- 更新日 : 2025年5月13日
令和7年度税制改正大綱まとめ:法人税・インボイス制度・電子帳簿保存法の改正ポイントを解説
2025年度(令和7年度)の税制改正大綱が正式公表されました。
当記事では、法人税の中小企業優遇税率引上げやインボイス制度の見直し、電子帳簿保存法の要件緩和など、経理担当者が押さえるべき主要改正点に絞ってわかりやすく解説します。
※本記事の内容は令和7年度税制改正大綱に基づいており、実際の法改正は国会審議を経て確定することにご留意ください。
目次
令和7年度税制改正大綱の概要
令和7年度(2025年度)の税制改正大綱が与党により公表されました。この大綱には、企業の経理担当者にとって見逃せない法人税・消費税(インボイス制度)・電子帳簿保存法などの重要な改正が網羅されています。
「103万円の壁」の引き上げや防衛費財源確保の新税導入など、企業経理や給与計算実務に影響する項目も多く含まれています。以下では、それぞれの改正ポイントと実務への影響、経理担当者が取るべき対応策について、分かりやすく解説します。
※本記事の内容は令和7年度税制改正大綱に基づいており、実際の法改正は国会審議を経て確定します。最新情報にもご留意ください。
所得税・個人住民税の改正 – 「103万円の壁」の緩和
まず個人所得課税では、いわゆる「103万円の壁」が緩和され、給与所得者の非課税枠が拡大することが記載されれています。具体的な改正点は以下のとおりです。
- 基礎控除額の引き上げ:
- 合計所得金額2,350万円以下の納税者について、基礎控除を現行の48万円から58万円へと10万円引き上げ。
- 給与所得控除の引上げ:
- 給与所得控除の最低控除額(いわゆる「給与所得控除の額の上限」)も現行55万円から65万円へ10万円引き上げ。
- 非課税となる給与収入枠の拡大:
- 上記2つの控除引上げにより、給与収入ベースの所得税非課税限度額(給与収入から所得税がかからなくなる水準)が約103万円から約123万円に引き上げられます。アルバイト収入などがある扶養親族について、従来より多く稼いでも扶養控除等の適用が受けられるようになります。
- 特定扶養親族特別控除の創設:
- 年齢19歳以上23歳未満の扶養親族(大学生年代の子など)で一定の条件を満たす場合に、新たに最大63万円の所得控除を受けられる制度が導入されます。扶養親族本人の所得が85万円以下なら63万円控除、所得123万円超で控除ゼロとなる段階的措置です(親の所得から控除)。
これらの改正は令和7年分(2025年分)の所得税から適用され、個人住民税については令和8年度分(2026年度課税)から適用されます。
経理担当者は年末調整や給与計算システムの控除額更新に対応する必要があります。従業員へ扶養控除申告書の記入案内を行う際にも、新しい控除制度について周知しておくと良いでしょう。
法人税の改正 – 中小法人税率の見直しと投資促進税制の延長
法人課税については、中小企業向け優遇税率の見直しや各種投資促進税制の延長・拡充が行われます。主なポイントは次のとおりです。
- 中小法人の軽減税率の見直し:
- 資本金1億円以下の中小法人等に適用されている年800万円以下の所得に対する法人税の軽減税率について、所得金額が年間10億円を超える事業年度においては税率を従来の15%から17%に引き上げます。大幅な利益を計上する企業には恩恵を縮小しつつ、上記見直し後も制度自体の適用期限を2年間(令和8年度末まで)延長しました。
- これにより、中小企業であっても利益規模が極めて大きい場合は税負担がやや増加します。該当する企業の経理担当者は、自社がこの新税率適用となるか確認し、税額計算を見直す必要があります。
- 中小企業経営強化税制の延長・拡充:
- 中小企業の設備投資を促す即時償却・税額控除の特例である「中小企業経営強化税制」について、対象設備や要件を見直したうえで2年間延長されました。生産性向上に資する設備が引き続き優遇対象となりますが、新規性要件や生産性向上要件の充足が求められます。適用を受けるには事前に経営力向上計画の認定を受ける必要があるため、該当企業は早めの準備を進めましょう。
- その他の法人課税改正:
- 地域未来投資促進税制(地方創生関連の投資減税)の適用期限延長や見直し、研究開発税制の見直し、交際費課税の特例延長など、経理実務に関係するいくつかの改正・延長措置があります。特にスタートアップ投資支援策やDX・脱炭素関連投資促進税制の創設・拡充も盛り込まれており、自社の戦略的投資に活用できる制度がないかチェックすると良いでしょう。
- 国際課税(グローバル・ミニマム課税)への対応:
- 多国籍企業に対する国際的な最低法人税負担率(15%)を確保するため、日本でも国内最低課税額に対する法人税(仮称)の創設など関連法制化が行われます。これにより海外子会社を含む大企業グループには追加の法人税課税が生じる可能性があります。ただし対象は連結売上7.5億ユーロ超の大企業グループに限られ、多くの中小企業には直接影響しません。グローバル展開企業の経理担当者は国際課税の新ルールにも注意が必要です。
(※「10億円超で17%」の軽減税率見直しや各種優遇税制の延長等は2024年末に与党にて決定された内容です。)
- 経理担当者が押さえておくべきポイント:
- 自社が中小法人税率17%の対象(年間利益10億円超)に該当するか早めに確認し、必要に応じて税負担増を織り込んだ資金計画を立てましょう。また、延長・拡充された設備投資減税の適用可否を検討し、該当する場合は計画策定や認定手続きを漏れなく行うことが重要です。
消費税の改正 – インボイス制度の進化と免税制度の変更
消費税分野では、2023年10月に開始したインボイス制度(適格請求書保存方式)に関連してデジタル化への対応が進められるとともに、外国人旅行者向け免税販売制度の抜本見直しが盛り込まれました。
- デジタルインボイスの推進:
- 請求書や決済情報のやり取りから会計記帳・申告までシームレスにデジタル処理するため、デジタルインボイス標準仕様(Invoice JapanのPINTやSelf-Billing方式)に対応したシステムの活用が推進されます。デジタル庁が策定した規格に則り電子的に請求書データを送受信・保存することで、人手を介さず経理処理が完結し、効率化とコンプライアンス向上が期待されています。
- 税制改正ではこの仕組みに対応した場合の優遇措置(後述の重加算税除外等)も設けられ、企業におけるインボイスの電子化・システム連携が今後加速する見通しです。経理担当者は、自社の販売・購買システムが電子インボイス(Peppol/JP PINT標準)に対応可能か検討し、デジタルトランスフォーメーションを進める機会とすると良いでしょう。
- インボイス制度の経過措置
- インボイス制度導入に伴う中小事業者支援策として、2023年~2029年の一定期間、適格請求書を発行しない事業者(免税事業者)との取引について仕入税額控除の一部を認める経過措置(80%控除・50%控除)や、新規課税事業者となった事業者に対する納税額2割特例※が実施中です。
- 令和7年度改正ではこの経過措置自体に大きな変更はありませんが、適用漏れがないよう引き続き注意が必要です(※課税売上高1,000万円以下だった事業者がインボイス登録により課税事業者となった場合、一定期間消費税納付額を20%相当に軽減できる特例制度)。
- 外国人旅行者向け免税制度の変更(リファンド方式の導入):
- 免税店での外国人旅行者向け販売について、従来の購入時即時免税方式から「リファンド方式」へ移行する改正が決定しました。
- リファンド方式では、旅行者は購入時に一旦消費税込みの価格で支払い、出国時に税関で持ち出し品の確認を受けた後、消費税相当額の払い戻し(Refund)を受ける仕組みに変わります。併せて、免税販売時に求められていた商品の用途区分(一般物品か消耗品か)の判定や特殊な包装要件が不要となり、免税手続きが簡素化される見込みです。
- この新制度への移行は2026年(令和8年)11月1日から実施予定とされており、免税店(輸出物品販売場)を運営する企業の実務フローやシステムも大きく変わることになります。経理担当者は免税売上の処理方法や消費税の精算手続が変更になる点を踏まえ、関係部署と連携して対応準備を進めましょう。
- 経理担当者が押さえておくべきポイント:
- インボイス発行事業者の方は、取引先の適格請求書発行事業者登録の確認や、受領した請求書の保存方法が適切か改めて点検しましょう。また、電子インボイス対応の会計ソフトや受発注システムの導入を検討し、紙からデジタルへの移行による業務効率化を図る好機です。免税販売に携わる小売業等では、2026年施行のリファンド方式に向けて販売時と出国時の対応フロー構築やシステム改修、消費税の精算プロセス見直しが必要になります。
電子帳簿保存法の改正 – 電子取引データ要件緩和とシステム要件
電子帳簿等保存制度についても、経理のデジタル化を後押しする観点から重要な改正が行われます。特に電子取引データの保存要件緩和と、それに伴うペナルティ制度の見直しが注目ポイントです。
- 電子取引データ保存要件の緩和:
- 現行制度では、電子取引データに関して不正隠蔽があった場合の重加算税が通常より10%加重される規定があります。令和7年度改正では、国税庁長官が定める基準に適合するシステムを用いて一定の要件を満たした形で電子取引データの授受・保存を行っている場合には、この重加算税10%加重の適用対象から除外する措置が新設されました。
- 具体的には、訂正・削除履歴が残る、または訂正・削除自体ができないシステム上で電子取引情報をやり取り・保存しているケースが該当します。適切な電子取引システムを導入し所定の届出を行えば、万一申告漏れ等が生じても過大なペナルティを受けにくくなるため、コンプライアンス上大きなメリットとなります。
- 青色申告特別控除要件の緩和:
- システム選定と業務フローの見直し:
- 上記改正を受け、電子帳簿保存法に対応したシステムの導入・運用がこれまで以上に重要になります。システム選定にあたっては、公的に要件適合が確認されたJIIMA認証取得製品の活用が有効です。自社の取引規模や形態に合ったソフトウェアを選び、検索機能や保存要件への対応状況、コスト面も含めて総合的に検討しましょう。
- また、電子取引データの受領から保管までの社内フロー整備や担当者教育も欠かせません。経理規程をアップデートし、紙文書をスキャン保存する場合の手続きや電子データ受領時のチェックポイントなどを明文化しておくと安心です。
補足: 2024年末まで電子取引データ保存要件については事実上の猶予措置が取られていましたが、2025年以降は原則どおり電子データでの取引情報保存が求められます。今回の改正による要件緩和はあるものの、適用を受けるには事前届出やシステム対応が必要となります。経理担当者は自社の電子帳簿保存法対応状況を再点検し、不備があれば早急に是正しましょう。
- 経理担当者が押さえておくべきポイント:
- 現在利用中の会計システムや請求書管理システムが訂正削除履歴の記録機能を備えているか確認し、必要に応じてアップデートや乗り換えを検討しましょう。また、青色申告控除65万円を確実に適用できるよう、電子帳簿保存法に沿った帳簿・証憑の管理を徹底することが重要です。紙の書類から電子保存への移行プロジェクトを社内で推進し、税務調査に耐えうる体制を整備してください。
リース取引関連の改正 – 新リース会計基準への税制対応
近年公表された新リース会計基準(企業会計基準第34号)への対応として、税務上のリース取引の取り扱いも見直されました。リース取引が多い企業の経理担当者は、会計と税務の処理乖離に注意しつつ、以下の改正点を把握しておきましょう。
- オペレーティング・リースの損金算入ルール明確化:
- 従来、オペレーティング・リース(借手側が資産計上しない賃貸借取引)におけるリース料のどの部分をどの期に経費計上できるか明確でない部分がありました。令和7年度税制改正では、契約に基づき支払義務が確定した部分の金額については、その確定した日の属する事業年度の損金として計上できることが明示されました。
- つまり、リース料のうち支払額が契約上確定した分については、発生主義に基づき当期費用にできるということです。これによりリース料の損金算入時期の判断が容易になり、経理処理の統一性が高まります(本改正は令和7年4月1日以後開始事業年度から適用)。
- 所有権移転外リース資産の減価償却方法の変更:
- 会計基準の変更に対応し、税務上の所有権移転外リース(リース満了時に資産の所有権が借手に移転しないリース、従来は「オペレーティングリース」に相当)の減価償却ルールも見直されます。令和9年4月1日以降に締結される新たな非所有権移転リース契約については、リース資産の取得価額に残価保証額を含めたまま、リース期間中に1円まで償却可能とする方法に改められます。
- 従来は残価保証額相当分を控除して償却限度を計算していましたが、それを行わず全額を耐用年数で償却できる形となり、経済実態に即した減価償却が可能になります。既存契約については経過措置により旧ルールが適用されますが、新基準適用後は同じリースでも契約締結時期で税務処理が異なる点に注意が必要です。
- 地方税(事業税)等への波及:
- 新リース会計基準では全てのリース取引をオンバランス化することから、地方税(外形標準課税の付加価値割)や消費税の取り扱いにも技術的な整備が行われます。例えば事業税の付加価値割計算上、会計上リース資産計上される不動産リース料の扱いを明確化するなどの対応が取られています。
- これらは主に大企業向けの調整ですが、経理担当者としては会計基準変更による税負担や申告実務への影響を把握しておく必要があります。
- 経理担当者が押さえておくべきポイント:
- 自社で締結しているリース契約(ファイナンスリースかオペレーティングリースか、所有権移転の有無など)を洗い出し、新旧ルールによる処理の違いを整理しましょう。特に2027年以降に開始する契約について減価償却方法が変わるため、会計システムの償却計算設定を見直す準備が必要です。
- また、リース契約書の一元管理体制を整備し、契約ごとに適用すべき会計・税務処理を間違えないようにしましょう。必要に応じて税務専門家とも連携し、移行期の対応を検討してください。
防衛特別法人税の創設 – 防衛費財源確保のための新付加税
令和7年度税制改正では、防衛力強化のための財源確保措置として「防衛特別法人税」(仮称)の創設が盛り込まれました。企業の法人税額に上乗せして課される新たな付加税であり、経理実務へのインパクトも大きい項目です。
- 税率と適用時期:
- 防衛特別法人税は法人税額に対して4%の税率で付加的に課税されます。適用開始は令和8年4月1日以降に開始する事業年度からとされています。具体例として、ある期の法人税額が1,000万円であれば、その4%にあたる40万円が追加で課税される計算です(実際には下記控除適用後の課税標準×4%)。
- 中小企業への配慮(500万円控除):
- 全ての企業に一律課すと中小企業ほど負担が重くなるため、課税標準となる法人税額から年間500万円を控除する措置が設けられます。つまり、算出された通常の法人税額が500万円以下の企業については、防衛特別法人税の課税額がゼロ(免除)となります。法人税額500万円は概ね課税所得2,500万円前後に相当するため、中小・零細企業の多くは実質的に課税対象外となります。一方で十分な利益を計上している企業は追加負担を求められることになります。
- 実務上の対応:
- 経理担当者が押さえておくべきポイント:
まとめ – 改正ポイントを把握して実務の準備を
令和7年度税制改正大綱には以上のように、企業の経理担当者にとって重要な改正事項が数多く盛り込まれています。法人税の負担増や消費税インボイス制度の変更、電子帳簿保存法対応など、経理・税務実務への影響は多岐にわたり幅広い層に影響します。まずは改正内容を正確に把握し、自社の業務に与える影響を一つひとつ洗い出しましょう。そして、システムのアップデートや社内ルールの整備、関係部署との連携強化など、必要な対応策を検討・実行に移すことが肝要です。
改正への準備を着実に進めることで、来るべき制度変更にスムーズに適応し、法令遵守と業務効率化の双方を実現していきましょう。今後発出される政省令や通達等の詳細も確認しつつ、最新の情報にアップデートしていく姿勢が求められます。経理担当者として本改正を乗り越え、企業の健全な財務運営に貢献していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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