- 更新日 : 2024年8月8日
消費税における「切り捨て」とは? 法人が行う消費税の計算・納税方法を解説
消費増税や軽減税率に対応した結果、消費税の端数が生じた経験はありませんか?
端数処理は、切り上げ、切り捨て、四捨五入などが考えられますが、どれが適切なのか判断しかねる方も多いと思います。
そんな方に向けて、表示価格や請求書で消費税の端数が生じた場合や、確定申告での端数処理を解説していきます。
消費税の計算方法
令和元年(2019年)10月1日から消費増税及び軽減税率制度の導入によって、消費税率が標準税率10%と軽減税率8%の複数税率の状態になりました。
商品やサービスを消費者へ販売する段階(事業者間の取引を除く)では「総額表示」 (税込金額の表示)が義務付けられています。
総額表示のために税込金額を計算した際、消費税部分の1円未満の端数が生じた場合の端数処理は「切り上げ」「切り捨て」「四捨五入」などの選択は事業者ごとによって任意に選択できます。
また、請求書などで消費税を計算した結果、端数が生じた場合も同様に「切り上げ」「切り捨て」「四捨五入」などの端数処理の選択は事業者ごとによって任意に選択できます。
ただし、請求書などで注意すべきなのは、端数処理を行う段階です。
複数税率に対応した請求書(区分記載請求書または適格請求書)では、「税率ごとの合計金額」が記載されるため、消費税部分の1円未満の端数がある場合は「税率ごとの合計金額」欄で端数処理を行うことになります。
具体的には、標準税率10%の対象商品と軽減税率8%の対象商品を同時に販売し、請求書を発行する場合、標準税率10%の税込金額合計欄で端数処理を行い、軽減税率8%の税込金額合計欄で端数処理を行います。
なお、請求書が複数枚になる場合は、一領収単位で端数処理を行います。
消費税が「課税される取引」と「課税されない取引」とは?
消費税に関して、消費税が「課税される取引」と「課税されない取引」をおさえておきましょう。
以下の4つの要件をすべて満たすと基本的に消費税が「課税される取引」になります。
【消費税が課税される要件】
要件 | 内容 |
---|---|
国内において | 基本的に日本国内を意味しています。 |
事業者が事業者として行う取引 | 事業者は、法人と個人事業主を意味し、 取引を繰り返し、継続、かつ、独立して行うことを意味しています。 |
対価を得て行う取引 | 物品の販売などをして反対給付を受けることをいいます。 寄付金や補助金、無償の取引は含まれません。 |
資産の譲渡等 | 商品や製品などの販売、資産の貸付及びサービスの提供をいいます。 |
(引用:国税庁「課税の対象」)
基本的には、日常的に行う取引はほぼ課税される取引になります。
また、上記の要件を満たしても消費税になじまない取引や要件を満たさない取引は、消費税が「課税されない取引」になります。
課税されない取引の主な例は以下の通りです。
(引用:国税庁「非課税となる取引」)
税額計算時の「切り捨て」とは?
軽減税率制度の導入によって、以下のように消費税率及び地方消費税率が変更されています。
確定申告時には計算でよく使う税率ですので確認しておきましょう。
適用時期 | 令和元年9月30日まで | 令和元年10月1日から | |
---|---|---|---|
区分 | 旧税率 | 標準税率 | 軽減税率 |
消費税率 | 6.3% | 7.8% | 6.24% |
地方消費税率 | 1.7% | 2.2% | 1.76% |
合計 | 8.0% | 10% | 8.0% |
確定申告で消費税の納税額を計算する際の端数処理は大きく分けて以下の3通りがあります。
上記3通りを具体例とともに解説していきます。
※注意:以下の具体例は相互に独立しており、数字や内容に関係性はありません。
まず「課税標準額は1,000円未満切り捨て」について、この処理は税率ごとの売上に対して行います。
●前提
税込(消費税及び地方消費税込)の売上金額は以下の通り。
旧税率分:4,560,000円
標準税率分:3,890,000円
軽減税率分:2,450,000円
●課税標準額の計算例
旧税率分:4,560,000円 × 100/108 = 4,222,222円(小数点以下の端数切り捨て)
4,222,222円 (1,000円未満切り捨て)→ 4,222,000円
標準税率分:3,890,000円 × 100/110 = 3,536,363円(小数点以下の端数切り捨て)
3,536,363円(1,000円未満切り捨て)→ 3,536,000円
軽減税率分:2,450,000円 × 100/108 = 2,268,518円(小数点以下の端数切り捨て)
2,268,518円(端数切り捨て)(1,000円未満切り捨て)→ 2,268,000円
実際の確定申告では、上記のように課税標準額を計算し、それぞれの消費税率を乗じて売上に係る消費税を計算していくことになります。
次に「課税仕入れに係る消費税額」についての端数処理を解説します。
●前提
税込(消費税及び地方消費税込)の課税仕入れ金額は以下の通り。
計算の便宜上、この他の仕入れや経費はないものとします。
旧税率分:3,640,000円
標準税率分:2,900,000円
軽減税率分:1,880,000円
●課税仕入れに係る消費税額の計算例
旧税率分:3,640,000円 × 6.3/108 = 212333.33…円
(1円未満の切り捨て)→ 212,333円
標準税率分:2,900,000円 × 7.8/110 = 205636.3636…円
(1円未満の切り捨て)→ 205,636円
軽減税率分:1,880,000円 × 6.24/108 = 108622.22…円
(1円未満の切り捨て)→ 108,622円
「課税仕入れに係る消費税額」以外の端数処理の例としては、主に「返還等対価に係る税額」や「貸倒れにかかる税額」で小数点端数が生じる場合があり、どちらも1円未満の切り捨てを行います。
最後に「消費税及び地方消費税の納税額は100円未満切り捨て」は、売上に係る消費税額から課税仕入れなどに係る消費税額を控除したあとの税額は100円未満切り捨ての処理を行います。
実際の申告書では、税額の10円の位と1円の位にあらかじめ「0」が記入されています。
消費税の納税方法
消費税の納税義務がある事業者は消費税及び地方消費税を確定申告によって申告・納税を行います。
また中間申告について、個人の場合は前年、法人の場合は前事業年度の消費税(地方消費税を含まない)の年税額が48万円を超えると中間申告が必要になります。
中間申告の回数は以下の表の通りです。
前年または前事業年度の消費税の年税額によって中間申告の回数が異なります。
直前の課税期間の消費税額 (地方消費税を含まない) | 中間申告の回数 |
---|---|
48万円以下 | 不要 |
48万円超から400万円以下 | 年1回 |
400万円超から4,800万円以下 | 年3回 |
4,800万円超 | 年11回 |
(引用:国税庁「中間申告の方法」)
さらに、中間申告は、予定納税方式と仮決算方式のいずれかを任意で選択することができます。予定納税方式は、申告者が計算を行う必要はなく、適切な時期に税務署から納付書が送られてきます。仮決算方式は、申告者が消費税の計算を行い、申告する必要があります。
納税期限と納付方法
消費税の確定申告の場合、申告・納税期限は個人と法人で以下のように異なります。
個人 | 3月31日まで |
法人 | その課税期間の終了の日の翌日から2カ月以内 一定の事由があれば延長可 |
(引用:国税庁「申告と納税」)
中間申告の場合は、各中間申告が対象となる課税期間の末日の翌日から2カ月以内です。
具体的に、個人の中間申告が1回の場合を例にすると、中間申告の対象となる期間は、1月1日から6月30日となり、中間申告の期限は8月31日になります。
まとめ
消費税の端数処理に困るケースとして「総額表示」「請求書」「確定申告」の3つがあります。この記事ではこの3つについて解説しました。
確定申告では、基本的に切り捨てであるものの、切り捨てる桁数に注意が必要です。
総額表示と請求書の端数処理は法律によって強制されておらず、事業者ごとに任意選択できます。
よくある質問
税込金額を計算した際、消費税部分の1円未満の端数が生じた場合の端数処理は?
「切り上げ」「切り捨て」「四捨五入」などの選択は事業者ごとによって任意に選択できます。詳しくはこちらをご覧ください。
確定申告で消費税の納税額を計算する際の端数処理の方法は?
「課税標準額は1,000円未満切り捨て」「課税仕入れに係る消費税額や、その他、計算の途中で生じる端数は1円未満の切り捨て」「消費税及び地方消費税の納税額は100円未満切り捨て」の方法があります。詳しくはこちらをご覧ください。
消費税の納税方法は?
消費税及び地方消費税を確定申告によって申告・納税を行います。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
消費税の関連記事
新着記事
利子補給金とは?仕訳や勘定科目、消費税の扱いをわかりやすく解説
企業や個人事業主が金融機関から借入をしたあと、利息の負担を軽くする目的で「利子補給金(りしほきゅうきん)」が支払われることがあります。これは、国や自治体が利息の一部を助成してくれる仕組みです。ただし、この補給金を受け取ったときの会計処理や仕…
詳しくみる有償支給取引の仕訳とは?会計処理や消費税の扱いをわかりやすく解説
製造業や委託加工を行っている企業では、「有償支給」の取引がよく行われます。しかし、実際に仕訳をしようとすると、「どの勘定科目を使えばいいの?」「消費税はどう処理するの?」など、悩ましい場面が多いのではないでしょうか。 この記事では、有償支給…
詳しくみる役員借入金の返済方法と仕訳はどうする?現金・相殺・振替のケースをわかりやすく解説
会社のお金が一時的に足りなくなったとき、経営者や役員が自分のお金を会社に貸すことがあります。これを「役員借入金」といいます。借りたお金はあとで返す必要がありますが、その返し方や会計処理は、経理の現場で迷うポイントのひとつです。 この記事では…
詳しくみる免税事業者からの仕入れを仕訳するには?インボイス制度での会計処理を解説
さまざまな事業者から商品やサービスを仕入れることは頻繁にあります。とくに個人事業主や中小企業など、免税事業者から仕入れるケースも少なくありません。しかし、2023年10月1日に導入されたインボイス制度によって、免税事業者からの仕入れに関する…
詳しくみる外注費を売上原価に計上するには?ケース別の仕訳例を解説
外注費は、社外に業務を依頼したときに発生する費用ですが、そのすべてが売上原価になるわけではありません。売上原価として扱うには、外注作業が売上に直接関係しているかどうかが判断ポイントになります。この記事では、売上原価に該当する外注費の見分け方…
詳しくみる当期純損失の仕訳方法は?会計処理を具体例でわかりやすく解説
会社の会計年度が終わると、当期の損益が決算として確定されます。通常は「利益」を計上することが理想ですが、売上が減少したり費用・損失が増加したりした場合には、「当期純損失」として赤字を計上することになります。損失が出たときは、その金額をどのよ…
詳しくみる