- 更新日 : 2025年9月9日
中小企業等経営強化法とは?メリットや経営力向上計画の申請方法を解説
「中小企業等経営強化法とは何だろう」「制度を活用したいので、申請方法が知りたい」
このように悩む方も多いのではないでしょうか。
中小企業等経営強化法は、うまく活用すれば税制優遇や低金利融資といったメリットを享受できる一方、事業分野により条件が異なり、申請方法が少し複雑です。
本記事では、中小企業等経営強化法の概要から、制度活用のポイントとなる経営力向上計画の申請方法、失敗しないための注意点までをわかりやすく解説します。
この記事を読んでいただければ、制度の内容がわかり、自社に合った支援の申請ができるようになるでしょう。
目次
中小企業等経営強化法とは
中小企業等経営強化法は、中小企業等の経営強化を図り、経済の健全な発展を目的として作られた法律です。
近年、日本では少子化や人手不足、国際競争の激化などにより、中小企業や小規模事業者の事業環境は厳しくなっています。
経済の活性化には、中小企業等の成長発展が重要です。そのために、新たに設立された企業の事業活動や、中小企業等の経営力向上、先端設備の導入および事業継続力強化の支援などを国が行います。
具体的には、まず中小企業が策定した事業計画である「経営力向上計画」を国が認定します。そして、計画達成を支援するために、税制措置や金融支援、法的な特例といったさまざまなサポートを提供する仕組みです。
中小企業等経営強化法の対象となる会社
中小企業等経営強化法の対象となるのは、経営力向上計画の認定を受けた中小企業や小規模事業者です。
ただし、業種によって資本金や従業員数の上限が異なります。対象となるかどうかは、主に「業種」「資本金(または出資金)の額」「常時使用する従業員の数」の3つの基準で判断されます。
例は、以下の通りです。
中小企業等経営強化法の対象となる会社および個人の基準(一部)
主な事業 | 資本金の額(または出資の総額) | 常時使用する従業員の数 |
---|---|---|
製造業、建設業、運輸業、その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5千万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5千万円以下 | 50人以下 |
参考:e-GOV 法令検索|中小企業等経営強化法(令和7年6月1日)
株式会社や合同会社といった法人だけでなく、個人事業主もこれらの条件を満たせば対象に含まれます。資本金と、使用する従業員数両方の条件を満たす必要はなく、どちらかに当てはまっていれば支援対象です(個人事業主の場合は、従業員数の条件のみ満たせばよい)。
また、支援制度によっては上記より広い範囲の「特定事業者等」が対象になります。
注意点として、大企業の子会社や特定非営利活動法人、医療法人などは制度の支援対象から外れる場合があります。
個別の法律や補助金制度によって、「中小企業」の定義も異なるため、中小企業庁のホームページや補助金の窓口などでよく確認しておきましょう。
中小企業等経営強化法で受けられる3つの補助
中小企業等経営強化法によって受けられる補助内容は、大きく分けて3つあります。
ひとつずつ確認していきましょう。
1.税制措置
税制措置とは、税金の負担を軽減するための特別な優遇制度のことです。
「経営力向上計画」の認定を受け、指定期間内に設備投資を行う場合に費用の即時償却、または取得価額10%(資本金3,000万円超の法人は7%)の税額控除を受けられます。
指定期間とは、平成29年4月1日から令和9年3月31日までの期間です。
対象となる設備には型によって、いくつか条件があります。
中小企業経営強化税制の対象となる設備の要件
類型 | 要件 | 確認者 | 対象設備 | その他要件 |
---|---|---|---|---|
生産性向上設備(A類型) | 生産性が旧モデル比平均1%以上向上する設備 | 工業会等 |
※A類型の場合、測定工具または検査工具に限る
※A類型の場合、設備の稼働状況等に係る情報収集機能および分析・指示機能を有するものに限る |
※事務用器具備品・本店・寄宿舎等に係る建物附属設備、福利厚生施設に係るものは該当しない
|
収益力強化設備(B類型) | 投資利益率が年平均7%以上の投資計画に係る設備 | 経済産業局 | ||
経営資源集約化設備(D類型) | 修正ROAまたは有形固定資産回転率が一定割合以上の投資計画に係る設備 | |||
経営規模拡大設備等(E類型) |
|
※生産性向上に資する設備の導入に伴って新増設される建物およびその附属設備に限る |
参考:中小企業庁|中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き(令和7年度税制改正対応版)p2
これらの税制措置は、資金繰りの改善や設備投資回収期間の短縮に寄与するため、うまく活用すると事業の成長を加速させられるでしょう。
2.金融支援
金融支援は、資金調達に関する優遇制度です。
具体的には、以下のような金融支援が受けられます。
- 政策金融機関の融資
- 民間金融機関の融資に対する信用保証
- 債務保証などの資金調達支援
認定を受けた事業者は、日本政策金融公庫や民間金融機関からの融資において、低金利融資や信用保証枠の拡大などの優遇を受けられます。
金融支援は単なる融資ではなく「事業計画の信頼性が国に認められた」という信用力向上の効果もあるため、取引先や投資家からの評価向上にもつながるでしょう。
ただし、特定事業者かどうかなど、会社の条件によって受けられる金融支援に違いがあるため、事前によく確認しておくことが大切です。
参考:中小企業庁|中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き(令和7年度税制改正対応版)p17
3.法的支援
法的支援では、事業を進めるうえで必要となる以下の特例を受けられます。
- 許認可の承継の特例
- 組合の発起人数に関する特例
- 事業譲渡の際の免責的債務引受に関する特例
たとえば、事業承継を行うことを含む経営力向上計画の認定を受け、その内容に従い許認可事業を承継するときの特例です。この場合は承継される側の事業者から、当該許認可に係る地位をそのまま引き継げます。
該当する許認可事業は、以下の通りです。
- 旅館業
- 建設業
- 火薬類製造業・火薬類販売業
- 一般旅客自動車運送事業
- 一般貨物自動車運送事業
- 一般ガス導管事業
参考:中小企業庁|中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き(令和7年度税制改正対応版)p22
法的支援は直接的な金銭的メリットよりも、時間と労力の削減、そして事業のスピード感向上に大きく寄与します。これらの支援は、競争環境の激しい市場において大きなアドバンテージとなるでしょう。
経営力向上計画とは
経営力向上計画とは、自社の経営力を向上させるための具体的な目標や取り組みを記した計画書のことです。
経営力向上計画の認定は、中小企業等経営強化法による支援を受けるために必要です。
計画書は中小企業庁によって定められた様式があり、主に以下のような内容を記載します。
- 現状認識:自社の事業概要、商品・サービスの強み、経営課題などを分析する
- 目標設定:労働生産性などを指標とし、計画期間内に年率平均で何%向上させるか、具体的な数値目標を設定する
- 取り組み内容:目標達成のために、具体的に何を行うかを記載する(例:新設備の導入、ITシステムの活用、新たな販路開拓、人材育成など)
- 必要な資金と調達方法:設備投資などに必要な資金の額と、自己資金や融資などの調達方法を記載する
参考:中小企業庁|経営力向上計画策定の手引き(令和7年7月8日)
計画の策定には商工会議所や地域の金融機関、士業の専門家などからもサポートを受けられます。
計画を策定するプロセス自体も、自社の現状を客観的に見つめ直し、将来の成長戦略を考えるよい機会になるでしょう。
中小企業等経営強化法の活用で得られる3つのメリット
中小企業等経営強化法を活用して得られるメリットを、3つ解説します。
それぞれ見ていきましょう。
1.税負担の軽減
ひとつめのメリットは税負担を軽くできることです。
中小企業経営強化税制によって、設備投資初年度の法人税、個人の場合は所得税を大幅に圧縮できます。
備品費用の「即時償却」か、もしくは「税額控除」を選択して適用する形です。
即時償却を利用すると初年度にすべての費用を経費として計上でき、その年の利益が圧縮され、課税対象となる所得を減らせます。結果として納税額を抑え、資金繰りの負担が軽くなるでしょう。
税額控除を利用した場合は、導入した設備の取得価額の10%(資本金3,000万円以上の法人は7%)を、納めるべき法人税額から直接差し引けます。こちらは課税所得を減らす即時償却と異なり、算出された税額そのものを直接減額できるため、高い節税効果があります。
どちらの制度を選択するかは、企業の利益状況や今後の事業計画によって変わってくるでしょう。
いずれにしても、設備投資に伴う税負担を大きく軽減し、企業の投資余力を生み出すことにつながる支援制度です。
2.資金調達の円滑化
ふたつめは、金融支援を受けやすくなるメリットです。
代表的な支援策として、政府系金融機関である日本政策金融公庫からの低金利融資が挙げられます。
計画の認定を受けることで、通常よりも有利な金利で事業資金を借り入れることが可能です。金利負担が軽くなることは、長期的な返済計画において大きなメリットとなるでしょう。
また、民間の金融機関から融資を受ける際に、信用保証協会の保証枠の拡大を受けられるため、より大きな金額の融資を引き出しやすくなります。
このように、経営力向上計画の認定により設備投資へのハードルが低くなり、生産性が向上、品質改善や新商品開発がしやすくなります。
企業の状況に応じた多様な資金調達ができ、積極的な事業展開を後押ししてくれるでしょう。
3.経営課題の計画的な改善
みっつめは、経営課題を計画的に改善できるというメリットです。
これは、支援を受けるための前提となる経営力向上計画の作成プロセスそのものに大きな価値があるからです。
計画を作成するにあたり、企業は自社の現状を客観的に分析する必要があります。たとえば、以下のような点です。
- 自社の強みや弱み
- 現状の課題
- 市場や顧客のニーズ
- 競合他社の動き
こうした点を洗い出すことで、これまで漠然と感じていた課題が明確になります。
次に、その課題を解決するために、具体的で測定可能な目標を設定します。
経営者だけでなく従業員も一緒にこの分析を行うことで、会社が抱える課題についてチーム全体で共通の認識をもつことができるでしょう。
この一連のプロセスを通じて、企業は自社の経営状態を深く理解し、場当たり的ではない、戦略的で計画的な経営改善に取り組めるようになります。
経営力向上計画の申請【4ステップ】
経営力向上計画の申請の基本的な流れを、4つのステップ形式で紹介します。
順番に見ていきましょう。
1.利用計画を策定する
まず、税制措置や金融支援、法的支援から利用したい内容を検討します。
以下の中小企業庁の手引きを見ながら計画しましょう。
>中小企業庁|経営力向上計画策定の手引き(令和7年7月8日)
>中小企業庁|中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き(令和7年度税制改正対応版)
次に自社がどの事業分野に属するか、資本金、従業員人数などの条件を確認します。
設備を取得したい場合は、事前に経済産業大臣による確認書の取得や、経営力向上計画の認定が必要なため注意しましょう。
事前確認の完了後、定められた事業分野別の指針を踏まえて経営力向上計画を策定します。
2.必要書類を申請する
中小企業庁のWebサイトから申請書の様式をダウンロードし、必要事項を記入して申請します。
書類の記入方法は、中小企業庁のページを参照して進めていきましょう。
>中小企業庁|経営力向上計画策定の手引き(令和7年7月8日)
自社だけでの作成が難しい場合は、中小企業診断士や税理士などの専門家、地域の金融機関などにも相談できます。
中小企業庁では申請を受け付けておらず、事業分野によって経済産業省や農政局など、申請先が異なります。
一部の省庁では電子申請が可能です。
3.審査・認定を受ける
申請の審査には約30日ほどかかります(複数省庁にまたがる場合は約45日)。
不動産取得税の軽減措置や許認可承継の特例を利用する場合は、上記に加えて関係行政機関の評価にさらに日数が必要なため、日にちに余裕をもって申請しましょう。
認定を受けた場合は、計画認定書と計画申請書の写しが交付されます。
申請書に不備がある場合は、各事業所管大臣からの照会や申請の差戻しが発生し、手続きが長期化する場合もあるため注意が必要です。
4.計画を実行する
計画書が認定されたら、策定した経営力向上計画を実行に移すフェーズに入ります。
計画に記載した設備の導入や新たな販路開拓、人材育成などの取り組みを、スケジュールに沿って着実に進めていきましょう。
計画期間中は、関係機関から「実施状況報告」の提出を求められる場合があるため、計画の進捗を定期的に記録、管理しておくことが大切です。
経営力向上計画を確実に実行し、目標を達成することで、企業の持続的な成長を実現していきましょう。
注意点として、税制措置の支援を受ける場合は、計画が認定されただけで自動的に補助が受けられるわけではなく、通常通り確定申告での手続きも必要です。
確定申告について詳しくは、以下の記事で詳しく解説しています。
また、市場環境の急変や予期せぬトラブルなど、やむを得ない理由で計画を大幅に変更する必要が生じた場合は、変更に関する申請を再度行う必要があります。
計画の申請時に押さえておきたいポイントと注意点
経営力向上計画の申請を成功させるために、以下の点に注意しましょう。
- 実現可能な計画を立てる: 目標が高すぎたり、取り組み内容が曖昧だったりすると認定されにくくなる。複雑にしすぎず、具体的で実現可能な計画を策定する
- 専門家を有効活用する: 商工会議所や地域金融機関等のサポートを受けることで、計画の質が向上し、申請手続きもスムーズに進む
- 早めに準備をはじめる: たとえば税制優遇は、原則として設備を取得する前に計画の認定を受ける必要がある。設備投資を検討しはじめた段階で、早めに準備に取り掛かる
- 支援要件をよく確認する: 支援制度には、事業分野、資本金の額、設備の種類、取得価額など細かい要件が定められている。内容が法改正で変更される可能性もあるため、制度を利用する際は必ず中小企業庁の最新情報を確認する
ほかにも、この制度は直接的に補助金が支給されるものではなく、税制優遇や金融支援といった、間接的な支援が中心であることを理解しておく必要があります。
書類の不備は不認定の原因になるため、記載漏れや押印忘れがないかなども十分に注意が必要です。審査には1ヶ月前後の時間がかかるため、申請はスケジュールに余裕をもたせて行いましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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