- 更新日 : 2024年8月8日
株式交付費とは?繰延資産として計上できる?仕訳・勘定科目を解説!
株式募集にあたり、直接要した費用を株式交付費と言います。株式交付費は、費用でありながら、繰延資産の性格も有した勘定科目です。この記事では、株式交付費に含まれる費用の例、株式交付費の会計処理上の扱い、費用ではなく繰延資産として計上する際の仕訳、繰延資産である創立費や社債発行費との違いなどを解説していきます。
目次
株式交付費とは
株式交付費とは、株式募集のために直接支出した費用のことを指します。以前は、株式交付費ではなく「新株発行費」という名称が使用されていましたが、2006年5月の会社法制定と会社に関する規定の統合に対応するために、新株発行費から株式交付費へと改正されています。
新株発行費は、新株発行のために直接支出した費用のみを対象にしていました。株式交付費に改正された後は、新株発行費の対象にされていた支出に加え、自己株式の処分(会社所有の自社株式を市場や第三者などに売却すること)のために支出した費用なども含まれるようになりました。
創立費との違い
創立費とは、会社の設立にかかる費用のことを指します。創立費には、定款作成にかかった費用や創立総会にかかわる費用のほか、株式発行費にも該当する株式募集のための広告費や証券会社の取扱手数料なども含まれます。
株式発行費との違いは、創立にともない発生した費用である点です。創立時に要した費用であれば、株式募集のための広告費なども「創立費」で計上しますが、創立時以外の増資や自己株式の処分などでの株式交付にかかった費用は「株式交付費」で計上します。
創立費の詳細は、以下の記事を参照ください。
社債発行費との違い
社債発行費とは、社債募集にかかった広告費、金融機関や証券会社の取扱手数料、目論見書や社債券などの印刷費など、社債発行に直接支出した費用のことを指します。
株式交付費と社債発行費は、会社の資金調達に直接要した費用という意味では同じですが、関連する資金調達の方法が異なります。
株式交付費は、出資者への返済義務はないものの、配当や経営への参加などのメリットがある「株式」を交付する時の費用を処理する際に使用する勘定科目です。一方、社債発行費は返済義務のある「社債」を発行するための費用を処理する際に使用する勘定科目とされます。
社債発行費の詳細は、以下の記事を参照ください。
株式交付費の具体例
株式交付費に含まれる具体的な費用には、株式募集にかかる広告費、募集や特定投資家への売り付けの勧誘などにかかわる金融機関や証券会社へ支払う取扱手数料、目論見書や株券などの印刷費、募集株式発行にかかわる変更登記の登録免許税などがあります。
株式交付費の仕訳・会計処理方法
株式交付費は原則、費用として処理しますが、一部の株式交付費は繰延資産への計上も認められます。
原則として支出時に費用処理
株式交付費に該当する費用は、原則、支出時に費用(営業外費用)として会計処理を行います。
(例)株式募集(事業拡張のための新株発行)に直接要した広告費100万円を当座預金より支払った。なお、当広告費は全額費用として処理する。
仕訳例の株式交付費は費用として取扱いますので、損益計算書の営業外費用の欄に表示されます。株式分割や株式の無償割当に要した費用は、販売費及び一般管理費(営業費用)への計上も可能です。
一定の要件を満たす場合、繰延資産として資産計上
株式交付費は、一定の要件を満たせば、繰延資産として資産に計上することができます。繰延資産とは、支出後も継続してその効果を得られる、資産的側面をもつ費用のことです。
株式交付費は、資金調達などの財務活動にかかわる費用である場合に限り、繰延資産への計上が認められます。例に挙げるとすれば、企業規模の拡大や事業投資の拡大を目的とした新株発行などが該当します。組織再編の対価で株式を交付した時の費用も繰延資産として計上することが可能です。
一方で、資産調達などを目的としない、株式分割(1株を複数に分割して発行済み株数を増やすこと)や株式の無償割当にかかわる株式交付費は繰延資産にはできず、費用として計上します。
(例)株式募集(事業拡張のための新株発行)に直接要した広告費100万円を当座預金より支払った。なお、当広告費は財務活動にかかわる費用であることから繰延資産に計上する。
仕訳例のように、繰延資産に計上する場合であっても、株式交付費は費用で処理する場合の勘定科目と同じ名称のものを使用します。ただし、損益計算書ではなく、貸借対照表の資産の部(繰延資産)に表示される点が異なります。
なお、繰延資産に計上した株式交付費については、定額法で3年以内に償却しなくてはなりません。期末には、以下のような決算整理仕訳を行います。
(例)当社は、期首に株式交付費150万円を繰延資産に計上している。株式交付費は期首に計上した分のみで、3年にわたり定額法で償却することとする。
【計算式】150万円×12/36ヶ月=50万円
株式交付費償却は、繰延資産に計上した株式交付費の償却を行うための勘定で、営業外費用として表示します。
国際的な会計基準との取扱いの違い
国際的な会計基準では、株式交付費は費用にも繰延資産にも計上しません。株式交付費は、資本取引にともなう費用として資本から直接控除するためです。
近年、日本の会計基準は国際的な会計基準(IFRS)に近づける趣旨の改正(コンバージェンス)が行われていますが、株式交付費については改正が進んでいません。現行の原則費用処理(一部は繰延資産として容認)から、資本からの直接控除に変更すると、以下のような問題が生じるためです。
- 株式交付費は株主への対価にはならない(資本からの直接控除に違和感がある)
- 株式交付費は資金調達に要する支出で財務費用の性格を有する
- 会社の意思決定で行う資金調達に要する費用を会社の業績に反映すると、投資家への情報開示の面で有益な情報を提供できない
以上のことから、株式交付費については、日本の会計基準と国際的な会計基準との間に相違があります。
株式交付費を繰延資産に計上できるかきちんと判断しましょう
株式交付費は、日本の会計基準では原則、費用として処理します。ただし、資金調達など財務活動にかかわる株式交付費は、繰延資産への計上が可能です。繰延資産に計上した株式交付費は、3年以内の定額償却が認められています。株式交付費を処理する際は、費用として処理するか、繰延資産にした方がよいか、会計への影響を判断して会計処理を行いましょう。
よくある質問
株式交付費とは?
株式募集(新株発行や自己株式の処分など)で直接支出した費用を株式交付費と言います。詳しくはこちらをご覧ください。
株式交付費に含まれる費用は?
株式募集にかかる広告費、証券会社に支払う取扱手数料、株券や目論見書の印刷費などが株式交付費に含まれます。詳しくはこちらをご覧ください。
株式交付費の会計処理方法は?
原則は費用で処理しますが、資産調達など財務活動にかかわる株式交付費については一定の要件を満たす場合、繰延資産に計上することも可能です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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