- 作成日 : 2025年4月30日
役員借入金の返済方法と仕訳はどうする?現金・相殺・振替のケースをわかりやすく解説
会社のお金が一時的に足りなくなったとき、経営者や役員が自分のお金を会社に貸すことがあります。これを「役員借入金」といいます。借りたお金はあとで返す必要がありますが、その返し方や会計処理は、経理の現場で迷うポイントのひとつです。
この記事では、役員借入金が発生したときや返済するときの仕訳を中心に、現金・預金・相殺・資本への振替など、ケース別にわかりやすく解説していきます。
目次
役員借入金とは?
会社が役員からお金を借りることは珍しくありません。資金繰りが厳しいときに金銭の支援を受けたり、急な支払いが必要なときに役員が立て替えることなどがあります。これらは、会社の立場から見ると「借りたお金」なので、借入金として帳簿に記録します。
仕訳では「役員借入金」という科目を使うことも、あるいは「短期借入金」や「長期借入金」として処理することもあります。
役員借入金は「短期借入金」か「長期借入金」か
役員からの借入金は、返済期限まで1年以内か、1年超かで勘定科目が変わります。
- 1年以内に返す場合:「短期借入金」
- 1年より先に返す予定の場合:「長期借入金」
返済時期が決まっていない場合や、とくに契約書を交わしていないときは、「役員借入金」という科目で処理することもあります。
勘定科目に迷ったときは、会計処理の一貫性を大切にし、科目の使い分けルールを社内で統一しておくと安心です。
役員借入金の消費税の取り扱い
役員から借りたお金は、物やサービスの取引ではないため、消費税の課税対象にはなりません。つまり、役員借入金には消費税はかかりませんし、仕訳でも消費税の処理は不要です。
役員借入金が発生した場合の仕訳方法
会社が資金不足になったときなどに、役員が自分のお金を会社に貸すことがあります。このとき、会社の帳簿では「お金を借りた」という事実を記録するために、負債として「役員借入金」を計上します。支払ったお金が何に使われたかによって、借方の科目を決定します。
以下では、代表的なケースを仕訳で紹介します。
役員が現金を会社に貸し付けた場合
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
現金 | 1,000,000円 | 役員借入金 | 1,000,000円 | 役員から現金を借入 |
会社にお金が入ったため、現金が増えます。一方、将来返さないといけないため、「役員借入金」として負債を記録します。
役員が会社の電気料金を立て替えて払った場合
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
水道光熱費 | 30,000円 | 役員借入金 | 30,000円 | 役員が電気代を立替え |
このように、役員が会社の費用を代わりに支払った場合も、会社にとっては「借入」として処理します。何の費用に使ったかを明確にしておくのがポイントです。
役員が自分の口座から会社の預金口座に振り込んだ場合
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
普通預金 | 2,000,000円 | 役員借入金 | 2,000,000円 | 役員から振込による借入 |
現金ではなく、銀行口座を通じて資金を提供しても、考え方は同じです。会社の資産が増えた分、役員への返済義務が発生します。
このように、役員借入金が発生する場面では、「何に使われたか(借方)」「誰から借りたか(貸方:役員借入金)」の組み合わせで仕訳を行います。
会社が役員借入金を返済した場合の仕訳例
役員借入金は、会社が役員からお金を「借りている状態」なので、あとで返す必要があります。返し方にはいくつかのパターンがあり、現金・銀行振込・利息付き返済など、それぞれで仕訳が変わります。
以下では、それぞれのケースについて、貸借対照表の形式で仕訳を紹介します。
現金で返済した仕訳
会社が役員に現金で50万円返済した
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
役員借入金 | 500,000円 | 現金 | 500,000円 | 借入金を現金で返済 |
役員への返済は、借入金の減少(借方)と資産の減少(貸方:現金)で記録します。
預金口座から返済した仕訳
役員へ銀行振込で100万円を返済した
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
役員借入金 | 1,000,000円 | 普通預金 | 1,000,000円 | 借入金を銀行振込で返済 |
振込で返す場合は「普通預金」や「当座預金」が貸方に入ります。
一部返済した仕訳
借入金300万円のうち、50万円のみ返済
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
役員借入金 | 500,000円 | 普通預金 | 500,000円 | 借入金の一部返済(残高は250万円) |
返済額にかかわらず、返済した分だけ役員借入金を減らしていきます。未返済額はそのまま残ります。
利息が発生した仕訳
元本100万円と利息2万円をまとめて返済(課税対象)
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
役員借入金 | 1,000,000円 | 普通預金 | 1,020,000円 | 元本の返済 |
支払利息 | 20,000円 | 利息の支払いを費用として処理 |
利息の支払いがある場合、その分は「支払利息」として経費になります。ただし、利息の額が不適正な場合、税務上の損金にできないこともあるので、顧問税理士などへの確認が安心です。
役員借入金を資本金に振り替えた仕訳例
会社が役員からの借入金を、資本金に振り替えることがあります。これは「デット・エクイティ・スワップ(DES)」と呼ばれる株式を発行して債務を出資に置き換える方法で、会社の自己資本比率が改善されるというメリットがあります。
実務では、会社の業績回復や資金繰り改善の一手として使われることも多く、仕訳にも正確な処理が求められます。
役員借入金500万円をデッド・エクイティ・スワップにより資本金に振り替える仕訳
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
役員借入金 | 5,000,000円 | 資本金 | 5,000,000円 | 借入金を資本に振り替え(DES) |
負債(役員借入金)を減らし、その分を資本金に振り替えます。この取引ではお金の動きはありませんが、帳簿上で勘定科目が変わります。
役員借入金を資本金と資本準備金に振り替える仕訳
資本金と資本準備金に分けて処理するケースもあります。たとえば、借入金100万円のうち、半分を資本金、半分を資本準備金とする場合は以下のように仕訳します。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
役員借入金 | 1,000,000円 | 資本金 | 500,000円 | 借入金の一部を資本金として計上 |
資本準備金 | 500,000円 | 残額を資本準備金に振り替え |
資本金準備金として計上する金額には、会社法で制限があるため、払込額(資本に振り替える役員借入金の額)の半額までです。また、社内のルールについても確認しておくことが大切です。
なお、役員借入金を資本金にする場合は、株主総会の決議や登記の手続きが必要になります。単なる勘定科目の振り替えではなく、法的にも「増資」として扱われるため、税務署や法務局への届出を忘れずに行うようにしましょう。
役員借入金が長期間未返済だとどうなる?
役員借入金は、会社が役員から一時的にお金を借りている状態です。本来は「あとで返す約束」になっているはずですが、何年もそのまま放置してしまうと、税務上のリスクが出てくることもあります。
相続財産となる
役員借入金は役員にとっては貸付金という財産であるため、役員借入金が残ったまま、役員が亡くなってしまうと相続財産となります。返済が見込めないのであれば会社に対して債務免除するなどして早めに整理しておくことが考えられます。
役員貸付金の場合
参考までに、会社が役員にお金を貸している「役員貸付金」が返済されていないケースは要注意です。こちらは長期間返済されないと「役員への給与」と見なされ、源泉徴収漏れとして課税されることがあります。
役員とのお金のやりとりは、借りた側・貸した側のどちらにとっても、税務上リスクが発生することもあるため慎重に判断する必要があります。
役員借入金の仕訳の注意点
役員借入金は、会計的にはシンプルな負債ですが、実務では税法や会社法とも関係が深く、処理を誤るとトラブルになりやすい項目です。ここでは、日々の帳簿づけで見落としがちなポイントや、社内で統一しておきたいルールについて解説します。
勘定科目の使い分けに注意する
「役員借入金」は、明確な返済期限や契約がない場合に使われることが多いですが、通常の借入と同じく「短期借入金」や「長期借入金」として処理することもあります。どの科目を使うかは、会社の方針や実態に合わせて統一しておくことが大切です。
借入の種類 | 勘定科目 | 備考 |
---|---|---|
明確な返済期限なし | 役員借入金 | 役員からの仮払・立替なども含む |
1年以内に返済予定 | 短期借入金 | 主に運転資金など |
1年超の返済予定 | 長期借入金 | 運転資金や投資資金など |
会計監査がある会社では、「役員借入金」の残高について説明を求められることもあるため、帳簿だけでなく、契約書などの補足資料も用意しておくと安心です。
消費税の処理をしないよう注意する
役員借入金は、お金の貸し借りであり「モノやサービスの取引」ではないため、消費税の課税対象外です。仕訳を入力する際、仮払消費税や仮受消費税を誤って計上しないよう気をつけましょう。
とくに会計ソフトの自動仕訳機能を使っている場合は、税区分を「対象外」に設定しておくとミスを防げます。
支払利息の処理と損金算入の判断に注意
利息をつけて返済する場合、「支払利息」として経費にできますが、役員との取引の場合は税務上の制限がかかることがあります。たとえば、以下のようなケースは損金算入が認められないこともあります。
- 適正な利率でない(極端に高い)
- 契約書がない
- 契約書通りの利息が支払われていない
税務署から否認されないためにも、利率や支払方法はあらかじめ明確にし、記録に残しておくようにしましょう。
現金での返済は証拠を残す
現金での返済は、振込のような明細が残らないため、後で確認できるよう「領収書」を受け取り、保管することが大切です。
領収書には、日付・金額・借入金の返済である旨を明記し、役員の署名をもらっておくと安心です。
役員借入金の返済仕訳を正しく処理しよう
役員借入金は、会社の資金繰りを一時的に改善する手段ですが、金額が大きくなっていたり、支払利息の額によっては税務上のリスクが出てくることもあります。現金や預金での返済、利息の処理、資本金への振替など、状況に合った正しい仕訳が求められます。
この記事で紹介したような仕訳例を参考にしながら、勘定科目の選び方や証拠資料の残し方を工夫し、安心して帳簿を管理できるようにしておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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