- 更新日 : 2025年2月20日
連結財政状態計算書とは?見方や会計基準の違い、作成ポイントを解説
連結財政状態計算書は企業グループ全体の資産・負債・純資産を項目ごとに記載した決算書類です。同様の内容が記載された書類としては「連結貸借対照表」というものもありますが、実は規格ごとに記載方法や項目に多少の違いがあります。
この記事では連結財政状態計算書について基礎知識から作成時のポイントまで解説いたします。
目次
連結財政状態計算書とは?
連結財政状態計算書は企業グループ全体の財政状態を一目で把握するための財務報告書で、英語では「Consolidated Statement of Financial Position」と表現されます。主にグループ全体の資産、負債、純資産の状況をまとめて開示し、経営判断に役立てられます。
この書類は日本の会計基準や国際財務報告基準(IFRS)に基づき作成され、特にIFRSでは「連結貸借対照表」とも位置づけられます。作成目的としては企業の経済的な信頼性を示し、ステークホルダーに対する透明性を確保することにあります。
連結財政状態計算書の開示は義務か
連結財政状態計算書の開示は、上場企業や会計基準の適用企業に義務付けられています。日本基準とIFRSでは義務の範囲や開示方法に違いがあるため、各基準の要件に応じて正確に作成・公開する必要があります。
上場企業は年次の決算書類に連結財政状態計算書を含めて開示することが求められており、また、IFRSを適用する場合は透明性を確保し投資家に経済状況をわりやすく示すために必要とされています。
連結財政状態計算書を作成するタイミング
連結財政状態計算書は、通常企業の決算期終了後に作成されます。年度末を迎えた後企業グループの財務諸表を集計し、統合して作成するのが一般的です。また、四半期ごとの決算にも作成が求められる場合があり、特に上場企業では四半期報告が求められるため、年に4回作成することが多くなっています。
IFRSを採用している企業では基準に基づき適時に財政状態を開示し、投資家に最新の財務情報を提供することが求められます。
連結財政状態計算書の会計基準はIFRSにすべきなのか
連結財政状態計算書の作成において、適用する会計基準にはIFRS(国際財務報告基準)、US GAAP(米国会計基準)、JGAAP(日本会計基準)があります。
IFRSは国際的な統一基準で海外投資家からの信頼を得やすく、欧州やアジアなど多くの国で導入されています。一方、US GAAPは主にアメリカ企業が採用しており、国内での基準の統一や詳細なガイドラインが特徴です。JGAAPは日本国内企業に特化しており、法律に基づいた基準です。
上場企業はIFRSへの適用が推奨される一方で、各基準にはそれぞれメリットやデメリットがあるので取引相手や市場などを慎重に検討し、自社に最適な基準を選択しましょう 。
連結財政状態計算書で何がわかるか
連結財政状態計算書からは企業グループ全体の経済状況や経営の健全性について、多角的な情報を得ることができます。具体的には以下のようなポイントを把握できます。
資産と負債のバランス
連結財政状態計算書では親会社および子会社全体の資産、負債、純資産が一覧で示され、企業グループ全体の財務状況が明確になります。特に資産と負債のバランスから経営リスクの高さや財務健全性を判断できます。
グループ全体の資金の流れ
キャッシュフローの状況も確認することで、グループ全体での資金の流れや投資・財務活動に対する資金の使い方が見えてきます。これは将来の成長可能性や経営戦略の方向性を評価するために重要です。
資産の流動性と安全性
資産の流動性(現金化しやすい資産の割合)を把握することで、短期的な支払い能力や資金調達の容易さがわかります。また、純資産の割合などから自己資本の強さも測定でき、経営の安定性を判断する材料になります。
連結財政状態計算書の表示項目
連結財政状態計算書は企業グループの財政状況を示すために主要な項目が表示されており、その構成は会計基準により若干の違いがあります。
連結財政状態計算書の項目は大まかに以下の3つに分けられます。
資産(Assets)
流動資産と固定資産に分類されます。流動資産には現金や売掛金、在庫などが含まれ、短期間での現金化が可能なものが多いです。固定資産は設備や不動産などの長期保有資産です。
負債(Liabilities)
流動負債と固定負債に分けられます。流動負債には短期借入金や買掛金などが含まれ、1年以内に支払う予定の負債です。固定負債には社債や長期借入金などが含まれます。
純資産(Equity)
親会社株主に帰属する持分と、非支配株主持分(子会社の少数株主の持分)に分けられます。純資産は企業の資本的な強さを示し、経営の安定性を測る指標にもなります。
会計基準ごとの違い
JGAAP(日本基準)では、表示順が「流動性が高い項目から低い項目へ」と並ぶ流動性配列法が一般的です。一方、IFRS(国際財務報告基準)では流動性配列法に加え、「流動性が低い項目から高い項目へ」と並べる固定性配列法(非流動性配列法)も認められます。US GAAPもIFRSと似ていますが、項目の詳細や開示の範囲が異なる点があるため、基準に応じた正確な表記が重要です。
連結財政状態計算書を作成する流れ
連結財政状態計算書の作成は親会社および子会社の個別財務諸表の作成から始まり、以下のような手順で進められます。
親会社・子会社の個別財務諸表の作成
まず、親会社および各子会社は個別の財務諸表を作成します。これには貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書が含まれ、連結の基礎データとして使用されます。
子会社の調整
子会社の資産や負債は連結時に再評価が必要な場合があります。これは、親会社が支配権を取得した時点の公正価値に基づく調整を行い、グループ全体で統一性を保つためです。
連結消去仕訳の作成
親会社と子会社間の取引や貸付金、配当金などの内部取引を消去し、実際のグループの経済的な実態を正確に反映させます。これにより、重複や誤解を避けることができます。
親会社と子会社の財務諸表の統合
親会社と子会社の財務諸表を統合し、グループ全体の財政状態を表す「連結財政状態計算書」を作成します。この際、表示項目や会計基準に基づいた一貫した形式で統合します。
最終調整と確認
統合後、財務データに誤りがないか確認し、必要に応じて最終調整を行います。各基準に準拠しているかを確認し、正式な連結財政状態計算書として公表します。
連結財政状態計算書を作成するポイント
連結財政状態計算書を作成する際には、正確性と統一性を保つためにいくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。こちらでは注意点やポイントをご紹介します。
内部取引の消去
親会社と子会社間の内部取引(貸付金や売買取引など)をそのまま記載すると、グループ全体の実際の財政状態が正確に反映されません。そのため、連結財政状態計算書においては会計上不必要な内部取引を消去し、純粋な経済的実態を示すようにします。
子会社の再評価と調整
親会社が子会社の株式を取得した際、子会社の資産や負債を公正価値で評価する必要があります。この再評価が適切でないと、グループ全体の財務データに大きな影響を与えます。特に取得原価と実際の価値のズレに留意し、適切な調整を行う工程が不可欠です。
非支配株主持分の考慮
子会社の一部株式が外部株主に保有されている場合は非支配株主持分として扱います。親会社株主と非支配株主の権益を区別し、純資産や利益の帰属を明確に示すことができます。
会計基準の一貫性
連結財政状態計算書の作成には、IFRSやJGAAPなど、適用する会計基準に従うことが求められます。異なる基準の財務諸表を統合する場合は、計上方法や表示項目を揃え、基準の違いによる影響を調整する作業を欠かさないようにしましょう。
外貨建て資産・負債の換算
海外子会社が持つ外貨建て資産や負債は、連結財政状態計算書の作成時の為替レートに基づいて換算します。為替変動によって評価額が変わるため、適切な為替レートを用いた換算と為替差損益の管理が求められます。
連結財政状態計算書と連結貸借対照表との違い
「連結財政状態計算書」と「連結貸借対照表」は、どちらも企業グループ全体の資産、負債、純資産を示す財務諸表ですが、会計基準の違いから呼称が異なります。
連結財政状態計算書 | 連結貸借対照表 |
---|---|
資産・負債ともに流動・非流動に分けて記載 | 企業グループの資産・負債・純資産を記載 |
「連結財政状態計算書」と「連結貸借対照表」は企業グループ全体の財務状態を示す重要な書類ですが、会計基準や構成に違いがあります。
日本基準(JGAAP)では「連結貸借対照表」と呼ばれ、項目は流動資産から固定資産へと順に表示する「流動順序法」が用いられます。一方、国際会計基準(IFRS)に基づく「連結財政状態計算書」では、固定順序法に加え流動性の低い資産を上部に配置する「固定順序法」も採用されているという違いがあります。
IFRSの連結財政状態計算書には、「その他の包括利益」や「非支配株主持分」が明確に記載され、より多様な情報が開示されるのに対し、JGAAPでは表示が簡略化されることが多いです。IFRSの方が国際的な投資家にもわかりやすい内容になっています 。
連結財政状態計算書を理解して活用していこう
今回は連結財政状態計算書について貸借対照表との違い、作成上の注意点などについて解説しました。連結財政状態計算書は企業グループ全体の財務状況を示し、経営判断や投資家への情報提供に欠かせない重要な書類です。
各種基準に基づいた適切な作成と開示は、透明性の向上や国際的な信用力にもつながります。特に海外市場に参入している企業グループで経理を行う方は、今回ご紹介したポイントを連結財政状態計算書の作成にお役立てください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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