- 作成日 : 2024年12月9日
連結貸借対照表の利益剰余金の求め方とは?手順をわかりやすく解説
連結貸借対照表の利益剰余金とは、資本連結がある企業グループが生んだ利益を積み立てた金額のことを意味します。通常の会計処理でも利益剰余金は純資産として処理しますが、連結会計をする場合は複雑な計算処理が必要となります。
今回は、連結貸借対照表の利益剰余金の基本的な解説と求め方についてご説明します。
目次
連結貸借対照表の利益剰余金とは?
連結貸借対照表における利益剰余金とは、親会社と子会社など資本関係にある企業が蓄積してきた利益を指します。利益剰余金は企業が稼いだ利益の中から配当金として分配せず社内で積み立てているお金のことで、内部保留と呼ばれることもあります。
利益余剰金は企業が将来の投資や運営に活用できる資金の源泉となり、会社の財務健全性や成長の余地を示すため、経理担当者にとって非常に重要です。
利益剰余金が増加している場合、企業は安定した経営基盤を持っていると判断できます。一方で減少している場合は、財務状況が厳しい状況となっている可能性もあるため、早急な対策が必要です。
利益剰余金は貸借対照表では純資産に記載され、利益準備金とそのほか利益剰余金で構成されます。
連結貸借対照表についてはこちらの記事でも詳しくご紹介していますので、ぜひ併せてご覧ください。
利益剰余金が少ない場合のリスク
利益剰余金が少ない場合、企業グループにはいくつかのリスクが伴います。まず、利益剰余金の減少は、将来の事業拡大や投資が難しくなることを意味します。企業は新たなプロジェクトに投資する資金を持たず、結果として競争力を失うおそれがあります。
ほかにも、利益剰余金が少ないと経済不況や社会情勢の変化などの突発的な事象に対する支出に耐えられず、経営危機に直面する可能性もあります。
さらに、株主の視点から見ると「利益剰余金が少ない=株主への配当が削減される」と判断され、信頼を失うこともあります。
連結貸借対照表の利益剰余金の求め方とは?
それでは連結貸借対照表における利益剰余金の求め方について、以下で見ていきましょう。
親会社と子会社の利益剰余金を算出
連結貸借対照表で利益剰余金の金額を求めるためには、まず親会社と子会社それぞれの利益剰余金を算出する必要があります。通常、利益剰余金は「繰越利益剰余金+当期の利益」で計算されます。
ちなみに繰越利益剰余金は、「(当期純利益+繰越利益)-配当額-利益準備金積立額+別途積立金」の計算式で求めます。
連結貸借対照表で利益剰余金を算出
親会社と子会社、それぞれ利益剰余金が計算できたら「親会社の利益剰余金」と「支配獲得後に子会社で増えた利益剰余金の額×子会社の保有割合」を合算して連結貸借対照表の利益剰余金を算出します。連結貸借対照表で利益剰余金を求めた後は、修正仕訳などの作業を経て会計処理を行います。
連結貸借対照表を作成するためには簿記の知識がある程度必要です。最初は計算や修正処理が複雑に思われるかもしれませんが、計算式さえ覚えればスムーズに金額が求められるようになります。
連結貸借対照表の利益剰余金の求め方の具体例
利益剰余金の求め方は、企業の財務状況を正確に把握するためにはぜひとも押さえておきたいです。ここからは具体的なケースを挙げてご説明します。
ケース1: 利益剰余金の増加または減少
親会社で利益が増加、または減少したときには利益剰余金も変化します。ここで基本の利益剰余金の求め方をおさらいしましょう。
たとえば、①年間で1,000万円利益をあげて500万円を配当金として支払った、②前期の利益剰余金が2,000万円であるという2つの条件がある場合、計算は次のとおりです。
前期の利益余剰金が2,000万円で当期の決算で500万円の赤字を出してしまい、配当金が出せない場合の計算式は以下のようになります。
その後、連結貸借対照表で子会社の利益剰余金と子会社の保有割合で計算します。
ケース2: のれん償却の影響
親会社が子会社を買収した際に発生したのれん(親会社の投資額と子会社の純資産の差額)を償却する場合、利益剰余金にも影響します。たとえば、のれんの償却額が100万円で、他の利益が800万円、前期の利益剰余金が2,000万円で、配当金が500万円の場合、以下のような計算となります。
連結貸借対照表の利益剰余金を求める際の注意点
連結貸借対照表で利益剰余金を求める際には、親会社と子会社の財務情報を正確に反映することが重要です。ここからは特に注意すべき4つのポイントを解説します。
1. 内部取引の相殺
親会社と子会社間で発生する内部取引(売上や債権債務など)は、連結決算上で相殺処理を行います。相殺処理は企業間の二重計上を防いで財務諸表の正確性を保つために必要です。
2. のれん償却の処理
子会社の買収時に発生するのれん(企業価値の超過部分)は、一定期間で償却する必要があります。のれん償却額は、連結貸借対照表の利益剰余金に影響を与えます。計上ミスを防ぐためにも償却期間や金額を正確に管理し、継続的に確認しましょう。
3. 非支配株主持分の考慮
子会社に非支配株主がいる場合、利益剰余金の一部は非支配株主持分に帰属します。そのため、連結貸借対照表では親会社株主と非支配株主の利益剰余金を適切に分けて表示する必要があります。
4. 税効果会計の反映
連結貸借対照表の作成には税効果会計(企業会計と税務会計上のずれを調整する作業)の適用が求められます。繰延税金資産や繰延税金負債を正確に計上しないと、利益剰余金の金額が適正に表示されないリスクが生じます。税効果会計の処理を確実に行うことで、連結財務諸表の精度を保つことが可能です。
利益剰余金と当期純利益との違い
利益剰余金と当期純利益はいずれも企業の収益性を示す財務指標ですが、その意味と役割には違いがあります。
当期純利益は企業がある会計期間において得た純粋な利益を指し、損益計算書に表示されます。一方、利益剰余金はこれまでに積み上げられた利益の蓄積額であり、貸借対照表の純資産の部に計上されます。
利益剰余金と当期純利益の関係
当期純利益が計上されると、その一部または全部が翌期の利益剰余金に加えられます。このため、利益剰余金は各期の当期純利益が積み重なったものであり、その後の内部留保に回される資金源となります。
計算方法の違い
当期純利益は収益から費用を差し引いて算出され、利益剰余金は当期純利益から配当金などを差し引いた後の残高が加算されていくため、財務戦略の中で特に重要な指標とされます。
グループの財政状態を正確に把握するため利益剰余金をしっかりと計算しましょう
連結貸借対照表で利益剰余金を求める場合は、まず親会社と子会社、それぞれの会計を適切に処理しておく必要があります。ただ、本文でもご紹介したように連結貸借対照表の作成は複雑な計算と会計に関する知識が必要です。
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※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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