- 作成日 : 2024年11月19日
完成工事未収入金とは?仕訳・勘定科目や、建設業の会計基準の違いも解説
完成工事未収入金は、建設業の会計で用いられる勘定科目のひとつです。建設業は通常の会計処理と異なる部分があり、どのような勘定科目なのかなどがわかりにくいことがあるでしょう。
今回の記事では、完成工事未収入金とは何か、建設業の工事進行基準と工事完成基準の違い、実際の仕訳例、会計処理におけるポイントなどを解説します。
目次
完成工事未収入金とは建設業の売掛金のこと
完成工事未収入金とは、「建設業における売掛金」のことを指します。完成した工事の請負代金のうち、まだ回収できていないお金を処理する資産勘定です。基本的に、完成済みの工事の対価が後日振り込まれるときに用います。
建設業界の会計処理をする際は、独自の基準があるのが特徴です。これを「建設業会計」と呼んでいます。
一般会計と建設業会計の違い
建設業界における会計の場合、以下のような点が一般会計をおこなう企業との大きな違いです。
- 製品の引き渡しまでの期間が長いこと
- 案件1件あたりの単価が大きいこと
- 複数回に分けて報酬を得る請負契約をする場合が多いこと
建設業界では、依頼を受けてから完成して製品を引き渡すまでの期間が長いことが特徴です。設計して実際の工事を進め、完成するまでに1年以上かかるような長期にわたるプロジェクトを請け負うことが多くあります。さらに、完成してもすぐには原価が確定しない場合があります。
また、建設業界では案件1件あたりの単価が大きいことも特徴です。報酬を得るタイミングも、契約時・中間時・工事が完成して引き渡しをする際など、多くの場合で複数回に分けています。
一方で、一般会計では損益を1事業年度ごとに計上します。
建設業界では、引き渡しまでの期間の長さなどといった特徴により、一般会計では対応が難しい取引もあります。たとえば、1事業年度内に工事が終わらず、着工したばかりの年に支出ばかりがかさんでしまう場合などです。
そのため、建設業会計独自の勘定科目を作り、会計処理をおこないます。
完成工事未収入金と完成工事高の違い
完成工事高とは「完成した工事の売上高・収益」のことを指します。一般会計上の勘定科目では「売上高」にあたるものが完成工事高です。
一方で、完成工事未収入金は完成済みの工事の請負代金のうち、未回収のものを指します。
一般会計上の勘定科目に表すと、以下のような違いがあります。
- 完成工事高……売上高
- 完成工事未収入金……売掛金
完成工事未収入金と売掛金の違い
売掛金とは、「売上の対価として将来的に金銭を受け取る権利、売掛債権」のことです。受取手形と同じく、売上債権に分類されます。
ただし売掛金は手形とは違い、証書が発行されるわけではありません。信用がないと成り立たない取引のため、信用取引にも区分されます。
先述のとおり、完成工事未収入金は「建設業における売掛金」であるため、完成工事未収入金と売掛金は似たような内容の勘定科目です。
これらの違いは、以下のとおりです。
- 売掛金……一般会計上の勘定科目
- 完成工事未収入金……建設業会計上の勘定科目
完成工事未収入金と未成工事支出金の違い
未成工事支出金とは、「完成していない工事にかかった費用を計上するための勘定科目」のことを指します。完成工事原価に計上していない費用で、一般会計では仕掛品にあたります。
これらで大きく異なる点は、以下の2点です。
- 対象となるのが未完成の工事か完成した工事か
- 表す金額が工事にかかった費用か売掛金か
なお、建設業の会計には「未成工事受入金」もあります。
未成工事受入金とは「完成していない工事に対して事前に受け取ったお金」のことです。一般会計における前受金にあたり、工事契約が完了していない状態で決算期を迎えたときなどに用います。
建設業の工事進行基準と工事完成基準の違い
建設業界には、工事進行基準と工事完成基準という、異なる会計処理の考え方があります。この2つは、どちらも収益・原価の認識に関する基準です。
工事完成基準とは、建設業会計における実現主義に相当する基準です。実現主義とは、売上が確定したタイミングで売上高を計上することを指します。一般会計では、原則として実現主義を適用します。
工事完成基準を適用した場合は、引き渡しを実施したときが会計処理をするタイミングです。工事が完成するまでは、発生した工事原価を「未成工事支出金」の勘定科目で計上します。
一方で、工事進行基準は例外として用意されている基準です。工事進行基準とは、各種工事の進捗状況を見積もり、その進捗状況をもとに算出した売上高やかかった費用を会計期間ごとに計上するものです。工事進行基準を適用する場合には、工事の進捗度合いに応じて、会計期ごとに完成工事高として計上します。
該当する工事が長期大規模工事の要件に適合する場合には、工事進行基準が適用されます。長期大規模工事に該当する工事の要件は、以下のとおりです。
- 着工から目的物の引き渡し(完成)までに1年以上あること
- 請負の対価が10億円以上であることなど
また、原価回収基準を適用する場合もあります。原価回収基準とは、売上高や費用の金額が確定していなくても計上が可能となる、暫定的な仕訳処理の考え方です。この基準を用いる場合には、工事の進捗状況を合理的に見積もれない状態でも、回収見込み分としてかかった費用を売上計上できます。
原価回収基準は、「新収益認識基準」で新しく設けられた基準です。新収益認識基準とは、売上の認識や財務諸表上に反映するタイミングを定めた会計基準で、上場企業や大企業は2021年4月以後の事業年度から強制適用されています。
完成工事未収入金の仕訳・勘定科目
それでは実際に仕訳の例を解説します。建設業界における仕訳では、先述した収益・原価の認識に関する基準のどちらを適用するのかによって、売上高などを計上するタイミングや金額の記載の仕方が異なるのが特徴です。完成工事未収入金に関する仕訳例を、工事進行基準と工事完成基準、どちらのパターンでの記載方法ともに確認しておきましょう。
工事進行基準による仕訳・勘定科目
工事の進捗度合いに応じて完成工事高などを計上するのが、工事進行基準での会計処理です。
工事進行基準では、工事が未完成で引き渡しを実施していない状態でも、出来高分の完成工事高の会計処理が可能です。この場合には、会計処理をする時点で把握していることから工事の進捗状況を見積もり、適切に計上します。
例として、請負代金が8,000,000円で翌期に完成予定の工事に関する工事進行基準の仕訳例を解説します。
工事の進捗状況の見積もりは、見積総工事原価と当期に計上する未成工事支出金の割合から算出可能です。たとえば、見積総工事原価が5,000,000円で、当期に計上する未成工事支出金が2,500,000円なのであれば、その時点での工事進捗率が50%であると判断できます。
請負代金の8,000,000円に工事進捗率の50%を掛けると、以下のように計算できます。
つまり、工事の進捗率が50%だとわかれば、当期の完成工事高として4,000,000円を計上できます。
この場合の仕訳例は、以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 摘要 | |||
---|---|---|---|---|---|
完成工事未収入金 | 4,000,000円 | 完成工事高 | 4,000,000円 | A工事 |
また、翌期に工事が完成したときに、完成工事未収入金のうち残りの50%分を計上します。
借方 | 貸方 | 摘要 | |||
---|---|---|---|---|---|
完成工事未収入金 | 4,000,000円 | 完成工事高 | 4,000,000円 | A工事 |
工事完成基準による仕訳・勘定科目
一方、工事完成基準による仕訳とは、売上が確定した時点で売上高を計上することです。工事完成基準では、工事が終わるまでは売上高として仕訳しません。工事が完了して引き渡しを実施したときに、工事分の売上高や費用を一括で計上します。
例として、請負代金が8,000,000円で、完成物の引き渡しを実施した工事に関する仕訳を解説します。
当期に引き渡しがあるときにおこなう仕訳の例は、以下のとおりです。
借方 | 貸方 | 摘要 | |||
---|---|---|---|---|---|
完成工事未収入金 | 8,000,000円 | 完成工事高 | 8,000,000円 | A工事 |
また、完成工事未収入金で計上したお金が翌期に入金されたときには、以下のように仕訳します。
借方 | 貸方 | 摘要 | |||
---|---|---|---|---|---|
現金預金 | 8,000,000円 | 完成工事未収入金 | 8,000,000円 | A工事 |
完成工事未収入金の会計処理におけるポイント
完成工事未収入金という勘定科目を用いて会計処理をする際のポイントは、以下のとおりです。
- 工事完成基準と工事進行基準、どちらの基準で認識するかによって会計処理が異なる
- 完成工事未収入金は、基本的に代金が入金されるのが翌期となる場合に使用する
会計処理は、先述のとおり認識する基準によって記載方法が異なります。
たとえば、工事完成基準ならば完成工事未収入金は顧客へ引き渡しが完了したときと、翌期に顧客から工事の代金の支払いがあったときに会計処理します。
建設業界の会計処理は、一般会計とはさまざまな点で異なるのが特徴です。完成工事未収入金以外の勘定科目も一般会計とは違った名称が用いられていて、会計処理の方法も異なります。
一般会計よりも難しいとされており、「建設業経理士」という資格が用意されているほど、違いがあるものです。建設業界の会計処理をする際は、特殊な処理や判断が必要となるシーンがあるなど、複雑で会計処理に時間がかかりやすいといわれています。
なお、建設業経理士とは、取得することで建設業に関する経理・財務のスペシャリストであることを証明できる資格です。
このように処理や判断の難易度が高い建設業会計の業務をおこなう方には、クラウド型の会計ソフトなどをうまく活用することをおすすめします。建設業にあったクラウド型の会計ソフトを用いると、処理がしやすくなって便利でしょう。
完成工事未収入金を理解して正しく会計処理しよう
建設業界の会計処理は一般会計とは異なる部分が多く、一般会計になれている方でも理解しにくい部分があります。
完成工事未収入金も、建設業界独自の会計処理で用いられる勘定科目のひとつです。一般会計における売掛金と同様に、売り上げたものの対価として将来的に金銭を受け取る権利を指します。
建設業界では、受注から完成、製品の引き渡しまでの期間が数年にわたるなど、長い期間の請負契約となるケースが多くあり、その分会計処理が複雑です。完成工事未収入金の仕訳をする際も、適用するのが工事進行基準なのか工事完成基準なのかによって、異なる処理となります。
完成工事未収入金の概要や建設業界の会計処理と一般会計との違い、会計処理の考え方が複数あることなど、さまざまなポイントを押さえて、正しく会計処理できるようになりましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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