- 更新日 : 2024年8月8日
非支配株主に帰属する当期純利益とは?わかりやすく解説!
連結決算で子会社が完全子会社でない場合に必要となる「非支配株主に帰属する当期純利益」ですが、いまいち概念が分からないという人も多いのではないでしょうか。実際に苦手意識を持つ人も多い勘定科目ですが、意味さえ理解できればそれほど難しい仕訳ではありません。この記事では実例を交えて具体的に解説しますので、非支配株主に帰属する当期純利益を基本から学びたい人はぜひ参考にしてください。
目次
非支配株主に帰属する当期純利益とは
連結会計において非支配株主に帰属する当期純利益とは、子会社の当期純利益のうち、親会社に帰属しないものをさします。子会社の当期純利益の振り替え処理をしない場合、子会社の当期純利益の全額が親会社(連結損益計算書)の利益となってしまうため、実態より多くの利益を計上してしまう形になります。(全額が親会社の利益剰余金となる)
例えば、親会社の持分が60%である場合、40%は親会社以外の株主(非支配株主)の持分であるため、これを無視して子会社の当期純利益の全額を親会社のものにはできません。被支配株主持分に属する40%を当期純利益から差し引きする作業が必要です。
非支配株主持分に属する40%を控除したあとの金額が「親会社株主に帰属する当期純利益」となり、これを連結株主資本等変動計算書に利益剰余金の増加として記入します。
非支配株主に帰属する当期純損益との違い
非支配株主に帰属する当期純損益は、非支配株主に帰属する当期純利益と非支配株主に帰属する当期純損失の両方の意味を持つ勘定科目です。
「非支配株主に帰属する当期純利益」は、非支配株主に帰属する当期純損益のうち子会社が純利益をあげたときに使われます。逆に、子会社が損失を出した時には「非支配株主に帰属する当期純損失」となります。利益か損失かで使う言葉が変わるだけなので、あまり難しく考える必要はありません。
ホームポジションは費用でマイナス項目
非支配株主に帰属する当期純利益のホームポジションは間違えやすいポイントで、当期純利益という名前だから右側(収益)と思いがちですが、実際は左側(費用)です。「利益」とついているため間違えやすいのですが、実際は利益のマイナス項目である点に注意しましょう。
分かりにくい場合は、子会社の当期純利益のうち非支配株主持分にあたる金額を連結上の当期純利益から減額する科目だと考えれば分かりやすいと思います。どのように利益のマイナス項目として使うのかについては、のちほど具体的な仕訳例とともに解説していくので理解のための参考にしてください。
連結修正仕訳の例
ここからは、実際の連結修正仕訳を見ながら理解を深めていきたいと思います。
非支配株主に帰属する当期純利益と関わりが深い言葉に「アップストリーム」と呼ばれるものがあります。詳しくはのちほど説明しますが、アップストリームとは子会社が親会社に利益を乗せてモノを販売することをさし、この中にはいわゆる「未実現利益」が含まれるため、完全支配関係ではない場合には非支配株主持分が関係してきます。
未実現利益とは、連結グループ内の取引から生まれた利益のうち、期末までに連結グループ全体として実現していない利益のことです。この未実現利益を非支配株主に相当分負担させる必要があるため、紹介する仕訳例ではアップストリームによる未実現利益を非支配株主に負担させる仕訳を紹介していきます。
具体的な設定は以下の通りです。
【連結会計の前提】
- 親会社A社が子会社B社の発行済株式総数の80%を保有
- 非支配株主はB社の発行済株式総数の20%を保有
- B社は連結グループ外部から10,000円で仕入れた商品をA社へ12,000円で販売した
- A社は期末時点でB社から仕入れた当該商品を保有していて、外部との取引はない
まず、B社に利益が生じていることに注目しましょう。B社にはA社以外にも株主が存在するため、当期純利益をA社以外の株主(非支配株主)へ割り振る仕訳を行います。
非支配株主に帰属する当期純利益 | ¥400(※) | 非支配株主持分 | ¥400(※) |
上記仕訳では借方で費用を計上し、A社に帰属している当期純利益を減少(利益2,000円を1,600円にする)させています。
続いては、連結グループ内の取引(未実現利益)を消去する仕訳が必要です。
まずは売上高と売上原価を消去します。
売上高 | ¥12,000 | 売上原価 | ¥12,000 |
これでA社とB社の間で行われた取引の消去はできましたが、上記のままでは売上原価を消去しすぎた状態です。そのため、次のように未実現利益を消去する調整が必要です。
分かりやすく説明すると、外部から買った商品は10,000円なので連結グループとしては期末商品10,000円となるはずですが、子会社が利益2,000円を上乗せしたので、期末商品が12,000円になっています。この差額2,000円が未実現利益(グループ内部の利益)で、連結グループとしては余計な金額なので連結修正仕訳で消去します。
上記が未実現利益を消去する仕訳です。子会社が計上していた利益2,000円が消去され、非支配株主(A社以外の株主)の利益も減少します。そのため、以下の仕訳が必要になります。
売上原価 | ¥2,000 | 商品 | ¥2,000 |
上記が未実現利益を消去する仕訳です。子会社が計上していた利益2,000円が消去され、非支配株主(A社以外の株主)の利益も減少します。そのため、以下の仕訳が必要になります。
非支配株主持分 | ¥400(※) | 非支配株主に帰属する当期純利益 | ¥400(※) |
以上で「非支配株主に帰属する当期純利益」を使って未実現利益を取り消し、非支配株主に当期純利益を負担させる一連の仕訳が終了です。
棚卸資産のアップストリーム
アップストリームとは、直訳すると「上流」で、子会社(下)から親会社(上)へ販売した取引のことを指します。子会社が完全支配関係にない場合かつアップストリームの未実現利益がある場合には、非支配株主に利益を負担させる仕訳が必要になります。
棚卸資産のアップストリームについてくわしく知りたい人は以下の記事を参考にしてください。個別の仕訳例も紹介されています。
棚卸資産のダウンストリーム
ダウンストリームとは、直訳すると「下流」で、親会社(上)から子会社(下)へ販売した取引のことを指します。ダウンストリームでは、未実現利益を消去するのは親会社になるため非支配株主のことを考える必要はありません。
棚卸資産のダウンストリームについてくわしく知りたい人は以下の記事を参考にしてください。
非支配株主に帰属する当期純利益の理解は連結会計において重要!
非支配株主に帰属する当期純利益は、連結会計の決算整理仕訳のみ登場する勘定科目です。一年に一度しか登場しないため、慣れるまではどうしても難しく感じてしまいがちですが、意味が理解できればそれほど難しい内容ではありません。紹介した仕訳例などを参考にしながら、非支配株主に帰属する当期純利益の仕訳方法をマスターしましょう。
よくある質問
非支配株主に帰属する当期純利益とは?
子会社の当期純利益のうち親会社に帰属しないもの。連結損益計算書の当期純利益から差し引きする必要がある。詳しくはこちらをご覧ください。
ホームポジションは左側(費用)か右側(利益)のどちらか?
「利益」とついているので間違えがちだが、実際は利益のマイナス項目なのでホームポジションは左側(費用)。 詳しくはこちらをご覧ください。
非支配株主に帰属する当期純損益との違いは?
非支配株主に帰属する当期純損益は、非支配株主に帰属する当期純利益と非支配株主に帰属する当期純損失の両方の意味を持つ勘定科目。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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