• 作成日 : 2025年11月6日

売掛金保証サービスとは?ファクタリングとの違いやメリット、選び方を解説

取引先の倒産による売掛金の未回収は、企業経営に深刻な影響を与えかねません。このような不測の事態に備えるための有効な手段が売掛金保証サービスです。

この記事では、売掛金保証サービスの基本的な仕組みから、混同されやすいファクタリングとの違い、導入する際のメリット・デメリット、そして自社に最適なサービスの選び方までを網羅的に解説します。貸し倒れリスクを軽減し、健全な経営基盤を築くための一助としてご活用ください。

目次

売掛金保証サービスとは?

売掛金保証サービスとは、取引先の倒産や支払い遅延といった「万が一」に備え、売掛金の未回収リスクを軽減してくれるサービスです。

このサービスの主な目的は、貸し倒れによる損失を防ぎ、企業のキャッシュ・フローを守ることにあります。基本的な仕組みのポイントは以下の通りです。

  • 保証の対象となる事故: 取引先の倒産や、契約で定められた期間を超える支払い遅延(長期延滞)など。
  • 保証される金額: 設定された保証限度額の範囲内で、損害額の一部(例:75~95%)が支払われます。
  • 利用の流れ: 事前に保証を申し込み、保証会社の与信審査を経て契約。保証料を支払うことでサービスが開始されます。

これにより、企業は安心して取引を継続・拡大できます。

保証対象となる売掛金(債権)の範囲

ひとくちに「売掛債権」といっても、保証の対象になるものと、ならないものが存在します。ここでは、その基本的な範囲について解説します。

対象となる主な売掛債権

原則として、商品やサービスの提供が完了している確定済みの売掛債権が保証の対象です。

これは、保証サービスが健全な商取引から生じる未来の不確実性に備えるためのものだからです。サービスによっては、これに加えて手形や将来発生する債権まで、より広くカバーするものもあります。具体的には、以下のような債権が対象となることが一般的です。

  • 一般的な売掛金:商品やサービスの提供後に発生する、最も標準的な売掛債権です。
  • 各種手形債権:決済手段として受け取った約束手形為替手形なども、多くのサービスで対象となります。ただし、手形の種類(割引手形・裏書手形など)によって条件が異なる場合があるため確認が必要です。
  • 将来債権:継続的な取引基本契約などに基づき、将来発生することが確実視される債権を、発生前から保証対象に含めることができるプランも存在します。

対象外となる主な売掛債権

取引先の信用力に問題がある、または債権そのものの正当性に疑義がある場合は、保証の対象外となるのが一般的です。

保証サービスはあくまで健全な取引における不測の事態に備えるものであり、契約時点ですでにリスクが顕在化している債権や、債務者(取引先)以外に原因があるものはカバーされません。以下に代表的な例を挙げます。

  • 与信審査の結果、保証が承認されない債権:保証会社は独自の基準で取引先の信用力を審査します。その結果、リスクが高いと判断された取引先の債権は保証の対象となりません。
  • 紛争中または瑕疵(かし)のある債権:「商品に不備があった」「契約通りのサービスが提供されなかった」など、自社側に起因する問題で支払いが行われない場合は保証されません。
  • 申し込み時点で既に遅延している債権:保証は将来のリスクに備える保険のような役割を持つため、契約するより前に支払い遅延などの問題が発生している債権は対象外となります。

売掛金保証とファクタリングの違いとは?

売掛金保証とファクタリングは、目的が根本的に異なります。売掛金保証は「将来の貸し倒れリスクに備える保険」であるのに対し、ファクタリングは「売掛金を早期に現金化する資金調達手段」です。

  • 売掛金保証:倒産に限らず、長期延滞や手形の不渡りといった契約上の保証事故が発生しない限り、何も起こりません。あくまで万が一に備える「守り」のサービスです。
  • ファクタリング:売掛金の支払い期日を待たずに、ファクタリング会社に債権を売却(譲渡)して現金を得る「攻め」の資金調達です。

どちらを選ぶべきかは、企業の現在の課題によって決まります。「資金繰りが厳しいのですぐに現金が必要」という場合はファクタリングが「将来のリスクに備えて安心して取引したい」という場合は売掛金保証が適しています。

手数料やコスト構造

コストの性質も大きく異なります。売掛金保証のコストは「保証料」、ファクタリングのコストは「手数料(債権の買取割引料)」です。

  • 売掛金保証料:保証対象の債権額や取引先の信用度に応じて、債権額の数%程度が一般的です。保険料のような性質を持ちます。
  • ファクタリング手数料:債権の売却時に発生し、債権額から差し引かれます。手数料率は、2社間ファクタリングか3社間ファクタリングか、また売掛先の信用度によって大きく変動します。一般的に、売掛金保証料よりも高い傾向にあります。

取引先への通知の有無

取引先に知られるかどうかは、両サービスを区別する重要なポイントです。それぞれの通知に関する考え方は以下の通りです。

  • 売掛金保証の場合:原則として取引先に通知する必要はありません。あくまで自社と保証会社との間の契約であるため、取引先との関係性に影響を与えることなく、リスクヘッジが可能です(債権譲渡などが関わる一部の特殊なスキームでは、通知や登記が必要になるケースもあり)。
  • ファクタリングの場合:契約方式によって通知の有無が明確に分かれます。
    • 3社間ファクタリング:自社、ファクタリング会社、取引先の3社間で契約するため、取引先への通知・承諾が必要になります。
    • 2社間ファクタリング:取引先に通知せずに利用可能です。ただし、ファクタリング会社のリスクが高まる分、手数料は3社間よりも割高になる傾向があります。

両者の違いを理解しやすいように、以下の表にまとめました。

項目売掛金保証サービスファクタリングサービス
目的貸し倒れリスクへの備え(保証)早期の資金調達(債権売却)
利用タイミング取引開始前〜債権発生時債権発生後〜支払期日前
資金化の時期倒産や長期延滞など所定の事故発生後、待機・審査期間を経て支払われる契約後すぐ
コスト保証料手数料
コスト水準比較的低い(年売上比0.1~0.5%、保証限度額比1~4%など、算定基礎により異なる)比較的に高い(債権額の2%〜20%程度)
取引先への通知原則不要3社間は必要、2社間は不要
法的位置づけ保証契約または保険契約(取引信用保険)債権譲渡(売買)契約

売掛金保証サービスを利用するメリット

売掛金保証サービスの最大の利点は、倒産リスクから会社を守る「守り」の機能だけでなく、事業拡大を後押しする「攻め」の経営にも繋がる点です。貸し倒れという不測の事態への備えはもちろんのこと、与信管理の不安を解消して新たなビジネスチャンスの創出を可能にし、対外的な信用力を高めるといった多面的な効果が期待できます。

取引先の倒産リスクに備え、資金繰りを安定させる

最大のメリットは、予期せぬ取引先の倒産や経営悪化による売掛金の回収不能リスクを回避できることです。万が一の事態が発生しても、保証会社から保証金が支払われるため損失を埋めることができ、連鎖倒産のリスクを大幅に軽減します。回収や督促に伴う手間や心労が軽減されることで資金繰りが安定し、不測の損失による決算への悪影響も防げます(※多くの契約では、損害を軽減するための回収努力義務が定められています)。

与信管理の負担を減らし、迅速な取引拡大を可能にする

新規取引先の開拓や既存取引先の定期的な与信管理には、専門的な調査や判断など大きな手間がかかります。売掛金保証サービスでは、保証会社が持つ高度な審査ノウハウを活用できるため、自社で行う与信管理の負担を大幅に軽減できます。これにより、取引先との契約を円滑かつ迅速に進めることが可能となり、営業活動のアクセルを踏み込んで事業拡大のチャンスを掴みやすくなります。

金融機関からの信用評価が向上する

保証された売掛金は「保全された資産」と見なされ、ABL(動産・売掛金担保融資)の対象になったり、与信判断でプラスに評価されたりすることで、金融機関からの信用評価が向上する場合があります。

結果として、より有利な条件での資金調達に繋がることも期待できます。

負債を増やさず財務体質を健全に保つ

売掛金保証は融資(借入)ではないため、企業の負債が増えることはなく、財務体質を悪化させません。そのため、貸借対照表(バランスシート)上の負債が増加せず、自己資本比率などの財務指標を健全に保ったまま、将来のリスクに備えることができます。

取引先との関係性を維持したままリスクヘッジできる

売掛金保証は、自社と保証会社の2社間で契約する非通知型のサービスが主流です。そのため、取引先に保証をかけていることを知られる心配がありません。これにより、取引先に余計な憶測を与えることなく、これまで通りの良好な関係を維持しながら、自社の未回収リスクだけを的確に管理できます。

売掛金保証サービスにデメリットや注意点

売掛金保証サービスは強力な経営安定化ツールですが、コスト負担や保証範囲の制約といった側面も存在するため、メリットと天秤にかけて慎重に検討する必要があります。

特に、すべての取引が自動的に保証されるわけではなく、あくまで「保険」であるため即時の資金化には対応できない点を理解しておくことが重要です。これらの注意点を事前に把握することで、導入後のミスマッチを防ぐことができます。

保証料(手数料)というコストが発生する

当然ながら、保証を受けるためには、保証対象となる債権額に応じた保証料を定期的に支払う必要があります。保証事故が起こらなければ、保証料は掛け捨てのコストとなります。何もなければ費用だけがかかるため、コスト負担をデメリットと感じる場合があります。ただし、このコストは万が一のリスクに備えるための保険料であり、経営の安定を確保するための必要経費と捉えることが重要です。

保証を受けるには審査が必要

保証を希望するすべての取引先(売掛金)が、必ずしも保証の対象となるわけではありません。保証会社は、リスクを判断するために取引先の信用情報を基に厳格な与信審査を行います。業績が著しく悪い、信用情報に問題があるなど、リスクが高いと判断された取引先については、保証を断られたり、保証限度額が低く設定されたりすることがあります。

すべての売掛金が保証対象とは限らない

契約内容によっては、一部の取引や特定の状況下での未回収は保証の対象外となる場合があります。

例えば、商品やサービスの内容に不備があるなど、債務者(取引先)ではなく債権者(自社)側に原因がある債権紛争や、保証開始前にすでに発生していた支払い遅延などは、保証の対象外となるのが一般的です。契約時に、どのようなケースが「保証事故」として認定されるのか、免責事項を細かく確認しておく必要があります。

現金化を急ぐ場合には向かない

売掛金保証は、あくまで貸し倒れが発生した後に保証金が支払われる仕組みであり、即時の資金化ニーズには応えられません。

前述の通り、このサービスは資金調達を目的としたものではありません。日々の運転資金が不足しており、売掛金の支払い期日を待てないという状況であれば、ファクタリングサービスの方が適しています。自社の目的を明確にした上で、適切なサービスを選択することが肝要です。

売掛金保証サービスの利用はどのような企業におすすめ?

売掛金保証サービスは、特定の取引先への依存度が高い企業や、新規事業などで積極的に販路を拡大したい成長意欲の高い企業に特に有効です。具体的には、以下のような課題や特徴を持つ企業が挙げられます。

大口取引先への売上依存度が高い企業

全体売上の大部分を1〜2社の取引先が占めている場合、その取引先が万が一倒産すると、経営に致命的なダメージを受けかねません。この「連鎖倒産」のリスクを回避するためのセーフティネットとして、売掛金保証は極めて重要です。

スタートアップや新規事業で、積極的に販路を拡大したい企業

新規の取引先を開拓したいものの、「相手の経営状況が分からず不安」「与信管理のノウハウがない」といった理由で躊躇していませんか?保証サービスを後ろ盾にすることで、リスクを恐れずスピーディーに取引を開始でき、事業成長を加速させることが可能です。

経理や営業の担当者が多忙で、与信管理まで手が回らない企業

中小企業では、担当者が複数の業務を兼任しているケースが多く、煩雑な与信管理に十分な時間を割くのは困難です。保証会社の専門的な審査機能を活用することで、与信管理業務を実質的にアウトソースでき、社員を本来のコア業務に集中させることができます。

海外企業との取引がある、または検討している企業

海外取引は、国内以上に相手企業の信用情報の入手が難しく、カントリーリスクも伴います。こうした不確実性の高い取引においても、保証サービスを活用して貸し倒れリスクをコントロールしながら、グローバルな事業展開をより安全に進められます(※保証限度額や支払割合、免責条項などにより、リスクが完全にゼロになるわけではありません)。

財務体質を強化し、金融機関からの信用力を高めたい企業

売掛金という資産が「保証」によって保全されている事実は、貸借対照表(B/S)の健全性を示す客観的な証拠となります。これは金融機関からの融資審査などにおいて好材料となり、企業の信用力を向上させる効果が期待できます。

自社に最適な売掛金保証サービスを選ぶポイントは?

自社に合ったサービスを選ぶためには、いくつかのポイントを比較検討することが重要です。

1. 保証の対象範囲を確認する

まずは、自社が保証をかけたい取引が、そのサービスの対象範囲に含まれているかを確認します。

  • 取引単位か、会社単位か:特定の取引ごとに保証を申し込むのか、取引先企業ごとに包括的な保証枠を設定するのか。
  • 国内取引か、海外取引か:海外の取引先との売掛金も保証対象になるか。
  • 保証対象外の業種:対象外とされる業種は、保証会社の方針によって大きく異なります。例えば、ある会社では対象外の建設業が、別の会社では専門の保証プランの対象となっているケースもあります。一律の傾向はないため、必ず各社の引受方針を確認しましょう。

2. 保証限度額(保証額)を比較する

1社あたり、あるいは全体でいくらまで保証してくれるのか、保証限度額を確認します。

自社の取引規模に対して保証限度額が低すぎると、十分なリスクヘッジになりません。主要な取引先の売掛金残高が、保証限度額の範囲内に収まるかどうかを必ずチェックしましょう。複数の保証会社を比較し、自社の実態に合った保証枠を提供してくれる会社を選びましょう。

3. 保証料率と支払い方法を検討する

保証料率がどのくらいか、また支払い方法が自社のキャッシュ・フローに合っているかを検討します。

保証料率は、保証会社の審査やプランによって異なります。一般的には、取引先の信用度が高いほど料率は低くなります。複数の会社から見積もりを取り、コストパフォーマンスを比較することが重要です。また、支払い方法が月払いなのか年払いなのかも確認しておきましょう。

4. 審査のスピードと手続きの簡便さをチェックする

申し込みから審査完了までの期間や、手続きの煩雑さも重要な選定ポイントです。

特に、スピーディーな取引判断が求められるビジネスにおいては、審査が迅速であることは大きなメリットになります。最近では、オンラインで申し込みから契約まで完結するサービスも増えています。手続きがどれだけ簡単か、どのような書類が必要になるのかを事前に確認しておくとスムーズです。

5.サポート体制や実績を確認する

万が一の保証事故が発生した際に、どのようなサポートを受けられるか、また保証会社の実績は十分かを確認します。

保証金の請求手続きが複雑ではないか、専門の担当者が親身に相談に乗ってくれるかなど、サポート体制の充実度は安心感に繋がります。また、長年の運営実績や豊富な導入事例がある会社は、それだけ信頼性が高いと言えるでしょう。

売掛金保証サービスで、攻めと守りの経営基盤を確立

この記事では、売掛金保証サービスの仕組みから、ファクタリングとの違い、メリット・デメリット、そして最適なサービスの選び方について詳しく解説しました。

売掛金保証サービスは、単に貸し倒れという「守り」の側面だけでなく、与信管理の不安を解消し、新規取引を促進するという「攻め」の経営にも繋がる有効な手段です。本記事で紹介した選び方を参考に、自社の事業規模や取引先の状況に合った売掛保証を導入し、より強固で安定した経営基盤を築いていきましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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