- 作成日 : 2023年3月31日
収益認識基準とは?適用範囲や導入時の注意点を解説

収益認識に関する会計基準(収益認識基準)が2021年4月から適用されるようになりました。原則として全ての企業が対象となっていますが、中小企業に関しては、従来通りの会計処理を継続してもよいとされています。この記事では、収益認識基準の内容と適用範囲・対象、導入にあたっての注意点を解説します。
目次
収益認識基準とは
収益認識基準とは「売上をどのように認識し、どのタイミングで財務諸表に反映するか」についての会計基準のことです。2021年4月から始まる会計年度より、上場企業や大会社に強制適用となりました。
収益認識基準では「契約の識別」「履行義務の識別」「取引価格の算定」「履行義務への取引価格の配分」「収益の認識」の5つのステップを経て検討した金額とタイミングにより、売上が計上されます。詳しくは後述していきます。
収益認識基準の導入背景
ここからは、収益認識基準の導入の背景を解説していきます。従来の日本では、収益認識の包括的な基準が定められていませんでした。定められていたのは「実現主義」の原則に従うということだけです。
「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る」
(企業会計原則 – 第二、三)
収益の認識には、大きく分けて「現金主義」「発生主義」「実現主義」の3つの考え方があります。
- 現金主義:現金を受け取った時点で収益を認識し、収益・費用を計上する考え方
- 発生主義:取引が発生した時点で収益を認識し、収益・費用を計上する考え方
- 実現主義:商品やサービスの提供が行われ、現金や売掛金・受取手形などを受け取った時点で収益を認識し、収益・費用を計上する考え方
上述の通り、従来の日本では、収益認識を実現主義で行うことは定められていました。しかし実現主義には、より厳密な基準である「出荷基準」「引渡基準」「検収基準」の3つがあります。そのため、企業によって採用する基準が異なっていたのです。
企業の事業内容が多様で複雑になっている近年、企業によって収益認識が異なることになる実現主義だけでは、混乱を招く可能性が出てきました。
また、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)が共同で、収益認識に関する包括的な会計基準を開発するという出来事もありました。そこで、日本の収益認識基準も、国際的な会計基準に合わせて統一することとなったのです。
収益認識基準の5つのステップ
収益認識基準では前述の通り、売上は5つのステップを経て検討した金額とタイミングにより計上されます。この5つのステップについて解説します。
ステップ1:契約の識別
最初に、商品やサービスの提供について、顧客とどのような契約をしたのかを確認します。ここで契約とは、正式な書面で取り交わされたものに限りません。口約束や取引慣行なども当てはまります。
ステップ2:履行義務の識別
次に、その契約の内容を顧客に対する「履行義務」に分解します。この履行義務は、これまでの日本の会計基準にはなかった、新しい収益認識基準で初めて登場する概念です。
例えば、契約の内容が「商品を販売し、その保守サービスを行う」というものだったとしましょう。その場合には、履行義務は「商品の販売」と「保守サービス」の2つになります。契約内容を一体のものと見るのでなく、個別の履行義務に分解するのが収益認識基準の特徴です。
ステップ3:取引価格の算定
契約の内容を確認し、履行義務に分解できたら、次に契約全体の取引価格を算定します。ここで注意が必要なのは、ポイントやクーポンを顧客に提供する場合です。
従来の会計基準では、ポイントやクーポンの有無にかかわらず、商品を販売すればその売上の全額を計上できました。しかし、収益認識基準では、ポイントやクーポンの提供額を差し引かなければなりません。
ステップ4:履行義務への取引価格の配分
契約全体の取引価格を算定したら、次にステップ2で識別した履行義務のそれぞれに、取引価格を配分します。
上の例で「商品販売と保守サービス」の取引価格が2万円だったとしましょう。それを、商品販売で1万円、保守サービスで1万円のように、履行義務ごとに価格設定するのです。このように収益認識基準では、契約内容も取引価格も履行義務ごとに分解するのがポイントとなっています。
ステップ5:収益の認識
ここまでで、ようやく収益の認識ができる準備が整いました。収益は、契約に含まれるそれぞれの履行義務が果たされた時点で認識されます。
ここでも上の「商品販売と保守サービス」の例を取り上げてみましょう。まず商品販売は、商品が顧客に引き渡されれば履行義務が果たされます。そのため、収益は商品の引き渡しをもって認識されることになります。
それに対して保守サービスは、一定の契約期間にわたって継続しながら、徐々に履行義務を果たしていくことになります。簡単のため、保守サービスが当期初めから翌期末までの2年間だったとしましょう。その場合には、保守サービス料1万円は、当期で5,000円、翌期で5,000円のように、期間を分けて計上します。
収益認識基準の適用範囲と対象
収益認識基準は、顧客との契約から生じる収益の会計処理・開示に適用されます。ただし、以下の取引に関しては適用されません。
- 「金融商品会計基準」の範囲に含まれる取引
- 「リース会計基準」の範囲に含まれる取引
- 保険法による定義を満たす保険取引
- 同業他社との交換取引
- 金融商品の組成や取得で受け取る手数料
- 「不動産流動化実務指針」の対象となる不動産の譲渡
以上のケースに収益認識基準が適用されないのは、他の会計基準や法令が優先される、または「顧客との契約から生じる収益」ではないと見なされることが理由です。
なお、上場企業・大企業以外の中小企業(監査対象法人以外の企業)については、収益認識基準を適用せず、これまで通り企業会計原則にのっとった会計処理を行ってもよいとされています。
収益認識基準導入時の注意点
収益認識基準を導入する際の注意点は、以下の通りです。
現状を把握する
収益認識基準の導入にあたっては、まず自社の商品・サービスの契約内容を精査し、履行義務を整理しましょう。何がどのように変更になるのか、しっかりと把握することが重要です。
対象を絞り込む
収益認識基準は、必ずしも全ての取引に適用する必要はありません。グループ内に複数の会社がある場合、あるいは会社内に複数の商流がある場合には、各部門の負担なども考慮しながら重要度の高い取引を絞り込み、優先的に導入しましょう。
システムへの影響を分析する
収益認識基準の導入で、各種システムの変更が必要となってくる場合があります。例えば、売上の計上額と顧客への請求額が異なってくる場合などには、会計システムの変更が必要となるでしょう。導入によりどのようなシステム変更を行わなければならないのか、問題点やリスクを洗い出すことが大切です。
契約への影響を検討する
収益認識基準の導入で契約内容の変更が必要となるケースもあります。契約内容への影響もしっかり検討しておきましょう。
影響を洗い出して収益認識基準を導入しよう
収益認識基準とは、売上をどのように認識し、どのタイミングで財務諸表に反映するかについての統一的な基準です。契約内容を履行義務に分解し、履行義務が果たされた時点で売上を計上していくことになります。
収益認識基準の導入は、変更による混乱が起きないよう、システムや契約への影響を洗い出し、場合によっては適用対象を絞り込んで進めていきましょう。

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株式会社久松農園 久松 達央 様
よくある質問
収益認識基準とは?
売上をどのように認識し、どのタイミングで財務諸表に反映するかについての新しい基準です。5つのステップを経て検討した金額とタイミングにより売上を計上します。詳しくはこちらをご覧ください。
収益認識基準の5つのステップとは?
「契約の識別」「履行義務の識別」「取引価格の算定」「履行義務への取引価格の配分」「収益の認識」の5つです。詳しくはこちらをご覧ください。
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