• 更新日 : 2024年8月8日

商標権の会計処理や仕訳方法まとめ

商標権とは商品やサービスに商標となる目印をつけて独占できる権利です。商標権を得ると、自社の商品に使われるデザインや文字などを保護できます。

商標登録をする際に支払った費用は、固定資産として会計処理をします。仕訳は商標権の出願前から更新時まで、都度かかる費用によって処理しなければなりません。今回は、商標権の会計処理と流れごとの仕訳方法を紹介します。

商標権とは

「商標権」とは自社の商品やサービスを保護する効力を持つ権利です。例えば、製菓を扱う企業で自社製品を商標登録した場合、製品に使用される文字やロゴ、お菓子の形状などは商標権で保護される範囲となります。

これらは同一のものだけでなく類似した形や状態も対象となり、他者にコピー商品のようなものを作られることを防げます。そのため、自社製品にブランド力をつけられることが特徴です。

商標権の獲得には特許庁への出願が必要です。出願書類を提出したのち、審査が通れば商標登録が可能になります。

登録料を納付すると商標登録の帳簿に登録され、商標権の効力が発生する仕組みです。また、その後10年間は商標権が続きますが、経過したのちは更新の手続きをしなければなりません。

商標権の会計処理

商標権の会計処理は、原則として勘定科目無形固定資産」で行います。商標登録によって自社のブランド製品を作れると考えると、商標権が資産計上されるのもイメージしやすいでしょう。

また、商標権の償却年数は10年です。商標権の有効期間は10年単位であるため、耐用年数が10年だと考えると分かりやすくなります。

しかし、原則の会計処理方法は20万円以上の費用がかかった場合であり、金額によって処理方法が変動すると理解しておきましょう。ここでは取得金額ごとの会計処理を紹介します。

取得金額が20万円以上の場合

所得金額が20万円以上の場合は「無形固定資産」として費用を計上します。例として、商標登録の登録料に100万円を支払った場合、10年間で減価償却費を計上します。そのため、1年間に10万円を費用として会計処理をすることが一般的です。

また、固定資産として計上するため、「少額減価償却資産の特例」も適用されます。少額減価償却資産の特例は、中小企業を対象とした制度です。

通常少額減価償却資産の制度を受けるには、金額が10万円未満でなければなりません。30万円未満の資産であっても、全額損金算入できるため、節税につながります。

参考:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例|国税庁

取得金額が10万円以上20万円未満の場合

所得金額が10万円以上20万円未満の場合は「一括償却資産」として会計処理をします。一括償却資産とは、資産の取得価額を「3分の1」ずつ償却する方法です。

通常減価償却では耐用年数をかけて取得価額を分割して計上しますが、一括償却資産になれば、3年のうちに費用を損金として計上できます。通常より早く損金算入できるため、税制面でお得だといえるでしょう。

帳簿の勘定科目では一括償却資産を使用しますが、貸借対照表には資産の内容を示す項目を記載するため、商標権であれば具体的な内容を科目名に入れます。

取得金額が10万円未満の場合

取得金額が10万円未満の場合は、全額を「経費」として計上することが可能です。これまでの資産とは異なり、商標登録に必要な経費としてみなされます。

商標登録でかかる経費は、具体的に「商標を作るためのデザイン料」や「出願のために必要な印紙代」などがあります。また、特許を取得している別の会社の商品などと類似していないかを確認するための、事前調査にかかる費用も必要です。

これらの合計金額がすべて経費として計上されると、売上金から差し引くことができ、税金を軽減できます。ただし経費とする場合は、これらの料金がどのように支払われていたか確認するための書類が必須です。領収書見積書などの参考資料は、漏れなくまとめておきましょう。

消費税の取扱

商標権の費用に掛かる消費税は支払い内容によって異なります。消費税が発生するのは、「デザイナーに支払うデザイン料」や「特許事務所で依頼をした際の弁護士費用」が挙げられます。これらはデザインを作るサービスや特許取得のための事前調査などを提供するため、費用は課税対象です。

一方、費用が非課税となるのは「商標出願の際の印紙代」や「商標の登録料」です。これらは国の実施する行政事務にかかる手続きであるため、税金を支払うのと同様の扱いになり、課税対象からは外れます。

このように商標権を得るためにかかる費用の内訳には、課税になるものと非課税になるものがあるため注意が必要です。

商標権の仕訳

商標権を得るためには「出願前」「出願時」「登録時」「更新時」にそれぞれかかる費用を正しく仕訳する必要があります。商標権は取得金額によっても勘定科目が変動するため、会計処理では正しい判断が求められます。

また、課税対象になるかどうかも重要です。複数の費用がかかるため、仕訳で混乱しないようにフェーズごとにどのような会計処理をしなければならないのか理解しておきましょう。

ここからは商標権の仕訳について、具体的な例を挙げながら解説します。

出願前

出願前にかかる費用は、無形固定資産の取得価額として計上します。消費税の取り扱いでも紹介したように、出願前にかかる費用として挙げられるものは「デザイン料」や弁護士に依頼する「調査費用・手数料」です。

これらは費用を支払ってデザインや調査内容などの対価を受け取るものと考えるため、課税対象になります。また、基本的には取得価額として計上しますが、取得価額が10万円未満だった場合(中小企業だと30万円未満)は、少額減価償却資産となり損金へ算入できます。具体的な仕訳例は、以下の通りです。

  • 商標デザイン料としてデザイナーに20万円を現金で支払った
  • 商標調査料として特許事務所の弁理士に5万円を現金で支払った
借方
貸方
摘要
商標権
250,000円
現金預金
275,000円
商標デザイン料
商標調査料
仮払消費税等
25,000円

出願時

出願時にかかる費用は、特許庁で購入する商標出願印紙代や電子化手数料、出願手数料などです。出願前の費用とは異なり、手続きを進めるために必要な出費として扱われるため、会計処理では直接「費用」として計上します。

具体的には、特許庁に支払う印紙代は不課税対象です。印紙代は勘定科目「租税公課」を使用します。また、出願の際の手数料も基本的には課税対象ではありません。

しかし、弁護士に出願手続きを代理で依頼する場合は消費税が発生するため、会計処理で忘れずに処理する必要があります。具体的な仕訳例は、以下の通りです。

  • 商標出願時に発生した印紙代として2万円を現金で支払った
  • 弁理士に支払う出願手数料として2万5,000円を現金で支払った
借方
貸方
摘要
租税公課
20,000円
現金預金
47,500円
印紙代
支払手数料
25,000円
出願手数料
仮払消費税等
2,500円

登録時

出願が完了し、登録査定を受け取ったら登録料の支払いが必要です。登録料は出願時と同様に、特許庁の商標登録印紙を購入します。

支払い方法は、5年分を2回に分けて支払う「分割納付」と「一括納付」の2パターンから選択可能です。いずれも「租税公課」として会計処理をして損金として扱います。

また、弁護士に商標権の出願を依頼した場合は、成功報酬を費用として計上します。成功報酬は基本的に取得価額として計上しますが、金額が10万円未満であれば少額減価償却資産として損金算入も可能です。具体的な仕訳例は、以下の通りです。

  • 商標登録時に発生した印紙代として1万円を現金で支払った
  • 弁理士に支払う商標登録の手数料として3万円を現金で支払った
借方
貸方
摘要
租税公課
10,000円
現金預金
43,000円
印紙代
支払手数料
30,000円
商標登録の手数料
仮払消費税等
3,000円

更新時

商標権を継続使用するには、10年ごとに更新が必要です。更新手続きには、更新登録のための印紙代や更新手数料を支払わなければなりません。これらの費用はこれまでの会計処理と同様の勘定科目で手続きをします。

取得した商標権にかかる金額は、無形固定資産として1年ごとに償却処理が必要です。法定耐用年数を10年にして、毎年支払う金額を計上しましょう。

また前述の通り、商標権の金額によっては一括償却資産として扱われる可能性があります。償却する金額が変動するため、自社の商標権がどのように扱われるのかを確認しましょう。

具体的な仕訳例は、以下の通りです。

  • 当期首に100万円で取得した商標権を法定耐用年数10年間で償却する
  • 決算にあたり、商標権10万円を償却した
借方
貸方
商標権償却
100,000円
商標権
100,000円
  • 新登録の印紙代として2万円を現金で支払った
  • 更新登録手数料として弁理士に3万円を現金で支払った
借方
貸方
摘要
租税公課
20,000円
現金預金
53,000円
印紙代
支払手数料
30,000円
更新登録手数料
仮払消費税等
3,000円

商標権の使用時の会計処理と仕訳

他社が保有する商標権を自社でも利用できる許諾を得た場合、使用料としてロイヤリティ(ライセンス料)を支払います。例えば、親会社である企業から同一のロゴを使って商品の販売もしてもよいという許諾を得た場合、商標権を利用する代わりにロイヤリティが発生します。

ロイヤリティの会計処理は「支払手数料」や「技術利用料」として扱われることが一般的です。しかし、利用料の支払いが1年を超える場合には「繰延資産」として計上しなければなりません。

また、親会社の商標権を使うのではなく、共同で商標権の登録をした場合は、お互いに無形固定資産として処理が必要です。

権利金等として一時に支払う場合

一時的にロイヤリティを支払い、権利金として計上する場合は、「税務上の繰延資産」として計上します。「繰延資産」は、支払いに1年以上を要し、契約期間で数年にわたり償却するものです。

原則5年間の契約期間のうちに償却されますが、契約内容によっては期間が長くなる可能性があるため確認しておきましょう。

商標権を持つ商品を長く販売すれば収益を得られるという点で、ロイヤリティは資産計上されると考えるとわかりやすいでしょう。勘定科目は「長期前払費用」として会計処理をします。

権利金等での一時金ではなく毎月支払う場合

権利金としての支払いではなく、毎月ロイヤリティを支払い続ける場合は、資産計上ではなく「費用」として取り扱います。一定期間で毎月同じ金額を支払ったうえで商標権を得られる契約では、一括支払いはありません。

そのため、月ごとの「損金」として会計処理をします。支出分を月ごとに売上金から差し引いて処理が可能です。

費用を会計処理する場合の勘定科目は、具体的な項目名を入れます。一般的には「ロイヤリティ」「支払手数料」といった勘定科目が使われます。

消費税の取り扱い

他社の商標権を使用する際は、原則として消費税が課税されます。日本の消費税がかかる取引の中には、事業者が他社から対価を得て行う資産の譲渡なども定められています。そのため、国内で実施される商標権利用のために支払われるロイヤリティには、消費税の支払いが必要です。

ただし、取引が外国の企業が相手になる場合や、事業同士ではなく個人と事業における契約の場合、非課税対象になる可能性があります。詳しい条件や消費税取引については、専門家に相談して確認しておくことをおすすめします。

源泉徴収

商標権の使用許諾を得るために、外国の会社にロイヤリティを支払う場合には源泉徴収が必要です。具体的には、日本の税務署に源泉徴収税の納税をして、外国の企業に納付します。

このような場合には、納税前に「租税条約」の適用を受けるための手続きをする必要があります。租税条約は国を超えた取引をする際に、各国で二重に課税が発生しないようにするための条約です。

基本的には日本側で書類を作成し、相手の企業が署名をして提出します。源泉徴収税を納税していないと、滞納税や不納付加算税などのペナルティを受ける可能性があるため注意しましょう。

仕訳例

ここでは具体的にロイヤリティを支払った際の仕訳例を紹介します。

【支払時】

  • 新製品を自社でも扱えるライセンス契約を締結し、A社からB社へ1年間分50万円の一括払いを期首に行った
  • ライセンス契約期間は5年間とする
  • 国内事業者間の契約で、消費税率は10%とする
借方
貸方
摘要
支払手数料
500,000円
現金預金
550,000円
ライセンス費用
仮払消費税等
50,000円

【年度の決算時】

  • 当期首に50万円で取得した商標権を法定耐用年数5年間で償却する
  • 決算にあたり、長期前払費用(ロイヤリティ)10万円を償却した

借方
貸方
長期前払費用償却
100,000円
長期前払費用
100,000円
column_widths=”25%|25%|25%|25%|”

商標権の会計処理は仕組みの理解が必須

商標権は企業のブランド力を持てる独占排他権であり、自社製品の文字やデザイン、計上といった、さまざまなものに効力が発生します。ただし、手続きの際は手数料や印紙代を支払わなければならず、それぞれどのように仕訳をするのか理解しておく必要があります。

会計処理や消費税の課税についても複雑なため、まずは正しい知識を得ることが大切です。また、他社の商標権を利用する場合の会計処理や仕組みも合わせて確認しておくと、スムーズに調整できるでしょう。

よくある質問

商標権の会計処理のポイントは?

商標権の登録に要する経理処理では「固定資産」として計上されるものと「費用」として計上されるものが混在する点に注意が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。

商標権の仕訳のポイントは?

商標権の仕訳では内容によって消費税の扱いが異なる点に注意が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事

会計の注目テーマ