- 作成日 : 2025年11月12日
2027年に適用開始の新リース会計基準とは?改正内容や影響をわかりやすく解説
2027年4月1日以後開始する事業年度から、日本のリース会計に関するルールが大きく変わります。今回のリース会計基準改正における最大のポイントは、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースが、原則として資産・負債として貸借対照表へ計上(オンバランス化)される点です。これにより、多くの企業の財務諸表に大きな影響が及ぶ可能性があります。
本記事では、この会計基準の変更がなぜ行われるのか、具体的に何が変わるのか、そして企業が今から始めるべき実務対応について、ステップごとに詳しく解説します。
目次
新リース会計基準は2027年に適用開始
新リース会計基準は、2027年4月1日以降に開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されることが原則となっています。ただし、企業の準備状況に応じて2025年4月1日からの早期適用も認められています。
この適用時期は、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した企業会計基準34号「リースに関する会計基準」に基づいています。多くの日本企業(3月決算)にとっては、2028年3月期の決算から新基準が強制適用されることになります。
どちらの適用時期を選択するかは各企業の判断に委ねられます。連結子会社に海外企業が含まれる場合や、早期に国際的な基準に合わせることでグローバルな投資家へのアピールを強めたい場合などは、早期適用を検討する価値があるでしょう。自社の置かれた状況や、準備にかかる期間を十分に考慮し、最適な適用タイミングを決定する必要があります。
参考:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表|ASBJ
新リース会計基準が導入される背景
新リース会計基準が導入される理由は、国際的な会計基準との整合性を図り、財務諸表の比較可能性を高めるためです。
これまでの日本の会計基準では、オペレーティング・リース契約が貸借対照表(バランスシート、B/S)に計上されませんでした。これは、企業が多額のリース契約を結んでいても、それが財務諸表上には現れない「簿外負債」となっている状態を意味します。この状況は、投資家が企業の本当の財政状態やリスクを把握する上での障壁になると指摘されています。そこで、リースの経済的実態をより正確に財務諸表に反映させ、情報の透明性を高めることを目的として、今回の改正が行われます。
新リース会計基準の対象企業
新リース会計基準は、金融商品取引法に基づく財務諸表作成会社(上場企業等)とその子会社、会社法上の会計監査人設置会社(大会社等)等での適用が想定されています。
一方で、中小企業は実務上の負担を考慮し、新リース会計基準を適用しないことも認められます。ただし、非上場の中小企業であっても、親会社が上場企業である場合や、取引先・金融機関との関係で新基準に沿った財務情報の開示が求められるケースも想定されるため、無関係とは言い切れません。
新リース会計基準による改正内容
新リース会計基準では、借手の会計処理が大きく変わります。これまでファイナンス・リースとオペレーティング・リースで分かれていた会計処理が、原則として一つに統合されます。
借手の会計処理
これまで費用処理のみで済んでいたオペレーティング・リースを含め、原則として、すべてのリース契約において、借手は貸借対照表上に「使用権資産」と「リース負債」を計上しなくてはなりません。新基準では、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分が廃止され、単一の会計処理モデルが採用されるためです。これにより、使用する権利を持つ資産(使用権資産)と、将来支払う義務(リース負債)を財務諸表に反映させることが求められます。
新旧の基準で何が変わるのか、以下の表で具体的に確認しましょう。
| 項目 | 現行基準 | 新リース会計基準 |
|---|---|---|
| リースの分類 | ファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類 | 原則としてすべてのリースを単一モデルで処理(分類なし) |
| 会計処理 (借手) | ファイナンス・リース → リース資産・負債を計上オペレーティング・リース → 支払リース料を費用処理(オフバランス) | すべてのリース → 使用権資産・リース負債を計上(オンバランス) |
| 損益計算書 (借手) | ファイナンス・リース → 減価償却費と支払利息オペレーティング・リース → 支払リース料(販売費及び一般管理費など) | すべてのリース → 使用権資産の減価償却費とリース負債の利息費用(営業外費用) |
貸手の会計処理
貸手側の会計処理については、現行の会計基準が維持され、大きな変更はありません。今回のリース会計基準の変更は、主に借手側の会計処理を国際基準に合わせることが目的であるため、貸手側への影響は限定的です。
貸手は引き続き、リース契約をファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類し、それぞれ現行と同様の会計処理を行います。ただし、新基準では「リース」の定義自体がより厳密になります。そのため、契約がリースに該当するかどうかの判定については、貸手側も改めて注意深く確認する必要があります。
新リース会計基準による企業への影響
新リース会計基準の適用により、資産と負債の両建て計上による財務指標の変動や、管理業務の増大など、財務・業務の両面に大きな影響が及びます。
財務諸表への影響
特にオペレーティング・リースを多く利用している企業では、資産と負債が両建て計上され、貸借対照表(B/S)が大きく膨らむことになります。これまで費用処理(オフバランス)されていたリース契約が、資産(使用権資産)と負債(リース負債)として計上されるためです。例えば、多くの店舗を賃借している小売業や、多数の航空機をリースしている航空会社などは、この影響を大きく受けます。
また、損益計算書(P/L)上の表示も変わります。従来は「支払リース料」として販管費などに計上されていた費用が、「使用権資産の減価償却費」と「リース負債にかかる支払利息」に分かれて計上されます。その結果、営業利益やEBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)は増加する傾向が見られます。
経営指標への影響
自己資本比率の低下、総資産利益率(ROA)の低下、負債比率の上昇など、主要な経営指標に大きな影響を及ぼす可能性があります。各種経営指標の計算式の分母である「総資産」や、分子・分母に含まれる「負債」が増加するためです。
| 経営指標 | 影響 | 理由 |
|---|---|---|
| 自己資本比率 | 低下する傾向 | 総資産(分母)が増加するため |
| 負債比率 | 上昇する傾向 | 負債(分子)が増加するため |
| 総資産利益率(ROA) | 低下する傾向 | 総資産(分母)が増加するため |
| EBITDA | 増加する傾向 | 支払リース料(営業費用)が減価償却費と支払利息(営業外費用)に置き換わるため |
これらの指標は、金融機関からの融資審査や格付け、株主からの評価にも利用されるため、変動理由をステークホルダーへ適切に説明することが非常に重要になります。
税務への影響
会計と税務のルールが異なる「税会不一致」が生じる可能性があるため、最新の法令や基本通達に基づき対応方針を確認する必要があります。
例えば、オペレーティン・グリースに関して、会計上は資産計上と減価償却を行っても、税務上は従来通り支払リース料を損金として処理することが求められます。この場合、企業は法人税申告の際に会計上の利益と税務上の所得の差異を調整する「申告調整」が必要となり、税務関連の業務負担が増加する可能性があります。今後の国税庁の発表を注視していく必要があります。
参考:オペレーティング・リース取引に係る借手の申告調整について|国税庁
新リース会計基準に向けた企業の実務対応
新リース会計基準の強制適用は2027年4月からですが、影響範囲の特定やシステムの改修には時間がかかるため、可及的速やかに準備を開始することが重要です。
1. リース契約の把握
まずは、社内に存在するすべてのリース契約および「リースに該当する可能性のある賃貸借契約」を網羅的に洗い出すことから始めます。
本社部門だけでなく、各事業部、支店、国内外の子会社などが個別に結んでいる契約もすべてリストアップする必要があります。PC、コピー機、車両、不動産(オフィス、店舗、倉庫)など、あらゆる契約が対象となり得ます。
2. 会計方針の決定と影響額の試算
次に、洗い出した契約情報をもとに、会計方針を決定し、財務諸表への影響額を具体的に試算します。
具体的には、以下の項目を決定する必要があります。
- 早期適用の有無
- 新基準適用時の経過措置の選択
- 使用権資産とリース負債の具体的な算定方法
- 簡便的な取り扱い(後述)を適用する範囲
これらの決定に基づき、貸借対照表や損益計算書がどのように変わるのか、また主要な経営指標にどの程度の影響が出るのかをシミュレーションします。
3. 業務プロセスとシステムの再構築
リース契約情報を一元的に管理し、新基準に沿った会計処理を効率的に行うための業務プロセスとシステムを構築します。従来のように表計算ソフトのExcel(エクセル)やGoogleスプレッドシートなどで個別に管理している場合、契約情報の収集、計算、仕訳作成といった一連のプロセスで膨大な手間と時間がかかる可能性があります。そのため、多くの企業でリース契約管理システムの導入や、既存の会計システムの改修が必要になると考えられます。
4. 関係者への説明と情報開示の準備
最後に、試算した影響額や対応方針について、経営層、株主、取引金融機関といった社内外のステークホルダーへ説明する準備を進めます。特に金融機関との間では、融資契約に含まれる財務制限条項(コベナンツ)に抵触する可能性がないか、事前に協議しておくことが重要です。
新リース会計基準の簡便的な取り扱い
中小企業には、実務上の負担を軽減するための「簡便な取り扱い」が認められる見込みです。先行するIFRS第16号でも実務上の負担を考慮した免除規定が設けられており、日本の新基準でも同様の措置が盛り込まれる予定です。
以下のいずれかに該当するリースについては、例外として、従来通りの費用処理(オフバランス)を継続することが認められています。
- 短期リース:リース開始日においてリース期間が12ヶ月以内のリース
- 少額リース:リース資産の重要性が乏しいと認められるリース(例:PC、コピー機、オフィス家具など)
この簡便な取り扱いにより、特に中小企業における実務負担は大幅に軽減されることが期待されます。
2027年の新リース会計基準適用に向けて準備を始めよう
2027年から適用が始まる新リース会計基準は、特に多くのオペレーティング・リースを利用する企業にとって、財務諸表や経営指標に極めて大きな影響を与えます。今回のリース会計基準改正は、すべてのリースを資産・負債として計上することを求めるものであり、その対応には契約内容の網羅的な把握からシステムの見直しまで、多岐にわたる準備が不可欠です。
適用開始までにはまだ時間があるように思えるかもしれませんが、影響の大きさと準備の煩雑さを考えると、決して先延ばしにはできません。本記事を参考に、まずは自社にどのようなリース契約が存在するのか、その全体像を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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