- 更新日 : 2025年4月30日
車両売却の仕訳方法は?法人・個人のやり方、確定申告を解説
車両売却に伴う会計処理と税務申告は、その主体が法人(株式会社や合同会社など)であるか個人事業主であるかによって、適用される会計原則や税法が異なるため、複雑さを伴います。正確な会計処理と適切な税務申告を行うためには、法人と個人のそれぞれのルールを理解することが不可欠です。
本記事では、法人や個人の仕訳例、税務申告の方法、そして売却価額、帳簿価額、売却費用などが会計処理や確定申告に与える影響について網羅的に解説します。
目次
法人の車両売却時の会計処理
法人において、事業に使用する車両は、会計上「車両運搬具」等として固定資産に分類されるのが一般的です。これは、車両が取得価額からみて固定資産に区分され、長期間にわたり事業活動に貢献する資産であるためです。
車両運搬具は、時の経過や使用によってその価値が減少していくため、取得価額を耐用年数に応じて費用化する減価償却の対象となります 。
耐用年数は、車両の種類や使用目的によって定められており、たとえば運送用や貸自動車などに該当しない普通乗用車であれば通常6年、軽自動車であれば4年とされています 。
参考:No.2100 減価償却のあらまし|国税庁、「主な減価償却資産の耐用年数表」
この減価償却により、車両の帳簿上の価値(帳簿価額)は年々減少していきます 。したがって、車両を売却する際には、その時点での帳簿価額を正確に把握することが、売却損益を計算する上で不可欠となります。
また、車両の購入時に支払うリサイクル預託金は、「預託金」や「預け金」などという資産科目で車両本体とは別に計上され、減価償却の対象とはなりません 。これは、リサイクル預託金が将来的に車両を廃棄する際に返還される性質を持つためです 。車両売却時には、この預託金の取り扱いも考慮する必要があります。
法人の車両売却時の仕訳
法人が車両を売却した際の仕訳方法として、減価償却における直接法と間接法では異なります。
直接法での仕訳例
直接法は、減価償却費を直接、車両運搬具(車両運搬具)の勘定科目から減額していく方法です。
売却益が発生した場合(税込)
売却価額が帳簿価額を上回った場合、利益が発生します。
【帳簿価額120万円の車両を150万円で売却し、リサイクル預託金18,000円が返還された場合(当事例以下、リサイクル預託金の返還については売却額とは別に行われたものとします。)】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 1,500,000円 | 車両運搬具 | 1,200,000円 |
現預金(預託金) | 18,000円 | 預託金 | 18,000円 |
固定資産売却益 | 300,000円 | ||
合計 | 1,518,000円 | 合計 | 1,518,000円 |
この仕訳では、現金が増加した分と返還された預託金分を借方に、車両の帳簿価額と解消した預託金残高を貸方に、そして差額を固定資産売却益として貸方に計上します。売却益は、企業の純資産を増加させるため、貸方に記録されます。
売却損が発生した場合(税込)
売却価額が帳簿価額を下回った場合、損失が発生します。
【帳簿価額100万円の車両を70万円で売却し、リサイクル預託金18,000円が返還された場合】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 700,000円 | 車両運搬具 | 1,000,000円 |
現預金(預託金) | 18,000円 | 預託金 | 18,000円 |
固定資産売却損 | 300,000円 | ||
合計 | 1,018,000円 | 合計 | 1,018,000円 |
この仕訳では、現金が増加した分と返還された預託金分を借方に、車両の帳簿価額と解消した預託金残高を貸方に、そして差額を固定資産売却損として借方に計上します。売却損は、企業の純資産を減少させるため、借方に記録します。
売却益が発生した場合(税抜)
法人が課税事業者の場合、税抜処理で処理することが多いと言えます。売却価額に含まれる消費税分は、仮受消費税として貸方に計上します。
【取得価額300万円、減価償却累計額200万円の車両を120万円(税抜)で売却し、リサイクル預託金18,000円が返還された場合】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 1,320,000円 | 車両運搬具 | 1,000,000円 |
現預金(預託金) | 18,000円 | 預託金 | 18,000円 |
仮受消費税 | 120,000円 | ||
固定資産売却益 | 200,000円 | ||
合計 | 1,338,000円 | 合計 | 1,338,000円 |
直接法は、仕訳が比較的簡便である点が特徴ですが、減価償却の状況が帳簿上明確には残らないという側面があります。
間接法での仕訳例
間接法は、車両の取得価額を車両運搬具勘定に残し、減価償却費を減価償却累計額勘定で管理する方法です。
売却益が発生した場合(税込)
【取得価額300万円、減価償却累計額200万円の車両を120万円で売却し、リサイクル預託金18,000円が返還された場合】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 1,200,000円 | 車両運搬具 | 3,000,000円 |
現預金(預託金) | 18,000円 | 預託金 | 18,000円 |
減価償却累計額 | 2,000,000円 | 固定資産売却益 | 200,000円 |
合計 | 3,218,000円 | 合計 | 3,218,000円 |
この仕訳では、預託金の返還及び現預金の入金分と減価償却累計額を借方に、車両の取得価額と解消した預託金残高、そして差額を固定資産売却益として貸方に計上します。
売却損が発生した場合(税込)
【取得原価220万円、減価償却累計額110万円の車両を80万円で売却し、リサイクル預託金18,000円が返還された場合】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 800,000円 | 車両運搬具 | 2,200,000円 |
現預金(預託金) | 18,000円 | 預託金 | 18,000円 |
減価償却累計額 | 1,100,000円 | ||
固定資産売却損 | 300,000円 | ||
合計 | 2,218,000円 | 合計 | 2,218,000円 |
この仕訳では、現預金、減価償却累計額、固定資産売却損を借方に、車両の取得価額と解消した預託金残高を貸方に計上します。
売却益が発生した場合(税抜)
間接法においても、税抜処理を行う場合は、売却価額に含まれる消費税を仮受消費税として処理します。
【取得価額272万7,273円、減価償却累計額181万8,182円の車両を120万円(税抜)で売却し、リサイクル預託金18,000円が返還された場合】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 1,320,000円 | 車両運搬具 | 2,727,273円 |
現預金(預託金) | 18,000円 | 預託金 | 18,000円 |
減価償却累計額 | 1,818,182円 | 仮受消費税 | 120,000円 |
固定資産売却益 | 290,909円 | ||
合計 | 3,156,182円 | 合計 | 3,156,182円 |
間接法は、帳簿上で車両の取得原価と減価償却の状況を明確に把握できるという利点があります。
法人が車両を売却した際に発生する損益は、「固定資産売却益」または「固定資産売却損」として、原則として特別損益科目で処理します。売却額が帳簿価額を上回った場合は「固定資産売却益」として貸方に、下回った場合は「固定資産売却損」として借方に計上します
リサイクル預託金の会計処理
新車購入時に支払うリサイクル預託金は、資産の部に「預託金」等として計上します。車両売却時には、売却代金とともに買い手に移転するため、預託金勘定の残高を減少させる処理(貸方への記入)を行います。
法人の消費税の取り扱い
法人が事業用に使用していた車両を売却する場合、原則として消費税の課税対象となる課税取引として扱います。多くの課税事業者は、税抜処理を採用しており、売却金額に含まれる消費税相当額を「仮受消費税」として貸方に計上します。一方、免税事業者の場合は、会計上、消費税の認識はありません。
売却価額、帳簿価額、売却費用の影響
固定資産の売却損益は、売却価額と帳簿価額の差額によって決定します。売却価額が帳簿価額を上回れば売却益、下回れば売却損となります。また、車両の売却にかかった費用(仲介手数料など)は、売却損益を計算する際に考慮します。これらの費用は、売却益を減少させるか、売却損を増加させる要因となります。たとえば、売却時に手数料が発生した場合、原則としてその手数料は固定資産売却損として計上するか、売却益から差し引く形で処理されます。
個人事業主の車両売却の会計処理
個人事業主が事業用に使用していた車両を売却した場合、「譲渡所得」として扱われ、その損益は事業所得とは区別して認識されます。法人が「固定資産売却益」や「固定資産売却損」を用いるのに対し、個人事業主は利益が出た場合に事業所得の仕訳においては、「事業主借」、損失が出た場合に「事業主貸」という勘定科目を使用します。
個人事業主の場合も、直接法と間接法のいずれの方法で仕訳を行っても構いません。
直接法での仕訳例
売却益が発生した場合(税込)
【帳簿価額120万円の車両を150万円で売却し、リサイクル預託金18,000円が返還された場合】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 1,500,000円 | 車両運搬具 | 1,200,000円 |
現預金(預託金) | 18,000円 | 預託金 | 18,000円 |
事業主借 | 300,000円 | ||
合計 | 1,518,000円 | 合計 | 1,518,000円 |
売却損が発生した場合(税込)
【帳簿価額100万円の車両を70万円で売却し、リサイクル預託金18,000円が返還された場合】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 700,000円 | 車両運搬具 | 1,000,000円 |
現預金(預託金) | 18,000円 | 預託金 | 18,000円 |
事業主貸 | 300,000円 | ||
合計 | 1,018,000円 | 合計 | 1,018,000円 |
個人事業主の消費税の取り扱い
個人事業主が事業用に使用していた車両を売却した場合の消費税の取り扱いは、課税事業者であるか免税事業者であるかによって異なります。課税事業者の場合は、原則として課税取引となり、税抜処理を行い、売却額にかかる消費税を「仮受消費税」として計上します。免税事業者の場合は、会計上は消費税を認識しません。
法人の車両売却に係る税務
確定申告における利益・損失の記載方法
法人が車両を売却して得た利益(固定資産売却益)は、法人税の課税対象となる所得の一部として、原則として決算書である損益計算書の「特別利益」の項目に記載されます。 一方、売却によって損失(固定資産売却損)が発生した場合は、損益計算書の「特別損失」の項目に記載することで、当期純利益を減少させられます。これらの特別損益は、通常の営業活動から生じる損益とは区別して表示されます。
また、法人税の確定申告書に添付する明細書に「勘定科目内訳明細書」があります。この明細書の「雑益、雑損失等の内訳書」に、固定資産の売却損益について記載します。
参考:C1-1 法人税及び地方法人税の申告(法人税申告書別表等)|国税庁、「勘定科目内訳明細書」
固定資産売却益・固定資産売却損の取り扱い
固定資産売却益または固定資産売却損は、売却価額と、売却時点における車両の帳簿価額との差額として計算します。帳簿価額とは、取得価額から売却時点における減価償却累計額を控除した金額です。したがって、正確な売却損益を把握するためには、適切な減価償却処理が不可欠です。
法人税の影響
車両売却によって得た利益は、法人の課税所得を増加させるため、法人税の負担が増加する可能性があります。 逆に、売却損が発生した場合は、課税所得が減少し、法人税の負担が軽減される可能性があります。このように、車両の売却は、法人の税金に直接的な影響を与えるため、会計処理と税務申告を適切に行うことが重要です。
個人事業主の車両売却に係る税務
譲渡所得としての取り扱い
個人事業主が事業用に使用していた車両を売却して得た利益は、「譲渡所得」として所得税の課税対象となります。これは、事業から生じる事業所得とは異なる所得区分です。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得の金額は、以下の計算式で算出します。
- 譲渡価額:車両の売却金額です。
- 取得費:車両の購入代金や、購入時にかかった費用(登録費用など)が含まれます。ただし、購入時に事業所得の経費としたものは含まれません。また、取得費から減価償却費累計額を控除します。
- 譲渡費用:車両を売却するために直接かかった費用(仲介手数料、広告費など)が含まれます。
- 特別控除額:一定の要件を満たす場合に適用される控除額で、車両などの譲渡所得の場合、年間で最高50万円まで控除できます。
短期譲渡所得と長期譲渡所得
車両の所有期間が5年以内の場合は短期譲渡所得、5年を超える場合は長期譲渡所得として区分します。 長期譲渡所得の方が、課税される所得金額が半分になるなど、税制上有利な扱いとなります。
確定申告における記載方法
車両の売却による譲渡所得は、所得税の確定申告書の譲渡所得に関する箇所に記載する必要があります。さらに、譲渡所得の内訳書(確定申告書付表)には、 売却価額、取得費、譲渡費用、所有期間などの情報を正確に記載する必要があります。
所得税・住民税への影響
計算された譲渡所得は、他の所得と合算され、個人の所得税率に基づいて所得税が課税されます(総合課税)。 また、譲渡所得の金額は、翌年度の住民税の計算にも影響します。
参考:No.3152 譲渡所得の計算のしかた(総合課税)|国税庁
車両売却の仕訳は法人個人で異なるため正しく行おう
車両売却の会計処理と確定申告は、法人と個人事業主の間で明確な違いが存在します。法人は固定資産売却益または損失として法人税に影響を与える一方、個人事業主は譲渡所得として所得税の対象となり、特別控除の適用や所有期間による特別控除額の違いがあります。いずれの場合も、正確な帳簿価額の把握と、売却価額、譲渡費用の記録が重要となります。税務申告においては、法人税法や所得税法に基づいた適切な手続きが求められます。不明な点や複雑なケースについては、税理士などの専門家の意見や国税庁の公式情報を参照し、正確な会計処理と税務申告を行うことが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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