- 更新日 : 2024年8月8日
売上高経常利益率とは?計算方法や業種別目安を解説
売上高経常利益率は、売上高に対する経常利益の割合のことです。売上高経常利益率を把握することで、本業以外の収益や費用を含めた会社全体の収益力が把握できます。この記事では、売上高経常利益率の計算方法や他の利益率との違い、業界別の目安、売上高経常利益率を上げる方法などについて解説していきます。
目次
売上高経常利益率とは
売上高経常利益率は、売上高に占める経常利益の割合のことです。
図のように、経常利益は、売上高から売上原価と販売費及び一般管理費を差し引いた営業利益の額に、営業外収益を加算、営業外費用を減算した金額をいいます。
営業外収益は貸付金の受取利息、営業外費用は借入金の支払利息など、主に企業の財務活動によって経常的に発生するものであって、突発的な損益は含まれません。
売上高経常利益率を見ることで、企業の通常の経営活動による収益力がわかります。
売上高経常利率の業種別目安
以下の表は、中小企業庁の中小企業実態基本調査の令和2年度決算実績に基づき作成した業種別の売上高経常利益率の平均値です。
業種 | 売上高経常利益率(平均) |
---|---|
建築業 | 5.11% |
製造業 | 4.08% |
情報通信業 | 6.02% |
運輸業・郵便業 | 1.34% |
卸売業 | 1.94% |
小売業 | 2.69% |
不動産業・物品賃貸業 | 9.58% |
学術研究、専門・技術サービス業 | 12.05% |
宿泊業・飲食サービス業 | 2.15% |
生活関連サービス業・娯楽業 | 2.08% |
サービス業(その他) | 5.54% |
※少数点第3位以下四捨五入
参考:中小企業実態基本調査 令和3年確報(令和2年度決算実績)の統計表3.売上高及び営業費用(1)産業別・従業者規模別表|中小企業庁
売上高経常利益率は業種によって多少の違いはありますが、おおむね1~5%に収まる業種が多いです。
なお、売上高営業利益率と売上高経常利益率を比較した場合、通常は支払利息の方が大きくなる関係から売上高営業利益率の方が高くなります。
しかし、低金利などの関係から、2005年度以降はその関係が逆転し、全体的に売上高営業利益率よりも売上高経常利益率の方が高い傾向が続いています。
売上高経常利益率の計算方法
売上高経常利益率を計算するには、まず経常利益を把握する必要があります。経常利益の計算式は次のとおりです。
売上高は本業での売上総額のこと、売上原価は売上高に対する商品原価(製品原価)のことです。販売費及び一般管理費は、売上原価以外の本業で発生した費用になります。
営業外収益は本業以外の主に財務活動で得た収益で、受取配当金や受取利息、為替差益、雑収入などが含まれます。営業外収益は本業以外で得た、支払利息や社債利息、為替差損、雑損失などを含んだ費用のことです。
売上高経常利益率は、経常利益を計算した後、次の計算式で求められます。
他の利益率との違い
売上高経常利益率の他にも、売上総利益率、営業利益率、税引前当期純利益率、当期純利益率といった利益率があります。売上高経常利益率とは何が違うのか見ていきましょう。
売上総利益率との違い
売上総利益率は、次の計算によって求められる売上高に占める売上総利益の割合です。
計算のもとになる売上総利益は、売上高から売上原価を差し引いて求めます。売上原価は、販売数量に応じて増加する商品の仕入額や製造する商品の製造に投入した費用をもとに計算した額です。売上総利益率を見ることで、商品やサービスの競争力などがわかります。
売上高経常利益率は、経常利益の割合から企業全体の収益力を見るため、商品やサービスの価値や競争力を見る売上総利益率とは異なります。
売上高営業利益率との違い
売上高営業利益率は、次の計算によって求められる売上高に占める売営業利益の割合です。
売上高営業利益率の計算のもとである営業利益は、売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いた額です。販売費及び一般管理費は原価以外の本業における費用であるため、売上高営業利益率を把握することで本業での収益力を把握できます。
売上高経常利益率との違いはどの範囲で企業の収益力を見るかです。売上高営業利益率は本業に限定した事業の収益力を見る点で、売上高経常利益率は財務活動などを含めた企業全体の収益力を見る点で異なります。
税引前当期純利益率との違い
税引前当期純利益率は、次の計算によって求められる売上高に占める税引前当期純利益率の割合です。
税引前当期純利益率は、経常利益の額に特別利益を加算、特別損失を減算して求めます。特別利益や特別損失は、その事業年度に一時的または突発的に発生した収益や費用のことです。固定資産税売却益や固定資産除却損、火災損失などが特別損益に該当します。
売上高経常利益率は全体的な企業の収益力を把握できる点、税引前当期純利益率は特別損益を含めたその事業年度の収益力を把握できる点が異なります。
当期純利益率との違い
当期純利益率は、次の計算によって求められる売上高に占める当期純利益率の割合です。
当期純利益は、税引前当期純利益から法人税等を差し引き、法人税等調整額を加減した最終的なその事業年度の利益の額です。当期純利益率を見ることでその事業年度の最終的な経営成績がわかります。
当期純利益率はすべての計算を考慮した最終的な値となるため、経常的な収益力を把握できる売上高経常利益率と異なる性格をもちます。
売上高経常利益率はなぜ重要なのか
当期純利益は、その事業年度の最終的な利益の額です。最終的にどのくらいの利益率になったかを把握する当期純利益率は有効ですが、その事業年度における指標にしかなりません。
当期純利益の計算には、特別利益や特別損失、法人税等などが含まれるためです。特に、特別利益や特別損失は突発的なものや一時的に生じたものであることから、本来どのくらいの収益力をもっているのかが正確に測れません。
そこで活用されるのが売上高経常利益率です。売上高経常利益率には突発的に生じる特別損益は含まれないため、本来の企業の収益力を適切に把握できます。
売上高経常利益率は当期の分析に活用できるだけでなく、過去との比較や将来の収益力を予測するにも活用しやすいです。
売上高経常利益率を上げる方法
売上高経常利益率を構成する要素は、売上高、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外収益、営業外費用です。それぞれを改善することで売上高経常利益率の向上が図れます。
売上高や売上原価の改善は売上高総利益の改善、販売費及び一般管理費は売上高営業利益の改善にもなります。ここでは売上高経常利益率の計算に特に影響を与える営業外損益に絞って改善方法を見ていきましょう。
なお、営業外損益の改善については、営業外収益の増加と営業外費用の減少に大きく分けられます。
株式などの投資資産を増やす
営業外収益を構成する要素のひとつが受取配当金です。保有する株式などで配当金を受け取ったときの勘定科目になります。営業外収益を増やす方法のひとつとして、他社株式などの投資資産を増やすことで受取配当金を増やす方法が考えられるでしょう。
資金力のある法人なら、個人と違い、ある株式会社の保有株数を増やして議決権の所有割合を増やすことで、その会社の経営に一定の影響力をもつことも可能です。
ただし、投資資産ばかりに注力しすぎると事業資金が不足することもあります。バランスを見て投資資産を増やすようにしましょう。
不動産を活用する
事業用として取得したものの、活用されていない企業所有の不動産のことを遊休不動産といいます。遊休不動産は利益を生み出さないばかりでなく、管理が行き届かないと社会的にも悪影響を及ぼすため、積極的な活用を検討するのも事業戦略のひとつです。
遊休不動産の活用方法には、駐車場として整備して活用する方法、倉庫として活用する方法、などさまざまな方法があります。必要な整備を行った上で貸し出せば営業外収益の不動産賃貸料も増えるため、営業外収益の向上による売上高経常利益率の増加にも貢献します。
借入金の適正化を図る
営業外費用を構成する勘定科目のひとつに支払利息があります。支払利息は、借入金などがある場合に発生する費用です。借入金が多いと他人資本への依存度が増えて債務超過のリスクが高まりますので、必要に応じて適正化を図ることが重要です。
借入金を減らす方法としては、次のような方法が考えられます。
なお、企業の成長期など借入金がどうしても必要な時期はあります。企業の成長期には借入金を無理して削らず、必要なタイミングで適正化を図っていくと良いです。
債権回収の適正化を図る
営業外費用を構成する勘定科目のひとつに手形売却損があります。手形売却損とは、満期前に金融機関で手形を現金化することで差し引かれる利息相当額のことです。早期に手形を換金することで本来受け取るはずだった利息分が減額されてしまいますので、安易に満期前に手形の現金化を行うのは避けた方が良いでしょう。
手形を満期前に現金化しなければならないほど資金に余裕がない場合は、手形の満期日について取引先と相談したり、他の売上債権の回収に力を入れたり、資金繰りの改善をあわせて行うことをおすすめします。
売上高経常利益率で企業の経常的な収益力がわかる
売上高経常利益率の計算要素には、本業による収益や費用に加え、経常的に発生する収益や費用も加わるため、企業の経常的な収益力を把握するのに適しています。
一時的な要素が加わらないため、将来の収益の予想を立てるのにも活用できます。経営戦略においても重要な指標のひとつです。
なお、売上高営業利益率と比べて売上高経常利益率が著しく落ち込んでいる場合は、営業外損益が利益に大きく影響していることになります。まずは現状を把握し、必要に応じてこの記事で取り上げた売上高経常利益率を上げる方法を取り入れてみると良いでしょう。
よくある質問
売上高経常利益率とは?
売上高に占める経常利益の割合をいいます。詳しくはこちらをご覧ください。
売上高経常利益率の目安は?
業種によって違いは見られますが、1~5%程度に収まる業種が多いです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
利益の関連記事
新着記事
配賦率とは?間接費における計算方法や配賦基準の決め方などをわかりやすく解説
配賦率とは、複数の部門や製品に共通してかかる間接費を、合理的な基準に基づいて割り振る際に用いられる比率のことです。原価計算や管理会計をはじめ、簿記の学習や実務においても頻繁に登場する重要な考え方です。この記事では、配賦率の基本的な意味から、…
詳しくみる製造間接費配賦差異とは?求め方や仕訳(借方・貸方)をわかりやすく解説
製品の原価を正確に把握するためには、製造にかかる間接費の扱い方が重要です。特に、事前に見積もった費用と実際にかかった費用のズレである製造間接費配賦差異は、企業のコスト管理や経営判断に大きく影響します。 この記事では、製造間接費配賦差異の基本…
詳しくみる電工労務費とは?国土交通省の公共工事設計労務単価による見積もり方法も解説
電気工事の費用を見積もる際に、重要な項目の一つとなるのが電工労務費です。電工労務費は、実際に工事を行う作業員の労働に関する費用であり、材料費と並んで工事全体のコストを大きく左右します。この記事では、電工労務費の基本から見積もり方法までを体系…
詳しくみる労務外注費とは?労務費・人件費・外注人との違いや仕訳、消費税などを解説
企業や個人事業主が外部の専門家や作業者に業務を委託する際、その対価として支払う「労務外注費」。とくに建設業やIT業界、サービス業など、さまざまな分野でこの費用が日常的に発生しています。しかし、労務費や外注費との違い、勘定科目の使い分け、さら…
詳しくみる直接労務費差異とは?求め方や例題、分析方法などをわかりやすく解説
直接労務費差異は、標準原価と実際原価のズレから現場の課題やコストの問題点を浮き彫りにする重要な指標です。この記事では、直接労務費差異の基本的な意味から、計算方法、具体例、分析手順、そして改善につなげる実践的な活用法までをわかりやすく解説しま…
詳しくみる労務管理費とは?労務費や人件費との違い、内訳、計算方法、勘定科目などを解説
労務管理費は、建設業等の現場で発生する労働管理・運営のための経費の総称であり、労働の対価としての現場作業員への給与や賃金以外の現場作業員の募集・採用、消耗品の手配、会議や打ち上げなどを行う際に発生する費用を指します。この記事では、労務管理費…
詳しくみる