の倒産件数となっており、コロナ禍での積極的な融資の返済時期が到来し、資金繰りのつじつまが合わなくなったことで粉飾決算が表面化するケースもあったといいます。

業種別の倒産件数は、卸売業が最も多い4件でした。倒産後については、完全に破産した会社と民事再生法などの適用により再建した会社は半々となりました。

出典:2023年の「粉飾決算」関連倒産は11件 金融機関、企業の審査は対話が重要に|東京商工リサーチ

粉飾決算関連の防止策

粉飾決算による利害関係者からの信頼を失わないようにするには、社内でどのような体制を構築していくべきなのでしょうか。粉飾決算を防止するための具体策を5つ紹介します。

透明化を確保する

財務情報がブラックボックス化すると、意図的に情報を操作することが容易になります。不正が行われないようにするには、簡単に情報を操作できないような仕組み、あるいは情報が変更された場合に履歴が残る仕組みにする必要があります。つまり、財務情報の透明化の確保が必要だということです。

例えば、中小企業などであれば、変更履歴が残る、あるいは変更をロックできる会計ソフトの導入が考えられます。会計ソフトを導入すれば、不正防止になるだけでなく、会社の財務状況をリアルタイムで共有できるため、資金繰りにも役立つでしょう。

内部監査を強化する

社内の監査体制を設ける、あるいは強化することも粉飾決算の防止に役立ちます。監査が行われることにより、通常の取引と比べて異常な頻度の取引、昨年比などと比較して異常な債権の額や在庫などをあぶり出しやすくなるためです。詳細を調査することで粉飾決算の事実が見つかる可能性もあります。

すでに監査を行っている場合は、監査の時期や内容をランダムにするなどして、できるだけ粉飾が隠されないように体制を見直しましょう。少数で運営する企業の場合は、限られた人だけがアクセスできていた財務情報を、ほかの人に開示してチェックしてもらうなどの方法も考えられます。

専門家にチェックしてもらう

粉飾決算のような不正を防止するためには、第三者の目を取り入れることが重要です。社内だけで財務情報の共有が行われている場合は、税理士や公認会計士にチェックしてもらい、おかしなところがないか確認してもらう方法もあります。専門家によるチェックは、意図的な粉飾決算ではなく、意図せず粉飾決算になってしまっている場合の指摘にも役立ちます。

監査の独立性を確保する

法律上、監査役の独立性は保たれています。監査役とは、取締役を監査する職務をもった会社の役員のことです。しかし、実際は、人事権のある執行側が、監査役を事実上決めているなどの状況もあり、監査役の独立性が保たれないこともあります。

監査役を独立した役員としてしっかり機能させるには、監査役会を設置することにより、監査役の発言力を向上させる方法などが考えられるでしょう。グループ会社であれば、子会社の人事権を親会社にもたせるのではなく、子会社自身が監査役を選任できるように権限を変更するなどの方法もあります。

外部取締役を置く

社内の重役がいわゆる身内だけになってしまうと、粉飾決算などの不正が起こりやすい環境ができてしまいます。第三者の目を入れるためにも、外部取締役を置くことが考えられます。外部の監視が入ることで、社内取締役に対する監視の目が厳しくなるためです。

社外取締役の設置は上場企業では義務付けられているため、これから上場を目指そうとする企業などには有効な方法です。外部取締役を置くことにより、コーポレート・ガバナンスの強化も期待できます。

粉飾決算の事例

粉飾決算と逆粉飾決算の事例を複数紹介します。

A社の事例

A社の粉飾決算は、内部通報により判明しました。調査の結果、最終的にA社は複数の不正により多額の利益の水増しを行っていることが判明しました。規模にすると数年間で数千億円です。まず、工事進行基準を悪用した手法が使われました。工事原価を過少に見積もり、工事損失引当金を計上しないことで収益を多く見せる手法です。在庫の過大評価も行われました。損失を認識していた在庫について廃棄まで評価損を計上しないことにより、実際よりも在庫の価額が大きく見えるようにしていたのです。そのほかの複数の不正により、A社は金融商品取引法違反による課徴金の支払いを命じられ、株価は大幅に下落しました。

B社の事例

B社では、子会社を利用した不正により粉飾決算が行われていたことが判明しました。使われていたのは、連結はずしという手法です。多額の損失が出ている子会社の株を一時的にほかの会社に譲渡して、決算の内容を実際よりもよく見せる手法です。B社は、連結はずしにより、グループ全体の財務状況がうまくいっているように粉飾しました。連結はずしにより多額の含み損が発生したことによって粉飾が発覚しています。結果として事業の解体を余儀なくされたほか、会計監査の担当者らが逮捕されるに至りました。

C社の事例

逆粉飾決算のケースでは、経費の水増しなどがあります。C社は下請けのある会社で、下請けに対して、架空の注文を行ったり、下請けに対して本来の代金よりも多く請求させたりするなどして、過大な経費を計上していることが発覚しました。数年間で数億円規模の所得隠しが、支社の管理職によって不正に行われていました。重加算税も合わせて、追徴課税は故意に隠された所得の3分の1に達しています。不正にかかわった社員は懲戒解雇となっています。

粉飾決算は一度始めたら取り返しがつかない

簿記会計の仕組みにより粉飾したツケは必ず翌期に返ってくるようにできています。ツケを払うために翌期また粉飾に手を染める…といったように、粉飾決算のスパイラルが始まれば会社はおしまいです。粉飾は一時凌ぎにしかなりませんので、まずはあるがままの会社の姿をルールに従って表現することが第一です。

よくある質問

粉飾決算とは?

「赤字決算を黒字決算であるかのよう見せかけること」です。詳しくはこちらをご覧ください。

なぜ粉飾決算は行われるの?

粉飾決算を行う理由で最も多いのは「利害関係者」からの信用を繋ぎ止めるためです。詳しくはこちらをご覧ください。

粉飾決算の見抜き方は?

簿記会計のルールにより「在庫」「売上」「仕入」を用いて見抜くことが出来ます。詳しくはこちらをご覧ください。


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