- 作成日 : 2024年10月24日
法人が白色申告を選ぶとデメリットだらけ?青色申告との違いを解説
白色申告は、選択するものではなく、青色申告をしなかった場合の申告が白色申告となります。青色申告は特典が多いものの、正確に記帳して複式簿記で処理を行うなどのルールを守らなければなりません。長期間の経営の中においては、法人が白色申告を選択することもあり得ます。この記事では、法人の白色申告について青色申告と比較しながら解説します。
目次
そもそも法人は白色申告を選択できる?
青色申告承認申請書を提出していない法人等は、白色申告しかできません。また、青色申告法人であっても白色申告は選択可能です。
青色申告法人とは、決められた帳簿組織を備え、日々の取引を正確に記録し、その結果に基づいて法人税の申告・納税をするものとして、税務署長の承認を受けた法人を言います。よって、これ以外の法人の申告は白色申告となります。
法人税法第121条には、次のように定められています。
内国法人は、納税地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、次に掲げる申告書及びこれらの申告書に係る修正申告書を青色の申告書により提出することができる。
一 中間申告書
二 確定申告書
ここで注目したいのが「提出することができる」という表現です。青色申告法人は「青色申告することができる」とされているので、青色申告をしない、つまり、白色申告をすることもできるというわけです。
法人の白色申告と青色申告の違い
法人における白色申告と青色申告の主な違いを見ていきましょう。特に、節税効果では大きな違いがでてきます。長期的な目でみれば青色申告にするのがおすすめです。
青色申告承認申請書を提出するかの違い
青色申告をするためには、青色申告の承認申請をする必要があります。青色申告承認申請には、以前の青色申請の状況の確認、利用する帳簿、会計システムの有無、税理士関与の有無などを記載する欄があります。
青色申告承認申請は、青色申告をしたい事業年度開始前に提出する必要があります。したがって、事業年度が始まった後から青色申告承認申請を行う場合、翌年度からの青色申告となります。
帳簿の付け方の違い
白色申告と青色申告の帳簿の付け方や提出する申告書の違いは、以下のとおりです。
比較項目 | 白色申告 | 青色申告 |
---|---|---|
記帳方式 | 単式簿記による記帳が可能 | 原則として複式簿記による記帳 |
帳簿組織 | 青色申告のような規定はない | 主要簿(仕訳帳、総勘定元帳等)及びその他必要な帳簿 |
確定申告の 主な提出書類 | 貸借対照表、損益計算書、確定申告書及び別表 | 貸借対照表、損益計算書、確定申告書及び別表 |
白色申告においても貸借対照表の提出が求められるため、複式簿記で記帳していないと各勘定科目の残高を把握するのが非常に複雑になります。よって、実際は複式簿記に近い形で帳簿を作成することが多いと言えます。
また、会計ソフトのパッケージを利用して白色申告をした場合、原則的には複式簿記になります。
節税効果の違い
白色申告と青色申告の最も大きな違いが節税効果です。法人の中でも、特に資本金1億円以下の中小法人への節税効果が大きいと言えます。
ここでは、青色申告法人の節税につながる特典のうちの一部をご紹介します。(記事後半で詳細をご紹介するものは説明省略)
- 欠損金の繰越控除、欠損金の繰戻し還付(後述)
- 租税特別措置法上の特例の適用
租税特別措置法は、一定の政策目的を達成するために税の軽減を定めた法律です。期限付きの特例規定であるため、適用期間に注意をする必要があります。
- <減価償却の特例 通常の減価償却費だけでなく、一定の条件を満たすと「特別償却」「割増償却」などの多くの費用が認められ、結果として節税になります。
- 少額減価償却資産の特例(後述)
- 法人税の特別控除
一定の要件を満たす場合において、法人税額の特別控除を受けられます。
法人が白色申告を選択するメリットはある?
所得税と異なり、法人税において法人が白色申告を選択するメリットは非常に限定的であると言えます。
例えば、白色申告では単式簿記による簡易な帳簿作成が可能ですが、申告時には貸借対照表が求められます。そのため、改めて資産や負債の残高を確認する必要がありますが、この煩雑さに比べると、複式簿記をしたほうが手間がかからずに済むでしょう。
法人でも非常に取引が少ない場合などでは、白色申告の簡易帳簿に若干メリットを感じるかもしれません。
法人が白色申告を選択するデメリット
法人が白色申告を選択するデメリットは、青色申告をするメリットの裏返しと言えます。白色申告のままでは青色申告の特典が適用できず、結果的に資金繰りが大変になることもあり得るでしょう。
例えば、「賃上げ促進税制」により前年度より給与支給額等が増えた中小企業等は法人税の税額控除ができますが、対象は青色申告法人に限られます。白色申告では、従業員の賃上げをしても法人税の軽減を受けることはできません。
青色申告と同様に決算書などの書類が必要
白色申告の確定申告では、先述のとおり貸借対照表、損益計算書と確定申告書(別表を含む)の提出が求められます。
作成する書類は青色申告と基本的に変わらないのに適用される特典が異なり、同じ条件の場合、節税できるのは青色申告です。これは結果的に、白色申告のデメリットと言えます。
法人が青色申告を選択するメリット
ここでは青色申告法人に適用されるメリットのうち、「欠損金の繰越控除」「欠損金の繰り戻し還付」「少額減価償却資産の特例」を見ていきましょう。
欠損金(赤字)を10年間繰越控除できる
青色欠損金の繰越控除とは、青色申告した事業年度に発生した法人の赤字は、一定の要件のもと、最大10年繰り越して控除できるという制度です。
一定の要件とは、白色・青色にかかわらず、赤字の発生した後の事業年度において連続して確定申告書を提出することです。ただし、大法人などは、繰り越せる赤字について制限があるため注意しましょう。
参考:No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除|国税庁
欠損金の繰り戻しで法人税が還付される
青色申告書を提出する事業年度に欠損金が生じた場合に、その欠損金をその前事業年度に繰り戻して法人税額の還付請求することができます。還付請求する際には、確定申告書とともに還付請求書を提出します。
なお、この制度は現在、中小企業者等以外の法人については適用しないこととされています。
30万円未満の減価償却資産を一括で経費にできる
青色申告法人である中小企業者等が、取得価額30万円未満の減価償却資産(以下、少額減価償却資産)を取得して事業の用に供した場合に、一定の要件を満たせばその取得価額を経費とすることができます。
ただし、少額減価償却資産の年度合計額が300万円までについてのみ適用されます。
参考:中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例|国税庁
マイクロ法人でも青色申告がおすすめ?
マイクロ法人(小規模な法人)が青色申告を選ぶべき理由として次の2点が挙げられます。
税制上の優遇を受けられる
青色申告によって、税制上のさまざまな優遇措置を受けることができます。マイクロ法人では資金繰りが大きな課題ですが、先述の「欠損金の繰越控除」や「欠損金の繰り戻し還付」をはじめ、各種の制度を適用することにより、法人税の負担を軽減することができます。
経理の信頼性が向上する
青色申告では、複式簿記が求められますが、経理の「透明性」や「信頼性」が向上します。正確な記帳が行われることで、税務署等からの信頼が高まり、調査リスクの軽減等が期待できます。
個人事業主が法人成りする場合に気をつけたいこと
個人事業主が法人成りをする際には、所得税と法人税の双方について正しく理解しておく必要があります。法人成りをしても、自己の所得税については年末調整や確定申告が必要です。
法人成りした年度は個人・法人で2つの確定申告が必要になる
通常、個人事業主が法人成りをした年度は「個人としての所得」と「法人としての所得」がそれぞれ発生します。したがって、所得税の確定申告と法人税の確定申告を別々に行う必要があります。
個人事業は、法人成りをする年の1月1日から法人成りの日までの帳簿を作成して確定申告を行います。法人成り後には、法人としての帳簿を作成し、事業年度に合わせて確定申告をしなければなりません。
これらをきちんと区分して申告せず、無申告や空白期間が生じたりすると税務署から指摘される可能性があります。
法人は青色申告特別控除が適用されない
個人事業主が青色申告をしている場合、青色申告特別控除として最大65万円の所得控除が受けられます。ただし、これは所得税のみであり、法人にはこの特別控除がありません。
法人成り後は法人税税制が適用されるため、控除内容や計算方法も異なります。
ただし、「青色申告制度」は個人にも法人にもあります。法人成りをした場合は、青色申告承認申請書を提出して、青色申告法人となることをおすすめします。
法人税の確定申告期限は決算日で決まる
法人税の確定申告期限は、決算日(事業年度終了日)から2か月以内に行う必要があります。そのため、法人成りをするときは事業年度について慎重に検討したほうがよいでしょう。
なお、延長申請をすることで最大1か月の延長が可能です。ただし、適用するには税務署に事前の申請が必要となります。個人事業主の確定申告とは異なり、法人税には特有の期限と手続きがあるため注意が必要です。
法人のほとんどが青色申告!
インターネット上には、白色申告と青色申告の比較が多く見受けられますが、ほとんどが個人事業主(所得税)についてのものです。それは、法人においてはほとんどが青色申告を行っているからです。(令和3年において法人の青色申告の割合99.2%)
法人税の申告書には、実際には勘定科目内訳明細書や措置法適用の際の明細書など多くの添付書類があります。何かのはずみで白色申告せざるを得ない状況になる以外は、法人なら青色申告によって申告することがスタンダードと言えるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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