• 作成日 : 2024年9月30日

使用権資産とは?概要、会計処理、適用される取引を解説

昨今のビジネス環境において企業が持つ資産の種類は多岐にわたり、無形資産も重要な役割を果たしています。そしてその中でも、使用権資産は企業にとって重要な財産の一つです。使用権資産は特にリース契約に関する会計処理で用いられる勘定科目です。

本記事では、使用権資産の概要から会計処理までを詳しく解説します。

使用権資産とは

使用権資産とはリース期間中に資産を借りる側(借手)が原資産を使用する権利を持つ資産のことです。IFRSリース基準(IFRS第16号)では、リース負債とともに貸借対照表に計上することが求められています。

使用権資産を用いた会計処理の概要

現行のリース基準では、リース取引は2つに分類できます。

具体的には、フルペイアウト(リース物件を使用することで実質的な利益を享受し、その使用に伴う実質的なコストを負担すること)や解約不能期間に基づいて、ファイナンスリース(中途解約不能かつフルペイアウトのリース)とオペレーティングリース(ファイナンスリース以外のリース)に分類されています。

ファイナンスリースはオンバランスで処理される一方、オペレーティングリースはオフバランスで処理されるのが基本です。(ファイナンスリースが重要性に欠ける場合で、リース料総額が300万円未満の取引については、オフバランス処理が認められることもあります。)

これに対して、新リース会計基準案では、契約において特定の資産が指定され、その資産の使用権が一定期間、対価と引き換えに移転される契約、またはその契約の一部が「リース」と定義されています。そして原則として、リース取引は全てオンバランスでの会計処理が求められることになります(使用権モデル)。

例えば不動産の賃貸借契約では、借手が不動産の使用権を持つ場合、その契約はリースとして扱われ、オンバランスでの会計処理が必要です。

新リース会計基準案の適用について

新しいリース会計基準案の具体的な適用開始日は明確には示されていませんが、次のように案内されています。

「本会計基準は、20XX 年 4 月 1 日[公表から 2 年程度経過した日を想定している。]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。」

なお2026年から適用予定だった新しいリース会計基準は、2024年8月時点で関係機関と企業との調整が難航しているため、適用開始が2027年以降に延期される見込みです。

改正の目的

リース会計基準改正の主な目的は、日本の会計基準を国際財務報告基準(IFRS)や米国会計基準に合わせることです。

海外基準に合わせる理由としては、例えば日本企業の決算書を海外の投資家が見た場合、会計基準の違いによって分析が困難になるという課題を解決するためです。

世界的に広く採用されている基準に準じることで、海外の投資家が日本企業に対してより投資しやすくなることが期待されています。

リース取引に該当する取引

新リース会計基準においてある取引がリース取引に分類されるかどうかは、資産が明確に特定されているかどうか、およびその資産の使用権が貸手から借手に移転しているかどうかによって判断されます。

この改正は、特に大型設備や高価な資産を借りている場合に影響が大きいと考えられます。現行基準ではオペレーティングリースとしてオフバランス処理していた取引も、オンバランス処理が必要となるからです。

公開されているリースに関する会計基準の適用指針(案)の設例では、リース取引の例として以下のようなものが挙げられています。

  • 鉄道車両
  • 小売店舗区画
  • ガス貯蔵タンク
  • ネットワークサービス
  • 電力

現行リース会計基準の問題点

もともとリース取引とは建物や設備などを保有せずに長期間借り受け、毎月その賃料を支払う契約のことを指します。これに関する会計処理には特定のルールがあります。

日本では1993年にリース取引に係わる会計基準が成立し、その後、海外の会計基準との整合性を図るために見直され、2019年に改訂された基準が現行の基準となっています。

そして2023年5月2日、企業会計基準委員会は「企業会計基準公開草案第73号 リースに関する会計基準(案)」を公表しました。この新たな基準案は、現行基準を改正し、国際財務報告基準(IFRS)との整合性をより一層高めるものです。

現行の日本基準は海外の会計基準との整合性を考慮していますが、一部には日本独自の基準が残っています。

例えば先述のとおり、日本では一部のリース取引をオフバランス処理する例外的な規定があります。日本では多くのリース取引についてこの例外規定を利用し、リース料を費用処理する会計処理が行われており、これが国際財務報告基準との乖離を招いています。

国際基準との乖離が問題となっている状況の中で今回の新リース会計基準が強制適用されれば、日本の会計基準を国際基準に合わせることにつながるでしょう。

参考:企業会計基準委員会(ASBJ)「2023年5月 企業会計基準公開草案第73号 リースに関する会計基準(案)

資産を借りる側の会計処理では使用権資産を用いる

新リース会計基準の大きな変更点の一つは、オペレーティングリースにおいてもオンバランス処理が必要となることです。

つまり新リース会計基準が導入されると、ファイナンスリースとオペレーティングリースの区別がなくなり、原則すべてのリース取引でオンバランスでの会計処理を必要とすることで、資産と負債の計上が求められるようになります。

使用権資産の取得原価

使用権資産の取得原価はリース開始日のリース負債の計上額に、リース開始日までに支払ったリース料と付随費用を合算した額となります。

さらに、本公開草案では、資産除去債務を負債として計上する場合、関連する有形固定資産が使用権資産である場合には、当該負債の計上額と同じ金額を使用権資産の帳簿価額に足す提案がなされています。

不動産リースの実務では、借手は借りた不動産を退去時に原状回復して貸手に返還する義務がある場合があります。このような原状回復義務がある場合、借手は資産除去債務を計上し、その額を使用権資産に加算することが求められます。

リース期間

新リース会計基準案では、リース期間を決定する際、企業の合理的な判断に基づいて資産および負債を計上することが求められています。これは、リースの延長や解約オプションの対象期間を含めることで、財務諸表の利用者に有用な情報を提供するためです。

具体的には、借手のリース期間は、解約不能期間に加えて借手が合理的に確実に行使すると思われるリースの延長オプションの期間や、逆に合理的に確実に行使しないと考えられるリースの解約オプションの期間も含めて決定することが提案されています。

リース期間の決定は、貸借対照表に計上する資産・負債の額に直接的な影響を及ぼすため、重要な要素となります。

リース期間の決定においては、オプションの行使可能性の評価、つまり、そのオプションを行使するかしないかが「合理的に確実」であるかどうかの判断が重要な検討ポイントになります。

なお、新リース会計基準案については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、併せてご参照ください。

まとめ

使用権資産は、今般の会計基準変更によって決算書にどのように表示されるかが大きく変わるため、適切な管理と理解が求められます。使用権資産の正確な認識と評価は、企業の財務健全性を把握し、資産の有効活用を図る上で不可欠であるといえます。

企業においては、会計基準の変化に対応するため、使用権資産の取り扱いに関する適切な会計処理が今後必要になるといえるでしょう。


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