- 更新日 : 2025年2月19日
繰越利益剰余金とは?求め方や仕訳例、マイナスになるケースを解説
繰越利益剰余金とは、株主への配当額にも関わる勘定科目です。過去の事業年度からの未分配利益で、法定準備金や配当後の残余です。貸借対照表の自己資本欄に記載され、企業の財務安定性や将来の投資資源として重要です。ここではこの繰越利益剰余金が貸借対照表でどのような位置付けがされているのかを通じて、その性質や仕訳の具体例を解説します。
目次
繰越利益剰余金とは?
繰越利益剰余金は、企業が過去の事業年度から継続して蓄積された未分配利益のことです。これは、配当、内部留保、またはその他の財務的用途のために保持される利益の部分であり、貸借対照表の自己資本欄に記載されます。繰越利益剰余金は、企業が稼いだ利益から法定準備金や配当金を差し引いた後の金額で、企業の財務安定性や将来の投資のための資源として重要です。また、企業の純資産の増加を反映し、長期的な成長や発展を支える基盤となります。
繰越利益剰余金は次の計算式で算出されます。
繰越利益剰余金=(当期純利益+繰越利益+任意積立金の取り崩し額)-期中配当額-配当に伴う利益準備金積立額
当期純利益とはその企業が会計期間中に得た売上から費用などを差し引いた金額です。繰越利益とは前期に利益処分されずに繰り越された利益を指します。
繰越利益剰余金の貸借対照表での位置付け

繰越利益剰余金は貸借対照表のうち純資産の部の中の「株主資本」に区分されます。株主資本の中には「資本金」「資本剰余金」「利益剰余金」「自己株式」という区分があり、このうち繰越利益剰余金が含まれるのは「利益剰余金」です。
利益剰余金には「利益準備金」「その他利益剰余金」の2つの区分があり、このうちのその他利益剰余金に繰越利益剰余金が計上されます。以下ではこの利益剰余金と繰越利益剰余金の関係について解説します。
利益剰余金と繰越利益剰余金
利益剰余金とは?
利益剰余金とは当期純利益のうち社内留保をする利益を指します。株式会社は利益剰余金の配当を株主に対して行う場合、配当によって減少する剰余金の額の10%をこの利益準備金または資本準備金として計上しなければならないとされています。
これによって積み立てられたお金が、利益剰余金を構成する2つの区分のうち利益準備金です。このお金は任意に取り崩すことはできません。株主総会決議によって取り崩すことは可能ですが、旧商法における資本組入は認められていないので注意が必要です。
任意積立金と繰越利益剰余金
もう1つの区分である「その他利益剰余金」は利益準備金以外の利益剰余金のことです。この中には「任意積立金」と「繰越利益剰余金」の2つが含まれます。
このうち任意積立金は企業自身の判断で積み立てるもので、株主総会決議によって設定目的や積立基準、処分方法などを任意で決定することができます。また会計監査人設置会社の場合は定款に定めておけば取締役会でこれを決議することも可能です。任意積立金には次のような積立金が含まれます。
1.別途積立金
→多くの企業が設定している任意積立金の1つ。特定の利用目的に限定せずに、将来の何らかの使途のために積み立てておくものなので、利益留保に適しています。取り崩す場合は株主総会決議を経て、キャッシュフロー計算書にその事実を記載しなくてはなりません。
2.配当平均積立金
→企業が業績不振に陥った場合にも、一定の配当額を維持できるようにあらかじめ積み立てておく積立金。業績が好調なときに積み立てておき、必要に応じて取り崩します。この目的に合致した取り崩しであれば取締役会決議を経てキャッシュフロー計算書にその事実を記載するだけで問題ありませんが、目的外の取り崩しの場合は別途積立金同様に株主総会決議が必要です。
3.圧縮積立金
→法人税法または租税特別措置法上の圧縮記帳の会計処理として、積立金方式で固定資産などの取得価額を圧縮する場合の積立金。
4.特別償却準備金等
→租税特別措置法上の特別償却または割り増し償却の規定の適用を受ける場合に、積立金方式で積み立てたもの。
これらすべてに該当しないその他利益剰余金が繰越利益剰余金として計上されます。したがって繰越利益剰余金とは社内留保をする利益のうち、利益準備金と任意積立金以外の利益であるということができます。またこれは株主への配当の原資となります。
繰越利益剰余金の仕訳例
繰越利益剰余金60万円を別途積立金に積み立てたケース
別途積立金を積み立てると企業にはその分のお金が入ってきます。したがって別途積立金は貸方科目に記入されます。別途積立金分のお金が入ってきた理由となる繰越利益剰余金は借方科目として記入されます。金額は両方とも60万円です。
繰越利益剰余金60万円の配当が決議されたケース
この場合、繰越利益剰余金は企業から出ていくお金になるので借方科目に記入されます。繰越利益剰余金の配当が株主総会で決議されても、すぐに支出が発生するわけではありません。債務(負債)として一時的に処理する「未払配当金勘定」を行う必要があります。
そのため貸方科目は未払配当金です。なお金額は両方とも60万円となります。
繰越利益剰余金がマイナスになるケースとは
繰越利益剰余金がマイナスになるのは、通常、企業が累積損失を計上した場合です。これは以下のような状況で起こり得ます。
- 連続した営業損失: 企業が連続して損失を出し、以前に蓄積された利益を上回る場合、繰越利益剰余金はマイナスになります。
- 大規模な減損損失: 資産の価値が急激に下がり、その減損を計上した結果、財務諸表に大きな損失が反映されることもあります。
- 特別損失の発生: 災害損失や訴訟費用など、予期せぬ一時的な損失が発生した場合も、繰越利益剰余金が減少します。
これらの損失が累積し、過去に蓄積された利益を上回ると、繰越利益剰余金はマイナスとなり、財務上の警告信号と見なされることがあります。
まとめ
繰越利益剰余金は貸借対照表において「その他利益剰余金のうち任意積立金以外のもの」であり、かつ株主への配当の原資です。
利益剰余金や任意積立金への理解を深めることで、繰越利益剰余金がどういうお金なのか、そしてどう取り扱うべきなのかがより深く理解できるでしょう。
関連記事
・その他資本剰余金とは
・財務諸表に関する法的根拠まとめ
・貸借対照表の書き方をマスターしよう!
よくある質問
繰越利益余剰金とは?
社内留保にする当期純利益のうち、利益準備金と任意積立金以外の利益のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
繰越利益余剰金は株主への配当の原資になる?
はい。配当金は利益余剰金を原資とするため、繰越利益余剰金も含まれます。詳しくはこちらをご覧ください。
繰越利益余剰金は借方貸方どちらに計上する?
企業から出ていくお金なので「借方」に計上します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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