• 作成日 : 2025年9月9日

圧縮記帳と税効果会計の関係とは?適用が必要なケース・経理処理を仕訳付きで解説

「圧縮記帳には税効果会計が必要なのか?」「直接減額方式と積立金方式で処理はどう変わるのか?」といった疑問は、経理担当者や会計士にとって実務のうえで気になるところでしょう。

圧縮記帳と税効果会計は、それぞれ税務・会計処理における重要な制度です。

本記事では、圧縮記帳と税効果会計の基本から、適用ケース、処理方式ごとの仕訳例まで、わかりやすく解説します。

実務面で役立つポイントを解説しているため、圧縮記帳と税効果会計の適用可否について気になる方は、ぜひ参考にしてください。

圧縮記帳に税効果会計は原則不要

圧縮記帳を導入する際、多くのケースでは、圧縮記帳には税効果会計の適用は不要です。

その理由は、圧縮記帳が会計処理と税務処理を一致させる制度であり、税効果会計の前提となる「一時差異」が発生しないためです。

とくに中小企業で採用される「直接減額方式」では、帳簿価額も税務上の資産価額も同時に減額されるため、ズレのない処理が可能となります。

したがって、税効果会計の適用は不要です。

圧縮記帳とは

圧縮記帳とは、企業が補助金や保険金、資産の買換えなどで得た収入を使って固定資産を取得した場合に、その取得価額の一部を帳簿上で圧縮できる制度です。

この制度を活用することで、受け取った収入を益金としてそのまま課税されるのを防ぎ、税負担を軽減することが可能になります。

対象となる資産の一例は、以下の通りです。

  • 建物:事務所や工場などの用途で新たに取得したもの(附属設備含む)
  • 構築物:塀、門、井戸、排水溝など
  • 機械および装置:製造ラインの設備、冷暖房装置、精密機械など
  • 船舶:営業用・運搬用などの業務用船舶
  • 土地(一定の場合):特定施設の敷地や駐車場として使用する場合など

固定資産が中心ですが、補助金や工事負担金などの取得原資の性質に応じて、要件が異なる点には注意が必要です。

関連記事:圧縮記帳の仕組みとは?要件や仕訳、限度額を学ぶ

税効果会計とは

税効果会計とは、会計と税務のルールの違いにより生じる利益のズレ、いわゆる「一時差異」を調整するための会計手続きです。

たとえば、会計上は費用として認められるが税務上は認められない、あるいはその逆のケースがあると、会計と税務の利益にズレが生じます。

このようなズレに対応するために、将来の税金の増減を見越して「繰延税金資産」や「繰延税金負債」を財務諸表に計上するのが税効果会計です。

税効果会計は企業へ義務付けられているわけではなく、主に上場企業や外部向けに厳格な財務報告が求められる大企業に適用義務が発生します。

税効果会計が必要となる企業

税効果会計の適用が義務付けられているのは、上場企業や金融商品取引法の規制を受けている企業、会社法上の大企業です。

具体的に対象となる企業には以下が挙げられます。

  • 上場企業
  • 金融商品取引法の適用を受けている非上場企業
  • 会計監査人設置企業(非上場企業を含む)

上記の企業では、税務と会計の差異を調整するために繰延税金資産・負債の計上が求められます。

一方、中小企業は税効果会計の適用義務はありません。しかし、以下のような事情から任意で導入するケースもあります。

  • 金融機関からの融資審査時の信頼性向上
  • 経営管理・将来税負担の見通しに活用
  • ベンチャー企業がVCやIPO準備に伴って会計水準を引き上げる場合

税効果会計は、企業の財務状況をより正確に反映するための制度であり、将来の税負担を見越した経営判断にも役立ちます。

大手だけでなく、成長フェーズにある企業や外部からの資金調達を見据える企業にとっては、信頼性の高い財務報告を行うための有効な手段となるでしょう。

関連記事:税効果会計とは?目的や手順、適用時の注意点を解説

圧縮記帳に税効果会計を適用するケース

圧縮記帳は原則として税効果会計の対象外です。

しかし、処理方法や方針によっては一時差異が生じる場合もあるため、その際には税効果会計の適用が必要になります。

積立金方式を使った場合

積立金方式では、受け取った補助金や工事負担金の圧縮額を「圧縮積立金」として会計上は資産の取得原価を減額せずに処理します。

一方、税務上は圧縮損として損金算入するため、帳簿上に一時差異が発生します。

この一時差異により、繰延税金負債の計上が必要となるため、税効果会計の対象です。

さらに積立金は資産の耐用年数に応じて戻入処理を行う必要があるため、その間は税効果会計が継続的に発生します。

会計上は圧縮せず税務上のみ圧縮した場合

会社の会計方針により、補助金収入を益金として認識し、資産取得額を減額せずそのまま計上する場合があります。

一方、税務上、圧縮損を計上し、法人税軽減の処理を行うと、会計と税務でズレが生じることになります。

このような場合でも、圧縮額に相当する一時差異が発生し、税効果会計の適用が必要です。

海外会計基準適用などで処理が分かれる場合

IFRS国際会計基準)を適用している企業では、そもそも圧縮記帳という制度が存在しない、または異なる概念として処理されることがあります。

そのため、日本の税法上は圧縮損を認識する一方、会計上は通常の資産計上となり、一時差異が生じることになります。

このような状況でも、税効果会計を用いて帳簿と税務の差異を調整しなければいけません。

圧縮記帳の仕訳・計算方法

圧縮記帳を適用する際には、処理方式に応じた仕訳と計算が必要です。

ここでは「直接減額方式」と「積立金方式」の2つの方法について、それぞれの特徴と具体的な仕訳例を紹介します。

直接減額方式

直接減額方式とは、補助金や保険金・工事負担金などによって取得した固定資産の帳簿価額から、該当金額をそのまま控除する方式です。

たとえば、補助金1,000万円を受けて2,000万円の設備を取得した場合、帳簿上の固定資産価額は1,000万円に減額されます。

減額された後の価額をもとに減価償却などの処理が行われるため、実際の資産価額と会計処理・税務処理が完全に一致するのが特徴です。

このように一時差異が発生しないため、税効果会計の適用も不要となります。

さらに、圧縮額の戻入処理や繰延税金負債の管理も不要であるため、実務上の処理がシンプルで、導入や運用のハードルが低いのも利点です。

直接減額方式が向いている企業例
  • 税効果会計を導入していない中小企業
  • 税理士と連携しながら会計処理を簡素化している企業

直接減額方式の仕訳例

【前提条件】

補助金1,000万円を受けて2,000万円の機械装置を購入した場合

【仕訳例】

■ 補助金の受領の勘定科目

借方金額貸方金額
普通預金10,000,000国庫補助金収入等10,000,000

■ 固定資産の取得の勘定科目

借方金額貸方金額
機械装置20,000,000現預金20,000,000

■ 圧縮仕訳(取得価額からの減額処理)の勘定科目

借方金額貸方金額
圧縮損10,000,000機械装置10,000,000

この処理により、機械装置の帳簿価額は1,000万円(=2,000万-1,000万)となり、減価償却費も取得価額に応じて減少します。

積立金方式

積立金方式とは、補助金や保険金、工事負担金などの金額を「圧縮積立金」として別勘定で処理し、取得した固定資産の帳簿価額を減額せずにそのまま計上する方式です。

会計上は補助金等の金額に関係なく資産を本来の取得原価で認識し、一方で税務上は損金算入するため、会計と税務で処理にズレが生じます。

この一時差異により、税効果会計を適用して、繰延税金負債を計上します。

また、圧縮積立金として処理した金額は、その資産の耐用年数に応じた処理をする必要があり、毎期の会計処理には注意が必要です。

場合によっては任意のタイミングで戻入することも可能ですが、その際も税効果の取崩処理が求められるため、会計・税務双方において管理体制が必要となります。

積立金方式が向いている企業例
  • 上場企業や税効果会計を導入している企業
  • 会計上、利益を多く出しているように見せたい企業

積立金方式の仕訳例

【前提条件】

補助金1,000万円を受けて2,000万円の機械装置を購入し、機械の耐用年数5年間で圧縮積立金を戻入する場合

【仕訳例】

■ 補助金の受領の勘定科目

借方金額貸方金額
現預金10,000,000国庫補助金収入等10,000,000

■ 固定資産の取得の勘定科目

借方金額貸方金額
機械装置20,000,000現預金20,000,000

■ 圧縮積立金の計上(取得年度)

借方金額貸方金額
繰越利益剰余金10,000,000圧縮積立金10,000,000

■ 圧縮積立金の戻入処理(1年目:2年目以降も同様)

借方金額貸方金額
圧縮積立金2,000,000繰越利益剰余金2,000,000

毎年、繰越利益剰余金に戻入する形で利益調整が行われます。

会計処理と税務処理がズレるため、繰延税金負債の計上も求められる点に注意が必要です。

積立金方式に税効果会計を適用する場合の仕訳・計算方法

積立金方式を採用した場合、会計上は固定資産の帳簿価額を減額しない一方、税務上は圧縮記帳による損金算入が認められます。

会計と税務で差異が生じる(=一時差異)ため、税効果会計の適用が必要になるケースがあります。

税効果なしの決算処理

税効果会計を適用しない場合、積立金方式にもとづく仕訳処理は、通常の積立金方式の仕訳と同一になります。

したがって、税務上の圧縮記帳に伴う積立金の計上や、翌期以降の取り崩し処理についても、基本的な仕訳は「積立金方式の仕訳例」と同様に扱います。

税効果ありの決算処理

【前提条件】
  • 補助金:10,000,000円
  • 機械購入:20,000,000円
  • 法人税率:30%
  • 圧縮積立金方式を採用(税効果会計適用)
  • 耐用年数:5年

【仕訳例】

■ 補助金の受領の勘定科目

借方金額貸方金額
現預金10,000,000国庫補助金収入等10,000,000

■ 資産の取得の勘定科目

借方金額貸方金額
機械装置20,000,000現預金20,000,000

■ 圧縮積立処理(圧縮記帳)

借方金額貸方金額
繰越利益剰余金7,000,000圧縮積立金7,000,000

■ 税効果会計(圧縮積立金に係る繰延税金負債)

借方金額貸方金額
法人税等調整額3,000,000繰延税金負債3,000,000

(※税率:30% × 圧縮額10,000,000円)

■ 戻入処理(5年の耐用年数に応じる)

借方金額貸方金額
圧縮積立金1,400,000繰越利益剰余金1,400,000

■ 税効果の取り崩し(5年の耐用年数に応じる)

借方金額貸方金額
繰延税金負債600,000法人税等調整額600,000

(※3,000,000 ÷ 5年=600,000円/年)

圧縮記帳を適用しない場合

補助金や保険金などの収入を受けた際に圧縮記帳を行わない場合、全額「国庫補助金収入等」として収益に計上されます。

一方で、取得した固定資産の減価償却費は耐用年数に応じて毎期計上されるため、会計上の費用となる減価償却費が税務上の損金算入となります。

なお、圧縮記帳を適用するか否かにかかわらず、全体的な税務上の損金は、直接減額方式・積立金方式いずれでも大きく変わりません。


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