
小さな企業に経理担当として勤めている場合、一人で決算を行うこともあるでしょう。小規模とはいえ企業であり、法人であるため、確実に決算を進めなくてはなりません。しかし、決算を初めて行う場合、どうしてよいか見当が付かないこともあるでしょう。今回は、一人で法人決算を行うために知っておきたい基礎知識や注意点について解説します。
目次
法人決算の概要
法人の決算とは、定款で決められた決算日を基準日として会社の活動の結果を決算書にまとめることです。さらに決算担当者は決算書の内容を元に、各種税金の申告納付、帳簿書類の保存、株主総会の準備等を進めていくことになります。
決算担当者が一人の場合これらを一人でこなすこととなりますが、ここでは特に決算書作成、税金の申告、帳簿の管理の3つを中心に解説します。
決算書の作成
決算書の作成には、いくつかの前準備があります。決算書作成の流れについて見ていきましょう。
事前確認
一人で決算処理をする前に確認しておきたいことは以下の2点です。
- 定款…事業年度、決算日、事業内容の確認。事業報告書等への文章を記載する場合には定款の内容を確認します。
- 届出…法人設立届出書や棚卸や減価償却の評価方法、消費税に関する各種届出、電子帳簿保存等税務署に届出を出したものの控えがあれば、確認しておきましょう。
帳票や入力状況の確認
月次のデータがすべて入っているかも、確認事項のひとつです。
その際、帳票等の整理ができていない場合は取り寄せて、確たる証拠がすべてそろっているかを確かめます。また、不要な仮払金や仮受金などが残っていないか、営業外収益や費用で区分を間違っているものはないか、などの点も点検してください。
決算伝票の準備と作成
決算伝票を作成する前には、次の点などの内容が正しいかどうか注意しましょう。
決算書の作成
会計システムから出力される帳票をよく点検してから次の書類を作成しましょう。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 株主資本等変動計算書
- 個別注記表(上記3書類、及び重要な会計方針に関する注記)
- 計算書類の附属明細書(上記4書類の補足事項、固定資産や販管費明細書について記載)
- 事業報告書(取締役会などでの決定事項を記載、役員や上席などに相談して作成する書類となります)
- 事業報告の附属明細書(事業報告書の内容を補足)
ちなみに計算書類とは「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算書」「個別注記表」の4つです。これらの書類はまとめて計算書類等と呼ばれています。また、キャッシュフロー計算書は、会社法において求められている書類ではありません。
なお、決算書の利益を基に申告書で税金を計算し、その税額を未払法人税等として負債計上するのが法人決算の流れです。したがって、決算書の作成と法人税の申告書作成は、並行して作業する必要があることに注意してください。
税金の申告納税
税金のうち、決算時に申告納付が必要となるものは次の通りです。
- 国税法人税及び地方法人税、消費税
- 地方税法人事業税、住民税、法人事業所税など
これらの税金は決算書をもとに申告書を作成します。納付時期については、各税金によって異なりますので注意が必要です。それぞれの期限までに、忘れず申告と納付を済ませましょう。
事前確認
できれば過去数年分の申告書について控えがあるかを確認し、役員名簿や役員の兼務状況も調べておきましょう。また、顧問税理士がいる場合には、決算の状況をよく説明しておいてください。
法人税の申告書
法人税の申告書はいくつかの別表からできており、この別表の書き方にも順序があります。例えば減価償却など、別表四や五とつながりのある個別の別表を先に作成し、最終的には別表一に税額を記載する形式になっています。
申告書ソフトが浸透している昨今ではありますが、法人税の申告書が初めての担当者であれば、法人税について事前にまとまった知識を得ておくのがおすすめです。法人税額又は還付額が定まったら決算伝票として決算書に反映してください。
【参照】
国税庁 令和元年版 法人税申告書・地方法人税申告書の記載の手引
消費税の申告書
消費税についてはすべての会社に納税義務があるわけでなく、基準期間と課税売上高が判断基準となります。継続して課税事業者となる場合には問題ありませんが、税務署への届出漏れ等により、意図せず免税から課税にならないよう注意が必要です。
地方税の申告書
地方税のうち、法人事業税は法人税の所得から計算しますが、期末資本金の額等が1億円を超える法人については、外形標準課税の課税対象です。
住民税(都道府県民税、市区町村民税)の他、事業所の広さや従業員数によって法人事業所税が課せられます。
申告期限と納付期限について
法人税や消費税の申告期限は決算日の翌日から2か月以内であり、納付期限も同じ2か月以内となります。その他の地方税についても、申告納付の期限は原則として決算日の翌日から2か月以内です。
なお、法人税や住民税について、株主総会等でこの期間内に決算書の承認が得られないような場合もあるでしょう。その場合は、事前に確定申告については申告の期限延長をしておき、納付については2か月以内に法人税の「見込納付」をする事も可能です。
例えば1か月の申告延長をした場合は、納付について1か月延長しても延滞にはなりません。しかし、利子税が必要となるので見込納付で先に支払うケースはよくあります。
【参考】
国税庁 申告と納税
帳票の管理はどうする?
帳票の管理については、法人税法、消費税法に従って保存する形式です。法人税法では帳簿書類を「帳簿」と「書類」に分けて考え、それぞれ保存することとされています。
帳簿
青色法人は取引に関する「帳簿」として、仕訳帳、総勘定元帳、補助元帳、固定資産台帳などを保存します。電子帳簿の承認を受けてない限り、紙での保存が必要です。
書類
帳簿書類のうち「書類」は、「決算関係書類」と「取引関係書類」の2つに分けられます。
決算関係書類とは貸借対照表、損益計算書棚卸表など決算に関して作成された書類です。取引関係書類とは個々の取引に関して相手から受取った注文書、契約書、領収書等のことです。また、自分の会社が作成した見積書や契約書、注文書などの「控え」も取引関係書類に含まれます。
なお、消費税法においては、課税仕入れの適用要件として課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等の保存が必要となるので、記載内容も確認しましょう。
保存期間
各帳簿書類の保存期間は確定申告期限の翌日から7年間となっています。ただし、2018年4月以降は、欠損金の繰越控除を利用している法人は最長10年間の保存が必要です。
なお、帳簿書類については電子保存による方法も認められています。電子保存の際は、帳簿・書類・スキャナー等に分けて申請するほか、事務処理規定の作成等の準備が必要です。
【参考】
国税庁 帳簿書類等の保存期間及び保存方法
法人税法施行規則54条第1項
困ったら税理士や税務署に相談
一人で決算を行うために覚えておきたい基礎知識、及び注意点をご紹介しました。ただ、会社の決算を行う際に扱う書類の量やその難易度は、個人事業主の比ではありません。会社の決算処理において不明点・疑問点が発生した場合一人で抱え込まず、早めに税理士や税務署に相談して、期限内に決算を終わらせましょう。
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