- 更新日 : 2025年2月18日
【建設業向け】損益計算書の書き方は?テンプレをもとに勘定科目も解説
着工から完成までに、場合によっては1年を超える長い期間を要する建設業では、1年ごとに区切って処理をする一般の会計とは異なる「建設業会計」が採用されます。建設業会計では損益計算書の勘定科目も、建設業に特有なものが用いられます。この記事では建設業の勘定科目、およびテンプレートをもとにした損益計算書の書き方を解説します。
目次
建設業における法人向けの損益計算書
建築業における法人向けの損益計算書は、一般的な損益計算書とは異なり、建設業法施行規則別記様式「第十六号」として様式が定められています。ここでは、この様式に準拠した勘定科目を解説します。
売上高
売上高は、建設業では以下の2つの勘定科目があります。
完成工事高
建設工事の売上高です。長期の未完成工事については、当期の工事進行基準に基づいた「期中出来高相当額」を計上します。
兼業事業売上高
資材の販売や清掃、点検など、建設業に直接関わらない事業の売上はこちらに計上します。
売上原価
売上原価は、完成工事高と兼業事業売上高のそれぞれについて以下の勘定科目で計上します。
完成工事原価
完成工事高として計上した売上に対応する原価。
兼業事業売上原価
兼業事業売上高として計上した売上に対応する原価。
総利益
総利益も、全体の総利益のほか、完成工事と兼業事業のそれぞれについても算出します。
売上総利益(売上総損失)
売上高から売上原価を差し引いた金額。
完成工事総利益(完成工事総損失)
完成工事高から完成工事原価を差し引いた金額。
兼業事業総利益(兼業事業総損失)
兼業事業売上高から兼業事業売上原価を差し引いた金額。
販売費及び一般管理費
販売のための費用である販売費、および会社運営のための費用である一般管理費は、以下の勘定科目があります。
役員報酬
取締役や執行役、監査役、会計参与などに対する報酬。
従業員給料手当
本店および支店の従業員に対する給与や手当、賞与。建設に直接携わる従業員への給与や手当は完成工事原価の労務費に算入し、こちらは建設に直接関わらない営業や販売などの従業員の給与や手当を算入します。
退職金
役員や従業員に対する退職金。
法定福利費
健康保険や厚生年金保険、労働保険の保険料の事業主負担額。
福利厚生費
役員・従業員の慰安娯楽、貸与被服、医療、慶弔見舞などの福利厚生のための費用。
修繕維持費
建物や機械、装置などの維持費や修理費、倉庫物品の管理費など。
事務用品費
事務用の消耗品(ボールペンや消しゴムなど)や、固定資産に計上しない事務用の備品、新聞・参考図書の購入などのための費用。
通信交通費
動力用水光熱費
調査研究費
技術研究や開発のための費用。
広告宣伝費
広告や公告、宣伝のための費用。
貸倒引当金繰入額
営業取引で発生する受取手形や完成工事未収入金などの債権について、回収不能になるかもしれない金額をあらかじめ見積もった金額。
貸倒損失
営業取引で発生する受取手形や完成工事未収入金などの債権について、実際に回収不能になった金額。
交際費
得意先や取引先などの接待費、慶弔見舞や中元歳暮などの費用。
寄付金
社会福祉団体や政治団体などへの寄付金。
地代家賃
事務所や店舗、寮、社宅、駐車場などの借地借家料。
減価償却費
減価償却資産の償却費。
開発費償却
繰延資産に計上した開発費の償却額。開発費は繰延資産として計上し、その後の償却費は営業費用として扱われます。
租税公課
事業税(利益を課税標準として課されるものを除く)、事業所税、不動産取得税、固定資産税などの租税と、道路占用料、障害者雇用納付金などの公課。
保険料
火災保険や、その他の損害保険料。
雑費
社内の打ち合わせ費用や諸団体の会費など、販売費・一般管理費の他の科目に該当しない費用。
営業利益(営業損失)
売上総利益(売上総損失)から販売費・一般管理費を差し引いた金額。
営業外収益
営業外収益は本業の営業活動以外で得た収益のことで、以下の勘定科目があります。
受取利息および配当金
その他
営業外費用
本業の営業活動以外でかかった費用のことで、以下の勘定科目があります。
支払利息
貸倒引当金繰入額
本業の営業以外の取引で発生した貸付金などの債権について、回収不能になるかもしれない金額をあらかじめ見積もった金額。
貸倒損失
本業の営業以外の取引で発生した貸付金などの債権について、実際に回収不能になった金額。
その他
- 創立費償却
繰延資産として計上した創立費の償却費用。 - 開業費償却
繰延資産として計上した開業費の償却費用。 - 株式交付費償却
繰延資産として計上した株式交付費の償却費用。 - 社債発行償却
繰延資産として計上した社債発行費の償却費用。 - 有価証券売却損
株式や債券の売却による損失額。 - 有価証券評価損
会社計算規則第5条第3項第1号及び同条第6項の規定により時価を算定した際に生ずる、有価証券の評価損。 - 雑損失
他の営業外費用の勘定科目に当てはまらない支出。
経常利益(経常損失)
営業利益(営業損失)に、営業外収益の金額を加え、営業外費用の金額を差し引いた金額。
特別利益
前期損益の修正や臨時利益など、特別に発生した利益のことで、以下の勘定科目があります。
前期損益修正益
前期以前の決算書で間違いがあった場合に、修正したことにより発生した利益。
その他
固定資産売却益や、長期保有の投資有価証券の売却益、財産受贈益など、通常は発生しない異常な利益。
特別損失
前期損益の修正や臨時損失など、特別に発生した利益のことで、以下の勘定科目があります。
前期損益修正損
前期以前の決算書で間違いがあった場合に、修正したことにより発生した損失。
その他
固定資産売却損や、長期保有の投資有価証券の売却損、災害による損失、固定資産圧縮記帳損、損害賠償金など、通常は発生しない異常な損失。
税引前当期純利益(税引前当期純損失)
経常利益(経常損失)に、特別利益の合計額を加え、特別損失の合計額を差し引いた金額。
法人税等
法人に課せられる税金のうち、所得に関する金額を課税標準(税金計算の基準)とする税金のことで、以下のような勘定科目があります。
法人税、住民税、および事業税
法人税等調整額
会計処理と税法規定の調整のため必要となった金額。
当期純利益(当期純損失)
税引前当期純利益(税引前当期純損失)から法人税・住民税・事業税の金額を差し引き、法人税等調整額を加減した金額。
建設業向け損益計算書テンプレート・ひな形
損益計算書はExcelでも作成できます。建設業向け損益計算書のExcelによるテンプレート・ひな形は、以下のURLからダウンロード可能です。ぜひご活用ください。
損益計算書を書く際のポイント
上のテンプレートをもとに、損益計算書を書く際の手順とポイントを解説します。
【手順1】売上・原価内訳の各項目を入力する
まずダウンロードしたExcelファイル中のタブ「テンプレ②」にある「売上・原価内訳」のカテゴリーごと、月ごとの金額を入力します。案件カテゴリーと原材料カテゴリーの欄には、入力の際に「◯◯工務店」や「木材」など、必要に応じて名称を入力しましょう。
月ごとの金額を入力し終えると、黄色のセル(年間合計金額、売上合計金額、原価合計金額)が自動的に計算されて表示されます。
【手順2】損益計算書の各項目を入力する
「売上・原価内訳」の入力が終わったら、タブ「テンプレ①」にある「損益計算書」の各勘定科目の金額を月ごとに入力します。売上・原価内訳の入力により、売上と売上原価の欄には、すでに金額が表示されています。
金額を入力すると、黄色のセル(年間や費用ごとの合計金額、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期利益、税引後当期利益)が自動的に計算されて表示されます。
すべての入力が終了したら、黄色のセルの塗りつぶしを「なし」に変更すれば、損益計算書の作成は完了です。
建設業の損益計算書特有の勘定科目
着工から完成までに、場合によっては1年を超える長い期間を要する建設業では、1年ごとに区切って処理する一般の会計とは異なる「建設業会計」が採用されます。建設業会計では「工事進行基準」が適用され、工事を進めている間にも売上や経費を細かく計上していきます。それに伴い、損益計算書でも一般の会計では使われない、以下のような建設業に特有の勘定科目が存在します。
勘定科目 | 意 味 |
---|---|
完成工事高 | 一般会計の売上高に相当し、工事が完了した際に得られる収益のこと。 |
完成工事原価 | 一般会計の原価に相当し、材料費・労務費・外注費・経費の細目がある。 |
完成工事総利益 | 完成工事高から完成工事原価を差し引いた金額。 |
未成工事支出金 | 完成前の工事で発生した費用。 |
完成工事未収入金 | 一般会計の売掛金に相当し、工事は完成しているが翌期に入金予定の収入の金額。 |
未成工事受入金 | 一般会計の前受金に相当し、工事完成引渡し前に発注者より受領した金額。 |
工事未払金 | 一般会計の買掛金に相当し、工事費のうち未払いの金額。 |
建設業会計をマスターして決算をスムーズに進めよう
建設業の損益計算書で使われる勘定科目は一般会計と異なるものがあるため、経理経験者でも決算の際に戸惑うことがあるようです。この記事で紹介した建設業会計の勘定科目をマスターし、決算をスムーズに進めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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