- 更新日 : 2025年4月23日
資本金とは?企業の平均額やランキングを調査
新たに会社を設立する場合、必要となるお金が「資本金」です。「資本金」という言葉自体は、耳にしたことがある方も多いでしょう。しかし、細部にわたってきちんと理解している方は少ないかもしれません。そこでこの記事では、国内企業における平均額や上位ランキング、増資や減資を行う場合のメリットやデメリット、仕訳の方法など、資本金について詳しく解説します。
目次
資本金とは
資本金とは、事業を運営するための元手となる資金のことです。株式会社の場合には、株主や投資家などの出資者から調達した資金が資本金となります。ただし、一般的に創業当初においては、第三者から出資を受けることが困難です。そのため、多くの場合は経営者自身が貯えた開業資金を自らの会社に出資します。
資本金の最低金額は?
かつての旧会社法では、新たに会社を設立する場合「株式会社の場合には資本金1,000万円以上、有限会社の場合には300万円以上」を最低資本金額として準備する必要がありました。
しかし現在では、インターネットやIT技術の進歩によって事業形態が大きく様変わりし、比較的少ない事業資金で起業できるケースも増加しています。そこで2006年からの新会社法では、1円以上の資本金で会社設立が可能となりました。
決算書のどこへ記載される?
決算書上、資本金は貸借対照表のうち、下図の通り「純資産の部」に記載されます。貸借対照表上、返済義務のある借入金は「負債の部」に分類されますが、資本金は返済不要であることから、負債ではなく純資産として計上されます。
事業資金が借入金ではなく資本金によって賄われる場合、返済義務がないことから、経営の安定化に繋がりやすくなるのです。
資本金の役割
資本金は、その会社の信用性や会社規模を推し量るだけでなく、税金計算や許認可などさまざまな面に影響を及ぼします。資本金が持つこれらの役割を理解した上で、自社の資本金額を決定しましょう。
自社の信用性や会社規模を表す
上場企業に限らず中小企業の場合も、ホームページなどで自社の資本金額を掲載するケースが少なくありません。これは、古くから資本金が「その会社の経営基盤」を表す指標として用いられるからです。通常、会社規模の大きさは資本金額に比例して評価され、資本金が大きいほど他社からの信用性が増す傾向にあります。
また、金融機関から融資を受ける場合にも、資本金額は企業の体力を表すひとつの指標として必ずチェックされます。一般的に資本金の大きい会社のほうが、返済能力が高いと判断されやすいのです。ただし資本金は、その会社の利益の大きさや収益性を表す指標にはなりません。資本金の大小だけでは、業績や経営状況を正しく分析することはできない点も押さえておきましょう。
許認可を受けるための基準となる
事業内容によっては、所轄官庁などからの許認可が必要な場合もあるでしょう。そしてそのような際に、資本金額がひとつの基準となるケースがあります。
たとえば一般建設業許可の場合は500万円以上、一般労働者派遣事業の場合は2,000万円以上など、業種によって必要となる資本金額は異なります。もちろん、許認可申請が必要となった段階で増資を行うことも可能ですが、会社を設立する際には、許認可申請の要件となっている資本金額を必ず確認するようにしましょう。
税金に影響を与える
資本金は大きければ大きいほど良いというイメージがあるかもしれませんが、資本金が大きいと税金面ではデメリットもあります。たとえば消費税に関しては、資本金の額が1,000万円以下であれば原則として設立後2期目までは免税事業者に該当しますが、1,000万円を超える場合には設立初年度から課税事業者に該当することとなります。
※インボイス発行事業者を選択した場合は、資本金に関係なく消費税の課税事業者になります。
また、税務上の優遇措置については、資本金1億円以下の中小法人に対して適用される制度が多く存在することもポイントです。たとえば、中小法人であれば年800万円以下の所得金額に対する法人税率が15%(資本金1億円超の大法人は23.2%)に軽減されます。
このほか、都道府県や市区町村へ支払う法人住民税についても、資本金が大きいほど税負担は重くなる傾向にあります。むやみに資本金を高く設定してしまうと納税額が増加する可能性があるため、注意が必要です。
資本金の平均は?
新会社法では資本金1円でも会社設立が可能ですが、第三者からの信用性や事業資金の必要性などの観点から、実際に1円といった金額で創業するケースはほとんどありません。
総務省・経済産業省による「平成28年経済センサス・活動調査結果」によると、全国の企業のうち、資本金額3,000万円未満の法人が約87%を占めており、なかでも300万円以上500万円未満に分布する企業の割合が最も多いことが分かります。これらの調査結果から、平均的な資本金額は300万円前後といわれています。
- 資本金額の階層別企業数(全国) 企業総数:1,629,286社
300万円未満 | 106,659 | 6.5 |
300万円以上500万円未満 | 565,289 | 34.7 |
500万円以上1,000万円未満 | 214,971 | 13.2 |
1,000万円以上3,000万円未満 | 546,245 | 33.5 |
3,000万円以上5,000万円未満 | 68,136 | 4.2 |
5,000万円以上1億円未満 | 46,569 | 2.9 |
1億円以上3億円未満 | 15,371 | 0.9 |
3億円以上10億円未満 | 7,340 | 0.5 |
10億円以上50億円未満 | 3,602 | 0.2 |
50億円以上 | 2,182 | 0.1 |
参考:経済センサス|平成28年活動調査
資本金の大きい企業ランキング
現在、資本金の大きい企業の上位10社を順番に並べると下表の通りとなります。
日本郵政(株) | 3,500,000 |
(株)ゆうちょ銀行 | 3,500,000 |
(株)三井住友フィナンシャルグループ | 2,342,537 |
(株)みずほフィナンシャルグループ | 2,256,767 |
(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ | 2,141,513 |
武田薬品工業(株) | 1,676,345 |
東京電力ホールディングス(株) | 1,400,975 |
日本電信電話(株) | 937,950 |
ソニーグループ(株) | 880,365 |
日本ペイントホールディングス(株) | 671,432 |
参考:資本金:株式/株価ランキング|Yahoo!ファイナンス(2023年6月9日)
上位5位までを占めているのは、企業へ貸付を行うために莫大な資金を要する金融機関です。それ以下についても、電気や通信など大規模なインフラを支える企業が多く上位にランクインしています。このように資本金額を見ても、事業内容と資本金には一定の相関関係があることが窺えます。
資本金の増資・減資
資本金額は設立後に増減させることも可能であり、資本金を増額することを「増資」、減額することを「減資」といいます。増資と減資には、それぞれ以下のようなメリットとデメリットがあります。
増資
メリット
- 財務基盤を強化できる
- 信用性が増す
資本金が増えることによって決算書上の純資産が大きくなり、自己資本比率も高まるため、企業の財務基盤を強化することができます。
1に関連し、資本金が大きくなることによって他社や金融機関からの信用性が増します。そのため融資を受けやすくなったり、より大口の取引が入ったりするなどの恩恵を受けられる可能性があるでしょう。
デメリット
- 既存株主にとって不利益となる
- 税務上の優遇措置が受けられなくなる
新たに株式を発行して増資を行うと、一株あたりの利益や議決権の割合が小さくなるなど、既存株主に対して不利益をもたらす可能性があります。
消費税や法人税における優遇措置の要件である資本金額を超過すると、増資後の税負担が増加する可能性があります。
減資
メリット
- 「繰越欠損金」との相殺ができる
- 税務上の優遇措置が受けられるようになる
経営状況が芳しくない場合、過去に発生した赤字は「繰越欠損金」として決算書にも表記されるため、融資を受ける際などに悪影響を及ぼし、ますます経営環境が悪化しやすくなります。そのような状況において、減資によって取り崩した資本金と繰越欠損金を相殺することで、決算書自体の見栄えを良くすることができます。
増資のデメリット2と対応しますが、税務上の優遇措置を受けるために減資を行うケースも存在します。特に、資本金1億円を超える大法人が減資によって1億円以下とした場合には、法人税率が下がるなどさまざまなメリットを享受することができます。
デメリット
減資を行う最大のデメリットは、信用性の低下でしょう。単に資本金額が減少するだけでなく、赤字が続く中で決算書の見栄えを良くするために行うなど、第三者へマイナスの印象を与えてしまうことも少なくありません。
資本金と資本準備金の違い
資本金と混同されやすいものに「資本準備金」があります。資本準備金とは、株主から出資を受けた金額のうち、資本金として計上しなかった残額のことです。
会社法においては、株主から払い込まれた金額のうち2分の1までであれば、資本金ではなく資本準備金として計上することが認められています。たとえば株主から1,000万円の出資を受けた場合、以下のように500万円以下であれば資本準備金として計上が可能です。
普通預金 | 10,000,000 | 資本金 | 5,000,000 |
資本準備金 | 5,000,000 |
資本準備金として計上する目的には、主に以下の2つが挙げられます。
- 取り崩しが簡単であるため
- 資本金額を抑え、税務上の優遇措置を受けるため
資本金は登記を行う必要があるため、増資や減資を行うたびに株主総会を開き、その都度、登記手続きを行わなければなりません。それに対し、資本準備金は登記が不要であるため、株主総会による決議のみで取り崩しや積立を行うことが可能です。
資本金が一定金額を超えることによって、税務上の優遇措置が受けられなくなってしまう場合があります。そのようなとき、超過する部分を資本準備金として計上することによって、優遇措置の対象に留まることができるケースがあります。
自社に合った資本金額を見極めることが重要
新会社法では資本金を自由に設定できるため、かえって資本金をいくらに設定すべきか悩むことも少なくありません。許認可の申請や税金計算に与える影響も考慮した上で、まずは自社を経営するために必要な事業資金を算出することから始めると良いでしょう。それでも判断が難しい場合は、税理士などの専門家にご相談ください。
よくある質問
資本金とは?
経営者や、そのほかの株主から受けた出資金額の合計のことをいいます。詳しくはこちらをご覧ください。
資本金の平均額は?
全体の約9割を資本金3,000万円未満の法人が占め、平均は300万円程度であるといわれています。詳しくはこちらをご覧ください。
資本金と資本準備金の違いは?
出資を受けた金額の2分の1までは資本準備金として計上でき、資本準備金は簡単に取り崩しができるだけでなく、資本金として計上しないことにより税負担軽減が期待できます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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