- 作成日 : 2024年11月19日
請求書の照合をエクセルで自動化するには?関数やマクロによる方法を解説
エクセルによる請求書照合の自動化は、手作業による負担や時間を軽減し、人的ミスのリスクを減らす効果があります。関数やマクロを活用することで、この照合作業は自動化され、効率化による時間短縮とミス防止の実現が可能です。本記事では、請求書と発注書との照合などをエクセルで自動化する方法について詳しく説明していきます。
目次
そもそも請求書の照合とは?
請求書の照合とは、請求書に記載された情報が実際の取引内容と一致しているかを確認するプロセスで、正確な支払を行うために欠かせない作業です。請求書を受け取った後、取引先名、取引日、商品名、数量、単価、合計金額、支払条件などの情報を、発注書や納品書と突合して確認します。
手作業での請求書照合には、膨大な時間と労力が必要となり、人的ミスが発生しやすいという課題があります。取引量が多いほど作業負担が増大し、不正確な支払が行われるリスクや、書類の紛失や管理の煩雑さも問題点です。
これらの課題を解決するため、多くの企業がエクセルの関数やマクロ、専用システムによる自動化を導入しています。自動化によって、作業効率の向上と正確性の向上を実現し、業務の効率化とリスク低減を図れます。
請求書の照合をエクセルで自動化する方法は?
請求書の照合をエクセルで自動化するには、主に「関数」と「マクロ」の2つの手法があります。関数はシンプルな照合作業に適しており、VLOOKUP関数やIF関数などを使用することで基本的な照合作業を効率化できます。一方、マクロは複雑な処理や完全自動化を実現するのに適しており、膨大なデータの照合や高度な自動化が可能です。
自動化を始める前に、まず、データの準備が必要です。A列に請求書番号、B列に日付、C列に商品名など、請求書データと発注データの書式と配置を統一しましょう。次は、照合のためのキー項目の設定です。A列の請求書番号を使用するか、必要に応じて新たに連番を振り、照合キーとして活用します。
関数やマクロのいずれを選択するかはデータの量や照合作業の複雑さによって変わってきます。少量の取引で単純な照合であれば、関数を活用することで手軽に自動化が可能です。
しかし、大量のデータを扱う場合や、複雑な条件での照合が必要な場面では、マクロを使用することでより効率的かつ柔軟な自動化が可能です。
エクセル関数を使用する方法
請求書照合の自動化において、エクセルの関数を活用することで効率的な業務フローを構築できます。特に請求書データと発注書データの突合作業では、複数の関数を組み合わせることで高精度な照合が可能となります。
ここでは、VLOOKUP関数とIF関数を使って、簡単な突合作業を紹介します。
まず一つのワークシートに、請求データがある「請求一覧」シートと発注データがある「発注一覧」シートを以下のように設定します。赤い枠で囲った部分がデータです。
それぞれのシートは、A列からC列までデータ項目が統一されています。特に、請求書番号と発注番号は照合キーとするために一致させています。
【請求一覧】
【発注一覧】
まず、請求一覧のデータが発注データと合致しているかをVLOOKUP関数で調べます。
【VLOOKUP関数を使う】
ここでは、請求一覧シートのD2セルに発注金額が自動的に表示されるように数式を設定します。使用する数式は以下の通りです。同じ数式をD4セルまでコピーしておきます。
=IFERROR(VLOOKUP(A2,発注一覧!A:C,3,FALSE),0)
この数式は、発注一覧シートの請求書番号(例:INV001)を照合キーとして、対応する3つ目の値(発注一覧のC列にある発注金額)を出力するという意味です。もし該当するデータが見つからない場合には、0(ゼロ)を表示するように設定されています。
この例では、発注一覧のINV001のC2セルには100,000円が入力されており、発注額と請求額は同じです。一方、INV003という発注番号は存在しないため、D4セルには0(ゼロ)が出力されています。この方法を用いることで、データの存在確認を行いながら、必要な情報を簡単に取り出せます。
【IF関数を使う】
次に、請求金額が発注金額と一致しているかを調べる数式をE2セルに設定します。使用する数式は以下の通りです。同じ数式をE4セルまでコピーしておきます。
=IF(IFERROR(D2=C2,FALSE),”一致”,”不一致”)
この数式は、D列で出力された発注金額が請求金額と同じであれば「一致」を表示し、そうでなければ「不一致」を表示することを意味しています。照合キーINV001のE2セルでは請求金額と発注金額が同じため「一致」と表示され、一方、INV003は発注金額がゼロ(発注されていないのに請求されているため)なので、「不一致」と表示されています。
このように、IF関数やVLOOKUP関数を組み合わせることで、特定の条件下で請求金額と発注金額の突合をエクセルで行うことが可能です。
エクセルマクロ(VBA)を使用する方法
請求書照合の作業をさらに効率化するために、エクセルマクロ(VBA)を活用できます。ここでは、マクロを使用するための初期設定から基本的な実装方法までを説明します。
まずは、マクロを使用するために必要な「開発」タブを表示させる設定です。この設定はエクセルの基本機能を利用して簡単に行えます。
1. Excelを起動し、「ファイル」タブをクリックします。
2. 「オプション」を選択します。
3. 左側のメニューから「リボンのユーザー設定」を選択します。
【リボンのユーザー設定画面】
以下の図のように番号順に選択していきます。
4. 右側のチェックボックスリストから「開発」にチェックを入れます。
5. 「OK」をクリックして設定を完了します。
設定が完了すると、リボンに「開発」タブが表示され、マクロの作成や編集が可能になります。
次に、請求書照合用の基本的なマクロコードの例を紹介します。(ここでは、VBAの説明は省略するため、以下のコードはコピーできません)
このマクロを実行する手順は以下の通りです。
1. 「開発」タブから「Visual Basic」をクリックします。
「挿入」メニューから「標準モジュール」を選択します。そこで、表示されたエディタ画面に上記コードをコピー&ペーストします。
保存してエディタを閉じます。
2. マクロの実行は以下の方法で行います。
「開発」タブから「マクロ」ボタンをクリックします。
表示されたダイアログで「請求書照合」を選択して「実行」をクリックします。または、ショートカットキー(Alt + F8)を使用しても実行できます。
マクロの実行が終了すれば、「照合が完了しました」と表示されます。
このように、マクロを使用することで、手動で行っていた照合作業が自動化され、大量のデータでも迅速に処理が可能です。さらに、エラーチェックや条件分岐を追加することで、より高度な照合処理も実現できます。
請求書の照合をエクセルで自動化するメリットは?
請求書の照合をエクセルで自動化することで、業務効率が大幅に向上します。
手作業での確認作業が不要で、数千件の処理でも瞬時に完了し、人的ミスも激減します。さらに、時間短縮によって、直接的なコスト削減に加え、自動化によって空いた人的リソースを高度な分析や取引先との折衝など、より付加価値の高い業務に振り向けることが可能です。
エクセルの自動化は、導入コストも低く、即効性の高い業務改善策として効果を発揮します。
請求書の照合にかかる時間を削減できる
請求書照合の自動化によって、手作業で行っていた確認作業が瞬時に完了します。人的ミスが発生しやすかった数値の突合も、関数やマクロによって正確に処理されるため、確認漏れや入力ミスが大幅に削減されます。
また、一件あたりの照合作業が迅速に終わることで、月次の請求書処理時間を大幅に短縮でき、大量の請求書を処理する企業では、工数削減により大きなコストメリットが期待できるでしょう。
このように、定型作業の自動化によって、スタッフは戦略的な業務や付加価値の高い作業にリソースを振り向けられるため、企業全体の生産性は向上します。特に、これらのメリットは、導入初期からすぐに効果を実感できる点も大きな特徴です。
手入力によるミスを防げる
請求書の照合作業を手作業で行う場合のリスクは、入力ミスや確認漏れなどの様々な人的ミスです。特に大量の請求書を処理する場合や、長時間の作業による疲労が蓄積すると、ミスの発生確率はさらに高まります。
しかし、エクセルの関数やマクロを活用することで、このような人的ミスを防ぐことが可能です。プログラムによる自動処理では、決められたルールに従って正確に照合が行われるため、入力ミスや確認漏れのリスクは大幅に低減されます。
データの正確性が向上することで、誤った支払処理や発注ミスなどの二次的なエラーも防ぐことができ、業務品質の向上につながります。また、正確な処理によって、取引先との信頼関係も維持されるなど、エクセルによる自動化は効率的な経理業務の土台となるのです。
請求書の照合をエクセルで自動化するときの注意点は?
請求書の照合をエクセルで自動化する際には、いくつかの重要な注意点があります。
まず、自動化の基本として、適切な関数の選択とデータの配置・書式の統一が不可欠です。また、導入前には業務フローの整理とルール設定を十分に行う必要があります。運用面では、セキュリティ対策や定期的なメンテナンス体制の構築が、長期的な運用を支えるための重要な要素です。
エクセルファイルは複数人同時に使用できない
エクセルファイルは、複数人が同時に編集することができないため、運用に際しては注意が必要です。
同時編集の制限に対処するためには、データを時間帯や担当者で分割して、各担当者が異なるファイルで作業する方法があります。
また、クラウドサービスを利用する場合は、バージョン管理や変更履歴の追跡に関する明確なルールが必要です。編集権限の設定や同期の取り決めなど、具体的な運用ルールを策定することで、データの整合性を保ちながら効率的な運用を行いましょう。
エラーの解消やメンテナンスに時間がかかる
エクセルの自動化では、参照エラーやマクロのバグなど、様々なトラブルが発生することがあります。これらの問題が発生した場合は、原因を特定し、迅速に対処します。また、定期的なメンテナンス項目として、関数やマクロの動作確認、セキュリティ設定の見直しを行うことが重要です。
トラブルシューティングの際には、データログの確認やテストデータでの検証が有効で、これらの対策によって、予期しない問題にも迅速に対応できます。
さらに、定期的なメンテナンスを確実に実施することで、システムの安定性が保たれ、業務の円滑な運営が実現できます。
マネーフォワード クラウド債権管理なら請求書の照合が簡単に
マネーフォワード クラウド債権管理は、売上・請求から入金処理、消込作業までを効率化するためのクラウド型システムです。このシステムでは、複数の金融機関から自動で入金データを取り込み、AIを使って一括で消込を自動的に実行できます。さらに、AIの学習機能によって、使用するほどに自動照合の精度が向上していく点も大きな特徴です。
この機能は、他に以下のような複雑な消込作業にも対応しています。
- 親会社が複数の子会社分の請求をまとめて入金するケース
- 一度の請求に対して分割して入金が行われる場合
- 複数の得意先にまたがる請求の照合
また、債権情報をクラウド上で一元管理することにより、債権残高年齢表や売掛金残高年齢表といった帳票も、請求や入金のステータスに合わせて自動で更新され、手軽に出力できます。
エクセルの自動化から請求書管理システムへの移行を検討しよう
請求書照合の自動化は、業務効率化の有効な手段です。しかし、エクセルによる請求書の照合の自動化には、同時編集の制限やセキュリティ面での課題があり、特に取引量が多い場合や高度な管理が必要な場合は限界があります。一方で、取引量が少ない場合や、システム導入前の過渡期においては、エクセルでの自動化も一つの選択肢です。
システム化を検討する際は、取引量の増加傾向や管理要件の高度化を判断基準とし、必要な機能の有無、導入コストの妥当性、社内体制の整備状況を十分に確認することが重要です。特に、投資対効果や運用体制の確立については、慎重な検討が必要となります。
今後はAIやクラウド技術の進化により、リアルタイムでの債権管理が可能となり、より戦略的な財務管理が実現できます。請求書照合の自動化は、業務効率化の第一歩に過ぎません。得られたデータを経営に有効活用し、業務効率化に向けた意識改革を進めることで、企業の持続的な成長が見込めます。
自社の規模や業務特性を見極めた上で最適なシステムを選択し、デジタル化への移行を着実に進めていくことが、今後の経理業務における重要なポイントとなるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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