• 更新日 : 2025年9月9日

税務調査はどこまで調べる?ケース別の対象範囲と対策を徹底解説

税務調査が入ると、「いったいどこまで見られるのか」「プライベートも対象になるのか」と不安に感じる方は少なくありません。

本記事では、法人・個人事業主・相続税のケース別に、税務調査の対象範囲や期間、とくに調べられやすいポイントを解説します。日頃から備えるべき対策やクラウド会計の活用法まで、調査への備えを総合的にご紹介します。ぜひ参考にしてください。

税務調査の基本概要

税務調査とは、納税者の申告内容が正しいかどうかを確認するために、税務署が実施する調査です。 税務署が一定の基準にもとづいて必要と判断した場合に実施されます。

そのため調査の目的や種類を理解しておくことで、過度に恐れることなく、日頃から準備を進められるようになるでしょう。

以下では、税務調査の目的と種類について詳しく解説します。

税務調査の目的

税務調査の目的は、納税者の行った税務申告が法律に沿って正しく行われているかを確認することです。

具体的には、申告漏れや過少申告の是正、悪質な脱税行為の防止などを通じて、課税の公平性を保つ役割があります。

また、税務調査の対象は法人・個人を問わず、対象は無作為に選ばれるわけではありません。

近年では、国税庁が保有する申告データや外部情報をもとにリスク分析を行い、システムを活用して調査対象を選定する方法が主流となっています。

税務調査の種類

税務調査には、大きく分けて任意調査と強制調査の2種類があります。

任意調査は、事前に税務署から連絡があり、納税者の協力を前提として実施されるものです。通常はこの任意調査が大半を占め、帳簿や証憑をもとに申告内容を確認します。

一方、強制調査は脱税の疑いが強く、悪質である場合に行われます。裁判所の令状にもとづき、強制的に資料やデータを押収することが可能です。

一般の事業者が受けることは極めてまれですが、強制調査が実施された企業はニュースなどで報道されるケースもあります。

税務調査はどこまで調べる?【法人】

法人に対する税務調査では、申告内容が正しいかどうかを、帳簿や証拠書類をもとに多角的に調査します。

具体的には、売上や経費に加えて資金の流れや関連会社との取引、福利厚生の使い方などの幅広い項目です。

ここでは、調査対象の範囲や期間について、以下のトピックごとに解説します。

  • 調査対象となる範囲と資料の種類
  • 調査対象の期間
  • 調査でとくに見られやすい項目

調査対象となる範囲と資料の種類

法人の場合、税務調査は単に数字を確認するだけでなく、その裏付けとなる資料や取引の実態まで調べられます。

主なチェック項目は、以下のとおりです。

項目確認内容の例
売上計上計上漏れ(売上除外)や架空売上がないか
経費処理架空経費や私的利用分が経費に含まれていないか
役員報酬・給与適正額で支払われているか、過大ではないか
交際費・福利厚生実態に即した支出か、私的飲食や娯楽費が混在していないか
社宅・社用車業務利用と私用の区分が適切か
関連会社との取引価格設定や契約内容が適正か

また、裏付けとして確認される書類の一例に以下が挙げられます。

種類内容
主な帳簿・会計資料仕訳帳総勘定元帳、補助簿、決算書
資金関連の資料銀行通帳、ネットバンキング明細、クレジットカード明細
業務関連書類契約書、請求書領収書納品書
電子データ・私物情報会計ソフトのデータ、業務用メール、必要に応じ私物PCやスマホ

調査対象の期間

法人に対する税務調査では、原則として過去3年分の申告内容や取引記録が対象になります。

ただし、調査中に不審な取引や申告漏れの可能性が高い事例が見つかった場合は、5年分まで遡って調査されるケースもあります。たとえば、売上計上漏れや仕入の記録不一致が複数年にわたり繰り返されている場合などです。

また、架空取引や意図的な経費水増し、売上除外などの悪質な隠蔽や仮装が認められる場合には、最大7年分まで遡及されます。

この「7年」という期間は、国税通則法第70条に記載されている、重加算税の適用対象となる不正行為があった場合の時効期間にもとづきます。

上記の税務調査における対象期間の基準を考えると、3年を過ぎた過去の取引であっても、帳簿や証憑は原則7年間保管しておくことが重要といえるでしょう。

とくに法人では、決算書や総勘定元帳、主要な契約書などの長期保存を徹底することで、調査時の対応がスムーズになります。

参考:e-GOV法令検索|国税通則法第70条

調査でとくに見られやすい項目

法人に対する税務調査では、単に帳簿や決算書の数字を確認するだけではなく、その内容が実態に即しているかどうかを重点的に確認します。

とくに、利益や課税額に大きく影響する項目は細かくチェックされやすく、不適切な処理が見つかれば修正申告や追徴課税の対象となります。

以下は、法人に対する税務調査で調査官が注目する代表的な項目です。

項目内容
架空経費や私的利用分の経費計上実際には発生していない取引や、役員・従業員の私的な支出を経費として処理していないか
売上の意図的な除外現金取引や一部取引先との売上を帳簿に計上せず、課税所得を減らしていないか
社宅や福利厚生設備の私的利用社宅・社用車・保養施設などが、業務目的ではなく個人利用されていないか
関連会社との不自然な取引関連会社やグループ企業との間で、取引価格や条件を不自然に設定し、利益を移転していないか

もし、経費の使い方や資金の流れが申告内容と異なっていれば、調査ではすぐに指摘される可能性があります。

ふだんから領収書や契約書などの証拠をきちんと残し、「なぜこの取引があったのか」を説明できるようにしておくことが大切です。

税務調査はどこまで調べる?【個人事業主】

個人事業主に対する税務調査は、法人の場合と同じく帳簿や証拠資料を確認します。

個人事業主は法人と異なり、事業と私生活の境界が曖昧になりやすいため、その点が税務調査で重点的にチェックされやすいのが特徴です。

とくに自宅兼事務所での業務や家族の手伝いがある場合は、経費や資金の扱いに注意が必要です。調査官は、数字だけでなく取引の実態や生活状況まで含めて確認します。

ここで解説するトピックは、以下のとおりです。

  • 調査対象となる範囲と資料の種類
  • 調査対象の期間
  • 調査でとくに見られやすい項目

調査対象となる範囲と資料の種類

個人事業主の場合、事業用と私用の支出が混ざってしまうことは少なくありません。そのため、帳簿や書類だけでなく、生活費や家族に関わる支出まで確認されるケースがあります。

とくに、自宅を事務所として使っている場合や家族が仕事を手伝っている場合は、経費や資産の使い方が重点的にチェックされます。

個人事業主が税務調査で主に確認される内容は、以下のとおりです。

項目確認内容の例
売上・経費に関する帳簿や証憑仕訳帳・領収書・請求書・見積書・納品書など、取引の事実を証明する資料
通帳やクレジットカード明細事業用・個人用を問わず、必要に応じてすべて確認

事業取引と私的取引の区分をチェック

家族への給与や貸与資産の利用実態車両、自宅スペース、事務用品など、家族に提供している資産の業務利用割合や根拠を確認

調査対象の期間

個人事業主への税務調査は、原則として過去3年分の申告内容が対象となります。ただし、調査の過程で故意の売上除外や架空経費の計上など、悪質な不正が判明した場合には、最大で7年分まで遡って確認されることがあります。

この延長は、国税通則法第70にもとづき、重加算税の対象となる不正行為があったケースで適用される仕組みです。

さらに現金取引の多い業種や、事業用の取引に個人口座を使用している場合は、資金の流れを把握するのに時間を要し、調査期間や日数が長引く傾向にあります。

こうした状況に備えるには、過去数年分の帳簿や証憑を整理し、必要なときにすぐ取り出せる体制を整えておくことが重要といえるでしょう。

調査でとくに見られやすい項目

個人事業主に対する税務調査では、事業とプライベートの支出を区分する「家事按分」の適正さや、証憑の正確性がとくに重視されます。

以下のような項目は重点的に確認されやすいため、日頃から記録や証拠を整えておくことが重要です。

項目内容
按分の不適切さ自宅の家賃や光熱費、通信費などを全額経費として計上していないか、業務使用割合が適正か
レシートの使い回し

経費の私的利用

交際費や交通費について、誰と・何の目的で使ったのかの記録がない場合は経費として認められにくい
売上除外現金売上やネット販売収入を意図的に計上しない行為は、とくに重点的に調査される項目

税務調査はどこまで調べる?【相続税】

相続税の税務調査は、被相続人の財産が正しく申告されているかを確認する目的で実施されます。

とくに、申告から3年以内に着手されるケースが多く、資産の種類や名義の状況、死亡前の資金移動まで幅広い項目が対象となります。

法人や個人事業主の場合と異なり、相続税調査では「誰の資産なのか」という所有権の実態確認が大きな焦点となるのが特徴です。

ここでは、以下のトピックごとに解説します。

  • 調査対象となる範囲と資料の種類
  • 調査対象の期間
  • 調査でとくに見られやすい項目

調査対象となる範囲と資料の種類

相続税調査では、財産目録に記載された資産だけでなく、申告されていない資産や隠れた財産の有無も調べられます。

名義や形態が異なっていても、実質的に被相続人のものであれば課税対象となるので、注意しましょう。

項目確認内容の例
被相続人の資産情報預貯金通帳、不動産登記簿、生命保険契約書、株式・投資信託の取引記録など
名義預金家族名義でも実質的に被相続人が管理・使用していた預金の有無など
贈与関連の証拠贈与契約書、生前の振込記録、贈与税申告書の有無や内容など

調査対象期間

相続税の調査期間は、原則として5年ですが、悪質な仮装・隠蔽があった場合は最長7年まで遡って調査されます。

また、相続財産には過去の贈与が関わることも多く、死亡前10年程度までの資金移動や贈与履歴を確認されるケースが珍しくありません。名義預金や死亡直前の大きな資金移動は、とくに重点的に調べられるのが一般的です。

調査でとくに見られやすい項目

相続税調査では、次のような項目が重点的にチェックされます。

項目内容
名義預金形式上は家族名義だが、実質的に被相続人が管理していた預金
申告漏れの財産申告されていない生命保険金、不動産、未登記の土地や建物など
死亡直前の資金移動や高額贈与相続開始前に多額の資金を移動させたり、贈与した履歴

これらは、調査官が「申告漏れの可能性が高い」と判断しやすいポイントであり、証拠となる資料の保存や説明準備が不可欠です。

 「税務調査が入ると人生終わり」は本当?

税務調査と聞くと、「莫大な追徴課税を課されるのでは」と不安になる方も多いでしょう。

しかし、実際には必ずしも大きな金銭的負担につながるわけではありません。重要なのは、日常的な記録や証拠の保管、そして税制の基本知識を持っておくことです。

ここでは、本当に税務調査が入ると人生終わりなのか、指摘されてしまった場合の追徴課税の内容について解説していきます。

口頭指摘だけで終わることもある

税務調査が入ったからといって、必ず追徴課税が発生するわけではありません。軽微な記載ミスや計算間違いなどの場合は、調査官からの口頭での指摘のみで終了するケースもあります。

悪意や意図的な申告漏れがないと認められれば、罰則が科される可能性は低いでしょう。

証拠がない場合は危険である

経費や贈与、取引の正当性を証明できる書類がないと、税務調査では申告内容を認めてもらえないことがあります。

たとえば、契約書や領収書、通帳のコピーやメールのやり取りなどは、金銭や財産の動きを示す大切な証拠です。これらの書類がなければ、「その取引はなかった」と判断される可能性が高まります。

日頃から、取引や支払いのたびに証拠を残し、まとめて保管する習慣をつけておくことで安心につながるでしょう。

加算税の基礎知識も知っておく

加算税には種類があり、それぞれ発生条件や税率が異なります。代表的なものは次のとおりです。

加算税の種類内容
過少申告加算税(10%〜15%)申告済みの税額が本来より少なかった場合に課される
無申告加算税(15〜30%)期限内に申告を行わなかった場合に課される
不納付加算税(10%)源泉徴収した税金を納付しなかった場合に課される

なお、故意ではないミスでも、事実を隠したり証拠を改ざんしたと判断されると重加算税の対象となる場合があります。あらかじめ確認しておきましょう。

参考:
確定申告を間違えたとき|国税庁
確定申告を忘れたとき|国税庁

税務調査で困らないために日頃からやるべきこと

税務調査は、ふだんからの準備次第で落ち着いて対応できます。とくに大切なのは、「書類や証拠を整理しておくこと」と「お金の動きを記録しておくこと」です。

ここでは、法人・個人事業主・相続税のケースに共通する以下の対策方法について解説します。

  • 書類の保存方法を見直す
  • 領収書・取引の証拠を残す
  • 家族・役員の資金移動を記録する

書類の保存方法を見直す

書類は紙でもデータでも、原則7年間は保管する必要があります。たとえば、請求書や領収書を年度ごと、勘定科目ごとにファイルやフォルダに分けておくと、必要なときにすぐ取り出せます。

パソコンで管理する場合は、「2024_交際費_〇〇株式会社.pdf」のように日付や内容がわかるファイル名をつけると便利です。

電子帳簿保存法に沿ったフォルダ構成やルールを作っておけば、税務調査のときだけでなく、日常業務の効率も上がるでしょう。

領収書・取引の証拠を残す

領収書や契約書は、そのまま保管するだけでなく、スマホで撮影したりスキャンしてデータ化しておくと安心です。

たとえば、撮ったデータは「2024-08-05_接待_△△商事.jpg」のように日付や用途を入れて保存すれば、後から探しやすくなります。

さらに、保存先にクラウドストレージを使うと、パソコンが壊れてもデータが残り、外出先からでも確認できます。

家族・役員の資金移動を記録する

家族や役員にお金を貸したり贈与したときは、振込明細だけでなく、契約書やメモも一緒に残しておくと安心です。

たとえば、「この100万円は事業資金として貸した」という内容を紙やPDFにしておけば、後から説明がしやすくなります。

また、家族名義の口座や不動産でも、実際に誰が使っているのかを説明できるようにしておくことが大切です。

こうした記録は、相続税や贈与税の調査でも重要になります。日ごろから習慣づけておきましょう。

税務調査対策にはクラウド会計の活用が効果的

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電子帳簿保存法にも対応しているため、紙での保管作業を大幅に削減できる点も大きなメリットです。

さらに、仕訳の自動化や異常値を知らせるアラート機能により、人的ミスや不正の早期発見が可能になります。

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