• 更新日 : 2022年8月30日

粉飾決算とはなぜ起こる?手法と見抜き方、罰則を解説

粉飾決算とはなぜ起こる?手法と見抜き方、罰則を解説

テレビや新聞で「粉飾決算」という言葉を見たことはないでしょうか。粉飾決算とは「赤字決算を不正な会計処理で黒字決算に見せかけること」を指します。黒字決算を赤字決算に見せかける「逆粉飾決算」と併せて、いずれの場合も厳しい罰則があります。今回は「粉飾決算」の手法と見抜き方について解説していきます。

粉飾決算とは何か

粉飾決算とは

粉飾決算とは「赤字決算を黒字決算であるかのよう見せかけること」です。

一般的に会社が利益を出した場合、黒字決算であれば計上した利益に対して税金を納めなければなりません。
赤字決算であれば納めなくて済む税金をわざわざ粉飾し黒字決算に作り変えてまで納税するので、ともすると悪い行為には感じないかもしれません。

しかし、それは間違いです。
なぜなら会社には銀行や株主、取引先など、事業に協力してくれる「利害関係者」というものが必ず存在するからです。
特に上場している大企業クラスになれば、年間取引量も増えますので利害関係者も膨大になります。

運転資金は銀行からの融資や不特定多数の出資者に株式を購入してもらうことで調達しますし、掛代金は仕入先から取引代金の支払猶予を受けているようなものです。
このような「利害関係者」の協力なしでは会社は成り立ちません。

「利害関係者」が会社に対して資金提供したり支払猶予をしたりしてくれるのは「信用」があるからです。
毎期経常的に黒字決算であることを報告してくれるからこそ、利害関係者は安心して信用のもと取引を継続してくれます。

「粉飾決算」はこの信用を裏切る行為であり、利害関係者に間違った情報を提供することになります。
結果として融資や出資など、利害関係者の判断を誤らせます。
粉飾決算で倒産した場合、銀行は融資が回収不能、株主は出資金が戻ってこなくなりますし、取引先は掛代金が回収不能となりますので大きなダメージを受けます。
つまり、資金的な実害を与える結果となります。

粉飾決算の手法・手口

では、「粉飾決算」「逆粉飾決算」の具体的な手法・手口について、いくつか例示を挙げてみましょう。

粉飾決算

  • 架空在庫の計上
  • 簿記会計のルールでは在庫の増加は「利益を増やす」結果となります。
    このルールを悪用し、本来ないはずの在庫を意図的に増加させて利益を増やすやり方です。

  • 子会社に対する架空売上の計上
  • 売上は得意先からの受注があって初めて計上できるものです。
    しかしグループ企業である子会社であれば「受注があったもの」として粉飾することは容易です。
    子会社にとって必要のない取引をあえて受注することで親会社の売上を計上し、利益を増やすやり方です。

  • 循環取引
  • グループ企業ならではの粉飾手法です。
    上記「架空売上」をさらに広げ、親会社 → 子会社1 → 子会社2 → 子会社3 → 親会社… というように売上を循環させます。
    これによりグループ企業各社の売上が増加し、利益を水増しすることができます。

逆粉飾決算

  • 在庫隠し
  • 簿記会計のルールでは在庫の減少は「利益を減らす」結果となります。
    ルールを悪用し、手元にある在庫を意図的に隠し、利益を減らすやり方です。

  • 子会社からの架空仕入の計上
  • 粉飾決算とは逆に、子会社から架空の仕入を計上する方法です。
    上記の在庫隠しとの合わせ技で費用を水増しし、利益を減らすやり方です。

  • 売上の翌期計上(期ズレ)
  • 当期に計上すべき売上を意図的に翌期以降に計上(期ズレ)する方法です。
    在庫調整をしなかった場合、翌期に送った売上と同額の利益が減ることとなります。

なぜ粉飾決算は行われるのか

「粉飾決算」「逆粉飾決算」いずれのケースも、不正経理により決算を歪める行為であることには変わりませんが、その目的はそれぞれ異なります。

粉飾決算の場合

粉飾決算を行う理由で最も多いのは「利害関係者」からの信用を繋ぎ止めるためでしょう。
先にも述べたとおり、会社経営は利害関係者の協力があって成り立ちますが、もし赤字決算を出してしまえば利害関係者が手を引く可能性があります。
すると経営が立ち行かなくなりますので、止む無く粉飾に手を出す…というパターンです。

逆粉飾決算の場合

逆粉飾決算を行う一番の理由はシンプルで「税金を納めたくない」ということです。
税目によって異なりますが法人税の場合、利益に対して支払う税金は約30~40%です。
せっかく手に入れた現金を税金で30%以上持っていかれるのは面白くない、という経営者が逆粉飾に手を染める…というパターンです。

粉飾決算の見抜き方

このように様々な方法で利益を増減させる粉飾ですが、上手く隠したつもりでも簿記会計の原則を使えば簡単に見抜くことができます。

例えば前述の「在庫」「売上」「仕入」について見抜く方法です。
簿記会計のルールにより「在庫」「売上」「仕入」は完全に紐づけされています。

仕入 → 在庫 → 売上

例えば在庫を水増しした場合には仕入に矛盾が生じ、在庫を外せば仕入・売上いずれかにズレが発生します。

また、手法として例示しませんでしたが、経費の水増し計上も簿記会計で現金預金の動きを明らかにしてしまえば必ず矛盾が生じますので、簡単に粉飾が発覚することになります。

粉飾決算の罰則

法律では「利害関係者保護」の観点から赤字決算を意図的に仮装隠匿した場合、「刑事罰」「行政罰」「民事責任」など厳しい罰則規定を設けています。

例えば上場企業で粉飾決算が発覚した場合、「有価証券報告書」の虚偽記載にあたるため、次のような罰則が科されます。

刑事罰」として

 
「重要な事項につき虚偽の記載のあるもの」を提出した者に対し「十年以下の懲役若しく は千万円以下の罰金」に処され、懲役と罰金の両方を併科されることもある(金融商品取 引法197条1項)。
また法人の代表者、代理人、使用人、その他従業者が有価証券虚偽記載をした場合は、その行為者を罰するとともに法人に対しても7億円以下の罰金刑が科される(同法207条1項)。

行政罰」として

発行者が、「重要な事項につき虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項の記載が欠けている」有価証券報告書等を提出した場合、
1. 600万円
2. 発行する株券等の市場価額の総額×10万分の6
のうち大きい金額の課徴金を国庫に納付しなくてはならない(金融商品取引法 172 条の4)。

民事責任」として

有価証券報告書等に虚偽記載が行われた場合、発行会社は、虚偽記載のある有価証券報告書等が公衆縦覧されている間に、発行有価証券を募集・売出しによらずに取得した者に対して損害賠償責任を負うものと定められている(金融商品取引法 21 条の2)。

その他にも

などに抵触するため、同じく「行政罰」「民事責任」を問われることになります。

また、中小企業であっても

  • 粉飾決算による詐欺罪(刑法の第246条)
  • 不正経理により利害関係者に損害を与えたことによる損害賠償請求

などを適用される可能性が充分考えられます。

粉飾決算は一度始めたら取り返しがつかない

簿記会計の仕組みにより粉飾したツケは必ず翌期に返ってくるようにできています。ツケを払うために翌期また粉飾に手を染める…といったように、粉飾決算のスパイラルが始まれば会社はお終いです。粉飾は一時凌ぎにしかなりませんので、まずはあるがままの会社の姿をルールに従って表現することが第一です。

よくある質問

粉飾決算とは?

「赤字決算を黒字決算であるかのよう見せかけること」です。詳しくはこちらをご覧ください。

なぜ粉飾決算は行われるの?

粉飾決算を行う理由で最も多いのは「利害関係者」からの信用を繋ぎ止めるためです。詳しくはこちらをご覧ください。

粉飾決算の見抜き方は?

簿記会計のルールにより「在庫」「売上」「仕入」を用いて見抜くことが出来ます。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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