- 更新日 : 2025年2月28日
「リース資産を計上しない」とは?中小企業における会計上の正しい取扱い
新たなリース会計基準が、2027年4月開始の事業年度から強制適用となります。しかし、新たな基準の対象は上場企業や大会社等に限られるため、会計基準適用が強制とならない中小企業等では、従来どおりのリース会計で問題ありません。
この記事は、今後、中小企業においてリース取引があったときにどのように考えればよいかを解説します。
目次
リース資産を計上しないことはある?
中小企業では、リース取引についてリース資産を計上しないケースも見受けられます。ここでは、なぜリース資産を計上するケースや計上しないケースがあるのかを考えてみましょう。なお、以下の解説は中小企業等を対象としたものです。
そもそもリース資産とは?
一般に「リース資産」とは、事業者が機械や設備等の固定資産を自ら取得せず、一定期間「借りて使用する」際の固定資産のことです。
詳細は後述しますが、会計上「リース資産」を計上するのは、一定のリース取引に限られます。リースに関する契約が「ファイナンス・リース取引」に該当する場合に、「リース資産」を計上します。リース取引を分類すると、以下のように分類されます。
リース取引 | ①オペレーティング・リース取引 | |
---|---|---|
ファイナンス・リース取引 | ②所有権移転ファイナンス・リース取引 | |
③所有権移転外ファイナンス・リース取引 |
リース資産を計上するのは、②と③の場合です。また、リース資産の所有権が借り手側へ移転するかどうかによって②と③に分かれます。
①のオペレーティング・リース取引とは、②および③以外に該当する場合であり、会計処理にあたっては、売買処理ではなく賃貸借処理とします。つまり、「リース資産」としては計上しません。
新リース会計基準適用後はどうなる?
冒頭で述べたように、新たなリース会計基準が公表され、2027年4月開始の事業年度から強制適用されます。
この新たなリース会計基準を適用対象となるのは、次のような会社です。
- 金融商品取引法の適用を受ける会社とその子会社・関連会社
- 会計監査人を設置する会社とその子会社
具体的には、有価証券報告書を提出する会社およびその子会社・関連会社や、会社法による大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)やその子会社等が対象です。
したがって、これらの会社以外の会社には新リース会計基準が適用されず、従来どおりの基準で問題ありません。
中小企業が適用するリース会計とは?
中小企業では、新リース会計基準の任意適用が認められるため、新リース会計基準を適用しても問題はありません。
しかし、多くの中小企業においては、新たなリース会計基準を導入する手間や時間を考慮して、従来の処理を踏襲するところが多いと考えられます。
従来どおりに、中小企業がリース取引を扱うときの基準は3つあります。
- 「中小企業の会計に関する指針」
リース取引について、「所有権移転外ファイナンス・リース取引」は、売買取引による方法のほか、賃貸借取引によることができるとされます。つまり、ファイナンス・リースでも「所有権」が移転するものについては売買取引とし、それ以外については賃貸借取引として処理することが認められています。詳細については後述します。 - 「中小企業の会計に関する基本要領」
リース取引について、リース取引の借り手側は「賃貸借取引」または「売買取引」より会計処理を行うとされています。 - 法人税法や消費税法など
その他税務的な観点から、処理にあたっては法人税法や消費税法等を参照します。法人税法においては「リース取引の一定のものについては売買取引とする」とされ、「法人税上のリース取引」が定められています。リース取引について会計処理をしたのち、法人税法の考え方と異なる場合には、申告の際に税務調整をすることになります。
参考:
中小会計指針・中小会計要領|日本税理士会連合会
No.5702 リース取引についての取扱いの概要(平成20年4月1日以後契約分)|国税庁
No.5704 所有権移転外リース取引|国税庁
リース取引の種類について
前項では「ファイナンス・リース」や「オペレーティング・リース」といった用語がでてきました。この項ではこれらの用語の概要と、中小企業におけるリース取引の種類ごとの取り扱いについて具体的に見ていきましょう。
ファイナンス・リース取引とは
ファイナンス・リースは、原則として以下2つの要件の両方を満たすものとされています。
- 解約不能のリース
リース契約の中途において解除することができないリースおよびこれに準ずるリース - フルペイアウトのリース
借り手が、リース資産からもたらされる経済的な利益を実質的に受けることができ、かつ、その資産の使用に伴うコストを実質的に負担することになるリース
参考:企業会計基準適用指針第33号リースに関する会計基準の適用指針(第59項ご参照)|企業会計基準委員会
そして、ファイナンス・リースは、所有権移転ファイナンス・リースと所有権移転外ファイナンス・リースに区分されます。
所有権移転ファイナンス・リースとは、「契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるファイナンス・リース」と定義されます。これに対して、リース資産の所有権が借り手に移転しないファイナンス・リースを、所有権移転外ファイナンス・リースと言います。
出典:企業会計基準第34号 リースに関する会計基準(第12項)|企業会計基準委員会
中小企業における会計処理では、原則として所有権移転ファイナンス・リースは売買処理を行い、所有権移転外ファイナンス・リースは売買処理または賃貸借処理を行います。ただし、法人税法において定められる「所有権移転外リース取引」は、売買取引として取り扱われるため税務調整が必要となる場合があります。
参考:
No.5704 所有権移転外リース取引|国税庁
中小会計指針|日本税理士会連合会、「中小企業の会計に関する指針」(P39ご参照)
オペレーティング・リース取引とは
オペレーティング・リースとは、ファイナンス・リース以外のリースを言います。オペレーティング・リースでは、借り手に所有権がないため、リース期間満了後は「リース物件を返却する」または「再リース契約を締結する」のが一般的です。
オペレーティング・リースの例として、IT機器など技術の進歩が早くて陳腐化しやすい資産や、営業車、社用車などの車両、使用頻度が限られる物件や一定のプロジェクトのみで利用する資産などがあります。
オペレーティング・リースを利用する利点は、リース料として一定額を支払うことにより、費用の平準化ができるとともに経理処理の手間が簡素化されることです。オペレーティング・リースの会計処理は、支払うリース料を費用として計上する、いわゆる「賃貸借取引」にて処理します。具体的な会計処理については後述します。
少額リース、短期リースの場合
中小企業にとって「重要性が乏しい」とされるリース取引においては、賃貸借処理を行うことが認められています。具体的には次のいずれかの場合等においては、重要性の観点から賃貸借処理ができるとされます。
- リース期間が1年以内のリース
- リース料総額が300万円以下のリース
なお、少額リース、短期リース等に関しては、新しいリース会計基準においても、原則として賃貸借処理ができるとされています。
以上をまとめると、以下のとおりです。
【中小企業におけるリースの取り扱い概要】
リースの種類 | 会計処理 | ||
---|---|---|---|
オペレーティング・リース取引 | 賃貸借取引 | ||
ファイナンス・リース 取引 | 所有権移転ファイナンス・リース取引 | 売買取引(リース資産の計上) | |
所有権移転外ファイナンス・リース取引 | 売買取引(リース資産の計上)または賃貸借取引 |
※少額リース、短期リースについては賃貸借処理が可能
リース取引の会計上の取り扱いについて
リース取引について、賃貸借処理とする場合や売買処理とする場合の例を見ていきましょう。ここでは賃貸借処理をした場合と売買処理をした場合の処理について、それぞれ解説します。
リース取引を賃貸借取引とする場合の仕訳
ファイナンス・リース契約を締結して、所有権移転外ファイナンス・リースと認められたため、賃貸借処理をするケースを見ていきましょう。
(事例A)ファイナンス・リースとなる契約を締結した。
リース料総額1,200,000円、導入時におけるリース資産の現金価額108,000円、
契約期間5年、リース資産の耐用年数5年(定額法)、月額リース料は20,000円とする。
(仕訳例には消費税は考慮しないこととします。)
【導入時】仕訳なし
【リース料支払時】
借 方 | 貸 方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
リース料 | 20,000円 | 現預金 | 20,000円 | 第1回目リース料支払 |
【決算時】仕訳なし
賃貸借処理では、リース物件の利用料を支払いの都度認識します。所有権移転外ファイナンス・リース取引について、賃貸借取引で処理をした場合には、貸借対照表の注記において「未経過リース料」を記載することになっています。
リース取引を売買取引とする場合の仕訳
次に、リース資産やリース債務を計上する売買取引とするリースの例を見てみましょう。実際には、現在価値計算、利息法による計算等、売買取引とするリースの仕訳は複雑になりますが、あくまでイメージとして数字を入れた例を示します。
(事例B)
ファイナンス・リースとなる契約を締結した。
リース料総額3,600,000円、導入時におけるリース資産の見積現金購入価額3,240,000円、
契約期間5年、リース資産の耐用年数5年(定額法)、月額リース料は60,000円とする。
(仕訳例には消費税は考慮しないこととします。)
【導入時】
借 方 | 貸 方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
リース資産 | 3,240,000円 | リース債務 | 3,240,000円 | リース資産及び負債の計上 |
リース資産およびリース債務の価額は、リース料総額の現在価値と見積現金購入価額のいずれか低い額とします。ここではリース料総額の現在価値の求め方については省略しますが、
リース料総額の現在価値>リース資産の見積現金購入価額としています。
【リース料支払時】
借 方 | 貸 方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
リース債務 | 54,000円 | 現預金 | 60,000円 | 第1回目リース料支払 |
支払利息 | 6,000円 |
リースの支払時に費用として計上するのは、支払利息です。支払利息は、原則として「利息法*」により利息を計算します。その後、実際の支払額との差額はリース債務を減額します。
*利息法とは、「リース債務残高」に利率を乗じて利息を計算する方法です。
【決算時】減価償却
借 方 | 貸 方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
減価償却費 | 648,000円 | リース資産 | 648,000円 | リース資産の減価償却費計上 |
この場合、リース資産の償却は、原則としてリース期間によるものとします。なお、法人税法において、所有権移転外ファイナンス・リースによるリース資産は「リース期間定額法*」とされます。
*法人税のリース期間定額法とは、「リース資産の取得価額 × 定額法償却率」で計算します。
参考:No.5410 減価償却資産の償却限度額の計算方法(平成19年4月1日以後取得分)|国税庁
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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