- 作成日 : 2024年10月17日
合同会社には決算公告の義務はない?あえて行うメリットや法定公告との違いも解説
決算公告とは、決算情報の開示を株式会社に義務付ける制度です。合同会社には決算公告の義務はありません。一方、義務化されていない合同会社であっても、決算公告を行うことで経営上のメリットを享受できる場合が存在します。
本記事では、合同会社が決算公告を行うメリットや法定公告との違いを詳しく解説します。
目次
合同会社には決算公告の義務がない
株式会社と異なり、合同会社には決算公告の義務がありません(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第28条)。
合同会社とは、会社の所有者たる出資者(社員)と経営者が同一の会社を指します。株式会社でいうところの「株主」と「経営者」がイコールであるのが合同会社の特徴です。そのため、合同会社では株式会社ほど株主保護は重視されません。
一方、合同会社の出資者(社員)は全員が「有限責任社員」であるため、株式会社と同様に債権者保護が重要視されます。決算公告の義務は課されていないものの、後述するような「法定公告」の中には、合同会社においても債権者保護を目的として義務化されているケースもあるため注意が必要です。
参考:e-Gov 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第二十八条
そもそも決算公告とは
「決算公告」とは、原則としてすべての株式会社が定時株主総会後に遅滞なく計算書類を公に知らせることを義務付ける公告(会社の重要決定事項を広く世間に情報開示する手段)を指します。
決算公告で開示が必要となる計算書類とは、毎年開催される定時株主総会において承認された貸借対照表(資本金5億円以上または負債200億円以上の大会社は貸借契約書および損益計算書)の内容、またはその要旨とされています(会社法第440条)。
決算公告の目的は、会社の決算情報を開示することで取引の安全を確保することです。特に株式会社においては、株主と債権者保護が重視されているため、会社法において決算公告が義務付けられています。
なお、適切な公告を怠った場合や不正な手段で公告を行った場合、100万円以下の罰金が課せられる旨、会社法において規定されているため注意しましょう(会社法第976条2号)。
参考:e-Gov 会社法第四百四十四条、e-Gov 会社法第九百七十六条二号
決算公告と法定公告の違い
法定公告とは、会社の合併や分割、資本金などの減少、解散など、法に基づき義務化されている会社の重要決定事項に関する公告を指します。法定公告のうち債権者保護手続きが必要となる場合、合同会社にも公告が義務付けられており、必ず「官報」への掲載が必要です。
一方、決算公告は会社の決算に関する情報開示を目的とした公告です。決算公告に代表されるような、債権者保護手続が不要な場合については、株式会社と異なり合同会社には公告の義務はありません。
合同会社があえて決算公告を行うメリット
決算公告の義務がない合同会社において、あえて決算公告を行うメリットは何なのでしょうか。ここでは、合同会社があえて決算公告を行うことの具体的なメリットを2つご紹介します。
情報開示により信用度がアップする
合同会社は2006年から導入された会社組織形態で、歴史が浅くまだ採用数も少ないため、株式会社と比較すると社会的信用度が低く見られがちです。
そのため、決算公告を通じて会社情報を積極的に開示することは、財務状況の安定性をアピールすることにつながり、対外的な信用を高める効果が期待できます。
会社の社会的信用度が向上すれば、取引の安全性の観点からも利害関係者との取引が円滑になるメリットがあります。
資金調達が円滑になる
上述したように、決算公告による経営状況の透明化は会社の社会的信用度の向上につながります。これは、資金調達の面でも有利に働くことが期待できるでしょう。
すなわち、決算情報が定期的に公に開示されることは、金融機関からみると会社の財務の健全性や事業の将来性を正しく測定する手段として評価され、信用力の向上に貢献するといえるでしょう。
金融機関からの信用力向上は、融資を受けやすい環境をもたらします。株式会社と異なり資金調達手段が限られる合同会社において、融資を受ける環境を日ごろから整えておくことは、安定経営にプラス効果を与えます。
公告の方法
公告方法は会社法第939条1項において、以下の3つのいずれかを定款で定める旨が規定されています。
- 官報に掲載する方法
- 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法
- 電子公告による方法
仮に会社の定款において公告方法の定めがない場合、「官報」が自動的に選択されることとなります(会社法第 939 条4項)。
なお、公告方法を変更する場合には、会社の定款変更手続きが必要です。合同会社における定款変更には、社員全員の同意が必要となる点にもあらかじめ注意しましょう(会社法第637条)。
ここでは、3つの公告方法について解説します。
参考:e-Gov 会社法第九百三十九条一項、e-Gov 会社法第九百三十九条四項、e-Gov 会社法第六百三十七条
官報
官報とは国が発行する機関紙で、法律や政令の制定、改正情報や公告などが掲載されています。紙媒体を官報販売所で購入できるだけでなく、インターネットでの閲覧も可能です。
官報のメリットは、貸借対照表や損益計算書の要旨のみの掲載で足りる点と掲載申し込みの手続きが簡単である点です。一方、掲載費用がかかる点や掲載までに時間を要する点がデメリットといえるでしょう。
官報への公告の掲載方法や費用、掲載までの期間は以下を参考にしてください。
- 掲載方法:官報販売所の専用Webフォームから申し込み
- 掲載費用:7万円〜15万円前後
- 掲載までの期間:約2週間(10営業日程度)
日刊新聞紙
公告を日刊新聞紙へ掲載する場合、新聞社から掲載枠を購入します。日刊新聞紙とは、時事に関する事項を掲載する新聞のことで、全国紙、地方紙を問わず選択できます(スポーツ新聞は不可)。
日刊新聞紙のメリットは、官報と同様、貸借対照表や損益計算書の要旨のみの掲載で足りる点です。さらに、法定公告のうち債権者保護手続として必要な各債権者への催告が、官報と併用することで不要となる点です。一方のデメリットは、他の2つの公告方法と比較して掲載コストが高額となる点です。
日刊新聞紙への公告の掲載方法や費用、掲載までの期間は以下を参考にしてください。
- 掲載方法:新聞社や広告代理店へ申し込み
- 掲載費用:高額(数十万〜数百万円)
- 掲載までの期間:約1~2週間程度(各掲載紙による)
電子公告
電子公告とは、自社ホームページや外部の信用調査機関などのWebサイトへ公告を掲載する方法です。
電子公告の最大のメリットは、インターネット上で完結するため上述した2つの公告方法よりも、簡易的かつ低コストで掲載できる点です。さらに日刊新聞紙と同様に、法定公告のうち債権者保護手続として必要な各債権者への催告が、官報と併用することで不要となります。
一方で、電子公告には以下のような注意点があります。
<電子公告の注意点>
- 電子公告を選択する場合、定款に定めるだけでなくあらかじめ掲載先URLの登記が必要
- 法定公告を電子公告で行う場合、電子公告調査機関の調査とその調査費用が必要(決算公告の場合は不要)
- 官報や日刊新聞紙と異なり、電子公告では貸借対照表(大会社においては貸借対照表および損益計算書)の全文掲載が必須(要旨のみ掲載は不可)
- 公告掲載期間は、過去5年間分の継続掲載が必要
電子公告の掲載方法や費用、掲載までの期間は以下を参考にしてください。
- 掲載方法:電子公告用のウェブページを作成し、URLを法務局へ登記
- 掲載費用:原則不要(別途、サーバー代などや電子公告調査機関の調査費用が必要)
- 掲載までの期間:短期(自社で調整可能)
決算公告を行っている合同会社
本章では日本国内において合同会社の会社組織形態を採用し、官報などにおいて決算公告を行っている企業の例をご紹介します。
これまで合同会社は小規模で閉鎖的な会社形態と捉えられていましたが、近年では世界的な大企業の日本法人でも合同会社を選択するケースが増えています。
メルセデス・ベンツ日本合同会社
メルセデス・ベンツ日本合同会社は、ドイツの自動車メーカー「メルセデス・ベンツ」の日本法人です。
日本ヒューレット・パッカード合同会社
日本ヒューレット・パッカード合同会社は、hp(エイチピー)のブランドで知られるアメリカのコンピュータメーカー「ヒューレット・パッカード」の日本法人です。
合同会社が公告を行わなければいけないケース
毎年の決算公告が不要な合同会社ですが、公告が義務付けられている場合があります。
合同会社であっても公告が義務付けられるケースとは、法定公告のうち「債権者保護手続き」が必要となる場合です。さらに注意が必要なのは、債権者保護を目的として法定公告を行う場合には、定款においてどの公告方法を選択していたとしても、必ず「官報」による公告も必要とされる点です。
以下に債権者保護を目的とした法定公告が必要となるケースを解説します。
合併公告
合併公告とは、2社以上の複数会社がまとまって1つの会社になる「合併」の際に必要となる公告です。
合併には「吸収合併」と「新設合併」の2つの方式が存在します。債権者保護の観点から、いずれの場合も「官報」による公告が必須と定められています(会社法第789条2項、第799条2項、第810条2項)。
参考:e-Gov 会社法第七百八十九条二項、e-Gov 会社法第七百九十九条二項、e-Gov 会社法第八百十条二項
分割公告
分割公告とは、会社の全部またはその一部の事業を切り離し、別会社へ承継させる「会社分割」の際に必要となる公告です。
会社分割には、「吸収分割」と「新設分割」の2つの方式が存在します。また、2社以上の会社が事業を譲り渡す新設分割を「共同新設分割」と呼びます。吸収分割、新設分割、共同新設分割のいずれの場合も、債権者保護の観点から「官報」による公告が必須と定められています(会社法第2条29号および30号、第789条2項、第799条2項)。
参考:e-Gov 会社法第二条二十九号及び三十号、e-Gov 会社法第七百八十九条二項、e-Gov 会社法第七百九十九条二項
組織変更公告
組織変更(会社法第2条26号)とは、株式会社が合名会社、合資会社または合同会社となること、もしくは合名会社、合資会社または合同会社が株式会社となるような組織変更の際に必要な公告です。
組織変更の場合も、債権者保護手続きの一環として「官報」による公告が必須と定められています(会社法第779条2項)。
参考:e-Gov 会社法第二条二十六号、e-Gov 会社法第七百七十九条二項
資本金の額の減少公告
合同会社において出資の払い戻しや持分の払い戻しによる資本金の額の減少(減資)が行われる場合には、債権者保護手続きが必要です(会社法第627条)。
そのため、資本金の額の減少が行われる場合には、「官報」による公告が必須とされています(会社法第627条2項)。
参考:e-Gov 会社法第六百二十七条、e-Gov 会社法第六百二十七条二項
解散公告
解散公告とは、事業終了にともない会社の法人格を消滅させる会社の解散の際に必要となる公告です。解散決議が決定された後、会社の清算手続きが開始されますが、その手続きの一環として解散公告が必要とされています。
解散公告の場合、債権者保護の観点から「官報」による公告が必須と定められています(会社法第660条)。
決算公告のメリットを活用して社会的信頼性を高めよう
法制度において、合同会社には決算公告は義務付けられていません。また、手続きの手間や掲載コストが必要となるため、決算公告を実施していない会社が大多数であることは事実でしょう。
しかし、決算公告による積極的な情報開示は、財務状況の透明化を通じて会社の社会的信頼性を向上させる大きなメリットがあります。
例えば、利害関係者に対する信頼向上は新規取引獲得や取引の円滑化につながったり、金融機関からの信用力向上は資金調達に有利に働いたりするなど、経営上のメリットが大きい点は見逃せません。
特に社会的な認知度や信頼性が低く見られがちな合同会社にとって、決算公告による信頼性の向上は、経営にプラスの効果をもたらす有効な手段となるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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