- 更新日 : 2025年9月3日
消費税の申告とは?やり方を初心者にもわかりやすく解説
消費税の申告とは、対象事業者が期限内に正しい手順で納税額を計算し、申告・納税を完了させる手続きです。インボイス制度の開始にともない、これまで対象でなかった事業者も申告が必要になるケースもあるでしょう。
消費税の申告には一般課税と簡易課税の選択や、2割特例といった負担軽減措置もあり、自社に合った方法を知ることが大切です。この記事では、消費税申告の対象者から具体的なやり方、申告書の書き方まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。
目次
消費税の申告とは?対象者と申告期限を解説
消費税の申告とは、事業者が消費者から預かった消費税を国に納めるための手続きです。すべての事業者に申告義務があるわけではなく、課税売上高など一定の条件を満たした場合にその義務が生じます。申告と納税には期限があり、遅れるとペナルティも課されるため、仕組みを正しく理解しておきましょう。
消費税の申告が必要になる事業者
消費税の申告と納税が求められるのは「課税事業者」です。事業者は、売上にかかる消費税から、仕入れや経費にかかった消費税を差し引いた額を納税します。
課税事業者になるかどうかは、主に「基準期間」の課税売上高に基づいて判定されます。基準期間とは、個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度を指します。
- 注意:どちらも基準期間が2年前(2期前)となる点に注意が必要です。
また、以下のいずれかの条件に当てはまると課税事業者となり、消費税の申告が必要です。
基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合
たとえば、個人事業主の場合、2023年の課税売上高が1,000万円を超えていれば、2025年分の申告から課税事業者となります。
特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合
基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、「特定期間」の課税売上高が1,000万円を超えた場合は課税事業者になります。特定期間は、個人事業主の場合は前年の1月1日から6月30日まで、法人の場合は前事業年度の開始日から6ヶ月間を指します。
※特定期間の判定は、課税売上高の代わりに給与等支払額の合計額で行うこともできます。
インボイス発行事業者の登録を受けた場合
2023年10月に始まったインボイス制度により、課税売上高が1,000万円以下であっても、インボイス(適格請求書)を発行するために「適格請求書発行事業者」の登録を受けると、その時点から課税事業者になります。
消費税の申告期限はいつまで?
消費税の申告と納税の期限は、個人事業主と法人で異なります。
- 個人事業主の場合
課税期間(1月1日〜12月31日)の翌年3月31日が申告と納税の期限。
所得税の確定申告(翌年3月15日)とは期限日が違う点に注意が必要です。 - 法人の場合 課税期間(事業年度)終了の日の翌日から2ヶ月以内
たとえば、3月決算の法人であれば、5月31日が申告・納税の期限です。
いずれの場合も、期限の日が土日祝日にあたる際は、その翌平日が期限日となります。
消費税の申告が遅れた場合のペナルティ
正当な理由なく申告期限までに申告をしなかった場合、本来納めるべき税額に加えて、ペナルティとして以下の税金が課されることがあります。
- 無申告加算税
期限後に申告した場合に課される税金。税率は、納付すべき税額のうち50万円までの部分は15%、50万円を超える部分は20%。ただし、税務署の調査を受ける前に自主的に申告すれば、税率は5%に軽減されます。 - 延滞税
法定納期限の翌日から、実際に納税が完了した日までの日数に応じて課される税金。税率は年によって変動しますが、納期限の翌日から2ヶ月を経過するかどうかで税率が変わる仕組みになっています。
こうしたペナルティを避けるためにも、申告と納税は必ず期限内に済ませましょう。
出典:No.2024 確定申告を忘れたとき|国税庁
出典:No.9205 延滞税について|国税庁
消費税申告の基本的なやり方と流れ
消費税申告は、主に「書類の準備」「納税額の計算」「申告書の作成・提出」「納税」という流れで進めていきます。申告方法には、税務署の窓口への直接提出のほか、郵送やe-Taxによる電子申告といった選択肢があります。
自社に合った方法を選び、計画的に準備を進めましょう。
申告方法の種類を選ぶ(e-Tax・窓口・郵送)
申告書の提出方法は、主に以下の3つです。それぞれの特徴を踏まえ、自社にとって最も都合の良い方法を選びましょう。
提出方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
e-Tax (電子申告) |
|
|
税務署の窓口 |
|
|
郵送 |
|
|
事前に準備が必要な書類一覧
消費税の申告には、日々の取引を記録した帳簿や証拠書類が欠かせません。申告書を作成する前に、以下の書類を揃えておくとスムーズです。
納税額の計算方法(一般課税と簡易課税)
消費税の納税額の計算方法には「一般課税」と「簡易課税」の2種類があり、どちらを選ぶかで納税額や経理の手間が変わってきます。
一般課税
課税期間中の「課税売上にかかる消費税額」から「課税仕入れ等にかかる消費税額」を差し引いて納税額を計算します。
実際の取引に基づいて計算するため、正確な納税額を算出できるのが特徴です。
- 課税売上高(税抜):1,000万円
- 課税仕入高(税抜):500万円
- 売上税額を計算します。 1,000万円 × 10% = 100万円
- 仕入税額を計算します。 500万円 × 10% = 50万円
- 納税額を計算します。 100万円(売上税額) – 50万円(仕入税額) = 50万円(納税額)
設備投資などで大きな支出があった場合、仕入税額が売上税額を上回り、消費税が還付されることもあります。
簡易課税
中小事業者の事務負担を軽くするために設けられた制度です。売上にかかる消費税額に、事業の種類ごとに定められた「みなし仕入率」を掛けて仕入税額を算出します。
実際の仕入れや経費の消費税額を計算する必要がなく、経理事務を簡素化できる点がメリットといえるでしょう。
- 課税売上高(税抜):1,000万円
- 事業内容:小売業(第2種事業:みなし仕入率80%)
- 売上税額を計算します。 1,000万円 × 10% = 100万円
- みなし仕入率を使って仕入税額を計算します。 100万円(売上税額) × 80%(みなし仕入率) = 80万円
- 納税額を計算します。 100万円(売上税額) – 80万円(みなし仕入税額) = 20万円(納税額)
簡易課税制度を選択するには、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であること、そして事前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出しておく必要があります。
申告から納税までの4ステップ
消費税申告は、以下の4つのステップで進めるのが一般的です。
- 必要書類の準備と整理:
帳簿や証拠書類を整理し、課税期間中の売上と仕入れ・経費の金額を集計。 - 納税額の計算:
課税方式(一般課税または簡易課税)に沿って、1年間の納税額を計算。 - 申告書の作成と提出:
計算結果をもとに申告書を作成。手書き、会計ソフト、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」などの方法があります。作成した申告書を、期限内に選択した方法(e-Tax、窓口、郵送)で提出。 - 消費税の納税:
申告期限までに、算出した税額を納付。納税方法は、振替納税、ダイレクト納付、インターネットバンキング、クレジットカード、コンビニ納付など。
消費税申告書の書き方をわかりやすく解説
消費税申告書は、国税庁のウェブサイトからダウンロードできますし、会計ソフトを使えば日々の取引データから自動で作ることもできます。とくにインボイス制度の開始にともない、申告書の様式や記載内容に一部変更点があるため、最新の情報を確認しながら作成することが求められます。
国税庁のサイトから申告書をダウンロードする
消費税の申告書や付表の様式は、国税庁のウェブサイトで手に入ります。確定申告の時期には、トップページに特集ページへのリンクが設けられますが、通常は以下の手順で探せます。
- 国税庁のサイトにアクセス。
- 「税の情報・手続・用紙」の「申告手続・用紙」を選択。
- 「消費税及び地方消費税」から「確定申告等」を選び、申告書様式(PDF形式)をダウンロード。
会計ソフトを利用している場合、ソフト内で最新の様式に対応した申告書を作成できるため、ご自身でのダウンロードは不要です。
【一般課税】申告書の主な記入項目と注意点
一般課税の申告書(第一表)では、主に以下の項目を記入していきます。帳簿や決算書の数字をもとに、正確に転記することが大切です。
- 課税標準額(①) 1年間の課税売上高から、消費税抜きの金額を記入します。
- 消費税額(③) 課税標準額に消費税率を掛けて算出した金額となります。
- 控除対象仕入税額(⑧) 課税期間中に支払った仕入れや経費にかかる消費税額の合計です。
- 差引税額(⑫) 消費税額(③)から控除対象仕入税額(⑧)を差し引いた金額を記入します。
- 納付税額 最終的に納める消費税と地方消費税の合計額を計算し、記入します。
第二表では、課税標準額の内訳などを記入します。日々の帳簿付けが正確にできていれば、転記作業はスムーズに進むはずです。
【簡易課税】申告書の主な記入項目と注意点
簡易課税用の申告書は、一般課税用と様式が異なります。仕入税額の計算方法が大きな違いといえるでしょう。
- 課税標準額(①)と消費税額(③) 一般課税と同様に記入します。
- 控除対象仕入税額の計算 売上を事業区分ごとに分け、それぞれの売上税額に「みなし仕入率」を掛けることで、控除対象仕入税額を算出します。
- 差引税額、納付税額 算出した控除対象仕入税額をもとに、納付する税額を計算します。
複数の事業を行なっている場合は、事業区分ごとに売上を分けて計算する必要があるため、日々の記帳がより大切になります。
インボイス制度で申告書の書き方はどう変わった?
インボイス制度の開始にともない、申告書にもいくつか変更点があります。
登録番号の記載
申告書の「適格請求書発行事業者登録番号」欄に、自社の登録番号を記載する場所が新設されました。
売上税額・仕入税額の計算方法の変更
インボイス制度の導入により、「積上げ計算」による税額算出が実務上より重要になりました。これにより、売上税額や仕入税額の計算方法が多様化し、申告書の付表も変更されています。
2割特例のチェック欄
インボイス発行事業者になることで納税義務が生じた事業者が利用できる「2割特例」を適用する場合、申告書の所定の欄にチェックを入れます。
こうした変更に対応した、最新の様式で申告を行いましょう。
e-Taxでの消費税申告の進め方
e-Taxを利用すると、税務署に出向くことなく、オフィスや自宅からインターネット経由で消費税の申告ができます。24時間いつでも提出できるので、業務の効率化につながるでしょう。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」や、市販の会計ソフトと連携して利用するのが一般的な方法です。
e-Taxで申告する3つのメリット
e-Taxでの申告には、窓口や郵送にはないメリットが見込めます。
- いつでもどこでも申告できる:
メンテナンス時間を除き、24時間いつでも利用可能。税務署の開庁時間を気にすることなく、申告手続きができる。 - 還付がスピーディー:書面での提出よりも書面提出よりも還付金が早く振り込まれるケースがある
- 添付書類を一部省略できる:
一部の添付書類は記載内容を入力して送信すれば、提出を省略できる(原本は5年間の保存義務あり)。
国税庁「確定申告書等作成コーナー」の利用手順
国税庁のウェブサイトにある「確定申告書等作成コーナー」は、無料で利用できる申告書作成システムです。画面の案内に従って入力するだけで、消費税の申告書を作成できます。
利用の基本的な流れは以下のとおりです。
- 事前準備:
マイナンバーカードと、それを読み取るためのICカードリーダライタまたは対応スマートフォンを準備。 - 作成開始:確定申告書等作成コーナーにアクセスし、「作成開始」ボタンをクリック。
- e-Taxでの提出方法を選択:
マイナンバーカード方式(2次元バーコードまたはICカードリーダライタ)を選ぶ。 - 申告内容の入力:
画面の案内に沿って、決算書や帳簿をもとに売上金額や経費などを入力する。 - 送信と受付確認:入力内容を確認後、マイナンバーカードで電子署名を行い、データを送信。送信後、受付結果を忘れずに確認しましょう。
会計ソフトを利用した電子申告
市販の会計ソフトの多くは、消費税申告とe-Taxに対応しています。
会計ソフトを利用する大きな利点は、日々の取引入力(記帳)から決算書の作成、消費税申告書の作成、そしてe-Taxでの提出まで、一連の作業をシームレスに行える点です。
仕訳データをもとに納税額や申告書の各項目が自動で計算・入力されるため、手作業による転記ミスを防ぎ、申告書作成にかかる時間を大幅に短縮できるでしょう。インボイス制度のような法改正にもアップデートで対応してくれるため、安心して利用できるのではないでしょうか。
消費税申告の負担を軽くするためのポイント
インボイス制度への対応で、初めて消費税申告を行う事業者も増えています。期間限定の「2割特例」など、負担を軽減する措置をうまく活用することが大切です。また、日々の経理業務から申告までを一気に管理できる会計ソフトを導入したり、複雑なケースでは税理士へ相談しても良いでしょう。
期間限定の負担軽減措置「2割特例」とは?
2割特例は、インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった事業者の税負担や事務負担を軽くするための制度です。
- 対象者:インボイス発行事業者の登録を受け、新たに消費税の申告義務が生じた事業者。
- 内容:売上にかかる消費税額のうち、2割を納税すれば良い制度。これは、簡易課税の第一種事業(卸売業、みなし仕入率90%)よりも有利な計算方法です。
- 適用期間:2023年10月1日から2026年9月30日までの各課税期間で適用。
- 手続き:事前の届出は不要。消費税の申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記して申告する。
一般課税や簡易課税と有利な方を選択できるため、とくに対象となる事業者は制度をよく理解し、活用を検討すると良いでしょう。
出典:2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要|国税庁
日々の業務が楽になる会計ソフトの選び方
会計ソフトを導入すると、消費税申告にかかる手間を大きく減らせます。ソフトを選ぶ際は、以下の点を確認してみましょう。
インボイス制度に対応しているか
適格請求書の発行や、受け取ったインボイスのデータ保存に対応しているかは、必須の確認項目です。
e-Taxに連携しているか
作成した申告データをそのまま電子申告できる機能があると、提出までがとてもスムーズになります。
サポート体制は充実しているか
操作方法がわからないときや、トラブルが発生したときに、電話やチャットで相談できるサポート体制があると心強いものです。
自社の業種や規模に合っているか
飲食業や小売業など、特定の業種に特化した機能を持つソフトもあります。
税理士に相談するメリットとタイミング
消費税の申告は複雑で、判断に迷う場面も少なくありません。そのようなときは、税の専門家である税理士に相談するのも一つの有効な方法です。
税理士に依頼するメリットには、以下のような点が挙げられます。
- 正確な申告ができる
面倒な計算や申告書の作成をすべて任せることができ、ミスなく正確な申告につながります。 - 節税に関するアドバイスがもらえる
一般課税と簡易課税の有利不利の判定や、各種特例の活用など、自社にとって最適な選択を提案してもらえます。 - 税務調査の際に頼りになる
- 万が一、税務調査の対象となった場合でも、専門家として立ち会い、適切に対応してもらえます。
とくに「初めて消費税申告を行う」「輸出入など複雑な取引がある」「どの課税方式が有利か判断できない」といった場合は、税理士への相談を検討する良いタイミングではないでしょうか。
正確な消費税申告で事業の信頼性を高める
消費税の申告と納税は、事業を続けるうえでの重要な義務です。定められた期限内に、自社の状況に合った方法で正しく手続きを完了させましょう。
インボイス制度など新しい制度への対応は大変な面もありますが、一つひとつ手順を踏めば着実に進められます。2割特例のような負担軽減措置や会計ソフトをうまく活用しながら、乗り越えていくことが可能です。適切な申告は、健全な事業運営の証となります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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