- 作成日 : 2025年9月3日
消費税は費用になる?勘定科目や仕訳方法、税率変更時のコストまで解説
日々の取引で発生する消費税について、「最終的に納める消費税は、会社の費用や経費として計上できるのだろうか」と疑問に思ったことはないでしょうか。結論からいうと、消費税は原則として費用にはなりませんが、会計処理の方法によっては一部が費用科目に振り替えられる場合もあります。
この記事では法人の場合、消費税を費用とするケースとしないケース、基本的な仕訳方法、そして将来の税率変更に備えるための費用について、経理の初心者にもわかりやすく解説します。
目次
納める消費税は費用(経費)になるのか
事業者が国に納める消費税は、原則として費用(法人税法上の損金や所得税法上の必要経費)にはあたりません。これは、消費税は最終的に消費者が負担する税金であり、事業者は一時的に預かっているにすぎない、という考え方に基づいています。
ただし、採用している会計処理の方法によっては、結果的に費用として計上されるケースもあります。
原則として費用にならない理由
消費税は、商品やサービスの価格に上乗せされて、最終的に消費者が負担する税金です。事業者(会社や個人事業主)は、お客様から消費税を預かり、仕入れ先へ消費税を支払い、その差額を国に納める役割を担っています。
このように、事業者は消費税を「預かっている」だけなので、その納税額は自社の利益から支払う法人税や所得税とは性質が異なり、費用(経費)として扱われないのが基本です。
費用として計上される会計処理(税込経理方式)
原則は上記のとおりですが、税込経理方式の会計処理方法を選んだ場合は、納税額を費用項目である「租税公課」で処理する方法が認められていますが、消費税自体が実質的に費用になるわけではありません。
税込経理方式では、日々の取引を消費税込みの金額で記録し、決算時に納税額が確定した時点で、その全額を「租税公課」という費用の勘定科目で処理します。詳しい仕訳方法は後ほど解説します。
消費税の仕訳方法「税抜経理」と「税込経理」
消費税の会計処理には、主に「税抜経理方式」と「税込経理方式」の2種類があります。どちらを選択するかによって、日々の仕訳の仕方や、決算時の処理方法が変わってきます。
税抜経理方式の仕訳方法
税抜経理は、売上や仕入れの本体価格と消費税額を分けて記録する方法です。
日常の取引の仕訳例(10万円の商品を現金で販売)
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | 110,000円 | 売上 | 100,000円 |
仮受消費税等 | 10,000円 |
- 決算時の仕訳
決算時には、1年間で記録した「仮受消費税等」と「仮払消費税等」の差額を計算し、納税額を確定させます。納税額は「未払消費税等」、還付される場合は「未収消費税等」として計上します。
税込経理方式の仕訳方法
税込経理は、消費税額を含んだ総額で取引を記録する、よりシンプルな方法です。
日常の取引の仕訳例(10万円の商品を現金で販売)
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | 110,000円 | 売上 | 110,000円 |
- 決算時の仕訳(納税額を費用計上)
決算時に納税額を計算し、その金額を「租税公課」という費用の勘定科目で計上します。(例:納税額が70,000円の場合)
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
租税公課 | 70,000円 | 未払金 | 70,000円 |
なお、税込経理方式の場合、原則として「申告書を提出する事業年度」において、計上することになっています。
参考:No.6901 納付税額又は還付税額の経理処理|国税庁
税抜経理方式と税込経理方式とどちらを選ぶべきか
「税抜経理方式」と「税込経理方式」のどちらの方式を選ぶかは、事業者の任意です。ただし、消費税の免税事業者や簡易課税制度を選択している事業者は、税込経理方式しか選べないため注意しましょう。
税抜経理方式は、消費税額と本体価格を分けて管理するため、税抜の利益が正確に把握でき、経営状況を判断しやすいというメリットがあります。一方で、日々の仕訳が少し複雑になる点はデメリットといえるでしょう。
対する税込経理方式は、消費税込みの金額で記帳するため仕訳がシンプルでわかりやすいのが長所です。しかし、消費税額が損益に含まれるため、期間中の正確な利益が把握しにくくなるという側面も持ち合わせています。
税抜経理方式と税込経理方式のいずれを選ぶかは、法人の規模や監査の有無にかかわらず、企業が任意で判断できます。また、一定の場合には税抜経理方式と税込経理方式の併用も認められます。
消費税の会計処理で使う勘定科目
消費税の仕訳では、日常的な簿記ではあまり使わない、消費税特有の勘定科目が登場します。税抜経理方式や決算整理仕訳を行う際には、これらの勘定科目を正しく理解しておくことが大切です。
仮受消費税等(かりうけしょうひぜいとう)
売上とともにお客様から預かった消費税を計上する勘定科目です。貸借対照表では「負債」に分類されます。
仮払消費税等(かりばらいしょうひぜいとう)
仕入れや経費の支払いとともに支払った消費税を計上する勘定科目です。貸借対照表では「資産」に分類されます。
未払消費税等(みばらいしょうひぜいとう)
決算時に、仮受消費税が仮払消費税を上回った場合に、その差額(納税額)を計上する勘定科目です。これも「負債」にあたります。
未収消費税等(みしゅうしょうひぜいとう)
決算時に、仮払消費税が仮受消費税を上回り、消費税の還付を受けられる場合に、その還付額を計上する勘定科目です。「資産」に分類されます。輸出業や大きな設備投資を行った期などに発生することがあります。
租税公課(そぜいこうか)
税込経理方式において、確定した消費税の納税額を計上するための費用の勘定科目です。
雑収入・雑損失
消費税の納税額を計算する際の端数処理や、還付された際に利息に相当する「還付加算金」が振り込まれた場合などに使用することがあります。
消費税率の変更時にかかる費用とは
将来、もし消費税率が変更された場合、事業者は会計処理の変更だけでなく、物理的な対応も求められます。その際には、以下のような費用が発生する可能性があることを知っておくと、心の準備ができるかもしれません。
レジ・POSシステムの更新費用
レジやPOSシステムは、新しい税率や軽減税率に対応させるための更新が必要になるでしょう。ソフトウェアのアップデートで済む場合もあれば、古い機種ではハードウェアごと買い替えなくてはならないケースも考えられます。
受発注・会計システムの改修費用
自社で利用している販売管理システムや会計システムも、新税率に対応させるための改修やアップデートが求められます。とくに自社開発のシステム(オンプレミス型)を利用している場合は、改修費用が高額になることもありえます。
見積書・請求書フォーマット等の変更コスト
社内で使用している見積書や請求書などのExcelテンプレートや、印刷済みの帳票類も、税率表示の変更が必要になります。様式の修正や、古い帳票の廃棄・刷り直しといった地味なコストも発生するでしょう。契約書内の消費税にも注意しましょう。
過去の税率変更時にあった補助金
2019年の消費税率10%への引き上げおよび軽減税率制度の導入の際には、中小企業・小規模事業者等に対して「軽減税率対策補助金」が用意され、レジの導入やシステムの改修費用の一部が補助されました。将来、税率変更が行われる際にも、同様の支援策が講じられる可能性はあります。
インボイス制度で変わる消費税の費用負担
2023年10月に始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)も、消費税の費用負担に影響を与えています。とくに、これまで免税事業者だった個人事業主などと取引がある場合に注意が必要です。
仕入税額控除の仕組み
消費税の納税額は、預かった消費税から支払った消費税を差し引いて計算します。この「支払った消費税を差し引くこと」を「仕入税額控除」と呼びます。この控除を受けるためには、原則として、取引相手から交付されたインボイス(適格請求書)の保存が必要です。
免税事業者からの仕入れがある場合の注意点
取引相手がインボイスを発行できない免税事業者(フリーランスや小規模な事業者など)の場合、その相手への支払いには消費税が含まれていても、原則として仕入税額控除が適用できません。
経過措置として、2029年9月末までは一定割合の控除が認められていますが、控除できない部分については、実質的に自社の費用負担が増えることになります。
消費税の費用計上と仕組みを正しく理解する
消費税の会計処理は、難しく感じるかもしれませんが、その仕組みは「消費者から預かった消費税」から「仕入れなどで支払った消費税」を差し引いて、差額を国に納めるという流れで成り立っています。税込経理と税抜経理、どちらの方式を選択しても、基本的に最終的な納税額が変わることはありません。
しかし、日々の会計処理を正しく行い、自社の利益を正確に把握するためには、これらの処理方法の違いを理解しておくことが大切です。インボイス制度や将来の税制改正なども見据え、自社に合った会計処理の方法を選び、適切に対応できる体制を整えておくことが、健全な経営判断につながるのではないでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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